21.3月20日の朝


「おはよう!。」

「やあ、ユウヤ。おはよう!。」

「翔くん、ほんとに早くなったね!。」

「えっ、何が!。」

「学校に行く時間がさ。それにね、こうやって、学校に行く前にゴミを出していくなんて、感心しちゃうよ。」

「母さんがいないから、しょうがないもんな。これくらいやらなきゃ。」

「朝御飯も、自分で作ってるの?。」

「もちろんさ。平日の食事当番は、僕なんだから。」

「へえっ。じゃあ、土日の食事当番は?。」

「土日は、兄さんと父さんだよ。」

「へえーっ。すごいな!」

「何がすごいのよ?。」

 後ろから、麻美が駆けてきた。

「翔のうちってさ、男3人で、交代して食事つくってんだってさ。えらいな!。」

「そんなのあたりまえよ。翔。今日の弁当のおかず、何?。」

「今日は、3学期の終業式だろ。10時半で下校だから、弁当はいらないの!。」

「あっ、そうか。すっかり、忘れてた。」

「のんきだな。麻美は。」

「翔に言われちゃ、おしまいね。はははは。ということはさ、カッパ大王とも、今日でお別れね。さみしくなるわ。」

「そうだね。この7ヶ月。とっても、楽しかったものね。僕なんかもう、夢でも見てたんじゃないかってほど、浮かれてたよ。」

 ユウヤのやつ、本当に夢でも見ているかのような目をして、ぼんやり遠くを見ている。

「おい!。ぼんやりしてると、車にぶつかるぞ!。」

 坂道を降りきった所で左に曲がるのに、そのまま真っ直ぐ車道に飛び出したユウヤを、僕と麻美は、あわてて引き戻した。

「何やってんのよ。ユウヤ!。」

「あっ、ごめんごめん。何だか急に、身体がフワフワしちゃってね。」

 ユウヤは、しきりと頭をかいて照れている。

「今日で、カッパ大王ともお別れかって思うと、悲しいわね。」

「うん。僕もだ。」

 ユウヤが、急に真剣な顔をして振り向いた。

「カッパ大王がいなくなったら、この学校さ、また、昔のように戻っちゃうのかな?。また、みんなに僕、いじめられるんだろうかな。やだな。ゴジラなん

か、急に人が変わったりして・・・・。」

「おい、おれの名を、呼んだか?。」

 横断歩道を息せき切って走ってきたゴジラと、鉢合わせした。

「う、うん。郷田くんが走ってくる姿が、目にはいったものだから・・・・。」

「そうか。さすが、おれさまだな。かっこいいから、どこにいても注目されるな!。」

「何をばかなこと言ってるのよ。ユウヤはね、あんたがまた、昔のようないじめっ子に戻らないかって、心配してんのよ!。」

「なんでだ。おれがか?。どうして?。」

「カッパ大王が、いなくなるからよ。カッパ大王がいなくなったら、また、みんな元に戻ってしまうんじゃないかって、ユウヤは不安なのよ。にぶいんだ

から。まったく!。」

 麻美に、ギロッとにらまれて、ゴジラは、ギョッとした顔をしていた。

「うん。そうだな。カッパ大王のおかげで、僕らは変われたんだから、カッパ大王なしでやっていけるのか、心配だな。四月からは、クマジイも戻ってく

るわけだし。」

「なに、言ってるんだよ。翔。だいじょうぶだ。おれだって、生徒会長だからな。おれが身体をはって、みんなを変わらせないぜ!。」

「一番心配なのが、あなたなのよ。」

「信用ねえな!。こうみえても、郷田次郎はウソをつきません。選挙の時に公約したことは、絶対に守ってみせます!。」

「ほんとに?。なんか、信用できないわ。」

「うん、僕も不安だな?。」

「二人とも信じてくれよ。十一月の選挙で当選してからさ、ちゃんと、生徒心得の見直し作業を、きちんと始めているじゃないか。」

「それはそうだけど。カッパ大王がいなくなったら、また先生たちだって、元にもどって締めつけてくるんじゃないの?。」

「いや、おれは断固やるぞ。もうクラス討議も済んで、改正案を、今度の生徒総会にかける所まで進んでいるんだ。もう、やめさせることなんかできね

えよ。」

「僕が心配してるのは、そのことじゃないんだ。またみんなが、僕をいじめるんじゃないのかって、不安なんだ。」

「なんだユウヤ。そんなことか。」

「そんなことって?。」

「教師が、いろんな規則で生徒をかんじがらめにしばりつけるから、生徒の間で、いじめがはびこるんだ。教師の生徒いじめをなくせば、だいじょうぶ

だよ。な、翔。なんか言えよ。黙ってないで。」

 ゴジラに、肩をどつかれた。もしかしたら僕たちは、カッパ大王の魔法にかかっていただけなのではないか、って考えがふっと頭をかすめて、目の

前に、あの青白いカッパ大王の目と洞窟の中の人影が、浮かんでいたんだ。

「あっ。そ、そ、そうだね。」

「何が、そうなんだよ。」

「ゴジラとユウヤは、友達だってこと!。」

「どあほ!。朝から、ねぼけてんじゃないぞ!。」

「あっ、ごめんごめん。大変だ。おしゃべりしてると、遅刻しちゃうぞ!。また週番につかまって、立たされるぞ!。」

 僕は、話題を変えたかったので、それだけいいすてると、後ろも振り向かずに走りだしていた。

「ほんと!。大変だわ。」

「うん。急ごう!。」

 麻美とユウヤも、あわてて駆け出した。一瞬、話をはぐらかされて拍子抜けしたゴジラも、あわててついてきた。

「ちえっ。まだ予鈴じゃないか。これに遅れたって、本鈴までに教室に辿り着けるぜ。予鈴遅刻なんて制度、廃止しなくちゃな!。」

 キーン、コーン・・・・・予鈴が鳴り始めた。ぼくらは、全力疾走で校門を駆け抜けた。


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