水質汚濁・浄化の基礎知識
1.水質浄化の基礎概念
1−1.汚染・汚濁とは何か
一般に水質が汚濁しているとか、この水は汚染されていると言うが、対象物を定義しない限り汚染
や汚濁については論ずることができない。また、浄化対策や保全対策という言葉も良く使われるが、
何に対する対策であるかの対象物を定義しない限り対策を企画することができない。例えば公衆衛生
の確保のために遊泳プールや公衆浴場にカルキを投入することは周知のことである。カルキは次亜塩
素酸カルシウムのことで、空気に触れると塩素ガスを発生する有毒物質である。水に溶かすと塩素が
物質を酸化する酸化剤となる。この力を利用して殺菌剤として利用されているのがカルキの正体であ
る。この場合の対策対象物は『細菌』である。しかしながらカルキは殺菌力があるため、自然河川に
流すと生態系を破壊する汚染源となる。水道水でキンギョが飼えない由縁である。この場合の汚染対
象物は『カルキ』である。このように、目的や対象物によって対策の考えが180度変わってしまうが、
このことは一般にはあまり理解されていない。
一般河川や池沼で問題とされる汚染・汚濁は大別して次の4種類に分けられる。
@ 有機汚濁
非生命体(生きていない)の有機物による汚濁を言う。これらの有機物の大半は細菌類によっ
て一方的に分解されていくが、その過程で細菌が増殖し、同時に酸素を奪っていく。ドブ川の水
が白濁し、臭いのは細菌そのものの濁りと細胞から分泌される物質によるものである。また水や
沈降物の間隙から酸素が奪われていくため、硫化物が形成され、黒いヘドロを形成する。
細菌や微小生物を人為的に制御し、有機物を無機化する工程を下水処理という。下水処理の結
果、処理水には大量の栄養が含まれることになる。
A 栄養塩汚濁
@の有機物分解の過程で有機物は【水】と【二酸化炭素】と【栄養塩】に分かれていく。従っ
て有機汚濁と栄養塩汚濁は連続して起こる汚濁である。例えば池沼に家庭排水などの有機物がも
たらされると、池の中で有機物分解が起こり、結果として栄養塩が放出される。この栄養をもと
に植物が生育するわけであるが、水草が繁茂できない構造の池では水中に浮遊する単細胞の植物
が増殖する結果となる。これがいわゆる植物プランクトンの異常発生やアオコと呼ばれる現象で
ある。植物プランクトンは沈降してやがて死滅していくが、これが底層に堆積し、やがてはヘド
ロとなっていく。
B 化学物質汚染
人工的に合成されたり濃縮された化学物質による汚染である。以前では水銀やPCB汚染が取り
沙汰されたが、現在ではこれらを公共用水域に放流できないので、工場から放出されることはな
い。むしろ近年ではゴルフ場や果樹園からの農薬汚染や地下水の汚染が問題となっている。また
極低濃度であっても女性ホルモンのように作用する環境ホルモン汚染は深刻な問題である。
C 細菌・生物汚染(バイオハザード)
人体に直接的、間接的に被害をもたらす生物汚染である。直接的なものはo-157に代表される
病原菌で、大きな社会問題である。間接的なものは物資とともに外国からもたらされる外来生物
がある。セイタカアワダチソウやブラックバスも生物汚染の一種である。これらは特に生態系を
乱す恐れがあり、一種の社会問題である。
1−2.何処を対策するか
池沼の環境浄化と一言に言っても対象とする汚濁の種類や水域の構造その他によって対策方法
や考え方が変わってくる。池沼は一般的に『流入源』、『貯水部』、『放流部』から成っており、
流入部からもたらされる汚濁負荷が貯水部内で変化し、その一部が放流水となって系外へ出て行
く構造になっている。
図1 池沼への汚濁物質流入と内部生産の概念
@ 流入部対策
池沼の環境浄化対策として最も効率的な対策個所は流入部以前である。池沼に流入してしまっ
た汚濁物は沈降・分解・内部生産と形を変え、更に池全体へと拡散していくため対策が打ちにく
い。
流入水に見られる一般的な問題は有機汚濁である。これが浄化されないままに池沼に流入する
と底層の酸素不足や過度のヘドロ堆積が起こり、やがては慢性的なアオコ発生へとつながってい
く。このための対策は『接触酸化』が一般的である。また接触酸化と植物浄化を併用した方式も
いくつか考えられている。
A 池内対策
池内で発生する問題の多くは植物プランクトンの発生であり、その結果の副産物としてヘドロ
の堆積が挙げられる。ヘドロは栄養の塊(分解途上の有機物)であり、高温期には池水の酸素を
消費して分解し、大量の栄養塩を池内に放出する。この栄養塩を即座に吸収して植物プランクト
ンが発生し、時としてアオコとなる。植物プランクトンの一部は死滅・沈降して再びヘドロとな
っていく。この過程を『富栄養化』と呼ぶ。
植物プランクトン対策には『薬剤殺藻』、『濾過回収』その他の方法があるが、成功例は少ない。
ヘドロ対策の最も一般的な方法は浚渫である。この方法は規模が大掛かりで費用も嵩むので容易
には決定できない。間接的なヘドロ対策として良く用いられる方法に曝気がある。また近年、バ
イオレメディエーションの一環として微生物を投入する方法が試みられている。この方法は非常
に安価であるが、対策効果がすぐには現れないため普及しきれていない。
B 放流水対策
放流水対策は『濁水』では用いられることがあるが、植物プランクトン対策や水質浄化対策で
は採用されない方法である。但し、底層取水による低酸素水が問題となる場合は曝気は有効な方
法である。