25.クマジイとの対決


 四月。新学期が始まった。僕たちは、三年生になったわけだ。

 だが、大変だった。クマジイが、帰ってきたからだ。僕たちの学校は、二年から三年になる時はクラスがえはせず、担任も変えない。だから、クマジ

イがまた担任なんだ。

 クマジイは、最初から荒れていた。

 あっ、そうそう。クマジイってのはあだなでね、本当は、熊田吾郎っていうんだ。まだ四十五才なのに孫がいて、だから、みんなでクマジイってよんで

いる。

「オレのいない間に、勝手なことしやがって。生徒心得の改正だって、笑わせやがる。生徒心得ってのは、教師が作って生徒に与えるもんだ。生徒

は黙っておしいただき、ありがたく守るもんだ。それを、生徒が変えるだ。誰がそんなことを決めた!。」

「生徒総会でそう決まって、今、改正作業に入っているんです。」

 おチャメが、おそるおそる説明した。

「なに!。生徒総会だと!。誰が、そんなことを許したんだ。」

「せ、先生がたが、ちゃんと話し合って決めたそうですよ。」

 久美子も、びくついている。

「おおかた、あのカッパとかいうやろうの口車に、乗せられたんだろうて。」

「カッパではありません。川波先生です。それにみんなは、カッパ大王って呼んでいたんですよ。」

 久美子が、むきになって言い返した。

「川波でカッパじゃねえか。大王だと。ふん。きざなやろうだ。おい、久美子。おまえも、あのやろうに洗脳されたのか?。」

「えっ、洗脳って?。」

「催眠術でもかけてな、知らないうちに、間違った考えかたを信じこませてしまうってことよ。ゴジラまで、洗脳されやがって。」

「先生。それは、言いすぎだぜ。これは、オレたちの考えでしたことだ。カッパ大王は、人をだましたりしねえよ。」

「おう、郷田。おまえ、生徒会長だってなぁ。おまえがか。いじめっこで、いつも暴力ふるってたお前がか。笑わせやがって。権利だと。」

「先生こそ、人を洗脳してますよ。」

 横から信次郎が、口をはさんだ。

「おう鈴木、上出来だな。おれに、楯突く気かよ!。」

「そ、そ、そういうわけじゃないけど。真実を、言ったまでであって・・・・・・。」

「おい、おまえらに言っておくぞ。おれは、生徒の手による生徒心得の改正なんぞ、絶対認めんぞ。あのタヌキやカバが何と言おうと、オレが阻止す

る。覚えておけ!。」

 クマジイはこう言い捨てると、ドカドカと靴音をさせて、職員室へ戻っていった。

「おい、ゴジラ。どうする。あれじゃ、生徒総会さえも、開けないんじゃないのか?。」

 おチャメが、心配そうに言った。

「でえじょうぶだよ。一度開催が決まった生徒総会を、いくらクマジイだって、つぶせやしないさ。」

「でも、クマジイ、本気に怒っていたよ。生徒総会開いたって、正面から反対してくるよ。そうなったら、先生たちだって、きっと黙っちゃうよ。」

 ユウヤは、もう泣きべそをかいている。

「そうだな。さっき信次郎のやつがいってたけど、クマジイだって、人を洗脳してしまうからな。先生たちだって、やばいぞ。」

 アキラも、心配そうだった。

「そうかしら。わたしは、そうは思わない。クマジイには、そんな力はないわ。」

 みんなびっくりして、声のしたほうを見た。舞だった。

「クマジイって、いうことを聞かない人のことを、ののしったりどなりつけたりなぐったりして、自分に従えているだけよ。そんな人の考えに、心から従う

人っているかしら。」

「心からじゃないけど、あいつのゲンコツは、すげえぜ。おれなんか、教室の向こうまで吹っ飛ばされて、一週間は顔が腫れていた。クマジイには、さ

からえないぜ。」

 ナオジが、思い出したようにあごをさすりながら、反論した。

「でもそれって、生徒だから効くんじゃないの。先生たちは大人よ。大人に、その手は通用するとは思わないわ。もし、今の生徒会の動きに、先生た

ちが心から賛成しているのなら、きっと援助してくれるわよ。」

「そうかしら。舞は、甘いな。」

 久美子だった。

「大人だって同じよ。子供と。脅えて、自分の考えも言えなくなると思う。だって、カッパ大王が来るまでは、そんな、生徒が学校の主人公だなんてこ

と、一回も先生たちの口から、聞いたことがなかったじゃない。」    

「僕も、久美子の意見に賛成だ。」

「そうよ。もうだめよ。」

「やっぱり、カッパ大王がいなけりゃ、無理だよ。あきらめたほうがいい。」

 みんな、出てくるものは溜息ばかりだった。

「そうかしら。みんなは、カッパ大王の手紙のことを、忘れているわ。」

「麻美。なんのこと?。」

「カッパ大王は、こう言ったわ。僕が、みんなを変えたわけじゃない。僕の言ったことやったことにみんなが賛成したのは、みんなが、前からそうした

いと思っていたからだって。ただそれに気がつかなかったり、言い出せなかったからだって。ね、翔。そうでしょ!。」

「うん。そうだったな。」

「そこよ。大事なのは。先生たちが、カッパ大王の提案に賛成したのは、カッパ大王の魔法でも脅しでもないわ。先生たちが、前からそう思っていた

からなのよ。だから、だいじょうぶよ。」

「でも、麻美の今の意見ってさ、こうもとれない。クマジイがいたから、先生たちは、自分の意見が言えなかった。でも、クマジイがいなくなり、カッパ大

王が来たから、自由に言えるようになったって。だから、クマジイが戻ってきたんだから、また、昔の学校に戻ってしまうんだわ。きっと。」

 久美子の意見も、もっともだった。そしてそれは、現実のものになったんだ。

 

