サーキットで走るには

 

2006.03.21

 

注意:本稿に起因するいかなる損害、死傷等に対して、筆者はその一切の責任を負いかねます。

 

ご自分の四輪や二輪でサーキットを走ろうと思っている方のために、サーキット走行に必要な準備事項をご紹介します。とりあえず一回だけ走ってみたいのでしたら走行会に参加するのがお手軽です。走行会情報はウェブサイト、モーター・スポーツ雑誌、ショップ等で見けることができます。二輪の走行会情報であればライディング・スポーツ誌に載っています。定期的に好きなだけ走りたいのでしたら各サーキットが独自に発行しているサーキット・ライセンスを取得する必要があります。ただし、サーキット・ライセンスを取得してフリー走行をしている連中のレベルは高いので、遅いマシンで走るのはスピード差がありすぎて危険です。スピードの遅い走行クラスで走るとしても、少なくとも四輪なら180ps程度以上、二輪なら80ps程度以上のマシンを用意したいところです。以下ではサーキット・ライセンスを取得して、ノーマルの四輪でフリー走行することを中心に記述していますが、二輪のフリー走行についても触れています。尚、私は富士(四輪・二輪)、筑波(四輪・二輪)SUGO(二輪)、もてぎ(四輪)、鈴鹿(四輪)でフリー走行をしたことがあり、富士(四輪・二輪共通)、筑波(二輪)、もてぎ(四輪)のサーキット・ライセンスを持っていました。

 

注意:二輪でのサーキット走行を私はお薦めしません。二輪で走るのでしたら一生を棒に振る危険を覚悟して臨んでください。どのサーキットでも毎年のように死人が出ていますし、身体障害を持つことになる危険性は更に高いのです。サーキットが峠より安全だとは必ずしも言えないと私は思います。サーキットでは自分の力量の限界を試したくなりますし、サーキットでの走行スピードは峠でのそれとは比較にならないからです。サーキットは転んでも死ににくい作りになってはいるものの、峠よりも転ぶ確率が圧倒的に高く、また転んだ際の走行スピードが速いのです。私の例ですが、公道では免許を取ってから最初の20年間で1回しか転んだことがありませんでしたが、サーキットでは初めの1年間で5回転びました。そして過去に公道で転んだ際の最高速度は30km/h程度ですが、サーキットでは200km/h程度(改修前の富士の最終コーナー出口)です。どうしても二輪で走りたいのなら、生命保険には絶対に入っておくべきです。生命保険の種類にもよるのでしょうが、私の生命保険を確認したところ、趣味として走っている限りなら保険金はおりるとのことでした。また、面倒でも最初は四輪で走ってそのコースを知ってから二輪で走行することをお薦めします。

 

 

1.              サーキット・ライセンスの取得

走るサーキットを決め、そのサーキットのライセンスを取得します。各サーキットのウェブサイトにライセンス講習の案内が紹介されています。半日ほどの講義を受けるだけで誰でも容易に取れますが、四輪の場合は普通免許を持っている必要があります。JAFの四輪競技ライセンスやMFJの二輪競技ライセンスは必要ありません。四輪と二輪のライセンスは別個に取得する必要がありますが、私の知る限り富士だけは四輪・二輪共通のライセンスとなっています。尚、最初は富士のような高速サーキットでなく、テクニカルなサーキットを選ぶことをお薦めします。

 

2.              マシンの用意

ご自分のマシンがサーキットで走れる状態にあることを確認します。サーキット走行では公道走行の場合とは桁違いの負担がマシンに要求されるため、整備不良のないようにしてください。特にブレーキ・パッドの残量には注意が必要です。四輪であれば、サーキット走行に適した耐久性のあるブレーキ・パッドに替えておくことをお薦めします。また、できれば四点式のシート・ベルトを購入した方がいいでしょう。ラップ・タイムを計測したければ、ショップやサーキットで売られているP-LAPを購入すると便利です。P-LAPをマシンに取り付けるだけで1/1000秒単位のラップ・タイムが自動的に記録されます。ただしラップ・タイムを計測すると、どうしても無理な走りをしてしまうと思います。尚、私の知る限り全てのサーキットで、ソフト・カバーのオープン・カーはロール・バーの取り付けが義務付けられており(除外されている車種もあります)、筑波での二輪は一部の走行クラスを除いてオイル受けアンダー・カウルの装着が義務付けられています。

 

