Community Psychology
コミュニティ心理学の本

書名 コミュニティ心理学 Photo will be ready.
副題 社会問題への理解と援助
編著者 Karen Grover Duffy
Frank Y. Wong
植村勝彦(監訳)
その他著者
出版年 1999年
出版社 ナカニシヤ出版
ページ数 471ページ
コメント 本書は、Duffy, K. G., & Wong, F. Y. (1996). Community Psychology. Allyn & Bacon. の邦訳書です。
この本は、ワタシがコミュニティ心理学に出会い、コミュニティ心理学の道へ進もうの決めるきっかけとなった、思い出深い本でもあります。

本書は、一応、学部上級生から修士レベルの学生のためのテキストといってますが、たしかに、心理学の入門レベルを理解していない段階の学生がこれを読んでしまうと、基礎的な心理学に対する理解がゆがんでしまったり、あるいは心理学に対する誤解を持って心理学の道をあきらめてしまうかもしれません。
コミュニティ心理学は、応用的な心理学の分野でもかなり異色のエリアであることは間違いないので、一通りの心理学の基礎を学んだ人に、読むことをおすすめします。

本書の中には、本文に挟まって、Case in Pointという、いわゆる事例紹介があるんですが、一番最初に出てくるケースのトピックが「ホームレス」となっているのが、本書を象徴しているように思います。これまで心理学とホームレスが結びつく接点など、まったくありませんでした。
しかしコミュニティ心理学の世界では、ホームレス問題はトピックとしては決して珍しくも新しくもない。
それがコミュニティ心理学なのです。

もう一つ本書の内容を如実に表している言葉が、序文にあります。
「コミュニティ心理学の学問分野はながらく精神保健のイメージで大きくなりすぎてきたが...」
コミュニティ心理学誕生の地(と言われている)アメリカでさえ、1990年代後半になってもなお、このような議論がされていたのは興味深いところです。
このことは訳者である植村勝彦氏(愛知淑徳大学)も注目をしていらっしゃるようで、訳者あとがきで触れています。

そうなんです。コミュニティ心理学は、もはや精神保健の一流派ではないはずなんです。
ところが日本ではいまだ、コミュニティ心理学は地域臨床心理学のある一形態という理解が当たり前であり、そのことに対する疑問の声は少ない。
臨床心理学全集的なシリーズの一冊に「コミュニティ心理学的地域援助」が含まれているなんてのはかわいいほうで、ひどいのになると、とある有名な臨床心理学者(ワタシはその人のことを尊敬してますが)が著書の中で、コミュニティ心理学を、数ある心理療法流派の一つにリストしてあったりして、思わずハラ抱えて笑ってしまいました。

話を本書に戻すと、いわゆる精神衛生をテーマにした章は141ページまで登場せず、イントロに続く前半部分は、社会変革をテーマとして取り上げています。しかも地域精神衛生の章自体もおよそ60ページで終わり、本書の後ろ半分以上を、社会問題や、学校、法と犯罪、ヘルスケア(体の健康)、組織・企業などのトピックに費やしています。なるほど、地位精神衛生を超えた、最新のコミュニティ心理学のテキストを自称するにふさわしいトピックの数々といえます。

気に入らない点としては、ある種、これは致命的なのかもしれないのですが、つまり本書はけっこうわかりにくいのです。
原因は2つあって、一つは原書の書き方そのものの問題です。
重要な理論や概念を体系的に書いていると言うよりも、話題となるトピックに沿って読み物的に書いてあるので、そういう意味では読んでいて面白いんだけど、コミュニティ心理学という学問を体系的に学ぶためのテキストとしてはふさわしくない。
別の概論書や、適切な講義のサポートがあれば、面白い内容オンパレードなんですけどね。。
2点目は、言いにくいけど、訳が悪い。
監訳者の植村氏に個人的に面識があるのであまり言いたくないんですけどね。
こういう、複数人数にによって訳された本にありがちなパターンで、章によって、いい訳と、ひどい訳が混じってて読みづらい。
たとえ悪訳でも、全体が同じトーンで通されていればまだいいんですが。
正直、意味不明なほどヘタな訳も混じってます。

いろいろ問題点はありますが、現段階で日本語で出版されているコミュニティ心理学のテキストとしては、最高でしょう。
定価3,600円(税別)、これも買いの一冊です。


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