しおりんの野望(中盤〜EDへ)

 


し=

しおりんの野望・第11ステージ「決戦前夜」

藤崎詩織と紐緒結奈。
この物語の主役を務める二人のヒロイン。
そして…
名目上は「主人公」だが何となく影の薄い真の主役・主人公。
この三人がそれぞれの思いを胸に秘め、決着を付けるべく動き出しているとき…。
都内の某所で新たなるパワーが密かに目覚めつつあった。

「その者、青き衣を纏い…」
目の前の老婆が呟いている。
何かにとり付かれたように延々と。
「…金色の野に降り立つべし」
全てを語り終わった後、老婆はそのまま気を失ってしまった。
それをじっと見下ろし、少女は冷え切ったまなざしを注いでいる。
「たわごとを…」
吐き捨てるように言い、ふと肩の上の生き物に手をやった。
「聞くだけ無駄だったよ。さ、行こう」
少女の首筋に纏わりつく生き物が、大きな耳を少しだけはためかせた。
ぬいぐるみみたいな可愛らしいボディー。
しかしその目は残忍な底光りを帯びている怪奇な生き物。

少女とその「生き物」は占いの館を出た。
いきなり飛び込んできた陽光に、少し目がくらむ。
「…たわごとを…」
もう一度呟き、そしてじっと思念をこらした。
「…」
目の前の自動販売機が徐々に浮き上がっていく。
ふわり…
約三メートルも浮き上がり、そして…
…がっしゃ〜んっ!!
いきなり落下した。
その拍子に転がり出たカフェオレの缶を掴みとり少女は舌打ちする。
「ち…。隣の無糖ブラックを狙ったのに」
どうやら希望の品とは違ったようだが
捨てるのももったいないらしく彼女はカフェオレの缶を開ける。
一息で飲み干し、空き缶を投げ捨てた。
モラルの無い奴…
などと非難する者は一人もいない。
すでにこのお台場周辺には避難命令が出されている。
「…」
ふっ…。
少女は薄く笑った。
(占い師に言われなくても私の出番くらいわかってるわ)
だってそれが…私の存在理由なんだもの。
藤崎詩織をこの世から消滅させること。
それが私の…。

セーラー服にしては青すぎる、きらめき高校の制服の裾を翻し、彼女は歩き出した。
決戦は近い。
私と…「あの女」との真の主役を決める決戦の時がすぐそこまで来ている。
「負けないわよ。藤崎さん」
少女…
絶大なパワーを誇る超能力少女・館林見晴の冷酷な瞳が、
ギラリ…と輝いた。
04/24/(月) 午後12:52:23 


倶=

『しおりんの野望』第12期・コアラII世

 詩織は無事に元の世界に戻ることができた。『彼』のおかげで。
「……感傷にひたっている時間はないわね。武器を捜さないと」
 彼女は自宅へと急いだ。かつて大量のアンドロイドを生産していた工場は、
騒動のゴタゴタで銀行に差し押さえられてしまったのだ。
「ただいまー」
 玄関をくぐるなり、電話のベルが鳴った。即座に受話器を取る詩織。
「はい、藤崎です」
『もしもし、俺だけど』
「あっ……」
『どうした?』
「ううん、何でもないの。それより今日は何のご用?」
『突然で悪いんだけれど、きらめき高校まで来てくれ』
「うん、分かった。今から行くから待っててね。それじゃ」
 ……ときめいた状態だったため、ついOKしてしまったが。
「どうして高校なの?」
 その答を求め、詩織はきらめき高校へ向かった。
「あなた、なぜこんなところに……?」
 伝説の樹に寄りかかっていた主人公は、詩織の方へ向き直った。
「俺たちのせいで帝都は大変なことになってしまった。
俺たちの手でカタをつけるんだ。それまでは一時休戦だな」
「一時休戦、か……」
 詩織は伝説の樹を見やる。
「イヤか?」
「ううん、休戦には賛成よ。それより高校へ来た訳を教えて」
「ああ。ここには紐緒結奈の秘密研究施設があるんだ……」

 当の紐緒結奈は、東京ビッグサ○トの国際会議場に陣取っていた。
「ふふふ、絶景とはこのことね」
 その側には美樹……セーラーメグリンが申し分けなさそうに立っていた。
「あ、あの……どうしてこの建物に入ったんですか?」
「占拠する前に見たでしょう? この逆三角形の前衛的建造物こそ、世界征服の
前線基地として相応しいわ」
「そ、そうですか……」
 凡庸なオタクさんと同じ発想なんですね、という言葉が飛び出しかけたが、
あわててそれを呑み込むメグリン。
「まあ、あなたのように野望を持たない人間には理解できないでしょうけど……
なに?」
 遠くから聞こえ来る……聞こえるはずのない歌声に、紐緒は硬直する。

♪サイコキネシス テレパシー
 超能力を使うとき 謎の女の髪は波打つ〜

 メグリンは歌声の主を知っていた。
「み、見晴ちゃん!?」

04/25/(火) 午前12:41:49 


し=

しおりんの野望No.13「流れ行く時の中で」

主人公が伝説の樹の一部をまさぐった…
と思ったら、いきなり地面がポッカリ割れた。
「! これは…」
「紐緒さんの秘密研究所の入り口さ。前に教えてもらったんだ」
「そう言えばあなた、彼女とは仲が良かったもんね」
「ほとんど手下同然だったけどね」
苦笑する主人公。
「さあ、行こう。この中に君に見せたいものがある」