 一学期の始業式から七日ほどたった頃、カバからゴジラに、呼び出しがきた。相談したいことがある、とのことだった。

 ゴジラが校長室に行ってみると、そこにはタヌキもいて、二人で顔をつきあわせて、何やらヒソヒソ相談していた。

 そして、ゴジラに気がつくとあわてて離れ、タヌキが丁重にソファーに案内した。

 用件は、想像以上に悪い内容だった。あと二週間に迫った生徒総会を、中止してくれというんだ。ゴジラが理由を問い質すと、カバは口の中でもご

もご言って、なんだか要領をえない。かわってタヌキが、こう言ったそうだ。

「四月に生徒総会を開いたんじゃ、新しくきた先生たちも入ったばかりの一年生も、事態がのみこめないので、当面中止して、後日、改めて開きた

い。」

 ゴジラが、ではいつ開くのかと聞くと、言葉を濁して答えない。一学期中にはと言ったかと思うと、一学期と言ってみたり、はては三学期とか、話は

はっきりしない。怒ったゴジラが、

「熊田先生が、生徒総会の開催に反対しているから、だめなんですか。」

 ってとい詰めると、

「そういうわけではなく、開くことには賛成だが、まだ時期が早いということで・・」

 とかなんとか言って、ごまかしたんだ。

 この場はゴジラが断固抗議し、予定どおりの開催の約束を取りつけて、なんとかしのいだ。

 ゴジラは、カバとタヌキにこう言ったそうだ。

「生徒総会と職員会議とで決まったことを、開催時期すら明らかにしないで中止するというのは、先生たちが生徒にウソをついて、生徒総会をつぶし

にかかってきたとみなし、全生徒に、この場のお二人の発言を、全て公表させてもらう。」

 と。

 カバとタヌキは真っ青になって、今言ったことは、すべて撤回するから勘弁してくれ、と謝ったそうだ。

「だけどよ。こりゃぁやばいぜ。」

「どこが、やばいんだ。おチャメ。」

「なんだ。ゴジラは、まだ何んにもわかっちゃいないのか。」

「なにがだよ。」

「先生たちは、おれたちの予想どおり、クマジイの脅しに屈したってことさ。」

「けどよ、予定どうりの生徒総会開催を、約束したんだぜ。心配いらねえよ。」

「そりゃさ、ゴジラの言ったことの方が、正論だからさ。カバもタヌキも、言ったことを撤回するしかなかっただけさ。だけどな、少なくとも校長と三学年

主任は、クマジイの側についたことだけは、確かだぜ。生徒総会で何をきめたって、職員会議で否決されるぞ。」

「クマジイの力を、過大評価しすぎだぜ。おチャメはさ。クマジイにびくついた教師どもが何を言ったって、オレ様が脅せば、イチコロよ。」

 ゴジラは、あいかわらずのうてんきだ。

「でも、おチャメの言うとおりよ。やっぱり、わたしの予想が当たっていたのよ。」

 久美子は、もう全て、お先真っ暗って顔だ。

「なに言ってんのよ。みんな。先生たちだって、いろいろいる。きっと、一つの意見には、まとまってはいないわ。生徒全体を一つにまとめられれば、

