Round 4 懲りない男

2001.05.10

 

それは長縄さんと四輪のレースやってる友人の尾田から、「気をつけて頑張って」との励ましの言葉を貰った矢先のことだった…。

 

2001年5月6日(日)、TT600でのサーキット初走行。今回初めて、めんどくさがって嫌がるかみさんをFISCOに行かせた。タイム・キーパーが必要なのだ。かみさんはゴールデン・ウィークの帰省ラッシュで込むからと四輪ビーマーで行くのを嫌い、電車で行った。JR駿河小山駅にてTT600自走で行ったおらがかみさんをピックアップ。自宅からFISCOへは、電車でも、二輪でも約1時間半で行ける。いいかげんに二輪の高速道路二人乗り規制撤廃してくれ!

 

FISCOへ向かう当日、中央道の相模湖ICあたりで、ついに走行距離1,600Kmに到達し、慣らしが終わった。その瞬間レッドゾーンまでぶち込んだ。中央道って大丈夫かなー。TT600納車直前にSRV250で行ったツーリングで、久しぶりに減点くらったから、3ヶ月間は絶対捕まりたくないんだ。1年間以上無違反の場合、減点されてもそれから3ヶ月間無違反だと減点消えるって知ってた?

 

中央道を走ってる途中、右ハンドルのグリップからの振動を感じ、三陸から帰っても治らない右手の痺れの原因が分かった。長距離走ると、グリップから伝わる振動が手から肘にかけて蓄積され、しばらく痺れが止まらないみたいだ。短期間であんなに長距離走ったの初めてだからなー。左手はグリップ軽く握ってればいいけど、右手はスロットル開けるからそういうわけにはいかなくて右手だけが痺れるんだろう。しかたないので、親指と人差し指だけでスロットルを開け、須走ICまで走った。

 

晴天だし気候もいいからか、FISCOにはどえらいたくさんライダーが来てる。ラッセルさんも来てた!この日は排気量によるクラス別の走行だ。400cc以上のおらが走れるのは10:15-10:45の30分間と、昼前の混走30分間。残念ながらおらは混走の時間には走れなかったが…。

 

ラッセルさんはこの前のBimotaでなく、MV AGUSTA F4 750ccで来てた。「Bimotaとどっちが速いですか?」の問いに「Bimotaの方が馬力はあるが、MV AGUSTAの方が旋廻能力高い」って。おらはラッセルさんの後を追ってコース・イン。「1-2ラップはゆっくり走ってタイヤを温めた方がいい」って言ってた割に、ラッセルさんは最初から速くて、あっという間に視界から消えてしまった。ゆっくりの程度がおらとはだいぶ違うみたいだ。

 

ブレーキング時にやたら後輪が暴れる。これがチャタリングというやつ?公道で試したときには思いっきりリア・ブレーキ踏まないと、なかなか後輪ロックさせられなかったが、コース上は路面のグリップが良いせいか暴れるだけで滑らない。とにかく暴れ方が半端でなく、おっかなくてしょうがない。シフト・ダウンするときの回転数が高過ぎてエンジン・ブレーキが効きすぎるのかなー、と思いつつ走ってた。あとでお世話になる小松さんがおらの後輪の暴れを後ろから見てて、「恐いなーと思った」と。おらが一番恐かったよ。小松さん曰く、「暴れるのはリア・ブレーキを使うからで、リア・ブレーキは使う必要ない」って。おらが読んだライテク本には、フロント・ブレーキを利かす前にリア・ブレーキを一瞬かけ、荷重を後方にかけることで後輪のグリップを強くし、それからフロント・ブレーキをかけると前輪への荷重負担が減り制動距離が短くなるとあった。しかし、そんなややこしいことしてフロントのブレーキングが遅れるのを嫌ったおらは、プロがどうやってるのか知りたくて、本間氏に聞いたところ、「リア・ブレーキは使わない」と言ってた。そのときはホンマかいなと思ったが、実際にそうやってるライダーがここにもいた!読みかけの“ケニー・ロバーツ ロードレーシングテクニック”にも、フロント・ブレーキング直前のちょい掛け以外は、ウェット・コンディションでしかリア・ブレーキは使わないとあった。今度走るときはリア・ブレーキ使わないようにして、チャタリングの原因がシフト・ダウン時のエンブレにあるのかリア・ブレーキにあるのか試すことにした。

 