3.              装備品の用意

サーキット走行に必要な装備品を購入します。四輪ならヘルメットとレーシング・グローブがあれば走らせてくれます。ジェット・ヘルでも走れます。お勧めはしませんが、二輪用のヘルメットでも走らせてくれます。安全を期すなら、耐火炎性のレーシング・スーツ、アンダー・ウェア、ソックス、バラクラバス(目出し帽)、レーシング・シューズも購入した方がよいでしょう。JAF公認レースではこれらを使用することが義務付けられています。二輪の場合はレース出場の際に必要な装備品と同じものを着用することがフリー走行でも義務付けられています。フル・フェースの二輪用ヘルメット、革製のレーシング・スーツ、レーシング・グローブ、レーシング・シューズです。脊椎パッドも購入すべきです。四輪の装備品はやけどを防止するために耐火炎性の素材が使われており、二輪の装備品は擦過傷を防止するために引き裂き強度に秀でた天然皮革が使われています。

 

4.              フリー走行の予約

フリー走行する日時を決めて予約を取ります。ほとんどのサーキットは30分きざみで走行枠を設けています。私は通常2枠分の予約を入れておきます。すいている走行枠で走るのが安全です。比較的すいているのは平日の朝早い時間帯です。予約方法はライセンス取得時に習いますが、ほとんどのサーキットはウェブサイトで予約が取れるようになっています。尚、走行日が近づいてからのキャンセルは有料となるサーキットが多いので、ウェットで走りたくないのでしたら、天気予報を頼りにして、無料でキャンセルできる期日までに走行の最終決定をするとよいでしょう。

 

5.              コースを覚える

サーキットのコース図を見てコースをよく覚えておきます。セオリー・ラインを図示しているウェブサイトを見つけるか、サーキット走行の映像を観ておくなりして、セオリー・ラインを覚えておけばなお良いでしょう。

 

6.              習得しておくテクニック

四輪、二輪ともATでない場合は(スクーターでフリー走行する人を見たことはありませんが)、シフト・ダウン時の空ぶかしだけはマスターしておく必要があります。四輪ならヒール・アンド・トーを習得しておきます。また、レッスン書を一冊でも読んでおくことをお勧めします。四輪、二輪それぞれ一冊ずつ私のお薦めのレッスン書を紹介しておきます。

 

ポール・フレール                    新ハイスピードドライビング

 

つじつかさ                            ベストライディングの探求

 

知っておいた方がいい四輪のテクニックについて触れておきます。

                 ブレーキング・ポイントをいっきに詰めてはいけません。510m単位で詰めましょう。

                 ステアリングは1010分か915分の位置で握り、ヘアピンであっても持ち替えません。(ラリーでは持ち替えます。)

                 ABSがない場合は、ブレーキングでホイールをロックさせてしまったら、思いきってブレーキングを一瞬やめます。そうしなければグラベルに突っ込むまでなかなかスピードが落ちません。

                 もしグラベルに突っ込んだらスロットルを開け続けて脱出を試みます。スロットルを放したとたんにマシンは止まってしまい、そうなるともう自力では脱出できません。

 

二輪では以下のことに注意してください。

                 ブレーキング・ポイントをいっきに詰めてはいけません。510m単位で詰めましょう。

 

7.              フリー走行当日

a. 走行時間の2時間前にはサーキットに到着しておくとよいでしょう。二輪の場合はマシンをトランポに積んで行くことをお薦めします。マシンの積み下ろしは大変ですが、自走で行くと帰ってこられなくなる可能性が結構あるからです。ラダー・レールを買ってマシンをトランポに積み、タイダウンか紐でマシンをトランポに固定します。トランポは軽トラックのレンタルで十分です。私はサーキット走行を始めた当初は自走していましたが、初めからろくなことがありませんでした。また、できれば骨を拾ってくれる同行者を1人伴ってください。筑波では同行者を伴うことが原則とされています。

 

b. パドックかピットにマシンを停めます。富士のピットは有料です。コントロール・タワーに近い場所に停めると何かと便利です。

 

c. コントロール・タワーで走行券を購入します。

1792 もてぎのコントロール・タワー

 

d. マシンの準備をします。

・ガス欠にならないよう、適量のガソリンを入れておきます。30分の走行であれば、半分入っていれば十分です。値段は高めですが、メジャーなサーキットであればガソリン・スタンドはパドックにあります。

 

・エンジン・オイルが適量であること、そしてマシンの下の路面を見てオイル漏れがないことを確認します。私はこれで泣いたことがあります。

 

1763 面倒がらずに…

 

・冷却水が適量であることを確認します。

 

1764 足りなかったら水を足します

 