先生の一部の反対なんか、吹っ飛ばせるわよ。」

 麻美は、あいかわらず威勢がいい。

「ね、翔。そうでしょ!。黙ってないで、何んか言ったら!。」

 いきなり僕にふられた。

「う、う、うん。そうだよな。」

「何がそうなのよ!。」

「えっ、生徒だっていろいろいて、考えは、一つにまとまらないってことだろ?。」

「ああ、もう。翔ったら!。」

「でもよ、翔の言うとおりかもな。生徒だって、一つじゃないぜ。」

 アキラが、感心したような顔で、僕を見た。

「そうだな。生徒の意見を、まとめなきゃな。翔、いいことを言ってくれた。」

 おチャメのやつが、急に目を輝かせた。

「三年生をまとめれば、なんとかなるぜ。」

 しゅんとしてたゴジラも、勢いこんだ。

「よし、五組はなんとかなる。一組は、健吉にとりまとめを頼もう。二組は東だな。三組はアスカだ。四組は・・・・。」

「四組は、白鳥さんね。それに二組の山口さんと一組の林田さんにも、話をとおしておきましょうよ。」

 今まであきらめに走っていた久美子も、元気が出てきた。

「それに、四組のカヨちゃんや二組のヨウコにも、わたしから話しておくわ。だいじょうぶよ。これだけやっとけば。三年は一つ。」

 佳江はもう、勝ったような顔をしていた。

「よし、そうと決まったら、善はいそげだ。おい、いくぞ!。みんな!。」

 ゴジラたちは、それぞれのクラスに別れ、意見のとりまとめの依頼に、走っていった。ホールに残ったのは、麻美と僕だけだった。

「でも、なんか心配だわ。わたしは、ムーミンと話してくるわ。」

「ムーミンと、何を話すんだよ。」

「あら、にぶいわね。先生たちの中が、どうなっているか、ムーミンに情報もらっておくのよ。本当に、一つにまとまっているのか、そうじゃないのかっ

てことをね。翔も、なんか手を打っておいてね!。」

「手といったってなあ。僕には、あまり友達もいないし。」

「頼りにならないわね。まったく!。・・・でも、一つ気になることがあるんだ。」

「何が、気になるんだよ。」

「生徒の意見を一つにするっていったけど、生徒心得は、先生が作って生徒に与えるものだっていうクマジイの考えに、対抗できるかなってこと。だっ

て、その方が、考えなくてもよくて楽だし、自分で作るんではないから、責任も義務もないしね・・・・。」

「責任と義務か・・・。よく、わかんねえな。」

「まったく、翔って頼りにならないのね!。」

 そう言い捨てて、麻美も行ってしまった。

 一人とり残されて、しかたがないので、窓の外を見た。校庭では、運動部員が元気に練習をしていた。サッカー部の動きを目で追っていたら、シュ

ートのボールが外れて、図書室の窓に当たった。さっきから、麻美の言ったことが、頭から離れなかった。

『図書室か。まてよ。なんか、参考になるものあるかもな・・・・・・・・』

 