ホーム・ストレートでは、各ギヤでレッド・ゾーンに入った直後にシフト・アップし続け、6速で240Km/h出た。その際の回転数は見てないが、最終コーナー脱出時のスピード次第ではまだ伸びるかも。トルク・ピークは、11,000 rpm、出力ピークは12,750 rpm、レッドゾーンは14,000 rpmから16,000 rpmのTT600。各ギヤで15,000くらいまで回せばいいのかな?240Km/h出てしばらくすると1コーナー手前のブレーキング・ポイントにさしかかる。ブレーキング直前に体を起こすと風圧がものすごくて、体が吹っ飛ばされそうなのが怖くて、ブレーキングがおろそかになる。5ラップ目にオーバー・スピードで1コーナーからコース・アウトしそうになったが、コーナー外側いっぱいで何とか抜けた。小松さんは、このときのおらのコース・アウトすれすれも後ろから見てたようで、「あのときも危なかったもんねー」と。次の6ラップ目では1コーナー手前200mでフル・ブレーキングすれば、余裕で減速できることが分かったので、7ラップ目は150m手前で行くことにした。コーナー手前の距離表示が、200mの次は150m、その次が100mと50m刻みだったからだ。しかしそれはあまりにも大きな間違いだった。なんのためらいもなく150m表示の場所でブレーキングを開始してから1コーナーがみるみる近づき、オーバー・スピードで回り切れないと思った!その瞬間からずっとブレーキングを止められず、ビーマーでも突っ込んだ仲良し1コーナーのグラヴェルに今度はそのまま真っ直ぐに突っ込んだ!突っ込んだ後も何とかしばらく転倒を回避し立て直そうとバランス必死に保ったが、相当なオーバー・スピードだったんだろう。グラヴェルの砂の抵抗にもかかわらず、スピードがなかなか落ちず、最後は体が車体の右前に吹っ飛ばされ、おらは右頭と右肩から着地した。右肩の痛みは数日続いたが、グラヴェル上だったためケガはなし。でもTT600とつなぎがどえらいキズついた。

 

この日一番大変だったのは、その後のグラヴェルでの車体起こしだ。踏ん張る足元の砂利と、TT600前後輪の接地点にある砂利のせいで、おらもTT600も滑ってしまい車体を起こせない。そのままほっとけばよかったんだろうが、意地でも起こしたかった。そのまま待ってるんじゃカッコ悪いもん。汗たらたらだがフルフェース外すわけにもいかず、死ぬほど格闘したが起き上がらない。ソヴィエト収容所群島での作業より辛かった。で、ない知恵しぼって、足元と前後輪回りの砂利をできるだけどき払ってから再度挑戦し、30cmぐらいずつ起こしては休み、最後のひと起こしは火事場のばか力で何とか起こした。走行中に既に足にきてたから、ホントつらかった。こんときゃ自分で自分を誉めてやりたいと初めて思った。でも、今度グラヴェルに突っ込んでも、もう二度と起こさないよ。だいたいもう二度とここには突っ込まない。たぶん…。きっと…。おそらく…。

 

車体は起こしたものの、セル回らず。走行時間が終わってFISCOのトラックがやって来た。ビーマーで突っ込んだときに知った顔の兄ちゃんともう一人とおらの3人がかりでやっとこさでグラヴェルからTT600を出して、トラックに乗せた。おらはそのままTT600にまたがってTT600が倒れないように支えることになった。パドックに戻るのかなーと思ったら、ゆっくりコースを走り出した。おいおい待ってよ。大変だったよ、コーナーでTT600押さえてるのは。TT600にまたがりながらトラックのバーに片手でつかまって倒れない様に必死で車体を押さえてた。トラックがコースに出た理由は、おらの他に転倒してた二輪2台を載せる為だった。1台は消化器かけられてた。

 

パドックに戻るも、やはりセル回らず。バッテリーは大丈夫なのに。押しがけもだめ。他の症状は、エンジン・オイルの漏れが止まらないことと、右前ウインカー、右ステップ、右コントロール・プレート、フロント・ブレーキ・レバーの曲がり。そして右カウルは芸術的な美しさに。でもカウルがあるとエンジンやタンクに傷つかなくていいわ。おらが四苦八苦してると周りにいたライダーたちが助けてくれた。随分時間をかけさせちゃったけど、飯尾さんがカウル外して応急処置してくれた後、佐藤さんに充電してもらったバッテリーで、小松さんが何回かスタータ・スイッチ押してたら、しばらくして何とかセルが回るようになり、そのうち、かぶってたエンジンが始動した。これで自走で帰れるぞ。ひん曲がってたブレーキ・レバーは小松さんが戻そうとしたら折れちゃったけどリア・ブレーキ使って何とか帰れた。でもクラッチ・レバーが折れてたらどうしようもなかったろう。転倒するときは右側だな。それにしても初対面なのに皆さんどうもありがとう。小松さんは折れたフロント・ブレーキ・レバーを自分のスペアと交換しようとしてくれたけど、TT600には合わなかった。国産車なら途中にあるバイク・ショップで交換できたんだろうけどなー。これからはブレーキ・レバーとクラッチ・レバーのスペアを携行するぞ。

