★Kさんへの手紙1:最近のいじめ自殺とその報道の背景について★

20061023日

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追伸:Kさんへ

 はがきの続きです。

 「中学生の命の問題をメディアによって教育改革のために利用されているようで立腹しています」。その通り。利用されています。意図的か無意識かは別にして。
 今回のいじめ自殺は、安倍内閣の今の閣僚たちが追及してきた、「学力向上・愛国心を植えつける教育」=「美しい人をつくる教育」の結果ですよ。いじめ自殺が起きた場所が、福岡と北海道でしょ。ここはどちらも君が代・日の丸拒否運動が東京・広島と並んで推し進められている所ですから、学校における教職員の関係がギクシャクしています。そして最近は各地で学力向上を合言葉にした学力テストの実施や学校教育目標づくりが進んでいますから、この結果おきた子どもたちのギクシャクした人間関係の結果です。

 いじめ自殺といえば、かれこれ15年ほど前(?)の、東京杉並区のいじめ自殺事件を思い出します。お葬式ごっこが教室で公然と行われ担任もこれに荷担した事件。そしておなじ時期に、いじめの中で金をせびり取られて100万円以上の取られたはての自殺事件。たしか名護屋だったと思います。どちらもあなたがN中にいらした時期の出来事ですから覚えておいででしょう。特に2つ目の事件と類似したいじめはN中の僕の学年でも摘発されていますから。

 これらのいじめ事件と同じ時期におきた教師の暴力によって生徒が殺された事件があいつぎ、学校批判が15年ほど前に噴出しました。これを契機として行われた教育改革が「ゆとり」教育でした。ここでは文部省が子ども人権を大事にしろと命令し、学校規則の見なおしや、教育課程・指導法の見なおしを行い、子どもを主体にした学校づくりが推進されました。この中で考える授業、こどもの意欲を引き出す授業が推奨され、社会的な関心や教科を越えて問題にとりくむ授業が推進されました。この目玉が総合学習。

 このゆとり教育はある意味でいじめが横行する競争主義的な学校をかえようという教育改革でした。

 今回のいじめ自殺は、この教育改革をつぶして、「学力向上・愛国心を植えつける」教育の推進に文部科学省が転換して学校がさらにおかしくなった結果として起きています。メディアは報道しませんが、22日付けの赤旗は、福岡の状況を報道し、この県では数年まえから学力テストが実施され、小学校5年と中学校2年のこども全員をテストする。そしてこの結果を参考に○○科の平均点をあと○点あげて県の平均点を○点上回るというような具体的な学校教育目標を立てることが推進されていたそうです。これなら生徒の担任が、生徒をイチゴに喩えて品評するなどのいじめが横行したことは理解できます。

 しかし赤旗すら、このような学力向上運動と愛国心教育とが一体のものとして進められてきたことをきちんと明らかにはしていません。

 学力向上運動は、「考えさせる授業」では学力が落ちるだけだとして、戦前のような「覚えこませる授業」を推奨し、暗記・暗誦を奨励しています。戦前の教育にも良い所はあったというのがその言い方です。

 ですから愛国心教育と学力向上教育は、90年代後半から対になって推進され、2001年に小泉内閣が成立して官僚出身の遠山文部科学大臣が誕生するとともに、これが文部科学省の方針とされ、この内閣の下で、教育基本法をもこの観点から改正することが推し進められたのです。

 したがってこの5年間。各地で地方ごとの学力テストが実施され、こどもたちは日常的に県の単位の広さで比べられ競争させられるようになっていたのです。これじゃいじめは横行しますね。教師が先頭にたってこどもたちをテストの点数を基準にしていじめたりおちょくっているのですから。

 「教育はこの先どうなってしまうのかため息ばかりです」。

 うん、そうだろうね。

 安倍内閣は来年の参議院選挙までに教育基本法の改正と憲法改正のための国民投票法を成立させるつもりです。そしてその課程で、教員の免許の更新制を導入し、さらには公務員全体にスト権を与える替わりに、能力評価に応じた給与体系の導入といらない公務員をリストラできる体制を導入するつもりです。

