TOEIC 860点への道 Part 3

 

2006.12.31

 

20061126()、私は貴重な休日を第127TOEIC公開テストに費やした。公開テストは昼から始まるため、一日潰れてしまうのには閉口する。しかし受験会場が都心ではなく、自宅から比較的近くにある法政大学多摩キャンパスだったのは嬉しかった。

 

シーンと静まりかえった教室の緊張感は25年前の大学受験を思い出させてくれた。50人程度の受験者の内空席は7席。公開テストでの心配事の1つにリスニング・パートの音量があった。IPテストでは座席を自由に選べるから、私はいつも最前列に座り、できるだけリスニングを大音量で聴けるようにしていたが、公開テストでは座席を自由に選べないはずだからだ。実際座席は指定されていたが、私の不安は杞憂に終わった。それどころかリスニングの聴きやすさにおいて、公開テストはIPテストをはるかにしのいでいた。IPテストでは音質の悪いCDラジカセが使われるが、公開テストでは長いスタンドに立てたBOSEの小型スピーカーを教室前方の左右に設置し、十分な音量かつクリアな音質で聴かせてくれた。しかし他の問題があった。私の横に座わった30ぐらいの男がテスト前からずっと鼻をすすっていて、リスニングの邪魔になるだけでなく、リーディングでも気が散りそうだったのだ。注意すべきかどうか迷い、相手の気を散らせることになり可哀想だとは思ったが、休日を潰してまで受験するのにそんなことで邪魔されるのは嫌だったので、男に黙ってちり紙を渡した。男が不思議そうな顔をしたので、「鼻かんで」と頼んだ。すると男は鼻のかみ方を知らないのか、鼻をかむ音をたてたくないのか、ちり紙で鼻水をぬぐっただけで、ちり紙を私に返した。案の定その男は、音は小さくなったものの、また鼻をすすりだしたので、よっぽど「ちり紙を全部使ってくれ」と言おうかと思ったが、私の後ろの席の受験者まで鼻をすすり出したので諦めた。しかしいざテストが始まると、2時間を通して他の受験者が鼻をすする音に邪魔されることはなかった。TOEICのテスト中は鼻水さえも止まる忙しさなのだ。しかし鼻すすりや咳に邪魔される危険性を考えると、TOEICは冬に受験すべきではない。ちなみに暖房を止めていたのか、教室はとても寒かった。私はETSに強く要望したい。「風邪をひいているなどして咳の出る方は受験をご遠慮下さい。また、鼻をすするなどの行為は他の受験者の迷惑となりますので、事前に鼻をかむなどの対処をしてください」と受験案内に記述することを。TOEICのテスト中に限らず、いい大人が鼻をすすっているのを聴くと私は気になるし、第一情けなくなる。かく言う私は鼻をちゃんとかむ男だが、くしゃみの後にたった1回鼻をすすっただけで、かみさんに「鼻をかみなさい!」としょっちゅう叱られる。米国人はびっくりするような音を出して鼻をかむ人がたまにいるが、彼らにとっては鼻をすする方がマナー違反なのだろう。

 

テストのインストラクション後に10分ほどの休憩時間があったので屋外の喫煙場所でタバコを吸っていたら、ちょっとかわいめの女が私の近くにタバコを吸いにきたので、これも声をかけようか迷った。TOEIC公開テストの直前は決してナンパするような場面ではないのだが、実はこんな機会を期待していた。しかしその女も鼻をすすりだしたので幻滅してやめておいた。

 

この頃タバコを吸う量が増えていたので、2時間もの長きにわたる禁煙に耐えられるか、という心配もしていた。自宅で模試をやる際は、パート毎に休憩してタバコを吸っているのだ。しかしこの日のテスト中、私はタバコのタの字も思い出さなかった。2時間苦もなく禁煙できるのがTOEICの凄いところだ。

 

テストが始まり、どうでもいいアナウンスがBOSEのスピーカーから出力されている間、私はPart 5にとりかかり、4問ほどを解いた。また、事前に考えていたわけではなかったが、時間に余裕のないPart 347を除き、正解が見えなかった問題数を、パート毎に落書きの多い机に「正」の字で書き記していった。

Part 19/10。悔しいがひとつぐらいはしかたない。

Part 227/30。まあまあだとは思うが、1問目でWhereWhenかが聴き取れなかったのは痛かった。Partの変わり目は要注意だ。

Part 3:かなりおおよそだが24/30。よくできた印象があったが、二つの会話が全く理解できなかった覚えがあるので、2会話 x 3 = 6問をマイナスとした。これはリスニング力の問題というよりは、集中力が一瞬途切れた感じだった。最初の会話では先読みを試してみたが、音声を聴きだす頃にはすっかり先読み時の記憶がなくなっていたので、固有名詞を問われる設問だけ先読みして他は無抵抗主義で行く方法にすぐ切り替えた。固有名詞を問われる設問はPart 34を通してたった二つくらいだったと思う。

