【時評】福島原発事故と放射能汚染
国民の安全・健康よりも企業活動の利益を優先した民主党政権
−政府の福島第一原発事故対応の欺瞞性−
12月16日野田首相は、福島第一原発の1〜4号機の「冷温停止」を宣言し、原発事故は基本的に終息したと言明した。そして以後は如何にして周辺住民が速やかに帰還できるようにするかだとした。そしてその翌日の17日に政府は、避難地域を汚染度にあわせて除洗して順次住民の帰還を促す動きを検討していることを発表した。それによると、年間累積放射線量が50oシーベルトを越える地域は「長期帰還困難地域」、50o未満20mmシーベルト以上の地域は「居住制限区域」、20mmシーベルト未満の地域は「解除準備区域」として、20mmシーベルト未満の地域は速やかに住民が帰還できるようインフラ整備などを行い、20mmシーベルト以上50mシーベルト未満の地域は、早急に20mmシーベルト未満になるよう徹底的に除染するとした。 この政府の福島原発事故とそれによる深刻な放射能汚染に対する対応は、狂気の沙汰としか思えない。
▼破壊された原発に冷温停止はない!
冷温停止は、原発の機能が損なわれていない段階での考え方である。核燃料が正常な形で保たれ、圧力容器の所定の位置にあって核分裂反応が完全に止まり、その上で100度未満の温度に安定的な状態になっていることを言う。
しかし、福島第一原発の1〜3号機は、圧力容器の底が抜けて溶解した核燃料の大部分が格納容器の底に落ち、さらに格納容器の床の分厚いコンクリートを溶かしてめり込んでいる状態で、圧力容器の底の温度が100度以下になったからといって、落ちた燃料が100度以下になったわけではない。
温度センサーが格納容器の底にはないので、格納容器の底に落ちた核燃料の温度を測るためには、別の装置を設置しなければならない。それは例えば建屋の外の地面を掘って格納容器の底のコンクリートに近いところに温度センサーを取り付ける。そうすればコンクリートの厚さはわかっているのだから、この点を考慮すれば落ちた核燃料の温度は大体測定できる。
このような措置を取ることなく、大部分の核燃料が抜けてしまった圧力容器の底の温度が100度未満になったからといって、落ちた核燃料がそうなったとは判断できないわけである。
そして燃料が溶けてしまっている段階では再び核分裂反応が開始され、いつまた臨界が起きないとも限らない。
さらに4号機は核燃料こそ存在しなかったが、使用済み核燃料が建屋の上部にある水槽の中に大量に保管されていた。この保管燃料もまだ温度が高く常時水で冷す必要があったわけだが、この水が失われて温度が上昇し、ここでも臨界に至る危険がある。その上4号機建屋の破損度は甚大で、いつ水槽自体が崩れ落ち、使用済み核燃料が建屋の床に落下して、再度核分裂反応を開始する危険も残されているのだ。
この冷温停止宣言は国際的にもあきれられるほどの、予算案提出にあわせて、順調に事故処理は進んでいるとの単なるパフォーマンスであり、政府のアリバイ工作に過ぎない。
▼低線量被爆を無視した住民対応
また避難民の帰還も、被爆限度を年間20mmシーベルトとする狂気の基準で算定したもの。
低線量被爆はまだ充分な安全性の検証が出来ていない現状では、国際放射線防護委員会(ICRP)が定める国際基準の年間1oシーベルトですら、そしてこの数値が日本が法的に定めた安全基準なのだが、何の根拠もない政治的判断にすぎないことは、核兵器と原子力発電に伴う被曝の歴史とこれへの国際機関の対応の歴史を顧みれば自明のことである。したがって、年間1oシーベルト以上被爆する所に住民を住まわせていること自体が問題なのである。それゆえ20mmまでのところならすぐ帰れるとか、20mmまでに除染するなど、これも事故の深刻さを軽視した住民無視の所業である。
さらにすでに除染が無理なことは、避難地域で試みられた除染作業で、高線量地域は50%ほど下がる程度で、年間20mmにも遠く及ばない。さらに低線量の地域は除染してもほとんど下がらないことがわかっている。また除染によって生れた放射性物質で汚染された水の保管場所や、はがした土や瓦礫の保管場所もない。水をそのまま川や下水に流せば、海を汚染するだけ。ようやくこうした低レベルの汚染物質の中間貯蔵施設を、原発に近く高濃度に汚染されていて住民帰還が長期の困難な地域の土地を政府が買い上げて、そこに一時的に保管する方針が出されて福島県がこれを了承したが、除染で生み出される汚染物質の総量がわからない段階で、しかも最終処分場の目途すらつかない状態では、除染すらままならないのである。
さらに除染が無理なのは、福島県の広大な森林。
すでに林野庁が森林の除洗実験を始めているが、森林の放射性物質を除去するには、樹木を伐採するだけではなく、森林を支える腐葉土である表土を剥ぐしか方法はなく、これは不可能な作業である。
そして森林が汚れている限り常にここから汚れた水が平地に流入し、周辺の住宅地や農地をさらに汚染してしまう。
▼福島県の大部分は人の住めない地域だ!
