1.目 的
静岡県内のマスクメロン栽培現場ではAgrobacterium rhizogenes(アグロバクテリウム・リゾゲネス)によると見られる毛根病が未だ絶えず、
少なからずもメロン栽培農家に打撃を与えている。
毛根病はA. rhizogenes biovar-1の感染によって引き起こされるもので、罹病したメロンは毛根が栽培土表面に密生し、本来の根
の働きが阻害されるために水管理が困難となる。このため、果実の変形や糖度の低下、ネットの乱れなどを生じ、商品価値を著しく損なう結果となる。
栽培現場における毛根病対策としては、@栽培土壌の殺菌、A微生物資材の投入、B栽培床として使用、C栽培、のサイクルが実施されて
いるが、突発的な毛根病の発生がしばしば繰り返され、より効果的な対策方法の開発が待たれている。
本企画は、毛根病に有効と見られる微生物系土壌改良剤に着目し、これらの有効性確認検討を実施する過程で得られる問題点や課題を再整
理し、新たなメロン毛根病対策方法を立案することを目的とする。
2.材料と方法
(1)対象資材
対策対象資材はN社製の【資材A】と【資材B】を用いた。【資材A】は完熟堆肥であり、【資材B】は【資材A】を補強するための微生物資材である。
(2)対象土壌
毛根病に罹病した土壌は、静岡県内のメロン栽培農家(K氏)より譲り受けたものを使用した。
(3)毛根病細菌の検出方法
毛根病菌の分離培養は、Schroth et al.の選択培地をベースに検討した。検討結果の概要は以下の通りである。
@ 調製に関して
Schroth et al.並びに牧野孝宏(1993)による改変組成では培地の調製中に沈殿を生じ、常法での扱いは困難なものと考えられた。このため、沈殿を
生じる試薬について検討し、リン酸マグネシウムをグリセロリン酸に変更し、炭酸マグネシウムの添加をゼロとした。この結果、培地は問題なく調製可
能となった。マグネシウムは塩化マグネシウムで充分与えられており、目的とする細菌の増殖には影響は無いものと考えた。
A 細菌の増殖に関して
炭素源をマンニトールとした場合、改変Schroth et al.選択培地上でのコロニーの発達は早く、また多くのコロニーを形成した(K氏土壌で800×104個/g)。
一方、炭素源をダルシトールとした場合、コロニーに発達は遅く、コロニー数は1/10程度に減少した。牧野孝宏(1993)によれば、炭素源をマンニトール
とした培地上では雑菌が多く増殖するとされており、炭素源はダルシトールを使わざるを得ない。但し、ダルシトールは高価な薬剤である他、国内では製
造されていないことから入手には時間とコストがかかる難点がある。
(4)試料調製の方法
牧野孝宏(1993)によれば、メロン毛根病菌は3%NaClに耐性を有するとされている。そこで、最初の段階で検体土壌を3%NaCl液に懸濁させることで
雑菌をある程度排除可能と考えた。種々の試行試験の結果、毛根病菌検出に適した土壌試料の調製方法を以下のように決定した。
@ 細菌群の採取
湿泥1gを秤量し、100mL滅菌ビーカーに採る。これに滅菌3%NaCl液100mLを入れて撹拌し、超音波洗浄機に5分かける。静置20秒後の上澄み10mLを
滅菌試験管に採り、800rpm5分遠心する。上澄み全量を接種原液とする。
A 接種原液の希釈段階
炭素源にマンニトールを用いた場合は接種液は原液の1/100が、また、ダルシトールを用いた場合は1/10が適当である。
B 細菌群の摂取と培養
改変Schroth et al.選択培地シャーレー上に接種液100μLを塗抹接種する。25℃,8〜10日間培養し、コロニーを計数する。
(5)感染土壌への混入試験の方法
毛根病菌検出確認試験によって感染が確認されたK氏土壌を用いて混入試験を実施した。試験は1試験当たり1Lの土壌を用い、以下の試験区を設定して
実施した。
@対 照 区・・・・・・・・・・・・感染土壌
A【資材A】添加区・・・・・・・感染土壌+【資材A】(10%)
B【資材B】5%添加区・・・・ 感染土壌+【資材B】(5%)
C【資材B】10%添加区・・・・ 感染土壌+【資材B】(10%)
試験温度は25℃一定、光は白色蛍光灯2,000Lux連続条件である。
写真2−1 左:資材形態(資材A,資材B) 中:試料処理 右:混入試験状況
写真2−2 左:コロニーカウント 中:混入試験1週間後と3週間後の形成コロニー 右:分離コロニー
3.結 果
試験結果を表3−1並びに図3−1に示した。
試験開始7日では各試験区共に大きく変わらないか若しくはC【資材B】10%添加区で増加しているようにも見えるが、21日(3週間)ではB、C試験区
で減少が見られている。
結論として、【資材B】を5%以上混入することでメロン毛根病は抑制の可能性大と判断された。
表3−1毛根病細菌群数の経時変動 (×10,000個/g)
※試験区の番号は2の(5)に対応
図3−1毛根病細菌群数の経時変動
4.現地試験の経過
(1)施用方法の検討
室内試験によって【資材B】がメロン毛根病を抑制できる可能性が高まったため、実際の栽培現場での施用試験を試みた。
【資材B】を栽培土壌全体に対して5%以上加えることは経済的でないため、メロン定植時の根域並びに定植前の育苗期に施用する方向で検討した。
@定植時の直接施用
定植時の植え穴に50gと100gを投入し、根焼けによる植害の有無と毛根病抑制効果を検証した。
A育苗用土に10%を加え、定植後の毛根病抑制効果を検証した。
(2)施用結果
【資材B】は根域に直接投入してもメロンの育苗に何ら問題は生じなかった。また、この試験苗は周辺苗が毛根病に罹病したにもかかわらず、収穫までの
間罹病しなかった。
育苗用土に10%を加えた試験ではすべてが順調に生育し、8割が罹病しなかった。残り2割は軽い毛根病の症状を示したが、収穫物には何ら問題は無かった。
同じ温室内で【資材B】を施用しなかったメロン苗は従来通りの慢性的な毛根病の症状を示し、1割は収穫不可能であった。以上の結果から、【資材B】は
毛根病の抑制に大きな効果があると結論された。
(3)その後の経過
試験農家ではその後、【資材B】を正式導入し、育苗用土への10%混入と定植時の直接施用を併用して良い成果を収めている。
※ 現地試験の詳細(写真等)は現在のところ控えさせて頂いております。公開可能となりましたら引き続き掲載していく予定です。
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