羽蝶蘭を汚してきた人たち
今から二十年ほど以前の話になる。
その頃の羽蝶蘭といってもほとんどが山から採取されてきたもので、
変わりといってもとっぴも無く変わっていると言う物ではない。
ほんの少し色が濃いとか薄いとかを見つけては、高い値段で取引されていた。
今から考えれば羽蝶蘭の一番楽しい時だったように思っている。
羽蝶蘭の時期も終わりに近づいた7月の中旬に、ある山野草店に足を運んだ。
空を見上げると、夕日が低く掛かり空高く、入道雲が発達していた。
「こりゃ、一雨きそうだ」
遠くの空からは雷鳴が響いてきていた。
車を降り、足早にいつもの入り口をくぐった。
店内は、いつものように植物育成等が点けられていて、
展示してある花の色を鮮やかに浮き立てていた。
特に夕方は、夕日と育成灯との相乗効果で、赤い花が真っ赤に見えた。
店に来るお客は、この店で購入するときは、一度店の外に羽蝶蘭を持ち出して見ないと
本当の色が分からないと言っていた。
もちろん、店主にもお客は遠慮なくここは色が良すぎる、
この蛍光灯を何とかしろと言っても、おおらかな店主は、
あはははーーーと大笑いして取り合おうとはしなかった。
店内には、店主が一人で暇そうにしていた。
「こんにちは、もう羽蝶蘭の季節も終わりだね」
「おう、もう終わりだ」
「あっという間だねー」
会話をしながら羽蝶蘭陳列棚に目をやると、白紫点の変わった花があった。
「あれーこんなのが入ったんだ」
3花咲きの小さな草体が、私の目には輝いて見えた。
白系なので店外に持ち出して見ることはない。
花形は少しほっそこいが、全体的なバランスが良い。
「良い花だね、どうしたの」
ここの親父は高く売りたいものは、値段を付けておかない。
この花にも値段が付いていなかった。
「うん、この間咲いたばっかりだ、良い花だべー」
「ところで、幾らで出すんだんべ」
「うーん」
親父は考え込んでいるふりをしている。
こう言うしぐさをするときは、お客の懐を計算しているだと、
店に通ってきているお客のもっぱらな話になっていた。
「こりゃ、高く言われるぞ」
案の定、親父は私が出せるぎりぎりの値段を言ってきた。
「うん万円だなー」
「わぁー高いね」
親父は自慢げに、「この花じゃこの値段はしかたあんめぃー」
ほれてしまった、私が悪いのか言われるままに、来週にお金をもてきます。
予約を入れた。
店を出た。
遠かった、遠雷はすぐそこまで来ていた。
ほれた花が手に入った、満足感に鼻歌を歌いながら家に車を走らせた。
フロントガラスには、ワイパーでは間に合わないほどの、大粒の雨が落ちて来た。
翌週は月曜日から金曜日まで他県への出張が入っていて、
気が気でない一週間を過ごした。
土曜日、うん万円を用意して、いさんで出かけた。
店に入った。
陳列棚に目をやる。
あれー予約の札は貼ってあるが、花が付いてない。
花茎のところで折られている。
座っている親父に、これ、どうしたのと聞いた。
「もう花が終わったので折っておいた」
「なんだんべー、花粉だけでもつかいたかった」
交配に夢中の私は自然に愚痴が口をついて出た。
そのときは不自然だとは微塵も感じなかった。
支払いを済ませ、無事私の棚に、花のない羽蝶蘭が納まった。
来年の花時期を夢見て長い待機が始まった。
私の夢が、翌年2本に増え順調に生育した。
期待は底なしに、大きく膨らみはちきれんばかりに成っていた。
花芽が顔を出し、だんだん大きくなるにつけ、なんか変だなと思うようになった。
白紫点のはずなのに、つぼみに色がつき始まった。
膨らむたびに色が濃くなり、とうとう並花の色になってしまった。
そして咲いたのは、りっぱな並花だった。
熱が冷めてから考えて見ると、なんとも花がなかったのが、不自然な気がしてきた。
それから、だんだんと羽蝶蘭を知るにつれ、
そのようなことがあたりまえのように行われている実態がわかった。
その後、私のハウスが羽蝶蘭で一杯になった頃、山草屋の親父が尋ねてきた。
親父は、俺がこの羽蝶蘭を売ってやる。
一緒に儲けましょうと、力をいれて話をされていった。
私は丁重に話をお断りした。
こんな人らとは一緒には遊べないと、気持ちの奥のほうで叫んでいた。
羽蝶蘭を愛する趣味家より
有難う御座いました
20年前の話だそうですが・・・純粋に羽蝶蘭を愛する
愛培家の心を踏みにじる行為ですね・・・
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