 二週間後、生徒総会は、予定どおり開かれ、生徒会規約と生徒心得の改正案について、最終決定のための議論が行われた。

 改正案の要点は、次の二つだった。

 ひとつは、規約の生徒総会の内容に生徒心得の改正を入れ、生徒心得に、毎年見直しを行い、生徒総会で決定するという項目を入れること。

 もうひとつは、頭髪の長さや靴下の色についてのきまりを、全面改正すること。

 議論はほとんど、あとの方に集中した。

「三年一組では、改正案に賛成です。頭髪の長さや靴下の色まで、決めることはないと思います。僕たちには、表現の自由ってものがありますから。

どんな髪型やどんな色のものをはいても、いいと思います。」

「三年四組では、改正案について、何回も討論しました。心得には、中学生らしいという理由で、女子の頭髪はショートカットとし、長いものは三つ編

みって書いてありますけど、中学生らしいってのがよく分かりません。人は顔が違うように、一人一人考えもセンスも違います。それぞれが、自分に

いちばんあった髪型をすることが、いいと思います。だから、自由にするという改正案を、支持します。」

 みんなの工作がうまくいったのか、三年生の各クラスの代表が、次々と改正案への賛成意見を述べた。二年生の中からも賛成意見が出され、全

体としては、改正案に賛成のふんいきで、会は進行していた。

「では、意見も出尽くしたようですので、改正案についての、賛否をとりたいと思います。改正案に賛成の人は・・。」

 議長をやっているおチャメが、そこまで言った時、三年三組の席で、誰かが手をあげて、発言した。

「ちょっと、言いたいことがあります。」

 それは、大木伸吾っていって、学年一の優等生だった。

「はい、大木くんどうぞ。」

「今までに、いろんな人が改正案に賛成意見を述べましたが、みんな一つ、大切なことを見落としているんじゃないか、と思います。」

 改正案が通りそうだとウキウキしていた会場のふんいきが、がらっと変わった。

「みんなは、中学生らしいって理由がよくわからないし、僕たちには表現の自由があるからと、髪型などを自由にしようと言っています。では、そこま

で言うのであれば、なぜ、制服を廃止しようと、言わないのでしょうか?。」

 意表をつかれた会場では、あちこちで、そうだそうだとの声がかわされ、だんだん、騒然としたふんいきになってきた。

「髪型を自由とし、靴下も自由というのに、なぜ制服を廃止しないのか、理由を説明してください。」

 大木伸吾は、発言をこうまとめた。僕には、伸吾の真意がわからなかった。彼は、改正案に賛成なんだろうか。反対なんだろうか。

 議長のおチャメが、生徒会長のゴジラを指名した。

「えーっ、それはですね、急に制服を廃止して自由にすると、混乱がおこると思ったので、とりあえず、意見の多く出ていた、髪型と靴下の色だけ自

由にしました。」

 ゴジラは、落ち着いた声で答えた。

「混乱するってどういうことですか?。」

伸吾がまた質問した。

「混乱というのはですね、自由ってすると、いろんな人がいて、中には戦闘服を着てきたり、それからタンクトップの服なんか着てきたりして、みんな

の気持ちを乱す人が、いはしないかってことです。」

 ええっ、そんなのいるかあって声が、あっちこっちから出てきた。

「なるほど、でもそれで、どうしてみんなの心が乱れるんですか。」

 伸吾は、しつこく食い下がった。こいつの真意は、どこにあるのだろうか。

「それはですね、タンクトップなんか着てこられたら、男子の中には、興奮して勉強も手につかない人が出てきたり、戦闘服で走りまわられたんじゃ、

なんか、学校ってふんいき、なくなるでしょ。」

「つまり郷田くんは、学校は勉強するところであって、勉強するふんいきにあった服装じゃなければいけないって、いうんですね?」

「はい。そうです。」