一方、こちらは有明。
緊張の色を隠せない紐緒結奈と美樹原さんの前に歌声と共に現れた謎の少女。
もちろんそれは既にみなさんご承知の…。
「こ♪こ♪…コアラのマ〜チ♪」
いきなり変わった曲調に、二人は思わずずっこけた。
(ふふふ…。びびってるわね)
見晴は満足そうな笑みを洩らした。
人の意表を突く事を何よりの楽しみとしている彼女にとって
他人の狼狽している姿ほど快感を呼ぶものはない。
「お待たせしたわね、紐緒さん」
「…誰も待ってないわよ。あなたなんか」
「そんな強がり言っちゃって。
本当は私と、このコアちゃんの力が借りたいくせに」
説明するまでもあるまいが
コアちゃんとは、みはりんの肩に乗っている眼つきの悪いコアラのことである。
「いらないわよ。私には既にセーラーメグリンが味方についている」
「へん。こんなヘルメット女が役にたつと思ってるの?」
む…。
みはりんの暴言を聞いて、さすがの美樹原さんもムカっとした。
「あの…あの、それはちょっとヒドイ…です」
「あれ、いっちょ前の口を利くね」
「私の頭より…あなたのそのワッカ頭の方がよっぽど変です」
はっきり指摘されて、みはりんはグッと詰まった。
「J組の教室でみんな言ってました。
館林さんって、ちょっとおかしいんじゃないかしら?…って」
「こ、このアマ…」
思わず飛び掛ろうとしたみはりん。
それを薄ら笑いを浮かべて紐緒結奈が制止した。
「よしなさいよ。ホントの事言われて怒るなんて大人気ないわ」
「…うるさいわね…。
大体あんただって何よ、その髪型は。
今ごろゲゲゲの鬼太郎なんて流行らないわ!」
「ぐっ…」
三人の女の視線が激しく火花を散らした。
メモ界でも「変な頭」BEST3にランクされているこの三人が
偶然とはいえ一堂に会するとは…。
肝心のしおりんがいないまま、最後の決戦は今・まさに火蓋を切ろうとしている。

04/25/(火) 午後02:14:35 


倶=

『しおりんの野望』14項・紐緒結奈誕生

 逆三角形の面妖じゃなくてマッシヴな建物。
 その屋上で、少女たち――と呼ぶには何か変だが――は三すくみとなっていた。
美樹原メグリンは、紐緒に脳改造を受けている。
 ヘンテコな命令に疑問を感じつつも、結局は従ってしまうのだ。
・館林は、クラスメイトのメグリンに行動パターンを知られすぎている。
 人の意表を突くことは得意なはずの館林だが、メグリンはあなどれない。
・そして紐緒は。なんと、超能力に関する研究を怠っていたのだ。
「あんな非科学的な存在、私の眼中にないわね。いざとなったら世界征服ロ(以下略)」
が彼女の口癖だった。こんなことになるのであれば、ソ連科学アカデミーのレポートを
まじめに読んでおけばよかった……。

 どれだけ太陽が傾いただろうか。館林の眼に汗が流れ込む瞬間、メグリンが動いた。
「ムーンヘルメットアクション!」
 だが、館林にとっては予想の範疇だった。
「ひらり!」
 館林が手を翻すと、メグリンの攻撃はそっくりそのまま反射される。
「きゃっ!」
 だが、それこそ紐緒にとって好機だ。館林がメグリンに気を取られているその隙に、
紐緒は次元波動砲を構える。だが、館林の影から小さな影が飛び出す。
「しまっ……!?」

 きらめき高校の地下では、詩織と主人公が端末で情報を引き出そうとしていた。
「武器らしい武器は持ち去られてるわね。試作型世界征服ロボでもあればよかったのに」
「まあまあ、これを見てみろよ。何かのヒントになるかも知れないぜ」
「紐緒結奈自伝 第1巻『我が華麗なる蜂起』……なにこれ?」
「どうやら世界征服を達成したときのために、自伝を用意しているようだな」
「えーと……」

 人間が犯してきた愚挙の中でもっとも忌み嫌うべきなのは、窮めて危険な生物である
コアラを愛でていることだ。コアラの危険性を理解できない人間に人類を統べさせておく
ことは、人類の繁栄にとって必ずや障害となるであろう。


「なにこれ?」
 ふたりは仲良く、しかし、良い雰囲気とは言えない状態で顔を見合わせた。

04/26/(水) 午前12:25:10 


し=

しおりんの野望・第15弾「我が名はコアラ」

「わけわかんないよね…これじゃ」
詩織が投げやりな口調で言った。
「コアラが怖い?」
「僕も変だと思うよ。あんな大人しい動物が…」
主人公は腕組をしてじっとモニターを睨んでいる。
そして詩織にチラリと視線を走らせた。
「だから不思議なんだよ。
紐緒さんほどの人が危険視するんだから…
なんかそこに『理由』がなくちゃね」
「コアラ・アレルギーか何かじゃないの。
或いは幼少期のトラウマとか」
幼少期のトラウマ(精神的外傷)…という言葉を自分で発し、
詩織はハッと気付いたような顔をした。
「待って。
ひょっとして紐緒さんは小さい時コアラに苛められたんじゃないかしら?」
「コ、コアラに苛められた…?」
「その恐怖が成長して憎悪に変わり、コアラ全体への敵視に変わる…
ありそうな話だわ」
「そ、そうかな」
惚れた弱みから一応頷いてみたものの、主人公には詩織が言っていることなど
全く理解出来なかった。
(コアラに苛められた…って…
動物園以外にはいないコアラがどうやって紐緒さんを…)
そこまで考えて、ふと主人公は首を捻った。
あれ…?
『動物園にしかいない』はずのコアラを、俺、どっかで見たような…
(そうだ…。
あの子が飼ってるんだ。ほら、よく廊下でぶつかってくる子。
名前は知らないけど、面白い髪型してた…)
「とにかく怖いもの知らずの紐緒さんにも弱点があるってことね。
その点は大いに参考になるわ」
詩織がそう言って頷いたとき、秘密研究所の中に凄まじい警報が鳴り響いた。

