Round 2 ナルな男

2001.03.11

 

二輪用ウェア・メーカーのコミネに注文しておいた革つなぎ、グローブ、ブーツ、脊椎パッド、フルフェースのヘルメット一式が予定していた二輪フリー走行前日に自宅に配達されてきた。ストップ・ウォッチも買っておいた。おら、高校生の頃に初めて買ったコミネの革ジャン以来、二輪ウェアと言えばコミネと思ってたし、コミネのショップが自宅から二輪で30分位の横田基地前にあったので、つなぎは迷わずコミネにした。でもあれから20年たって随分ニ輪ウェアの勢力図が変わったのか、RS Taichi というおらの知らなかったブランドが今は幅をきかせていて、コミネはマイナーになってるようだ。

 

つなぎを初めて着て、ここ数年で15Kgの減量しておいて良かったとつくづく思った。おらってなんてカッコいいの!その夜は嬉しさのあまり、つなぎ着てブーツ履いたまま寝た。フリー走行当日までに二輪のレッスン書をばっちり2冊読んでおいたが、改めてライディング・テクニックの奥深さを知った。二輪は人間が積極的に体重移動しなきゃいけないし、ブレーキも前後別だから四輪よりテクニックが複雑なのだ。ライテク身につけるには相当練習しないといかんだろう。

 

3月10日(土)、一応死ぬ覚悟でかみさんに「今まで世話したなー」と別れの言葉を残し、一人で家を出た。これはおらの勘違いだったが、邦画“汚れた英雄”の主題歌だと思ってた、ボニー・タイラーの“ヒーロー”が入ったCDを聞きながらSRV250で中央道を走る。ちなみにこの歌は洋画“フットルース”で使われたものだ。汚れた英雄の主題歌はローズマリー・バトラーが歌ってた“汚れた英雄”だ。

 

晴天だし、けっこう防寒対策はしてきたのにFISCOまでの中央道は凍える寒さ。途中2回もサービス・エリアで暖を取り、この日つきあって戴く長縄さんとの集合時間に遅れること30分の09:00にFISCOに到着した。

 

この日は09:30からおらの二輪フリー走行、12:00から長縄さんの四輪体験走行だ。長縄さんにタイム・キーパーをお願いし、コース・インしようとしたがバック・ミラーを外していないのに気がついた。左側は簡単に外れたが、右側がなかなか外れずパニクって、何とか外したけどねじ山つぶして、あとで取りつけるときに大変だった。

 

今回は最後まで慎重に、絶対に転倒せず、コース・ラインを頭に叩き込むことに徹し、無理しないことを心がけたが、一つだけミーハーな目標があった。一回でもいいからバンク・センサー(膝擦りしてもつなぎが破れないように膝についてるパッド)を路面に擦ることだ。ところが高速コーナーが多いためか、バンク・センサーどころかステップすら思ったほど擦らない。でもおらはこのままでは終わらない。もうこれ以上寒くて走れないと思い、これを最後の1ラップと決めた1コーナーで右膝のバンク・センサーをかすかながら路面に擦った!これを“無理膝”と言う。

 

パドック・インし、SRV250から降りたとたん、両膝に力が入らず、へたり込んでしまった。ハングオフ(体をコーナーのイン側に落とすフォーム。和製英語ではハングオンとも言う)の繰り返しが、膝への負担となったのだろう。走行中は膝がこんなになってるなんて気ずかなかった。普段テニスで相当鍛えてあるのになー。ファステストは10ラップして10ラップ目の243で、1ラップ目から14秒縮めたが最後の方は毎ラップ約1秒づつしか縮まらず、既に頭打ちだ。

 

その日に走ってた二輪は、ナンバー付きは2台のドゥカティと1台のBimota(全てレーサー・レプリカ、1リッター)だけで、他は全て公道不可の2スト・レーサーやレプリカを車載してきたもの。Bimotaのライダーはアメリカ人、ドゥカティの1台はオーストラリア人で、もう一台のドゥカティは日本人。アメリカ人のラッセルさんによると2スト・レーサーの連中はプロ級で、筑波で走ってる連中より速いそうだ。また、コーナリングを楽しむには筑波がいいが、混んでて予約が必要だそうな。おらは筑波にしようか迷ってたんだが、そういうことならFISCOに骨を埋めるか。トヨタよ、FISCOから二輪を締め出すな。ラッセルさんに最高速度を聞かれ、130Km/hと言ったら変な顔された。彼のは250Km/hくらいは出るそうだ。「おら、40歳間近で初走行なんだ」と言ったら彼が、「私は45で始めて今47だからまだ大丈夫」とおらを励ましてくれた。カリフォルニア出身で、今は世田谷に住む弁護士だって。これだけ日本語流暢なアメリカ人は初めてだ。へたな日本人より敬語を使いこなしてる。

 

