5.麻美の情報


 翌朝は八時五分前に家を出た。朝、起こされないうちに自分で起きてきた僕を見ておばはんは、

「あら、めずらしいわね。今日遠足でもあるの。遠足でもないのに早く起きるなんて、きっと槍でも降ってくるわ。」

なんて言って、僕をばかにした。

 でも、不思議なことに今朝はちっともはらが立たなかった。

 玄関を飛び出して左に曲がり、大通りに出たところで、              

「翔。早いわね。めっずらしーい。」

と後ろから声をかけられた。

 千秋麻美だ。同じクラスの女の子。ちょっと姉御風の威勢のいい女だ。

「悪かったな。早くて。たまには早起きぐらいするぜ。僕だって。」

「そう。ところでどうして昨日は学校に来なかったのさ。始業式だというのに。」

「べつにーい。いいじゃないか、たまには。」

「そうね。授業があるわけじゃないし。担任の顔見て掃除するだけだものね。そうそう、担任と言えば、クマジイのやつ、来年の4月まで休みだって

よ。」

「どうしたんだよ、あいつ。」

「酒の飲みすぎだってさ。胃に穴があいて入院だって。来年の2月ぐらいまで入院で、酒もたばこも禁止だってさ。いいきみよ。」

「ああ。いつも酒臭い息をして、ちょっとでも気に入らないとすぐビンタだ。酒にもたばこにも、それからオモチャにする生徒にも会えないなんて。生徒

をこけにしたばちがあたったんだな。」

「そう。そう。」

「ところで麻美。クマジイがいない間は、誰が担任するんだ。それに体育の授業も。」

「そうそう。その事よ。面白いかわった教師がやってきたんだ。すごーく背が高くて、ひょろひょろにやせててさ、顔は小さくて手足のすごーく長いや

つ。」

「どこにもいるじゃねえか、そのてのやつなら。どこがかわってるんだ。」

「人の話しは最後まで聞け。かわってるのは外見じゃないのよ。言うことが変なの。」

「へえ。何を言ったんだ。そいつは。」

「始業式の後の学活でそいつが自己紹介したあといきなり、掃除するぞ、なんていうんで、学級委員のおチャメがさ、宿題は集めないんですかって聞

いたんだ。」

「ふーん。それで。」

「そしたらカッパ先生、そうそう、そいつはカッパに似てんだ。翔みたいにさ。」

「よけいなお世話だ。で、そいつは何て言ったんだ。おチャメにさ。」

「今時、夏休みに宿題なんか出す学校がまだあるのか、だってさ。そいでさ、出したければ勝手に出せ、だって。そのうえ、出さなくてもいいぞ、夏休

みは遊ぶもんだとくら。」

「へーえ。変なやつ。教師らしくないな」

「そう。ぜんぜん教師って感じしないもんで、みんな拍子抜けよ。掃除の時さぼっているのがいたって、にやにやして何もいわない。あれっ、注意しな

いのかなって思っていると、いきなり目の前に雑巾が飛んでくる。ガラスにへちゃむくれの顔写してないで、顔が写るくらいに机を磨いとけ、だってさ。

雑巾投げつけられたやつがウロウロしてたら、もうカッパ先生、自分も雑巾であっちこっち磨いて自分の顔写して悦にいっているというわけ。みんな

つられて掃除してしまったのよ。不思議と。」

「ふーん。面白いやつだな。」

「翔もそう思う?。それだけじゃないのよ変なのは。」

「なんだよ。変って。」

「私が帰りの学活で手を挙げて、あした体育祭のマスコット決めるから考えておいてって発言したら、みんなまたいつものように無視して聞いてない

でわざとおしゃべり。ゴジラなんかさ、わざとでっかい声で、今日さ、どこのゲーセン行くなんてナオジに声かけんのよ。」

「いつものと変わんねえな。クラスみんなでお前を無視かよ。」

「そう。そこまではいつもと同じ。でもそのあとがぜんぜん違う。」

「どう違うのさ。」

「カッパ先生がさ、いきなりゴジラにむかって、郷田くん。君はゲームが好きなようだね。何のゲームが一番好きなんだ、って声をかけたのよ。」

「へーえ。それで。」

「ゴジラのやつびっくりしてさ、スーパーマジックドラゴンですって真面目に答えたのよ。」

「それで。」

「カッパ先生ったら、笑いながら、スーパーマジックドラゴンは僕も大好きだ。郷田くんの一番好きなキャラクターをマスコットなんかにしたらどうだいっ

て言ったの。みんなビックリしちゃって、おチャメなんかさ、ゲームのキャラクターをマスコットにしていいんですか、第一ゲームセンターに入ることは

禁止されていて、スーパーマジックドラゴンはまだソフトが発売されていないから、ゲーセンでしかできませんなんて真面目くさって質問までしてしまっ

たのよ。」

「ふーん。面白いな」

「それでね。カッパ先生なんて言ったと思う。翔ならさ。」

「わかんねえな。」

「ちょっとは頭使いなさいよ。カッパ先生はこう言ったの。ゲームセンターに入ることを禁止した法律なんかあったかな、憲法でだって思想信条の自

由は保障されている、だってさ。」

「ゲーセンに行くのは思想信条かよ。」

「そう。私もそう思ったわ。ゴジラのやつが翔と同じことを聞いたのよ。そしたらね、放課後の時間をどう使うかは思想信条の問題だって。自分のお金

で遊ぶのにどこに問題があるんだ、ですって。」

「ふーん。おかしなやつ。それでマスコットの話しはどうなったんだ。」

「みんな急にのっちゃってさ、○○にしようとか□□にしようとか、どんどんアニメの主人公なんかも出てきてさ、そのうち、マスコット選考委員会つくろ

うなんて意見が出てきて、知らないうちに、私が委員長になってたというわけ。」

「へーえ。カッパ先生の一言で、麻美を無視してたのが消えちゃったということか。」

「そう。学活が終わってから、みんなわいわい言って私の周りに集まってさ、なんだか嬉しくなっちゃった。」

「ふーん。みんな変身させられたわけか。カッパに。良かったな。」

「うん。ありがとう。でも、変身か・・・。そう言われてみるとそうね。みんな急に変わったみたいね。カッパ先生、魔法でも使ったのかしらね・・。ところで

翔もなんか少し違うわ。昨日、何かいいことでもあったの。翔も変身したみたいね。」

「変身ね。したかもしれないな。」

「ほんとに。どうやって。」

「それは内緒。いつまでしゃべってると遅刻するぞ。駆けるぞ!。僕は。」

「あっ、まって。私も行く!。」


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