モズク種苗生産技術の確立
1.モズクの生活史と必要なショートカット
モズクの養殖技術に関する知見は、既に1980年の長崎県水産試験場論文集(四井1980)に登場しており、
この中で、養殖に供する種苗生産技術の礎はほぼ完成の域に達している。この方法は、胞子体(2n世代)
の発達初期に得られる中性遊走子からの糸状胞子体(2n)を越夏培養し、秋口にこれから得られる中性遊
走子を種付けするものである。
四井(1980)によるモズクの生活史は図1−1の様である。個々には複雑なサブサイクルを持つが、秋〜
春の2n無性世代と春〜夏の1n有性世代に分けることができる。前者が胞子体、後者が配偶体を成し、胞
子体の生長したものが肉眼的藻体である。
図1−1 モズクの生活史概要
上のサイクルにおいて、モズクの養殖時期は12月から3〜4月のモズク成体が生育する冬季である。モズ
ク成体は2n体であるため、2nの直立同化体(糸状体でも良い)を培養制御可能であれば、これを秋口に
種付けすることでモズクの養殖が可能となる。細胞工学的手法において最も重要なのは2nの直立同化体(
糸状体でも良い)を任意環境において培養・制御する技術の開発である。
この具体的部分は2n糸状体(2n胞子体)または(同じく)2nの直立同化糸体のサブサイクルである
(図1−2)。
図1−2 細胞工学的制御が必要なモズクの生活史サブサイクル
2.同化糸組織の分離
(1)採集と運搬(公表せず)
(2)母藻の洗浄(公表せず)
(3)同化糸の分離(公表せず)
(4)珪藻の排除(公表せず)
写真2−1 モズク組織分離施設(左:保存栽培施設 右:生物工学研遺伝子・細胞操作室)
写真2−2 分離風景と器具(中:分離組織 右:分離器具)
3.糸状体分離培養
(1)同化糸培養(公表せず)
(2)糸状体の分離(公表せず)
(3)糸状体培養(公表せず)
この方法によって分離した株(遺伝的分離細胞群)は5株を数えた。
写真3−1 培養・観察風景)
4.糸状体の拡大培養
(1)中間培養
糸状体の分離培養が成功したので、これを拡大培養すべく、糸状体培養45日目の試験管を100ccのスピンナ
ーフラスコに接種した。この条件下では2週間目までの増殖は極めて早く、糸状体マットがフラスコ壁面に付
着する様が肉眼で確認できた。中間培養は3ヶ月継続した。但し、糸状体の状態から判断して、中間育成は1
ヶ月程度で十分であり、長期間放置すると糸状体が減少するようである。
(2)大量培養
中間培養試料をよく攪拌し、糸状体マットを培地中に懸濁させた後、1ιスピンナーフラスコに接種した。
この条件では更に増殖が早く、9日目にはフラスコ壁面に糸状体らしい付着物が肉眼で確認され、2週間以内
に糸状体コロニーが多数懸濁するまでに至った。また、培養液の一部を採取して観察した結果、糸状体コロニ
ーの一部に複子嚢様の組織が確認され、同時に遊走細胞の存在も確認できた。
写真4−1 糸状体拡大培養風景
5.採苗試験
採苗試験は研究所内で実施した。試験は小規模試験とし、1/8養殖網に種付けした。
写真5−1 採苗試験風景
写真5−2 付着した同化糸体(モズク幼体)
6.沖だし結果
研究が季節に追いつかなかったため、沖だしは4月となってしまった。通常、この時期は水温が18℃〜20℃
となるため、モズクの発達は望めない。しかしながら5月の観察では種付けロープにモズク幼体が付着してい
るのが確認された。この時には周辺海域の天然モズクは既に消滅していた。
写真6−1 種付けロープに付着するモズク幼体
7.培養によるモズク幼体の作出
基礎試験によって、モズク糸状体と同化糸体の制御が可能となったので、試験管・フラスコ内でのモズク幼
体の作出を試みた。
写真7−1 試験管中に発達したモズク幼体(左)とフラスコ内に大量に出現したモズク幼体