 これもすべて改革の美名の下で、「美しい国」日本を作るというために。

 ここでいう「美しい日本」とは、軍隊をもって紛争解決のためには血を流す覚悟のある国であり、国を愛する心を大事にし、道徳や品格を大事にする国のこと。日本が次第に経済的にも地盤沈下する中で様々な不安を抱えた人々が、日本人としての誇りを持つことでその不安を解消しようとしている動きに合わせて、このような強い日本を作るための改革を実行するとして、来年の参議院選挙でも勝利をはくそうとするものです。

 小泉前首相すら「愛国心を評価の対象にするのはおかしい」と言ったその評価を、新しい文部科学大臣は、推進すると公言しています。このままでは学校ではますますこどもたちは競争させられ駈り立てられ、心はずたずたにされて良い子でいることを強制され、蔭ではいじめが横行することになりましょう。

 今回のいじめ自殺事件は、安倍内閣が進める教育改革の未来を先取りする事件であるのに、メディアはこの観点からは全く報道しません。事態はますます悪い方へと進んでいる。しかも政党は、これに明確に立ち向かえる状態ではないわけ。今回の補欠選挙が示すように、格差社会の拡大を追及しこれを小泉内閣が進めてきた規制緩和という改革の結果だとするだけでは、民主党には票は集まりません。そんなことはわかっているのです。格差が拡大する中で底辺に落とし込められそうな人々が、強い国日本の誇りを持つことで自らを慰めようとして、諸悪と戦う強い男小泉に投票したのです。そしてこの流れはまだ続き、安倍の戦う総理に幻想をもっています。彼の進める教育改革は不安に陥った人が共通してもっている教員への反感、学校への反感を動員します。そして憲法改正は同じく戦える強い日本というスローガンの下で、平和の中で金儲けや自己の地位保全に走ってきた官僚やエリートたちへの反感をも動員します。

 この道は、さらなる格差の拡大とともに、金儲けのための戦争の頻発するおそろしい世界への道であることを明らかにして、教育基本法改正反対、本当に基本法どおりに一人一人を大事にする教育への改革をすすめることと、憲法を守り、絶対に戦争をしない日本を守ることで世界の国もこれにまきこんでいくことが平和な世界をつくりのであり、金儲けの野放しにさせないことが格差の是正や平和の前提条件であることをしっかり表明する政治勢力が見える形で登場しないと、どうにもならないでしょう。

 衆議院議員補欠選挙の結果は、民主党がこのスローガンを掲げて、社民党と共闘するだけではまだ届かず、これに共産党も加えれば、一揆打ちでも安倍自民党に勝てる可能性があることを示しています。一つは参議院選挙にむけて憲法9条改正反対・教育基本法改正反対の野党共闘を実現すること。これが社会全体の右へ動く流れに歯止めをかける最低限必要な条件だと思います。そしてこの方向に向けて教育の分野では、日教組と全教に分裂した労働組合を共闘させ、政治闘争だけではなく、ほんとうに子ども達を主体にした学校をつくるための現場での共闘を実現することが大事でしょう。さらには、学校を立てなおすには、教師だけでは無理だから、父母・地域住民とも共闘し、行政を巻き込んで、例えば高知県のように、行政・教員・父母・地域住民そして子ども達が同じテーブルについて学校のありかたを考える円卓会議のようなものを立ち上げ、それで具体的にさまざまな学校をめぐる問題を解決するために議論をすることでしょう。このような取り組みを強めないと、どんどん流れは右に動き、取り返しが着かない所まで行ってしまうのではないか。

 僕はこう考えています。 ちょっと抽象的ですけどね。

 高知県のとりくみについては、学陽書房が2003年に出した『土佐の教育改革』という本を読んでみると具体的によくわかります。3000円もする本ですが、中味は充実しています。

 大事なのは、一人一人のこどもを大事にする教師が手をつなぎ、父母や地域住民とも手をつないで大きな輪をつくることでしょう。これは現場からしかできません。これと上から政治勢力としてこのような動きを助ける動きが重なれば、大きな力になるのですが。

 またまた長くなってしまいました。

 でも話すべきことは一杯あるように思います。またじっくり話せるとうれしいですね。

2006年10月23日

                             コアラ

Kさんへ 


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