Part 4:これもかなりおおよそだが26/30Part 4でのこのできのよさは今までにはなかったことだ。リスニング・パートが終わりに近づくにつれ、このままいけばかなりのスコアを得られるという喜びに浸りながら集中し続けた。

Part 534/40。まあまあのできだが、テスト後に悔いが残ったのは“We are _ to”に最初は直感的に”delighted”を選んだのだが、悩み出したあげくに”delighting”を選んでしまったことだ。テスト後しばらくしてから間違えたことに気付き、自宅に戻って調べたらやはり”delighted”が正解だった。”delight”を知らなくてもは直感的に正解できる問題だったので、わざわざ誤答を選びなおした愚かさを呪った。スコアが835855、あるいは895だったらと思うとゾッとした。

Part 610/12。全ての文を読んで回答したが、思いの他簡単だった。

Part 7:かなりおおよそだが40/40!実際にはわからない問題があったのかもしれないが、そのような記憶がない。今回はリーディングを時間内に終えられるか否かが一番の心配事だったが、Part 6が終わった時点で50分を残し、Part 75分残して終え、余った時間はPart 7で正解が見えなかった3問を見直して全て正解を見つけ、1分残してテストを終了することができた。今回は各文書の最初の設問を先読みし、その正解が見つかるまで文書を読み、また次の設問を先読みしてから文書の続きを読む、という記憶力に頼る必要のないやり方にしたせいか、文書を読み返すことがほとんどなかった。しかし今まで各設問の答えは設問順に文章に書かれていると思っていたが、何問かは3つ目の設問に対する解答が文書の最初の方に書かれていたTOEICは良質なテストだとは思うが、こんな意地悪な問題はちょっといだだけない。

 

なんとテスト中に邪魔が入った!リーディングがあと20分ほどで終わる頃に試験管が、「本日ご受験いただくTOEICテストの問題につきましては、リスニングテープの長さが通常の45分間よりも長い46分間となっております。リーディングについては、75分間で、変更はございません。そのため、本日は試験終了時刻を1分間繰り下げ、15:01に終了となります」としゃべりだして「1分間」邪魔されたのだ。試験官が事前に言うのを忘れていたのだと思うが、教室に入ったときに「試験終了時刻の変更について」という説明文が机に置かれていたので、そんなことは知っていた。

 

前回同様Part 34では、問題用紙に解答の記しをつけ、リスニング終了後にまとめて解答用紙を塗りつぶした。Part7では文書毎に問題用紙に解答の記しをつけ、まとめて解答用紙を塗りつぶして時間を節約した。そして記しは消さなかった。未だになぜ問題用紙に書き込むのがいけないのかわからないが、試験前に机に置かれていた注意書きに、「(問題用紙・その他資材への)書き込みを見つけた場合は、リスニング・リーディング中に関わらず試験官が注意いたします」とあったので、「回収後の問題用紙をチェックすることまではいたしませんが、試験中に見つけた場合は注意いたします。しかし減点まではいたしません」、と言っているのだと勝手に解釈した。

 

Part 2で聴きそびれた1問、Part 3で聴き取れなかった二つの会話 x 3問、Part 5でわざわざ誤答を選びなおした1(8)は多少悔いが残るものの、Part 34はうまくいったし、リーディングを時間内に終えることができたので、実力をほぼ完全に出しきれた最高のできだった。TOEICでベストを出し切った後の爽快感はバイク・レースで全力を出し切った後の気分にも似て、とても心地よい。時間が足りずに随分不本意だった前回のIPテストとは大違いだ。前回はそれでも780だったのだから、今回のスコアが良いのは明らかだった。とにもかくにも、あれだけ苦手としていたPart 4で十分戦えるようになったのが嬉しかった。

 

テスト後すぐにいつものやり方で正解数を予想してみると、なんと90 + 94問の正解!これを「TOEICテスト 新公式問題集」の一回目のスコア換算表にあてはめると予想スコアはなんと880-965(中間は920)になる!しかしこれは実際のスコアを大きく外していた。Part 347の予想正解数が甘すぎたのだ。しかしスコアが通知されるまで、少なくとも目標の840どころか、翌年2007年末までの最終目標である860も確実で、考えもしていなかった夢の900点越えの可能性もあると思えたことから、いつも以上にスコアの通知が待ち遠しかった。

 