ピーーー!
『緊急連絡☆
お台場付近にて紐緒閣下が苦戦なさっている模様。
敵は”K”
戦闘員は直ちに出動せよ。
繰り返す…」

中央コンピュータから発せられているらしい、甲高い合成音が耳を劈く。
「紐緒さんが苦戦…?」
「もう戦闘が始まってるんだ! 行かなければ!」
二人は頷きあい、出口へ向かって駆け出した。

04/26/(水) 午後12:01:11 


倶=

『しおりんの野望』その16・戦いの風が吹く

 跳躍したコアラは、まさしく紐緒の頭上をとっていた。
 が、次元波動砲は即座に天空を狙う。紐緒にこんな背筋力があろうとは。
 閃光に吹き飛ばされるように見えたコアラは、しかし後方へ跳んでいた。
何もないはずの空間を蹴って。奴も……サイキック?
 千載一遇のチャンスを逃した紐緒が舌打ちをする。

 1台のバイクが豊洲から有明を目指している。主人公と詩織だ。
 主人公は背中の感触をいつまでも堪能したいところだったが……。
「ちょっと! なにニヤニヤしてるのよ。いやらしいわね」
「う……それよりもあれを見て」
 図星を突かれて焦った主人公、慌ててパ○ットタウンを指差す。
「ひどい。私たちが一緒に乗った観覧車が、あんなメチャメチャに……」
 自分らが引き起こした巨大虹野とモスラの争いの方がよっぽどひどかった
ろうに、そんなことを忘れたかのごとく詩織は悲嘆に暮れた。
「俺、詩織があのとき言っていた言葉の続きが聞きたいな」
「えっ、こんな時に何を言ってるのよ!?」
「だって俺たち、これっきりかも知れないだろ。だから……」
「しみったれた事を言っちゃって。ダメよ、ふたりで生きて帰るんだから」
「そうだね、さっさと片づけて帰ろう」
 そのとき○ッグサイトから天空に向け、閃光が走る。
「次元波動砲!」
「紐緒さんはあそこね」
「どうやって止めよう? 彼女と、その敵を」
「こうなったら同士討ちを待つのも、ひとつの手ね」
 それは妥当だが、ヒロインにあるまじき発言だぜ……。
 そのとき、フジテ○ビ本社からもうもうと土煙が立ち昇ったかと思うと、
ひとつの巨大な人影が現れた。まるで戦いに呼び覚まされたがごとく。
04/27/(木) 午前12:29:52 


し=

〜しおりんの野望-scene17「彩の巨人」〜

「な、なんだ、あれは!」
主人公の叫びが辺りにこだました。
対するしおりんは、実に冷静な表情でそれを眺めている。
「私が隠しておいたの、あそこに」
「え…。じゃあ、あれもアンドロイドか…?」
「もち。藤崎重工kkが差し押さえを食う前にアレだけは持ち出しておいたのよ」
得意そうに語るしおりん。
「おい、そりゃ…資産隠し…」
「いいじゃない。おかげで戦闘に使えるんだから」
平然と言い放ち、リモコンを構えた。
「さあ、最新鋭アンドロイドの出動よ! 名付けて…
『ワッタシ・ニホンゴ・ワッカリマセ〜ンver.1.21』!」
「…片桐さんが聞いたら怒るだろうな…」

一方、国際展示場の展望室では紐緒さんが苦戦を強いられていた。
すばしっこく移動するコアラを補足しようとしても中々うまくいかない。
頼みのセーラーメグリンは見晴を相手にするので精一杯だ。
(このままじゃマズイわね…)
紐緒さんの目に焦りが浮かんだ。
世界征服計画・プロジェクトAは迅速な行動が要求される。
こんなところで手間を喰っている訳にはいかないのだ。
「ちょっとタンマ!」
「え…?」
紐緒さんの呼びかけに室内の一同は一斉に動きを止めた。
「何よ?」
みはりんが戦闘ポーズをとりながら用心深く問い掛ける。
「このまま争ってもラチがあかないわ。決着は世界を征服してから…ってのはどう?」
「勝手なこと言わないでよ」
「それから戦って勝てば、あなたが全世界の支配者になれるのよ?」
「…」
それを聞いてみはりんが考え込んだ。
(支配者なんかなっても仕方がないけど…。
そうなりゃ大通りの角のケーキ屋さんに行き放題だよね)
今月のお小遣いが大ピンチに瀕している事実が頭をよぎった。
(あんときの衝動買いがまずかったよね。
素敵な夏物ブラウスがあったからつい…)
どっしようかな〜…と欲に吊られたみはりんが思案に耽りだした時…
展望室の外から突如として凄まじい衝撃波が襲ってきた!

