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藤崎詩織を愛する理由

1.『ときめきメモリアル』本編


 『ときめきメモリアル』に登場する女の子の魅力は、見た目の分かりやすさ……とは、多分違う。

 見た目や、一言二言の会話における分かりやすさは、10人以上登場する女の子の見分けを付けやすくするためのものであって、それ以上の意味はあまりないと思っている。
 むしろ、そういった見た目から受ける誤解や偏見から解き放たれたときこそ、彼女たちは魅力ある存在たりうる。
 体が弱いながら芯に一本通ったものを持つ如月さん、泳いでいるだけかと思いきやふと顔を赤らめて花言葉を口にする清川さん、高飛車な態度に隠れて子供の扱いに長けた鏡さん……等々。
 今の私にはあまり関係のない話だが。

 逆に言うと、見た目通りの性格を期待するだけのプレイヤーにはキツイ話だな。
 「紐緒さん、世界征服をやめないで!」という意見には、どことなく「パトラッシュを殺さないで!」以上に困ったものを感じる。本当にやめないでほしいのだったら、惚れさせなどしなければいいものを。


 さて、詩織である。

 彼女は設定上、容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能・そして誰にでも優しい……ということになっている。
 が、その設定から想起される期待は、早くも序盤から突き崩される。主人公(プレイヤーズキャラ)に対して浴びせられる、歯に衣着せぬ……時として無遠慮とすら思える言葉。金月真美様をして「詩織、もっと大人になれよ……。」と言わしめたのは、有名なお話。
 「これは意外な一面ではなく、単なる設定ミスではないのか?」とお考えの諸氏も多かろう。いや、むしろこんなページを普段から見ているような(失礼!)常連さんなら、ほぼ間違いなくそのようにお思いだろう。
 しかし断言しよう。藤崎詩織は紛れもなく、周囲の人々に対して思いやりを持った娘なのだ。

 周囲の人々に対して、と言ってしまったが、それを証明することは難しい。『ときめきメモリアル』における人間関係は、ほとんど主人公と他キャラクタの一対一でしか描写されないからだ。
 数少ないケースのひとつが、バレンタインデーにおける美樹原(なぜか呼び捨て)登場イベントだ。詩織は旧友である美樹原に頼まれ、主人公を紹介する。
 美樹原が登場する頃ともなれば、詩織の主人公に対する想いはかなり高まっているころだ。そんな主人公を引き合わせれば、いずれ利害関係を生じるのは目に見えている。詩織がその気になれば、気の弱い美樹原を言いくるめて、紹介をお流れにしてしまうことだってできただろう。
 詩織は、気の弱い美樹原が珍しく表現した気持ちを――意志を尊重したのだ。それがやがて自分たちを傷つけると知っていても。
 恥ずかしさからその場を立ち去ってしまう美樹原を、詩織は気遣って追いかける。もしも単なる義理立てで紹介したならば、主人公を放ってまで追いかけて行かないだろう。恥ずかしがりの美樹原をダシにして、自分をもっとアピールすることだってできたはずだ。
 もっともこれには、主人公と二人きりになるのを詩織が恥ずかしがったから、という解釈もありうるのだが……むしろ友達に噂されることを恥ずかしがる娘なので、微妙なところだ。


 では、相手の気持ちを優先させる詩織が、なぜ主人公には自分の思ったことをストレートに言うのか?
 「ゲームの最終目的だから、高いところに置いておかなければならず、したがって高慢だ。」という意見がある。ていうか、私自身が最初そう思っていた。『ウィザードリィ』に狂った男である私にとっては、まぎれもなくそうだ。
 だが、それだけが真実ならば、ゲーム開始当初から詩織は主人公とデートをしてくれるだろうか? ただ単に高慢なだけならばパラメータの低い男が誘うデートになど付き合わないだろうし、いっしょに帰らないときにも「噂されると恥ずかしいから」なんて理由を挙げず「あなたと帰るのは恥ずかしい」としか言わないだろう。
 むろん「もし最初から詩織とデートできなければ、序盤が単なるパラメータ上げゲームになってしまうから」という配慮もあるのだろうが。

 ここでもう一度、藤崎詩織という人物を考えてみよう。自分自身を高い位置に維持しながら、他人を見下したりせずに尊重する。自己表現に十分な能力を持ちながらそれを抑制するこの行為は、想像するにかなりの精神的負担を要する立ちふるまいだ。
 悪く言えば、人目を気にしてばかりの言動ともいえる……いいじゃんか、それぐらい大目に見てやれよ。男だろ!
 ただ、なぜ彼女がそういう女性であるかについては、重要な要素である小学生高学年〜中学生の境遇が描かれていないため、ここで考察することはできない。
 ましてや高校という新たな環境に置かれたとき、その不安は(新たな可能性への期待に隠れて)無自覚のままに大きくなっていたのではあるまいか。

 そこに現れたのが主人公だ。
 恋愛感情があろうとなかろうと、詩織にとって主人公は特別な存在なのだ。なにしろ物心ついた頃からの腐れ縁だ。きらめき高校のなかで唯一、詩織が自分で思ったことをそのまま口にすることができる存在なのだ。
 甘えている? 光栄だ! 詩織ほどの女性になら、是非甘えてほしい。ていうか、甘えてくれ!

 ただし、詩織が心底から心を許せる男になるための敷居は高い……。

 そういうつもりで、詩織の告白に耳を傾けてみよう。そこにいるのは、あなたが知っている藤崎詩織とは少し違った娘かもしれない。
 

(1999年5月24日版)
追伸:
 例の文化祭スピーチは上記の内容に反し、主人公よりむしろその他の男子生徒大勢を傷つける文面だ。
 この辺は色々考えるところがあるんだけどね。
 

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