 


4494 左からおら、飯尾さん、小松さん 

 

転倒するたびに誰かのお世話になるわけにもいかないから、これからは最低限必要な工具も持参するぞ。飯尾さんと小松さんは二人とも車載で来てた。やっぱ車載はいいわ。工具やらなんやら積み込めるし、コントロール・センターまで行くための自転車まで積んでた人まで何人かいた。それに、車載なら転倒を気にせず走れる。それにしても飯尾さん達はそれぞれ単独で来てたけど、いったいどうやってタイム計ってるんだろ。計ってないのかしらん。おらタイム計らずに走る気にはなれんなー。

 

TT600で走った今回は、おらの今の腕でも、少なくとも他のライダーとのスピード差があり過ぎて危険を感じるようなことはなかった。それにパワーがなくてもどかしかったSRV250のときとは違い、今回は逆にパワーをもてあまして、高速コーナーではスロットルを開けきれなかった。つまり、まだまだTT600のパワーには余力があり、タイムも良くなる余地がある。たくさん抜かれたが、おらも2台抜いたぞ!SRV250で走ったときのことを考えると嘘みたいだ。走行前にラッセルさんから、「初めてだったら2'25ぐらいかな」と言われてたが、おらは6ラップして、最も遅かった1ラップ目の2'24から6ラップ目に出したファステストの2'14までちょっとずつタイムが伸びた。みんな、「初めてにしては速いねー」と言ってくれたけど、どうかなー。練習積んで、TT600のパワーを使いきれるようになったら、2'05ぐらいは出せそうだが、SS600のコース・レコードがR6の1'45だからなー。SS600のコース・レコードを元に、FISCOのレースで何ラップするかは知らないが、WGPなみに20ラップとした場合、周回遅れしないですむタイムはこうなる。

1'45 = 105秒、105秒 x 20ラップ = 2,100秒、2,100秒/19ラップ = 110秒 = 1'50

つまりSS600のコース・レコードよりたった5秒遅いだけのタイムで走らないかん。SS600でどこまでマシン改造できるのか知らないが、こりゃ無理だわ。

 

ラッセルさんはおらが1コーナーに突っ込んだ神風ぶりを「すごいねー」と言ってたが、小松さんには、「最初から無理してたら死んじゃう」と無謀さを戒められた。「おら、死んでもいいんだ」と言ったら、「死んだらだめ」だって。サーキット・ライダーがそんなこと言うなんて以外だなー。小松さん曰く、「一気に50mもブレーキング・ポイントを遅らせるのは無謀」だって。それから、おら知らなかったが、「1コーナー以外の各コーナーにも距離表示がある」って教えてくれた。ラッセルさんに「頭は打たなかった?」と聞かれ、「右側を打ったけど、もともと頭悪いから大丈夫」と言ったら、「二輪サーキットやってる連中はみんな頭悪い」って。そりゃそうだ。大笑い。

 


4485 左からおら、ラッセルさん

 

誰だったかに、「ついてないねー」とも言われたが、これは起こるべくして起こった転倒だ。それに昔のコースであればホーム・ストレートの先は高速コーナー。死亡事故が多い為、今の30Rに変えたようだが、昔のコースなら、おらいきなり死んでたかもなー。今回は、むしろケガなく、TT600も比較的無事の上、ブレーキング・ポイントの教訓を体で覚えられ、ラッキーだ。でもまたやるかも。既に四輪で同じとこで突っ込んでるのにこれだもん。ただついてないとすれば、前日から読み出した、“ケニー・ロバーツ ロードレーシングテクニック”の読みかけの続きをその日、自宅に帰ってから読んだら、その章は“ブレーキング”についてで、こんなことが書かれていたことだ。一日前に読んでおけば…。おらは今後はブレーキングで勝負しないよ。

 

・私は、ブレーキングで誰かのインを制して前へ出るのを、それほど重要なこととは思っていなかった。それよりは少し早めにスピードを落とし、立ち上がりで先行したほうが良いと考えていた。そのほうがリスクが少なく、しかも次ぎのストレートで車速が伸びて優位を保ちやすいからだ。

・ブレーキングを遅らせても、それほどタイムを稼げない。

・今でもサーキットを速く回る上で、ブレーキングはあまり重要ではないと信じている。ただし先頭に立つことができないまま最終ラップを迎えた場合は…。

 

 