04/27/(木) 午前09:53:12 


倶=

『しおりんの野望』episode18・清き魔人

♪あっきらめった あなぁーたには おにぃあいの〜


 ソニックブームの源・巨大アンドロイドの肩には――。
「藤崎……詩織!?」
 異空間に吹き飛ばされたはずの少女が、そこにいる。
「東京が大変なことになってしまったの! 紐緒さん、あなたの過去に何があったのか
知らないけど、今すぐ無駄な争いをやめて!」
 詩織の発言は軽率だったと言わざるを得ない。
「私の聖戦を無駄呼ばわりするなんて、許せない」
「詩織ちゃん、自分が最初に東京で暴れたくせに」
「おばかさん、飛んで火に入る夏目漱石」(意味不明)
「♪ムフフフ〜ム〜ム〜ムフムフ〜」(訳:僕らは有袋動物〜)
 今や敵対勢力の結束は確実なものとなっていた。
「くらえ必殺の合体光線!」
 にわかづくりの合体技は、それでも陽光を凌駕せんばかりの圧倒的威力を持っていた。
 が、アンドロイドの装甲はそれをたやすく弾き飛ばす。
「わかったでしょう? 私のアンドロイドにかなうわけないわ。降伏して」
「ふふふふふ、愚かなり藤崎詩織!」
 彼女らは合体光線の狙いを地面に合わせた。みるみるうちに埋め立て地が端から崩れて
いき――自慢のアンドロイドは轟音とともに東京湾へ落ちた。
「ヘールプ、ヘルプミィィィィ! コーストガァァァド、プリィィィズ!」
 みっともなくもがく『ワッタシ(以下略)』。
「どうするんだよ詩織?」
「大丈夫よ、こんなときのためにアペンドディスクを用意してあるわ」
 詩織は銀盤を取り出すとリモコンに装着した。
「行きなさい、『ボーリングダマシューターver1.01』!」
 アンドロイドが輝いたかと思うと、それは常軌を逸した速度で海中を移動し、
ついにはトビウオがごとく空中へ躍り出た。
 しかし次の瞬間には、詩織の笑みが失われることとなった。
 館林が両手をこすり合わせ、こう叫んだのである。
「エレクトリック・サンダー!!」
 『ボーリング(以下略)』は、来たのと同じ猛スピードで逃げ出した。
「ど、ど、どうすんだよ詩織!?」
「アペンドディスクはもう一枚あるの。でもそれを使うわけには……」
「どうしてさ?」
「だって……恥ずかしいもの!」
 彼女の手に握られたディスクには『カズエ・フキイシβリリース』と書かれていた。

04/29/(土) 午前12:46:52 


し=

〜しおりんの野望count19「絶対絶命」〜

戦場ではわずかな逡巡が命取りになる。
よりにもよってなんでそんなアベンドディスクを…
と、我らしおりんファンが切歯扼腕している頃。
みはりんの魔の手はついに詩織を捕らえようとしていた。
「隙あり!」
一声高く叫び、展望室から跳躍する見晴。
(…ハッ!)
しおりんが気付いた時は、もう遅い。
彼女の直上に占移したみはりんは一挙に勝負を掛ける。
「コアラッシュ・ニードル---!」
指先から放たれる無数の針。
南海のスコールにも似た、その凄まじい毒針攻撃が詩織に襲い掛かった!
「きゃあっ!!」
何とか地面に転がって避けたものの、その拍子にリモコンは
コンクリートに叩きつけられて粉々に…。
(…しまった!)
詩織の顔から血の気が引いた。
アンドロイドが使えなければ私には攻撃手段など、もはや…
「く、く、く…」
詩織の狼狽を見透かしたかのように、見晴は含み笑いを洩らした。
ふわり…と地面に降り立ち、余裕を持った笑みを浮かべる。
「あらあらお気の毒。リモコン、壊れちゃったみたいね?」
「…」
「所詮はアンドロイドなんて機械人形。『味方』にするには、
やはり生身の生き物でなくちゃ」
そう言ってみはりんは肩の上の「コアちゃん」を愛しげに撫でた。
「コアちゃんの力は私の力…
私の力はコアちゃんの力…」
「…え?」
「ふ…何でもないよ。
さあ…藤崎さん。
そろそろフィニッシュと行きましょうか…」
館林見晴は、さも嬉しそうに舌なめずりしながら詩織に一歩近づいた。

04/29/(土) 午前10:06:43 


倶=

『しおりんの野望』scenario#20・喪失

 館林見晴が藤崎詩織を追いつめ、メグリンがその様子を見守っているとき、
紐緒結奈はさらに離れた地点から傍観していた。
「どうしたの藤崎詩織? あなたの実力はその程度なの?」

「さようなら藤崎さん。永遠に……」
「どうして? せめて、私を狙うわけを教えて」
「どうして、ですって? わかってるくせに。彼をさんざん弄んだくせに。
それなのに彼は、あなたしか見ていない!」
「そんな……彼って誰?」
 こけーっ。主人公は藤子不二夫A風に倒れた。
「俺だ俺!」
「ふうん、そうなんだ」
 そんな会話を、ただ流されるように見つめる見晴。
「なんか私、バカみたい。妬けちゃうよ」
 そして右手に念を集中しようとしたが、ふとやめて、かわりに駆け出す。
 主人公、見晴にぶつかられて再びこける。
「ぶあっ!?」
「あっ、ごめんなさい」
「いいよ、俺になら何度でもぶつかってくれ。でも――詩織にはもう手を
出さないでくれ」
「わかった。あなたに免じてもう戦わないよ。わたし……さよならっ!」
 突然のことに、誰もが声を失った。こんな御都合主義の展開を許しても
いいのか。
 唖然とする一群の中にあってもっとも狼狽していたのは、身を預ける肩を
失った殺人コアラであった。

05/02/(火) 午前12:26:07 


し=

〜しおりんの野望mission21「敵として」〜

予想もしない展開に関係者各位は色を失った。
藤崎詩織の永遠のライバル…
彼女を否定する事が存在理由の全てであった「館林見晴」が、こうもあっけなく退場してしまうとは。
呆然自失として声も出ない一同の中にあってただ一人、紐緒結奈だけは笑っていた。

