〔ボヘミアン・グラス600年の輝き展〕1994.11.6

 ボヘミアン・グラスの名で有名な、チェコのガラス芸術を初期から20世紀初頭までの600年間をとうして見ていこうという、意欲的な企画展。
 
 やはり、アール・ヌーヴォー期の作品が出色である。
 しかも、それ以前の数百年におよぶ作品を背景として見ることによって、この美術運動のもつ意味が、一目瞭然である。
 
 解説には、チェコのアール・ヌーヴォー期の作品は、フランスのそれとは異なったもので、それまでの伝統を踏まえた上で、デザインや意匠の革新をともなったものとあった。
 しかし、それは違うと思う。
 アール・ヌーヴォーを単にエキゾチズムとかジャポニズムというふうにとらえればそうかもしれないが、この捉え方は違う。
 
 ボヘミアングラスでも、その左右非対称形の器型や文様、自然物(花や貝)に学んだ曲線を多用した流麗な形、花を中心とした自然モチーフの多用。これまでのヨーロッパの、左右対称形で、モチーフといえば、神話か世俗生活からとったものであった伝統を、根本的に破壊する芸術運動としてのアール・ヌーヴォーの特色が、見事に示されている。(ガラス工芸の伝統の強い国であるぶん、従来型の枠の影響も大きいのではあるが)
 
 それに続く時期のアール・デコと呼ばれる時期の作品は、その前の時期に較べると、復古主義としか見えない。
 
 技法もアール・ヌーヴォー期とは違ってエナメル絵付けやカットグラスが多く、器形や文様も左右対称形である。チェコで見るかぎり、アール・ヌーヴォー期は20世紀初頭の革命期に対応し、アール・デコは30年代の反動期に対応しているかのようだ。
 
 それにしても、被せガラスの技法と虹彩技法の導入は、その日本的な意匠の導入とあいまって、ヨーロッパのガラス工芸に革命的な影響を与えていることがよくわかる。
 
 会場に展示されていたガラスの中に、20世紀初頭のギュビズムの影響を受けた作品がいくつかあった。直線的で幾何学的な文様。まるで立体彫刻をおもわせる文様は、きわめて今日的なデザインでおもしろい。
 そういえば、アール・デコ期の作品の中にもそのようなものがいくつかあり、以前みた、ルネ・ラリックのガラス工芸作品もアール・デコ期のものであったことを思い出す。
 
 20世紀初頭の抽象的美術の流れは、同時期のアメリカで始まった、大量生産の工業化社会にとって、ピッタリのデザインであったのかもしれない。

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