レーサー(ライトなどの保安部品を外したサーキット走行専用の二輪)にはストップ・ランプはないし、ナンバー付きでもストップ・ランプはテープで覆わないとフリー走行させてくれないから、他の連中がどこでブレーキングしてるのか参考にできないのが残念だ。それに、バック・ミラーなしで走るのがこんなに恐いとは思わなかった。SRV250のスピードでは、他の連中とのスピード差がありすぎて、双方にとって危険この上ない。SRV250でサーキット走行するのは無理だ。そう言えば、出走時の時間チェックの際にオフィシャルがSRV250を食い入るように見ていたが、今思えば「こんなんでホントに走るの?」という視線だったんだろう。それにしても他の連中の最終コーナーでの走りは気が狂ってるとしか思えない。おらも同じことを人に言われたことがあるが、奴らのはそんなもんじゃない。路面にへばりつくように寝かせながら、どえらい勢いでコーナーかっ飛んでく。いったい連中は転倒が恐くないのだろうか?死を賭して走ってるとしか思えない。

 

二輪サーキット走行は思っていたより随分硬派な世界だ。四輪サーキットの連中も見たが、それとは全く異なり、峠小僧とも違う。また、おらの本職の趣味であるテニスは見た目以上に、体力・気力が必要なハードなスポーツだが、二輪サーキット走行にはそういったハードさとは別の、根本的に違う何かがある。


4337 富士山をバックに左からSRV250、長縄さん、おら

 

そんじょそこらの大型には負けない250ccライダーと、峠では自信のあるおらだったが、完全に腰を折られた。でもこういうこともあろうかと大型免許を取っておいたのだ。250cc以上でサーキットを走るのは危ないと思っていたが、このままの方が危ないから大型買うぞ。ラッセルさんが他に持ってるアプリリアの2ストローク250ccは70PSだそうだが、環境問題からアプリリア以外の全メーカーが2ストから撤退している昨今、今更2ストでもあるまい。4スト4気筒だ。ただ、おらはイタ車が欲しいが4気筒のイタ車はない。ヤマハが好きなおらだから、ヤマハの4気筒か。

 

長縄さんの体験走行ではおらは助手席に乗りビデオを撮った。おらがサーキット・ライセンスを取ったときは霧と雨のせいで先導車は50Km/hくらいしか出してくれなかったのに、この日はホーム・ストレートで140Km/h出してくれた。長縄さんの3リッター Zは超偏平タイアで決めてる。

 

帰り道は中央道を使わず、練習も兼ねて道志村を通る峠道、道志みちを走った。昔、四輪で走った覚えはあるが、これほど狭いコーナーが続くとは思わなかった。練習にはもってこいの場だ。二輪の生涯走行距離は恐らく20,000Kmにも満たないおらだが、昔1度だけ転倒したことがある。CB400Nに乗ってた20年前、おらはホンダのテスト・ライダーのくせにカワサキ ZU に乗ってた中学校時代の同級生、岡田の後を同じ速度で走ってた。帰省先の名古屋の実家付近でのことだ。そして、きつい左コーナーに消えていった岡田の後を追って行ったおらは左コーナーを曲がりきれず対向車線を通り越して道路脇で転倒した。それ以降も恐い思いをしたことが一度ある。昨年、箱根に行ったときのこれも左ブラインド・コーナーで、そのコーナーが思った以上にきつかった。そのときは転倒こそしなかったが、コーナー出口であやうくセンター・ラインを越えかけ、ほとんど静止した状態で切り替えした。

 

この日もまた同じ左ブラインド・コーナーだった。それまで快調に覚えたてのハングオフを繰り返していたが、結構下りの左コーナー手前で完全にオーバー・スピードであることを悟ったおらがフル・ブレーキングしたところ、後輪ロック。そのままブレーキングし続け、センター・ラインを越えて対向車線に入り込んでから切り替えした!対向車が来ていたら一巻の終わりだ。なぜ、いちかばちかあそこでブレーキングをやめ、車体を寝かしこめなかったのか。20年前の名古屋での転倒以来「膨らむくらいなら転倒してでも寝かせるべし」と自分に言い聞かせてきたのに、何たるていたらく。おらは二輪に向いてないのか?ホントにサーキットを続けて大丈夫か?おらは死は恐れないが、不自由な体にはなりたくない。何故テニスや空手ではだめなんだ?でも、もう峠を走るだけでは満足できない。サーキットをやるか、二輪をやめるかだ。サーキットで二輪を極めようとするなら、いつか転倒して大事に到る可能性は高い。そのとき後悔するかも。でもここで二輪やめても後悔するかも。走りながらの葛藤が続く。一晩寝てから考えよう。明日はテニスだ。その後もハングオフで攻め続けてたら、我慢の限界に近づいていた両膝より先に左足ふくらはぎがつった。5分程休むと、ふくらはぎも膝も回復して道志みちを走りきった。

 

自宅に戻る前に、SRV250でお世話になってる自宅近くのYSP八王子東で電池式の防寒用インナー・グローブを買い、8年間一度も替えてないクラッチ・ワイヤーを交換してもらった。タイヤの空気圧を計ってもらったら低過ぎたみたいで、「これでサーキット走ったんですか!」と店長が驚いた。

 

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