(ふ…。こうなると思ってたわ)

私にとっての「聖戦」---世界征服。
それがいつの間にか、藤崎詩織と館林見晴のときメモ・ヒロイン争いに化けている。
それは実に許しがたい事。
(狂った歯車が元に戻っただけよ…これでいいの)
紐緒結奈は脇に立つ美樹原さんをチラリと眺めた。
なんだかやけに表情が明るい。
親友の大ピンチが霧消したのを心から喜んでいるようだ。
(ふん…)
紐緒結奈は、そんな彼女を蔑みの目で眺めた。
(ホントに甘ちゃんね…この子は。
他人の幸せを我が事のように喜ぶ…。
それで一体、自分に何の得があると言うの?)
紐緒さんは皮肉な笑みを浮かべた。
そしてさりげなく呼びかける。
「美樹原さん」
「…はい?」
突然の呼びかけに、美樹原さんは戸惑った。
「あなたに最後の指令を与えるわ」
「…」
最後の…と言う言葉に、美樹原さんは緊張した。
怯えたような視線でゴクリ、と唾を飲む。
「なに…簡単な事よ。あなたの実力をもってすれば、ね」
紐緒結奈は、ほんの少しだけ言葉を切った。
その結果の意味する事を、もう一度考え…
そしてついにその言葉を口に出した。

「藤崎詩織をやりなさい。あなたの手で」

05/02/(火) 午前09:14:47 


倶=

『しおりんの野望』step22・巨袋殖装

 戦線を離脱した館林見晴であったが、例によって建物の影から見守り続けていた。
今までは戦うための一手段だったその行為は、彼女の新たな目的となったのだ。

 閑話休題。
 メグリンの表情には驚きの色が見えたが、即座に確信へと変貌した。
「詩織ちゃん、これも運命よ……せめて私自身の手で」
「ちょ、ちょっと待ってメグ! 一緒に紅茶でも飲んで話し合おうよ、ね?」
 一難去ってまた一難。あまつさえ親友の手にかかりそうとあってはヒロインの
貫禄も失なわれかけた。
「……それよ、その紅茶よ! わたし、詩織ちゃんの好きな紅茶に付き合って……
それなのに詩織ちゃん、トイレに行きたくなったわたしのことを笑ったのよ!」
「え……私、笑ったっけ? な、なにかの間違いよ」
 言いつつ、しっかり(冗談めかして笑ったことがあったな)と思い起こす詩織。
「カフェインに利尿効果があることを知ってて……それでワザと飲ませたんだ!」
 半ベソのメグリンを前に詩織は(流石にそれは被害妄想でしょ)と思いつつ、
彼女の怒りと悲しみを晴らさなければならなかった。

 紐緒結奈は、最大の仕事にとりかかっていた。すっかり萎縮した殺人コアラに
次元波動砲を向けたのである。
「これで決着がつく」
 そうつぶやく紐緒の表情には影が見えた。
 だが意外にも殺人コアラの表情には、紐緒とは対照的に笑みがこぼれていた。
次元波動砲はまだ発射されていないというのに、空間がゆらいだのである。
「これは……」
 殺人コアラの背後に、それを模ったかのような着ぐるみが出現した。
「コアラー・ギガンティック!!」
 着ぐるみがコアラを取り込んだかのように見え、最後にジッパーが自動的に
締まると、まれでそれはコアラが巨大化したかのような印象を与えた。
 それこそが殺人コアラの最強戦闘形態『コアラー・ギガンティック』だった。

05/03/(水) 午前12:29:46 


し=

〜しおりんの野望・其の二十三「正体」〜

「だからそれは誤解だって、メグ!」
「知らない知らない!…詩織ちゃんなんて大っ嫌い!」
なんとか美樹原さんを説得しようとした詩織だが、それは困難を極めた。
(本当にこの子って…ごねるとシツコイんだから)
詩織はホトホト弱り果てて黙り込んだ。
もともと彼女とてそんなに気が長い方ではない。
「学園のマドンナ」などと称されているため普段は大人しく振舞っているが実は短気で怒りっぽいと言う欠点を持っている。
(もう放っておこうかしら? こんな分からず屋!)
半分ムカッ腹を立てて詩織が美樹原さんを睨みつけた時…
一方で事態は思わぬ展開を見せ始めていた。

「ふふふ…。いよいよ正体を見せたわね」
紐緒さんの目がギラリと光った。
まるでこの時が来るのを見通していたかのように。
「あなたの魂胆など全て判っていたわ。
殺人コアラ…いや、コアラーギガンティック…
しかしてその正体は!」
紐緒さんの指がグイッとコアラに突きつけられた。
「大宇宙の破壊者…コアラ大王!!」
「クックック…」
変身を遂げた殺人コアラはせせら笑った。
「我ガ正体を見破ッテイタカ…」
「なめないで欲しいわね。かつてあなたが幼かった私の体を乗っ取ろうとした時…
あの時の凄まじいサイコ・バトルを忘れる訳ないでしょう?」
「…」
「私があなたの心理攻撃に屈していたら今ごろこの世界は…」
紐緒結奈の視線がふと、伏せられた。
胸の内に浮かんだ悪夢を追い払うように首を振る。
「…あそこにいる館林見晴。
あの子があなたにとって絶好の『依代』となる可能性を秘めている事はとっくに気が付いていたわ。
強大なパワーを内包しながら、極端な内向性を持ったアンバランスな精神構造…
すなわち、かつての私と同じ『心』を持っている事をね…」
「オ前ガアノ時我ガ意ノママニナッテイレバ、話ハ簡単ダッタノダ」
「そう…。私があなたに屈服していれば、この地球は既にあなたの手に落ちていたでしょうね。
でもね…」
ここで紐緒結奈はニヤリ…と笑った。
「そうはさせられないわ。だって…
世界は、この私が支配するんだもの!」

05/03/(水) 午前09:35:49 


倶=

『しおりんの野望』第24段・コアラ憑きー!

