〔棟方版画美術館〕94.11.20

 鎌倉にある、版画家棟方志功の作品を収蔵した美術館。その常設展のうち94年秋期の展示を見た。最も印象に残ったのは、この展示の中心である「華厳譜」である。この作品は華厳経に描かれた世界像(諸仏を中心とした)を版画で描いたもの。しかし、仏たちの姿は生き生きとし、生きた人間のように描かれており、宗教世界という雰囲気ではない。最も特徴的なのは、菩薩を豊満な裸の美女として描いている点で、後のこの人の作品の主題となるものが、初期の作品である(1926年)この作品にもでてきている。ここに描かれた諸仏の中でもっとも素晴らしいのは、風を切って走る鬼として描かれた風神である。
 もう一つ印象に残った絵。「厖濃の柵」。1972年の作品で、インドのヒンズー彫刻に触発されてつくった作品であるという。全編性交中の男女の姿を赤裸々に描いている。しかし、線彫りにして、絵全体を黒くしあげているために、生々しさは少し減少している。志功の作品がセックスを中心とした情念の世界にあるという特徴を良く現した作品である。版画の描き方としておもしろいのは、下絵は全て毛筆で描かれており、その版画の特徴となっている太い線は1930年代の表現主義の特徴そのものである。しかし、それが毛筆で描かれていることで、水墨画的な自在な線となっていることにおもしろさがある。

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