2004年のリーグ優勝を決定づけた中日落合監督の代打起用

2004.09.25

 

200497日に首位中日対4.5ゲーム差の2位巨人の試合が東京ドームで行われた。巨人の負け数が中日より6試合多く、中日が1勝すればペナントの行方がほぼ決まるという3連戦の初戦だった。中日は8回表に1点を入れ3-3の同点とし、なお2死満塁の好機。ここで打順はこの日2安打と当たっている左の井上。マウンドにはこの回途中からリリーフの右の中村。と、ここで中日落合監督は井上に代えてなんと右の高橋光を代打に起用した。この日スタメンの井上はこのシーズンこそ代打での出場が多いものの、準レギュラーともいえる好打者で.287の打率を残しているのに対し、高橋光は目立った実績のない代打要員で打率は.200。誰もが首をかしげる代打起用だった。テレビ中継を観ていた私は、「結果がどうあれこれはオレ流落合のやりすぎ。セオリーを全く無視してまで代打を送られた井上はくさってしまう」と妻に解説。テレビ解説の原辰徳氏は、「落合監督にしか分からない理由があるんでしょう」と。江川卓氏は無言。するとアナウンサーの河村亮氏が、「高橋光は四球の多い選手」とコメント。後に調べると高橋光は22打席で7個の四死球を記録していた。なるほど押し出し狙いか!と私は監督経験1年目の落合が見せた作戦の妙に感心した。しかしそれ以上に河村アナウンサーの視点の鋭さに感服した。原氏は、「河村さんのが当ってるかも」とは言ったものの、解説者2人が素直に河村アナウンサーを賞賛しなかったのは私には残念だった。果たして高橋光はストレートの押し出し四球を選び、これが決勝点となって中日が5-3で勝ち、巨人の自力優勝が消滅した。

試合後の落合監督の談話は、「いまのウチでボール球を振らないのはミツ(高橋光)とナベ(渡辺)。期待通り?そうじゃなきゃ送らない。いつもいつも、そううまくいくとは限らないけど」というもの。選手時代に“オレ流”と揶揄された監督落合の一見奇異な代打起用は、選手の特性を熟知している指揮官だけが下すことのできた的確な作戦であり、一流選手落合が一流監督の素養を兼ね備えていたことを垣間見せるものだった。そして落合監督の意図をデータから瞬時に見破った日本テレビのアナウンサー河村氏は、実況席に座っている場合ではなく巨人ベンチに座っているべき男だった。

ところでその試合の前日に巨人の桃井球団社長が、土日のスト決行ならペナントは不成立と主張している。これに対し落合監督は、「監督がどうこういう問題じゃない。なしというなら仕方ない」と冷静な反応。しかし桃井氏の発言は巨人を含めたプロ野球選手全員のこのシーズンのこれまでの努力を水泡に帰そうとするものであり、プロ野球球団の首脳にスポーツマンシップの何たるかを知らない人間が存在することを示す残念なものであった。

Home