「メグなんて、もう知らない!」
 完全に機嫌をそこねた詩織だが、さりとてメグリンと戦う手段を持っていない。
(しょうがないな詩織は……以前は俺に「もう、すぐ拗ねるんだから」とか言って
偉ぶっていたくせに)
 なんだかんだと思いつつも、主人公は詩織に助け船を出すことにした。
「おーい美樹原さーん!」
「え……詩織ちゃんのお隣りさん?」
「向こうを見てごらん」
「あ、コアラ! かわい〜」
 メグリンは詩織のことなど忘れ、コアラ大王に駆け寄っていった。
「詩織、大丈夫かい?」
「なによあれ!? メグったら、どうでもいいような理由で私を倒そうとしていたの?」
「まあまあ、とりあえず様子を見よう」
 現実問題として、詩織と主人公にはそれ以外の手段はなかった。

 そのコアラ大王――フランチャイズ中華料理店のような名前だ――は、紐緒結奈を
圧倒しようとしていた。
「紐緒結奈、貴様ハ私ニ屈スル運命ナノダ!」
「そうはいくものですか……あ、あれ?」
 次元波動砲を構えた紐緒だったが、充填されているはずのエネルギーは空。
「フフフフフ……」
「まさか、次元波動砲のエネルギーを利用して着ぐるみを呼び寄せたの!?」
 絶体絶命の紐緒に救いが現れた。動物ミーハー・メグリンだ。命令無視の結果だが、
文句を言っている場合ではない。
「いいところに来たわね、メグリン。コアラ大王を殺りなさい!」
「えっ、こんなに可愛いのに? 可哀相……」
「なんですって!?」
 紐緒はほぞを噛んだが、それ以上に怒ったのは詩織だった。
「なによ、私にはすぐ攻撃してきたくせに!」

05/05/(金) 午前12:35:06 


しおりんの野望第二十五巻「目覚めの時」

「ね、コアラさん」
美樹原さんの優しい声が響いた。
「世界をどうこうするなんて恐ろしい事はよして、うちへ遊びに来ませんか? 美味しいユーカリの葉をご馳走してあげますよ」
「エ…」
ユーカリ…と聞いてコアラ大王の耳がピクリ、と動いた。
美樹原さん以外には恐ろしい怪物にしか見えない彼も、やはり根はコアラなのである。
「…地球ノゆーかりハ油脂分ガ多過ギテ、ワシノクチニアワンノジャガ…」
「それなら笹の葉の方がいいかしら?」
「…ワシハぱんだデハナイ」
コアラ大王は自尊心を傷つけられたような顔をした。
「アノヨウナ下等ナケダモノト一緒ニシテモラッテハ困ル」
「下等だなんて、そんな…。パンダさんってすごく可愛いのに」
美樹原さんは、とても悲しそうな顔をした。それを見て慌てるコアラ大王。
「イヤ、可愛イトカ可愛クナイトカジャナクテ…」
「あ、わかった!」
突然、美樹原さんが明るい声を出した。
「コアラさん、嫉妬してるんですね…パンダさんに」
「嫉妬…?」
「だってどっちも人気者なんですもの。私がこの前、上野動物園に行ったらね…」

コアラ大王と美樹原さんが親しげに話し込んでいる間に、紐緒結奈は新たな思案を開始していた。
(とにかく奴を退治しなければ”プロジェクトA”どころじゃないわ)
コアラ大王のESP能力は全宇宙でも例を見ない、強力なものだ。
それに対抗するには…
(セーラーメグリンが当てにならないとすれば手は一つ)
紐緒結奈は、決意の表情を浮かべながら内ポケットに手を滑り込ませた。
「藤崎さん」
「え?」
美樹原さんへの腹立ちから、彼女ばかり凝視していた詩織が驚いて振り返った。
そして自分に向けられたレイガンに気付き、絶句する。
「紐緒さん…!」
「先ほどの館林見晴との戦闘で、あなたの本能は目覚めつつあるはず。
あとはホンの少し刺激を与えてやれば…」
「な、何を言っているの? 紐緒さん」
「私があなたを恐れていた真の理由…。それを教えてあげるって言ってるの」
天才・紐緒結奈にとってこの世の森羅万象は全て手の内にあった。
まして同じ高校へ通う同学年の女子生徒の事など、その隠された潜在能力の隅々まで把握しきっている。
「さあ…目覚めなさい! 藤崎詩織!!」
紐緒結奈は血を吐くような叫びと共にレイガンのトリガーを引き絞った。

05/05/(金) 午後08:02:41 


倶=

『しおりんの野望』第二十六版・誤算

 光線は詩織の体を貫くかのように見えたが、しかし実際には詩織が光線に
弾き飛ばされるような形となった。無論、紐緒にとってこの現象は予想の
範疇に過ぎない。やがて立ち上がる詩織に、紐緒は満を持して叫んだ。
「とうとう真の力に目覚めたわね。さあ、今こそコアラ大王を倒し……?」

「波動拳!!」


 藤崎詩織に眠る潜在能力を覚醒させ、コアラ大王に対抗させる力とする。
その発想自体はよかったが、手段に問題があった。危険によって目覚めた
能力は、その危険を排除するように働くのだ……。
 紐緒は、詩織の飛び込み大パンチアッパー昇竜拳を食らいながら自戒した。
「昇竜烈覇!!」
 紐緒結奈、全治3ヶ月。