スコアが通知されるまでの日数は長かった。前回のIPテストでは2週間後にスコアが通知されたが、公開テストのスコアは受験後30日以内に発送され、TOEICの公式ウェブサイトではその1週間前に結果が見られることになっている。この長さは何とかならないものか。せめて次の公開テスト申し込みの締め切りまでに知らせてほしい。しかしスコアが通知されるまでの期間だけは、英語のことを忘れ、たまりにたまった日本語の本を読み漁ることができたので、束の間の停戦期間となった。実際は多少我慢してトレーニングしなかったという感もあった。今回のTOEIC受験の数週間前になって気づいたが、私はいつのまにか英語のトレーニングを自ら欲するようになっていた。800点を取った後に英語のトレーニングを再開できなくなったとき、知り合いの自衛官にその話をしたところ、「部隊ではランニングを課せられるが、走ることが嫌いだった隊員でも、続けているうちに好きになることがある。英語でもそういうことがあるかもしれない」と。そのときはまさか私が、と思ったがどうもその話どおりになっていた。私はついに英語おたくになってしまったのか!?6回もTOEICを受け、かつ本エッセイを書いてきたのだから、少なくともTOEICおたくにはなっているのかもしれない。

 

テストの22日後に、スコアが出たことを知らせるETSのメールが届いた。果たしてTOEICのウェブサイトに表示されたスコアは、430 + 430 = 860だった…。900点に届きそうな気がしていただけに、最初はがっかりしたが、次の瞬間、2年前の800点についでまたもや最終目標ぴったりのスコアが取れたこと、1年前倒しで目標を達成できたこと、そしてこの面倒なエッセイの執筆を終えられることに私は歓喜した。1年前の2005年には仮目標だった820点を40点も下回ったあげくの大逆転であった。それにしても公開テストのスコア通知がこれだけ遅いと感激が薄れてしまう。

 

リスニングの予想スコア450-490(中間は470)に対して実際は430、リーディングでは430-475(中間は450)430と、どちらも今回初めて大きく外した。ひょっとするとPart 347で問題用紙の選択肢に横線を記したことで減点されたのか?とも考えたが、本番直前に行った公式問題では80 + 84問の正解だったので、やはり90 + 94という予想が甘すぎたのだろう。今後はリスニング、リーディングの正解数をもっと正確に把握できるようにしたい。それにはPart 34、7で正解が見えなかった問題数もテスト中にカウントできる余裕が必要だ。

 

公式問題集のリーディングでは23分も時間をオーバーしたのに本番で時間内に終了できたのは、自宅での模試と本番との真剣さの違いだと思う。TOEICのリーディングを時間内に終わらせるためにはかなりの労力が必要で、本番でなければ馬鹿らしくてそんなに集中できないのだ。

 

これで私の歴代TOEICスコアは以下の通りとなった。

 

受験日   リスニング リーディング  合計  自己ベストとの差 年齢   トレーニング量

1994.02.18 :  370    + 315    = 685           N/A           32     ?

2001.02.28 :  360    + 310    = 670           -15            39     0

2001.08.29 :  375    + 360    = 735           +50            40     0

2004.09.10 :  410    + 390    = 800           +65            43     週約4時間 x 8ヶ月間 = 128時間

2005.08.09 :  405    + 375    = 780           -20            44     週約2時間 x 3ヶ月間 = 24時間

2006.11.26 :  430    + 430    = 860           +60            45     週約2時間 x 15ヶ月間 = 120時間

 

自己ベストを更新した3回はいずれも50点以上一気に上がっている。そして600点台、700点台、800点台をそれぞれ2回ずつ取っているので、もしTOEICをまた受けのならば、次は900点台を狙うしかない。

 

今回のスコアで不思議なのは、この1年間のトレーニングの80%以上をリスニングに費やしてきたのに、リスニングでは20点しかベスト・スコアを更新できず、リーディングでは40点もベスト・スコアを更新していることだ。TOEIC受験1回目のスコアと比較すると、リスニングは60点しか上がっていないのに、リーディングはその倍近い115点も上がっているのは更に不思議だ。テストの27日後に送られてきたOFFICIAL SCORE CERTIFICATEを見ても、私のリスニングのpercentile rankなるものが89%で、リーディングのそれが96%であることから、同じ430点でもリーディングのできの方が随分と良いのがわかる。TOEICの公式ウェブサイトに示されているTOEIC公開テスト過去14回分の平均スコアを見る限り、旧TOEICも新TOEIC310 + 260 = 570あたりが平均スコアで、今回の受験者全員の平均スコアも309.9 + 260.0と過去の平均スコアに限りなく近い。つまり今回のテストのスコアも含めて、リスニングの平均スコアはリーディングのそれよりも50点高いので、私のリスニング力はリーディング力に比べて低すぎる。860点を取る人の平均的なスコアは、450 + 410程度のはずだ。仕事では会話よりも読み書きの方が圧倒的に多いからだろうか?これで元々伸びの悪かった私のリスニングのスコアは、とうとうリーディングのスコアに追いつかれてしまった。しかしリーディングのスコアをこれ以上更新するのはかなり難しいと思われるが、Part 34の正解数を増やすことはまだ十分可能だと思われるので、トレーニングさえ積めば470 + 430 = 900は手の届かないスコアではないように思える。

