【時評】:
温暖化への視点を変えてみよう!
―温暖化対策の美名に隠れた市場争奪戦−
2009年12月
京都議定書に続く新たな温暖化対策の世界的枠組み策定を巡って混乱が続いている。
問題の焦点は二つ。一つは京都議定書では、温室効果ガスの排出量削減を義務化されなかったアメリカと中国などの発展途上国とに対して、あらたに排出量削減義務を課すかどうか。二つ目は、発展途上国が温室効果ガスの排出量削減に取り組んだり温暖化に伴う自然災害の増加に対処するための基金として、先進国側から資金援助をするにあたっての金額とその期間を巡る問題。
アメリカも中国も今回は温室効果ガスの削減を唱って会議に参加しているが、中国の場合は高率の経済成長が今後も続くと見込まれるために排出量総量はかえって増加するとみられ、アメリカも経済成長を阻害しない範囲での削減にすぎず、大幅な削減を求めるEUや日本との隔たりが大きい。またここに来て新たに、発展途上国内において、石油などのエネルギー資源を大量に持っている国と持たざる国との間や、中国やブラジルなどのように急速な経済発展を続けている国とそうでない国との間での主張の違いも表面化し、温室効果ガスの削減義務化や先進国の途上国援助のあり方などを巡って意見が対立し始めている。
こうして、新たな排出量規制の枠組み策定は暗礁に乗り上げている。
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また、温暖化対策をめぐる各国の利害の対立は日々マスメディアを通じて報道されているのだが、その報道姿勢は、「地球温暖化が危機的状況になっているのにどうして国益を前面に出して争うのか」という視点に立ったものであるために、各国の対立は、それぞれのエゴに基づいた醜い争いにしか見えない。
しかしこのような各国の争いを別の視点から見ると、違った様相が見えてくる。
別の視点とは、以前に8月に紹介した地球温暖化の原因は人類の活動に伴う温室効果ガスの排出にあるのではなく、太陽活動の盛衰と太陽と地球との関係に起因する自然現象であるという学説に立つ視点である。
この学説に立てば、温室効果ガスの排出量の増減とは無関係に、今世紀中には大気の温度はおおよそ0.7度程度上昇する。このため各地で気候の変化が生じ、農産物はその生育適地が移動して地域によっては農業が深刻な打撃を受け、海流の変化などで水産資源も大きな変動を蒙ると予測される。
従って温暖化の進行に対する意味のある対策は、温室効果ガスの排出量削減ではなく、これらの気候変動に伴って大きな影響を受ける農業や漁業への支援であり、自然災害の増加に対する防護措置への援助である。これらの対策は、温室効果ガス排出量削減のような劇的な産業構造の変化も必要ないし、そのために膨大な資金を投入する必要もなく、温暖化対策としては各国の負担がより軽度なものとなる。
この視点で見ると、温暖化対策を巡る国際会議はまったく的外れで、温暖化対策とは無縁な、別の観点での争いをしていることが白日の下に晒される。
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では温室効果ガス排出量削減を巡る各国の争いの真の性格とは何か。
周知のように温室効果ガス排出量の削減は、新たな巨大市場を創出する。
例えばガソリン自動車は、温暖化対策のために様々な方法で電気自動車に置き換えられようとしている。このため、長時間の高速走行を可能とする新たな電池の開発や、燃料としての水素と空気中の酸素を化合させて電気を生み出す新たなエンジンの開発など、電気自動車開発のための新技術分野が生まれ、新たな巨大な市場が生まれつつある。またガソリン自動車を電気自動車に置き換えるには、電気スタンドや水素スタンドなど新たなインフラ整備が必要となるため、巨大なインフラ整備市場が創出されようとしている。さらに発電システム自身も大転換が求められており、石炭や石油を燃やす発電システムから、より「環境への負荷の少ない」太陽光発電や風力発電など自然エネルギーを利用するシステム開発が求められ、一時はチェルノブイリ原発事故のために廃止に向かいつつあった原子力発電も「環境対応力」が再評価されて新たな発電システムとして見直され、発電分野でも新たな巨大市場が創出されようとしている。
さらに、温室効果ガス排出量を削減する産業構造の転換だけではなく、温室効果ガスの中心である二酸化炭素を地下深くの岩盤に封印する技術など新たな技術分野が生み出され、ここにも新たな市場が生まれようとしている。
EUを先頭とした先進諸国は、このようなエネルギー転換・産業構造革新の技術を独占している。つまり世界中で温室効果ガスを削減するような産業構造への組み替えが進めば、そこに新たな巨大な市場が創出され、その市場は先進各国の先端企業の独壇場となり、新たな経済成長と大きな利益の種がここに生まれるのだ。そして先進各国の先端企業が狙う最大の市場が、中国などの巨大な人口と国土を持つ発展途上国市場なのだ。
従って発展途上国側は、大幅な温室効果ガス削減を受け入れれば産業構造の転換のために先進国の技術に依存しなければならず、今後も驚異的な経済成長を遂げるであろう発展途上国の富は、温暖化対策を通じて先進国に吸収されることになるのである。
その上、温暖化による急激な気候変動で生活環境が悪化すると予想されるのは、発展途上国が多くある赤道近辺低緯度地帯であり、これらの発展途上国は増大する自然災害に対しても膨大な支出を強制されることとなる。しかし一方の先進国は中緯度から高緯度地帯にあるが、高緯度地帯の温暖化はかえって生活環境が好転する傾向にあり、温暖化による経済発展の果実はほとんど先進国のものになると予想される。
温暖化対策による産業構造の転換や生活環境の変化は、先進国にとっては新たなビジネスチャンスであり、停滞する現在の世界市場に代わる新たな巨大な市場を手にして高成長を実現する、金の果実なのだ。
だから先進国は、発展途上国にも大幅な温室効果ガス削減の義務を課して市場を広げようとし、発展途上国は、温暖化対策に伴うリスク低減のために先進国に巨額の無償援助を求め、大幅な排出量削減義務を避けようとする。また温暖化対策で遅れを取っているアメリカは、全世界に対する大幅な削減義務化で、新たな世界市場の主導権をEUに奪われかねないので反対する。
こうして先進国や発展途上国の国益が対立し、真の意味での温暖化対策は完全に放棄されるのだ。
(K)