この日、愚かなオーナーに買われた哀れなTT600日本1号機をスナップリングに預けた。5月27日(日)に、走行会ってので初めて筑波サーキットを走る予定だけど、それまでに間に合うかなー。トラ・ジャパンができたてで、パーツの供給が滞ってるらしいのだ。こういうとき、ほんと外車は困る。スナップリングの店長にいいこと教えてもらった。二輪を車載したい場合は、車をレンタルすればいいと。確かに買うよりその方がずっと安上がりだし、駐車場を確保する必要もない。

 

TT600のリア・タイヤ見てびっくり。たった6ラップしか走ってないのにリア・タイヤの両サイドがぼろぼろになってる。センターはなんともないのに。こりゃいくら金があっても足りん。

 

せっかちなおらにはできそうにないが、うまくなるのを焦らずに、しばらくは競争心を押さえて練習に徹しないと体がもたん。それに40歳の大台にのる日が近くて、おら死に急いでる気がある。おらは去年の暮れあたりからマリリン・モンローの心境なのだ。

 

おらは恐いもの知らずなのか、それとも前に書いたように、コーナリングでのスライド転倒を恐れ過ぎる小心者なのか?今回グラヴェルに突っ込むまでは1コーナー前のブレーキングでは誰にも抜かれないどころか、その前のラップでブレーキングで1台抜いてたので調子こいてたのは確か。おらより全然速いライダーでも200m手前でさえ、恐くてブレーキング待てないと言ってた。でも、あのとき1コーナーで何故無理にでもブレーキング止めて、寝かして曲がろうとしなかったのか。たぶん、おらはオーバー・スピードでのコーナリングによる転倒を怖れたんだ。今回も、「ダメだ!」と思った瞬間曲がるのをあきらめ、最後までブレーキングしてた。グラヴェルに甘えた部分があったのかもしれないが、先がグラヴェルでなく、壁だったらおらどう対応したろうか?四輪で突っ込みそうになったときにステアリング回すのは簡単だが、二輪はハンドル回せば曲がれるってわけじゃない。

 

往年の大型乗りの会社の先輩、伊藤さんにこの件を話し、「おらはライダーの資質に欠けるのではないか?」と相談した。伊藤さん曰く、「WGPでも寝かしきれずにコース・アウトしたり、グラヴェルに突っ込んだりすることはよくあるし、それが普通の感覚では?」と。ちょっと安心。そしてくだんの“ケニー・ロバーツ ロード・レーシング・テクニック“にも、「ストレートのスピードが速くなっている場合、へたをするとブレーキングが間に合わず、そのまま真っ直ぐ行ってしまうかもしれない」というくだりがあった。これ読んでますます安心した。

 

それともう一つ。150Km/hくらいからのフル・ブレーキングは恐くないが、240Km/hからのフル・ブレーキングは恐い。だから今回たぶんおらはフル・ブレーキングしてない。「高速でのフロント・ブレーキングによるロックはない」との伊藤さんの言葉だが、240Km/hで試すのはおっかないよ。物理的な制動距離はどうなんだろう。120Km/hからのフル・ブレーキングでの制動距離が例えば100mだとしたら、240Km/hからのフル・ブレーキングでの制動距離は単純に2倍の200mではなく、それ以下って感じがするが。

 

おらが転倒した24時間後にWGP#4@スペインでトップ争いしてた、125ccの宇井がリアのグリップ失い転倒した。おらも、1度あんなふうにリアのスライドで転倒したい。ああいう転倒なら攻めてる転倒でサマになる。ハイサイドやったらマシン終わりだけど(自分も終わりかもしれんが)、それもサーキット・ライダーの勲章だよなー。WGP見て思ったが、一つのミスがタイム的に命取りで、単に一発のファステスト・ラップ出すだけでは駄目で、安定したラップ・タイムを出す正確な走りが必要だ。その為には、全てのブレーキング・ポイント、全てのコーナー進入時での適切なスピードを見つけ出す必要がある。それができたら今度はスロットルを開け始める最適な地点を見つけ出す必要があるだろう。結構頭使うわな。

 

 

サーキットが安全だと思ったのは大いなる間違いだった。いや確かに対向車も、歩行者いないし、救急車は待機してるから安全だ。おらの好きなグラヴェルもあるし、道幅も広い。でもそれらがおらを安心させ、無理をさせる。それにサーキットには、峠にはいない、おらを抜いていくライダーがいるから、フリー走行とはいえ、おらの本能が限界以上の走りを強いる。だいたい、信号もスピード違反もない、1.5Kmのストレートなど公道にはない。自分の競争心を制御できない、おらのような人間には、たとえライテクが備わってたとしても、サーキットは危険な場所だ。

 

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