そもそも毎時の放射線量が0.5マイクロを越えた地域に住民を住まわせそこで農産物を生産すること自体が無理なことである。
一時間あたりの放射線量が0.5μシーベルトを越えるということは、そこに住む人は、年間に5ミリシーベルト前後の放射線被曝をするということだ。そしてこの5mmシーベルトという数字は、国の法律で放射線を発するものを業務として執り行う人のみが許される限度で、そのような高い放射線量の場所への立ち入りは、通常は厳しく制限されている。
したがって国際基準の年間1oですら安全性は保障されていないのだから、毎時0.5μ以上の地域に住民を住まわせていることは、この地域の住民の中にたくさんの癌患者がでる事態を
無視することに他ならない。政府はまさに、低線量被曝の人体実験の場所を提供している事実に気がついているのだろうか。健康状態の常時追跡などでお茶を濁す問題ではないのだ。
すでに新聞などで報道されているように、福島県の大部分は、年間1oを越える毎時0.1μを越える汚染地域であり、年間5mmを越える0.5μを越える汚染地域も多い。
県都の福島市では1.18、郡山市では0.75、二本松市は0.64、白河市が0.38、南相馬市は0.40、会津若松市は0.11、南会津町は0.07。以上は原発から比較的遠い地域。さらに原発に近い30km前後から未満の地域では、飯館村は1.79、いわき市は0.19、原発に近い浪江町になると17とか30μを越える高濃度汚染地域である。さらにこれらの地域には部分的に高濃度汚染地域があることが知られ、飯館村には10μの地域、伊達市にも2.8μの所、さらにいわき市に1.9μ、田村市にも0.9μの所など、原発からかなり離れた地域にも1μを越える高濃度汚染地帯が広がっている。
さらに事故からすでに9ヶ月経った今日ですでに、累積放射線量が5mmや20mmを軽く越してしまっている地域が多数存在する。原発から31km離れた浪江町には103oに達した地域があり、55km離れた飯館村にも55oを越したところもある。60km以上離れた福島市ですらすでに4oにも達する場所すら存在する。40kmほど南部のいわき市ですら1oに達している場所がある。
これらの数値からわかることは、福島県は南会津といわき市の一部を除いた大部分が、人が住んでは危険な地域になってしまっているという冷厳な事実である。
▼放射能に汚染された食品をばら撒いた日本国政府
さらにこうした汚染された地域で食品、とりわけ農産物を生産することも危険である。
一時間あたり0,1μを越える放射線量が測定される場所には、1万ベクレルを越える放射性セシウムが沈殿している。そして0.5μを越える地域は5万ベクレル。1μなら10万ベクレル。10μなら100万ベクレル。
そしてこうした高濃度汚染地域の水にも同等の放射性物質が含まれていることは想像に難くない。こんな地域で農産物を生産すれば、放射性物質が食品に入り込んでしまうことは当
然のことである。
しかし政府や各県は、汚染地域の土壌検査を実施して、農地の汚染マップを作成して危険地域に農産物作付け禁止措置をとるのではなく、一般食品はキロ当たり500ベクレル、乳製品
は200ベクレル、飲料水も200ベクレルという基準を設け、生産されたもののサンプル検査でこれを超えるものが出た場合だけは、該当の地域の産物の出荷停止をするという措置を取っただけであった。
この暫定基準値は、食品を通して放射線内部被曝を防ぐための国際基準は、通常は年間1o以内だが、緊急時には5oまで許容されるという基準に沿って作られたのである。しかも放射能により激しく遺伝子を破壊される乳幼児向けの基準すらつくろうとは、政府はしなかった。
そしてこの内部被曝を防ぐための国際基準ですら、原発の運転を継続するために、政治的に決められたいい加減な基準であることもまた自明のことであるから、本来は出来る限り体
内に放射性物質を取り入れないような厳しい基準を定めるべきなのである。