 そのころのつけ麺……じゃなくてコアラ大王。
「でねでね、そのナマケモノも可愛くてー」
「ソノヨウナ緩慢ナ生物ト比較サレテモ困ルノダガ」
「でも似てるじゃないですか。木からぶら下がって」
 メグリンとの不毛な会話は延々と続いていた。
 着ぐるみ内のコアラは汗まみれだった。
 暑いことに加え、メグリンとの会話がこじれていたのが理由だったが……。
「ウグッ!?」
「どうしたんですか、コアラさん?」
「イ、イヤ。ナンデモナイ……」
 さらなる苦痛がコアラを襲ったが、その理由は割と友好的な美樹原に
対してすら言うことはできなかった。
 永年にわたり館林の肩に寄りかかって暮らしていたコアラだったが、
着ぐるみの中では股で体重を支えるため、持病の痔が再発したのだ……。

05/06/(土) 午前01:01:45 


し=

しおりんの野望case27「史上最大の決戦(前編)」

「メグ…そこをどきなさい!」
朗々と響き渡る詩織の声。
何故か黙りこくってしまったコアラ大王の顔を覗き込んでいた美樹原さんが、ハッと振り返った。
「詩織ちゃん!」
「そのコアラはあなたが考えているような生易しい生物ではないわ。
とても危険な生き物…。
世界の破滅のみを望んでいる恐ろしい殺戮者なのよ」
「そ、そんな…ウソ!」
「私には全てがわかったの。
私の意識は今や全宇宙の隅々にまで拡散している。
このコアラに滅ぼされた無数の星々…文明…そこに生きていた人たちの嘆きの声が聞こえてくる…」
「…」
「何故こんな能力が私に備わっていたのか、それは知らない。
でも気付いてしまった以上、私の使命はもはやただ一つ」
詩織はジッとコアラ大王を見詰めた。
「さあ、コアラ大王! この藤崎詩織が相手よ。かかってきなさい!」
「フン…」
コアラ大王は不適に笑って詩織を眺めやった。
痔の痛みはまだ続いているが、今はそんな事を言っている場合ではない。
「ドウヤラ真打チ登場ラシイナ。
藤崎トヤラ…オ前ノ『えなじー』ハ相当ナモノダ。
実二楽シミダヨ」
「楽しみ?」
「オ前ヲ倒シ、精力ノ全テヲ吸イ取ッテヤル。ソノ瑞々シイ体内カラ一滴残ラズナ」
「そうか…。あなたはエスパーのエナジーを吸い取る事で自己の力を限りなく増幅させてきたのね」
詩織は目を伏せた。
コアラ大王のために犠牲になった数限りないエスパー達の無念の思いが胸に迫ってくる。
「館林さんもいつかは…」
「『依代』トシテノ役目ガ終ワッタラナ。楽シミ二シトッタノダガ」
「…許せないわ、あなただけは」
吐き捨てるように詩織は言った。
二人の会話に怯えきった美樹原さんが足を竦ませて動けないのをチラリと見る。
「メグ。そこを動いちゃだめよ。そのセーラーコスチュームなら自分の身だけは守れるでしょ?」
「し、詩織ちゃん…」
縋り付くような彼女の声に詩織はフッと笑みを浮かべる。
(どちらが勝つかは私にも分からない。でも私はやらなければならない…)
一心に思念を込めた。
最後の迷いを追い払い、全ての意識を目の前の巨大な敵へと振り向ける。
そして…
彼女の口から響き渡る裂帛の気合。

「ファイアー・ストーム!!」

一万度を遥かに越える炎の奔流…
それが戦いの開始を高らかに告げた!

05/06/(土) 午前09:15:58 


倶=

『しおりんの野望』28号・史上最大の決戦(後篇)

 紅蓮の炎は、いとも簡単にはじかれた。
「ククク……ソノ程度ノ攻撃デ」
「ならば!」
 間髪を入れず第二の攻撃が繰り出される。
「出でよユーカリ!」
 突如として、詩織とコアラ大王の間にユーカリが出現した。
 なんだかんだと言っても、メグと大王の会話はチェックしていたのだ。
「ム、ムウ。ウマソウダ……」
 大王の威厳も何処へやら。その咀嚼を目にして、詩織はほくそ笑んだ。
「グ、グオ……腹ガ……ッ」
「どう? きらめき高校合宿所特製のユーカリは?」
 お食事中の方には申し訳ないが、合宿所の食事はヒット率が高い。
 動物園のユーカリと合宿所の生ゴミを瞬時に合成・転送する……こんなアホなことに
せっかくの能力を使いたくはなかったが、背に腹は変えられなかった。
「グ、グギギーッ!」
「なんか……すごい効き目ね」
 コアラ大王に隙をつくろうと思って実行した作戦だったが、予想外の効き目に詩織の
方が焦った。詩織といえども、痔なんて病気はまるで想像できなかったのだ……。
「憶エテイロ藤崎詩織、イツノ日カ必ズ復讐シテクレル! サラバダ!!」
「え? え? え?」
 コアラ大王は、はるか天空へと飛び去っていった。その行く先は、おそらくコアラ
中央病院であろう。
 あまりの手応えなさに詩織は呆然としたが、やがてその関心は美樹原の方に向いた。
「メグ、大丈夫!?」
「……許せない」
「え?」
「あんな可愛いコアラを悪者扱いして! 詩織ちゃんでも許せない!」