 

TOEICと新TOEICのスコアの違いは、この1年間で実力を上げていることから、私には全くわからない。しかし前述したように旧TOEICも新TOEIC310 + 260 = 570あたりが平均スコアとなっているので、そんなにスコアに差は出ないように思われる。ただ、容易なPart 1の問題数が減り、難解なPart 34が更に難しくなったことから、かなり低いレベルとかなり高いレベルの受験者の「正解数」は減るような気がする(スコア自体はTOEIC換算表により算出されるのでわからない)

 

 

世界ランキングなどを持つことのない一般の人々でも、そのレベルが数値で明確にわかるのはゴルフのハンディ、TOEICスコア、そして陸上競技やモーター・スポーツなどのスピード競技におけるタイムぐらいではないだろうか(テニスでもそんな物差しがあれば随分いいと思うのだが)TOEICが隆盛を極めている理由の一つに、このレベルが容易に分かるという点があると思う。しかし、TOEICに強敵が現れたようだ。

 

今回のスコア結果を待っている間に、勤務先でこんな通知があった。「これからはTOEICに替わり、リスニング、リーディングに加えライティング、スピーキングの四つの技能をPC上で測定するGTECを採用する」と!2006年に勤務先でIPテストが行われなかった理由はこれだった。そして今後はGTECのスコアを昇格時の選考のひとつとして加味すると!元商社で、メーカーとなった現在もグローバル企業と思われる割には、あまり英語に力を入れてこなかった私の勤務先が、ついに昇格基準に英語力を求めるようになったのだ。GTECTOEIC並みにまともなテストであれば私は構わないが、就職活動で必要となるのは現状TOEICスコアなので、二つのテストを気にしなければならなくなったことにあまりいい気はしない。それにこれで私はTOEICIPテストを受けられなくなってしまった!20071月からTOEICスピーキングテスト/ライティングテストが始まるのは、もしかするとGTECに対抗するためかもしれない。この10年ほどは英検に代わってTOEICが日本の大学・社会人向けの英語力を測るテストの王座に君臨しているが、未来永劫勝ち続けられるものなどなく、TOEICも他のテストに駆逐される可能性は十分にある。そもそも英語自体がスペイン語に負けてしまう日が来るかもしれない。それにしてもGTECってなんだ?

 

私はこうして最終目標だった860点を獲得したが、735点から800点に上げる際には8ヶ月間、800点から860点に上げる際に18ヶ月間にわたってトレーニングを行った。連続ではないが合計すると26ヶ月間にもなる。2年以上だ。かなりおおよそだが、最初の8ヶ月間は平均して週4時間程度を、次の18ヶ月間は平均して週2時間程度をトレーニングに費やした。トレーニングをする苦労よりも、余暇に時間を割くことがつらかった。週2時間や4時間は大した時間ではないし、26ヶ月間も長い人生を考えれば大した期間ではなく、理屈では誰にでも実現可能な数字ではある。しかしそれが趣味でもない語学の勉強に使う時間となると並大抵の努力でできることではない。ほとんどの人が脱落する。それは社会人になってからの英語の勉強には、受験勉強ほどの必要性もプレッシャーもないからだ。だから肝心なのは努力の継続を可能とする方法だ。英語に限らないが、私にとって努力の継続を可能にする唯一の方法は、目標と期限を明確にし、目標を達成する理由を明確にし、それらを記録に残すことだ。そして目標達成のために実行する内容を明確にし、それを記録に残せれば尚良い。幸い英語にはTOEICや英検という指標があるので、目標を決めやすい。目標達成の理由には、就職、転職、昇進、ライバルのスコアを上回る、といったものがあげられるだろうが、これが強固なものでないと続かない。なにか良い理由があれば私も知りたい。

 

 

受験後2006年末までの1ヶ月間、仕事以外では英語に関わらず、余暇のほとんどを日本語の本を読むこととテニスに費やした。私には英語以外にやりたいことが山ほどあった。2007年の最優先事項はテニスのレベルを上げて再びシングルスの草トーナメントに出場することだ。45歳になった私に残されたシングルスの余命は残りわずか。英語はその気になればいつでもできる(たぶん)

 

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