〔変貌する20世紀絵画展〕  1994.6.20


 20世紀絵画の流れを、51人の作家の64作品で、紹介した、意欲的な企画展。

1) 20世紀初頭のキュビズム・フォービズム 

 ギュビズムでは、物の様々な側面からの姿を組み合わせ、まるでレリーフのように立体的に表現している。フォービズムでは、色が実態を現さなくなると共に、しだいに形も意味をなさなくなっていく。そういう意味では二つは対照的だが、画家の心の目に見えたように表現しようという点では同じである。

 この流れに大きな影響を受けながらも、独自の世界を築いたのがシャガールである。
 出品された1912年製作の「アポリエール礼讃」。キュビズムの旗手の一人のアポリエールを褒め称えたものだが、色彩に後年の輝きが見られて幻想的でもあり、この時点でキュビズムとは独自の傾向がすでに見受けられる。
 
2) 表現主義(1910〜30ごろ)
 
 大胆に色彩や形を変形させたドイツの表現主義。その代表はブリュケ派である。
 その流れの中のカンベンドンクの1919年の作品「農場」は、色彩といい、三角形か長方形かを組み合わせて、事物を立体的に描く方法といい、同じ時代のシャガールの作品にそっくりであることに驚いた。これは時代の流行だったのだろうか。
 また、1911年にヤン・スライテルスによって描かれた「読書する女」。
 女性から発せられる「オーラ」のような色彩の波。ドイツ表現主義には、当時大流行した神秘学の影響が強いことを感じた。
 またこの時期のカンディンスキーの作品は、まだ具象的な絵画であり、しかも色彩がとても淡く、印象的であった。やはり、表現主義も、画家の思想を深く反映するもののようである。
 
3) 抽象絵画の始まり(1920年代)
 
 この時期に、抽象絵画が始まって来るのだが、ここで展示された作品では、先行する諸潮流との関係がよくわからなかったのは残念である。なぜ、幾何学文様の絵が生まれたのであろうか。
 
4) 第二次大戦後のヨーロッパ絵画
 
 完全に抽象絵画主流の時代。しかし、その絵画は美しくない。
 主題とする心の不安を現しているかのように。
 また、戦後現れた、社会的メッセージを強烈にぶつけてくる作品を描いた、コプラという流れがある。でもこの作品群も、戦争や貧困を抽象的に描いているぶんだけ、絵がオドロオドロしい雰囲気になっており、少し違和感を感じた。
 さらに、60年代に出てくる(主としてアメリカから)ポップアートの流れがある。
 美術と現実との垣根をとると称して、様々な商品の実物を作品に入れこんでいるが、今までの20世紀絵画と違って、画家の心が逆に見えず、無機質的な絵になっているように思われる。
 
5) 新表現主義
 
 最後に70年代以降に盛んになってくる新表現主義という流れがある。
 観念を描くのではなく具体的な形を描くという流れだそうだが、ポップアートとは逆に、画家の思想が正面に据えられているようだ。いや、思想というより情念の世界といった方が正しく、同じ「表現主義」といっても、20世紀初頭の流れの作品の方が、明確な思想を持っており、色彩表現もより明るいように思えた。
 
 この企画展をみると、大きな時代の流れは読み取れる。
 やはり、20世紀初頭の作品の方が絵に勢いがあり、思想性がより強いようである。全体に色彩表現が鮮やかであり、現実への不安を表現した作品でも、どこかに画家の希望のようなものが感じられる。
 しかし、20世紀後半期の作品はそうではない。このあたりに、歴史の流れとのおおいなる関わりをかんじる。
 しかし、なんといっても、作品数が少ないようである。それぞれの流れの違いを比較することはできるが、新しい流れが生まれてきた原因のようなものを探るには、不充分である。それぞれの流れ毎の作品展を見ていかないことには、無理であろう。

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