「あー、これじゃ助け船もヘッタクレもないよ」
 彼女たちのヒステリックな言動を永年にわたって観察してきた主人公は、どうした
ものかと思案する他なかった。

05/07/(日) 午前01:43:42 


し=

〜しおりんの野望chapter29「時をかけるコアラ」〜

「もう沢山!」
詩織は捨て鉢に叫んだ。
「メグって、どうしてそんなに分からず屋なの!?」
「し、詩織ちゃんこそ…」
二人の論議は平行線をたどったままだった。
まあ、ムリもあるまい。何しろ二人の価値観が全く違うのだから…。
結局その論議は決着が着かないまま終了する事になる。
なぜなら…
彼女達の諍いを生み出した当事者が再び舞い戻って来たからだ。
「コアラッキ〜ッ!!」
何だかやけに明るい声を振りまいてコアラ大王が舞い降りてきた。
「オマタ!」
「え…?」
もう過去の人と成り果てたはずのコアラ大王の姿を見て、詩織は唖然とした。
「あ、あなた…自分の星に帰ったんじゃなかったの?」
「帰ッタヨ。病院二入院シテ…ツイデニ痔ノ手術モシテ貰ッテ来タ」
「そ、そんな…いくら何でも早すぎるわ! ここを飛び立って行ったのは、つい五分前…」
しおりんの当然の疑問。
しかしコアラ大王にとっては不思議でもなんでもなかった。
「馬鹿ジャナイノカネ、キミ? 我々ハ『エスパー』ナンダヨ」
「あ…タイム・ワープ(時間跳躍)!」
言われてようやく気付いた詩織。
SFの世界…特にESP関連のお話では時間の概念など有って無きが如しだ。
速攻で手術を済ませたコアラ大王が「元の時間」にタイムワープして来たとて何の不思議もない。
「う、迂闊だったわ…」
詩織は唇を噛み締めた。
エスパー初心者だったため、そこまで想像していなかったのだ。
(今更もう一度戦うと言ったって…)
いったん萎えた気力を奮い立たせるのは容易な事ではない。
まして今度は美樹原愛まで敵に回りそうな気配だ。

「ま、マズイわね…」

05/07/(日) 午前10:35:11 


倶=

『しおりんの野望』30th era・地獄に一番近いコアラ

 窮地に立たされた詩織だったが、同時に落ち着きを取り戻しつつあった。
「とにかく……こういうときは冷静に作戦を立てるべきよね」
 この場にいる人間の中で、ただ詩織だけが気付いていることがあった。
コアラ大王がギガンティック形態になってからというもの、一度たりとも
自分から攻撃を繰り出していないのである。
 こういうときは相手の出方を見るのが一番だ。ヘタに手を出して、メグを
刺激してもいけないし……。
 両者は対峙した。十分、二十分……まるで動かない。
「もしかして、張子の虎?」
 大胆にも詩織は、ズカズカとコアラ大王に歩み寄った。超能力戦闘のみを
考えれば、間合いに大した意味はあるまい。
「えいっ」
 指先で大王の額を押す。
 信じられないことに「それ」はゆっくりと倒れ、轟音とともに地へ伏した。
 確かに入院した。痔の手術も受けた。
 だが大王は痔の根本原因に対して、何の策も施さなかったのである。
 コアラ中央病院から地球までの旅によって、着ぐるみはコアラに致命傷を
与えていたのだ……。
 とはいえ、痔のことなど念頭にない詩織にとっては、ただラッキーだった
としか言いようがないのだが。
「メグ? コアラさん、気分が悪いみたいよ」
 皮肉混じりに言ってみた詩織だったが、程なくそれを後悔した。
「コアラさん、コアラさーん!」
 美樹原の鳴咽を耳にしながら、詩織は荒廃したお台場を見渡した。
「どうして、こんなことになったんだろう……。」
 みんな、みんな仲良しだったのに。もしあの頃に帰れたなら……。
 頬を涙が伝うのを感じると、彼女はふたたび光に包まれた。

 そこは、校門から続く桜並木。新入生のクラス分けを示す掲示の前に、
中学からの親友である美樹原愛の姿があった。
 そっと近寄り、彼女の肩をたたく。
「おはよう」
「きゃっ! もう、詩織ちゃんの意地悪」
「ごめんねメグ。学校が変わってもよろしく。さ、行こう!」
 陽光に彩られるなか、きらめき高校の校舎に溶け込んで行く彼女たちを、
ひときわ大きな古木が見守っていた。

(しおりんの野望・了)

05/07/(日) 午後11:55:21 


 


 

・・・以上で「しおりんの野望」全巻の終わりでございます(笑)
倶零舎さんに後書きをお願いしましたので、それではしめていただきましょう。

<倶零舎さんよりのあとがき>

いやー、ふと始まったにしては非常に長かった。なにしろ半月以上です。
 お付き合いいただいたしゅんすけさんおよび、お読みいただいたお客様の方々に
御礼申し上げます。おつかれさまでした。

 さて今回は私の方でオチをつけさせていただきましたが、実は自分自身である
不満を抱えております。実はリレーSSが始まったときに、
「主人公が物語の発端なのだから、オチも主人公に〆させよう」
と自分自身に誓っていたのですが、ものの見事に失敗しました。
 最後で詩織に寄り添い、二言三言話してもらうという手もあったのですが……
まあ、過ぎたことについて言うのはやめましょう。

 なにはともあれ、勉強になりました。私の至らなさが露呈したことも含め、
経験値を上げさせていただきました。
 本当にありがとうございました。



こちらこそ本当にありがとうございましたm(__)m
では、またの機会を楽しみに…(し)

平成12年5月12日

>>トップへ戻る
>>前半へ戻る
>>人物紹介へ戻る