しかもそのサンプル検査が極めていい加減で、極端に言えば、放射線量の低い地域、つまり比較的放射性物質の土壌沈殿度の低い地域だけを選んでサンプル検査したのではないかと疑われるほどのもので、このことは、安全宣言を発してどんどん出荷されたあとで、次々と高濃度に汚染された米が発見された、福島米の例で明確である。
しかもこの政府の基準すら上回る高濃度汚染米の発覚は、自家消費することをためらった農家が自発的に検査所に持ち込んで見つかったものであり、米を生産する福島県の農家すら不安にさせる食品を、政府は堂々と生産させて流通させてしまったのだ。
政府の考えたことは、厳しい安全基準を設けてしまうと生産活動が途絶してしまい、農産物の生産と加工に携わる人や企業の営業活動に支障が生じ、その利潤を削減してしまうことを恐れてのものであり、汚染の深刻さにあわせて基準を緩和するという、狂気の沙汰であった。
▼散在するホットスポット
しかも危険な地域は福島県だけではない。
福島第一原発から、3月15日・16日・21日・22日に大量に空気中に放出された高濃度の放射性物質は地上数百メートルに達して風にのり、雲状に広がって風によって極めて広範囲に広
がって、その地域に放射性物質を降らせてしまった。
その範囲は群馬大学の火山学者・早川由紀夫氏が、行政や市民やNGOが実際に測定した地上の放射線量をインターネットを通じて収集して作った放射能汚染マップや、文部科学省が航空機を使って空から地上の放射線量を図って作った汚染マップで確認できる。
その範囲は、北は岩手県南部の関市付近を高濃度に汚染し、さらに中部の山岳地帯にも。さらに山形県東部の果実地帯や宮城県と福島県全域。そして放射能雲は風に乗って関東地方全域に広がり、一部は山の峠を越えて、新潟県南部の魚沼地方や、長野県東部の山岳地帯、さらに静岡県東部から中部にまで広がった。
そしてこれらの地域の中で、放射能雲が通過した時に雨が降った地域が特に、高濃度に汚染されたのであった。
このため関東地方の各地にも、0.5μを超えたり、0.2μを越えるホットスポットが生まれてしまい、その他の雨が降らなかった東京都心を含めた関東全域にも0.1μ前後の放射線量を測定できる放射性物質を降らせてしまったのだ。
0.25マイクロを超える地域だと、茨城県・千葉県・東京東部・群馬栃木の山間部、埼玉東部のいたるところにある。
実は東京を中心とする首都圏の地域が高濃度の汚染されなかったのは、たまたまあの日に雨が降らなかったという偶然に過ぎない。
これらの高線量地域でも住民、特に子どもと若い女性の避難も実施せず、農産物も生産されたまま。そして都市部では今でも、大量の放射性物質が、側溝や雨樋、そして草地に放置され、雨が降ったり乾燥したところに強風が吹いて砂塵を舞い上げ、放射性物質をさらに拡散させる危険も、いたるところに存在している。
関東地方全域と東北の南部の住民もまた、政府からその安全性の危険があるにも関らず無視されたのである。
▼いい加減な対応を改めない政府
いい加減な安全基準を策定して、多くの人が癌になる危険を無視して、発がんの危険の高い食品を全国にばら撒いた日本国政府。
これに危機感を感じた消費者は、放射線量の高い地域の食品を食べないように自発的に行動し、自分の地域の放射線量を測定したり、自発的に設けられた市民団体などによる食品の放射性物質含有量を測る装置を備えた検査所などに身近な食品を持ち込んだりして、自分の命は自分で守る行動にでた。
そして地域によっては、子供達がいつも居る場所の放射線量を測って、高いところは行政に掛け合って、地面の土を剥いだり、表土の天地返しを行うなどの除染活動を行わせ、さら
に一人一人が行う、放射能の危険のある食品を避ける運動は、巨大な不買運動となって小売業界に圧力を掛けた。そしてまた、こうした人々は相互に連携した団体をつくり、安全基準
を策定する文部科学省や厚生労働省を突き上げ、もっと厳しい安全基準の策定をと要求した。
こうした市民の圧力に押されたのであろうが、政府は、来年4月から被爆限度を1oに下げて一般食品の安全基準をキロ当たり100ベクレルに下げ、乳製品は50、飲料水10に下げると発表した。