「では、聞きます。金髪にしてきたり、青や赤や緑に髪を染めてきたり、中には、モヒカンなんかにした生徒がいたら、それは、勉強するってふんいき

にあうのでしょうか。」

「それは、個人の問題だから。あうという人と、あわないという人が、いると思います。」

「ということは、心を乱されるって人も、いるってことですね。」          

「はい、そうなりますか?。」

「郷田くん。ならばはっきりと、モヒカンや髪を染めることは禁止って、したらどうですか。ついでに、みんなの心を乱す髪型もすべて禁止、にしたらどう

ですか?。」

「そうしたら、自由がなくなるし・・」

「郷田くんは、自由と、学校は勉強する所ってことの、どっちを大事だと思っているのですか。」

「どっちも大事なわけでして・・」

「でも、明らかに自由というのは、学校のふんいきを壊すわけで、それが予想されるならば、はっきりと、自由を制限すべきです。」

 そうだ、そうだ制限しろっていう意見と、自由だって意見とで、会場は騒然としてきた。

「はい。」

 一年生の席から、手があがった。

「はい、一年一組の人。どうぞ。」

 小柄な一年生が、マイクの前に立った。

「僕は、中学校に入ったばかりでよくわかりませんが、会長さんのいう自由っていうのは、とってもこまります。勉強するふんいきにあったものっての

も、わからないのですが、中学生らしいってのも、よくわかりません。どっちにしてもあいまいで、どんな髪型にしたらよいのかも、よくわからなくなって

しまうんですよ。僕は、これってものをはっきり決めてくれたほうが、やりやすいんですけど。」

 ほんとだ、そうだっていう声が、あちこちでささやかれ始めた。

 少し後ろにいる麻美のほうを見たら、ほら、私が心配したとうりでしょと、麻美は目くばせしてきた。

「基準をはっきり決めてくれって、みんなは言っていると思います。」

 大木伸吾が、また発言した。

「制服が、いちばんわかりやすい服装なんだから、髪型も、わかりやすいものに決めましょう。どうですか。みなさん。」

 会場は賛成、反対で、大混乱しはじめた。

 ゴジラをはじめとした生徒会役員たちも、こまった顔をしている。もうみんなは、あっちこっちで議論をはじめて、司会の声も、とどかない。困ったな

ーと思ったその時、

「どうだ。わかったか。生徒が、きまりを自分で決めるなんて、できっこないことが。全然まとまらないじゃないか。クラス討論を何度も深めただと?。

じゃどうして、こう土壇場になって、意見が違ってくるんだ。ヤッパリ、おまえたちには無理だ。生徒心得は、おれたち教師にきめさせろ。」

 クマジイが、勝ち誇ったような、大声をあげた。それをいい潮時と見たのか、タヌキのやつが、マイクの所へやってきて

「やはり、生徒の手で生徒心得をつくるってのは、時期尚早だったんだ。今日の生徒総会は、中止しよう。全部白紙に戻して、最初っからやり直そ

う。とりあえず、生徒会規約と生徒心得は今のままにして、今年度は、いきましょう。先生方、それでいいですね。」

 とやってしまった。

 それを聞いて、生徒の一部は怒り狂い、あっちこちでタヌキの発言を批判する者や、マイクの所に駆け寄ろうとして、先生たちに静止されるものも

出てきた。

 ムーミンが出てきて発言した。

「久保田先生、熊田先生。それは、先生がたが決めることではないでしょ。ここは生徒総会であって、先生方には発言権も決定権もないのです。今

日の生徒総会をどうまとめるかは、議長の茶山くんと郷田くんたち生徒会役員の権限です。わたしたちは、静かに見守っているべきです。議長さん。

生徒会役員と相談して、この後の進め方や会の持ち方について、みんなに提案して下さい。」

 ムーミンの発言で、興奮していた会場は、少し落ち着いた。

 しかし、クマジイは、あきらめなかった。マイクを持っていたムーミンの所に近づくと、いきなりマイクを奪い、

「いや違う。上村先生の意見は、間違っている。おれたち教師には、生徒を指導する義務がある。生徒が混乱してまとめられなくなったんだから、教

師が指導するのが、当然だ。生徒に、決められるものか!。」

 とまた、一席ぶったんだ。

 僕は、かっとして立ち上がり、気がついたら、クマジイからマイクを奪っていた。

「熊田先生。先生は、勘違いしています。教師が指導できるのは、生徒が当事者主人公であって、決めるのは生徒であるという考えにたって、生徒

の気持ちを考慮したうえで、生徒がなっとくいける方向に援助するって範囲においてなんですよ。先生の発言は、生徒から決定権を奪い、おれが決

めると言ったのに等しいんです。それは、指導ではありません。強制。おしつけ。不当な、権利侵害です。」

 会場がいきなり、シーンと静まりかえってしまった。

「け、権利だと。何をほざくか。生徒に、権利もへったくれもあるか。おれには、生徒を指導する義務も権利もあるぞ!。」

「指導する権利は、ありません。僕たちに、指導をうける権利があるだけです。」

「いや、指導を受ける義務だ。」

「違います。あなたには、指導をする義務があるだけです。それも、生徒の立場に立って、納得の行くように援助するだけです。僕たちは、僕たちの

ためにしてくれる援助を受ける権利があるだけで、僕たちの権利を犯す強制を、受ける義務はありません。」

「いや、生徒が、総会を混乱させて決められないから、先生は、きみたちのためを思って提案したんだ。」

 タヌキが、血相をかえてとんで来て、二人の間に割ってはいってきた。

「じゃ、生徒に提案してください。ちゃんと、先生たちにではなく、議長に、議事進行案として、提案して下さい。」

「わかった。じゃ、あらためて提案する。今日の生徒総会はここで打ち切りとし、すべての提案は廃案とし、全てを白紙に戻す。したがって当面は、今

のままの生徒会規約と生徒心得でいく。これでどうでしょうか。熊田先生もいいですね?。」

 クマジイも、いやいやながら承諾した。

「わかりました。じゃ、僕も、提案します。議事進行案です。」

 もう会場は、異様なくらい静まりかえっていた。ひびいているのは、僕の声だけ。

「生徒心得の改正については、いろいろな意見がまだあるようなので、頭髪と靴下の色に関する改正案は、生徒評議会に差し戻しとして、時間をか

けて、クラス討議と評議会を繰り返し、議論を煮詰めることにする。期限は、来年の生徒手帳の原稿を印刷にまわす都合があるから、今年の十二

月までとする。そしてその部分を、今回の改正案から削除し、そのほかの事については反対意見は出ていないので、残りの部分だけ、今日、賛否を

とり決定する。これが、僕の議事進行案です。議長さん。二つの議事進行案について討論を行い、決定してください。」

 茫然としていたおチャメが、はっとしたように飛び上がって、マイクを握った。

「久保田先生と小村くんから、議事進行案がでました。他に案は、ありませんか。なければ、二つの案に対する、賛成意見と反対意見を出してくださ

い。」

 混乱のおさまった会場からは、僕の提案に対する賛成意見と、久保田先生の提案に対する反対意見しかでなかった。そして採決の結果は、僕の

提案が可決。そして続いて、生徒会規約と生徒心得の一部改正案が可決され、ただちに、おチャメが本日の議事の終了を宣言した。そして会長の

ゴジラがまとめをした。

「充分な議論を経ずに、今日の生徒総会を開いた不手際を、おわびします。今後、しっかりとクラスと評議会で、再度改正案の是非を、ていねいに討

論したいと思います。一年生のみなさんも、疑問なことがあれば、どんどん聞いてください。」

 こうして、長い一時間は終わった。


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