しかしこれでもまだ、極めて危険なもの。
これは、現状で流通している多くの食品が、100ベクレル以内でおさまっているし、乳製品も50ベクレル以内でおさまっているからと言う現状を踏まえて、企業活動優先の安全基準を相変わらず変えない態度である。
さらに急に4月から変えると混乱が起こるとして、9月までは従来の一般500、乳製品200の製品の流通も認めるそうな。
この混乱とは、企業活動の混乱を指している。 消費者はそれほど馬鹿ではない。
そして福島県をはじめとした汚染地域の住民の総員避難どころか、危険度の高い乳幼児や子ども、そして妊娠中の女性や若い女性の避難を未だに実施しようとはせず、冒頭に見たよ
うに、原発に近い高濃度に汚染された地域にすら、順次住民を帰還させようとしている。
以上のように一つ一つ検証してみれば、民主党政権が国民の安全よりも企業活動の利益確保を優先させたことは確実である。
これに原発再稼働の策動や海外に原発を輸出しようとする態度は、民主党政権が原発輸出企業である日立や東芝や、原発に依存する各電力会社、そして安全ではない食品を平気で売り続ける食品企業べったりであることは明白である。
▼政府へ緊急要求を突きつけよう!
いま日本国政府がすべきことは、少なくとも毎時0.5マイクロを越える地域での農産物生産の禁止と居住の禁止、そして対象となる人々や企業への補償と、生活拠点を変えるための金
銭的援助と支援。また0.1μから0.5μの地域でこそ、徹底した除染が必要である。
そして食品の安全基準は少なくとも国際基準に沿ったキロあたり10ベクレル以下に下げ、より厳しくは機器による検出限界以下に下げ、限りなくゼロに近づけてしまうことである。
この基準を厳格に守り、関東東北を中心に各地に食品の放射性物質含有量を測れる装置を備えた施設を、各市町村に人口に見合った数で政府の金で設置すること。
こうした費用の一切は東電に弁済させ、出来ない分は全額政府が負担すること。
これがいま日本国政府がすべきことである。
高濃度汚染地域の除染や住民帰還を進めるのではなく、放射性物質に汚染された食品を全国にばら撒くのでなく、こういう行動を即時実行に移すべきである。
そして同時に、福島第一原発を再び危険な状態にならないために、東電に任せるのではなく、東電国有化と平行して、事故終息に向けた作業を政府が直接指揮をとって、税金を投入してあらゆる対策を取ることである。
もちろん同時に、全国の稼働している原発の即時停止と廃炉に向けた作業を始めること。日本の電力は、火力・水力をフル稼働させ、これに太陽光発電などの自然エネルギーを増加させれば、何の問題もない。そして原発の海外輸出を即時辞めよ。
▼問われる国民運動の推進!
この国民の切実な要求を無視し、実施しないのであれば、次の選挙では政権打倒に国民は動くであろう。いやそれまで待てない。
こうした具体的要求を挙げた国民運動を、脱原発をすでに掲げている社民党・共産党は組織すべきである。これなくして脱原発への動きはありえない。もちろんこれと平行して、原発再稼働阻止と輸出阻止の動きも。
政権交代は日本に新しい風を吹き込む可能性があるとして民主党政権を支持した日本の左翼勢力は、その主体がすでに崩壊していることと相まって、押しなべて民主党政権に甘い。
民主党がだめなら再度自民党に登板願おう、そしてこれらの要求を突きつけ、駄目なら又打倒しようと言うくらいの覚悟を持って、動くべきである。そうすれば危機感を持った政治家が動き出し、国民の安全を守る方向の政党再編も進むだろう。
TPP阻止や年金・福祉制度改悪阻止など様々な大きな課題が目白押しであるが、国民の健康と安全を守ると言う観点からは、福島第一原発事故による放射能汚染の問題は、数十年後の日本人の未来すら左右する喫緊の問題である。
放射能汚染の厳しい現実を見据え、政府行政のいい加減な対応を許さない、地に足をつけた国民的運動がいまこそ問われている。
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