・ブレーキ・パッドの残量が十分であることを確認します。見てもわからない場合は事前にディーラー等で見てもらっておきましょう。私はこれで泣いたことがあります。二輪の場合は少なくともオイル・ドレイン・ボルト、オイル・フィラー・キャップ、フロント・ブレーキ・キャリパーの増し締めをします。できればショップでワイヤー・ロックをしてもらっておいた方がいいでしょう。

0067 フロント・ブレーキ・キャリパーのワイヤー・ロック

 

・タイヤの空気圧が適切であることを確認します。マシンで指定されている空気圧であれば大丈夫です。よってエアー・ゲージは用意しておいた方がよいでしょう。ただ、もてぎがそうですが、エアーを入れる設備がないサーキットもあるので、サーキットに着くまでにガソリン・スタンドでエアーを入れておいた方が無難です。

 

・ビニール・テープでライトとウィンカーをテーピングします。これはガラスの飛散防止です。ただしプラスチック製であればテーピングは義務付けられていません。二輪はバック・ミラーを外さなければなりません。バック・ミラーなしでのサーキット走行は、慣れるまでかなり怖いものです。

 

・必要に応じてP-LAPをビニール・テープやタイラップで取り付けます。

 

 

1765 P-LAP本体                                          1766 P-LAPの磁気センサー

 

以下は四輪の場合です。

・必要時のみ牽引フックを取り付けるようになっているドイツ車などは、トランクから牽引フックを取り出して取り付けておきます。これは富士では義務付けられていませんが、絶対につけておくべきです。私はこれで泣いたことがあります。

 

1767 前後どちらか片方にしか取り付けられないのなら、他のクルマを引っ掛ける可能性の低い後ろ側がいいと思います

 

・走行時に動く恐れのある不要品は全て車外に出します。フロア・マットも外した方が無難です。CDプレイヤーの中に入っているCDを外すかどうかは迷うところです…。パドックであればこれらは通常クルマの後ろに置きますが、排気ガスで汚れないように注意してください。私はこれで泣いたことがあります。また、雨で濡れないように大きめのビニール・シートを持参した方がよいでしょう。同行者がいない場合は貴重品の置き場に困りますが、私は四輪の場合、財布とケータイをポケットに入れて走り、二輪の場合は、財布だけをレーシング・スーツの内ポケットに入れて走りました。

 

1776 テーブルがあると楽です

 

・ヘルメットをかぶってからシート位置を合わせます。思った以上に背を立て、かつ前寄りにしておかないと、ヘアピンで180度ステアリングを回すのは難しいですし、バケット・シートでない場合横Gに対して体を踏ん張るのが困難です。

 

・義務付けられているサーキットはないと思いますが、少しでも軽くしたいのでしたらスペア・タイヤを外しておきます。

 

・もてぎでは左右のドアにゼッケンを貼らなければなりません。ビニール・テープで作ったゼッケンでも大丈夫です。若い番号は他のドライバーが使っている可能性が高いので避けた方がいいでしょう。走行中のマシンに何か問題が起こった場合などに、オフィシャルからこのゼッケン番号と共に指示が出ます。私はゴルゴな男なので、好んで13番にしています。

 

1775 こんなんでいいいです

 

・もてぎでは走行券をフロント・ガラスの右上に貼らなければなりません。

 

1770 糊はいらない

 

 

e. ヘルメットなどの装備品を身につけます。もてぎではヘルメットにライセンス番号、氏名、血液型を書いたシールを貼ることが義務付けられています。シールはコントロール・タワーに置かれています。

 

1773 私のジェット・ヘル

 

f. 走行開始時間が近づいて走行用意の場内アナウンスが入ったらピット・レーンにマシンを移動します。P-LAPのスイッチを入れます。サーキットでの走行開始時間は赤旗やマシン回収のせいで遅れることがよくあるため、場内アナウンスに注意してください。

 

g. オフィシャルの指示に従ってコース・インします。コース・インの際は走行中のマシンと接触しないよう後方に注意し、インベタのまま1コーナーに進入してください。私は四輪の場合、少しでも接触の危険性を減らすため、天候によらずライトを点灯して走ります。タイヤが温まるまで、そしてコースにある程度慣れるまで、少なくとも最初の2ラップは抑えて走りましょう。

 

 

1778 10年乗っているクルマだから大破してもいい

 

 

以上ですが、最後にひとつだけサーキットでの大事なルールを記しておきます。サーキット走行中の接触事故はどちらに非があろうが賠償請求できないことになっています。だからといって、レースでもないのに危険な追い越しをするのはやめておいた方が利口です。サーキットの設備に損害を与えた場合は、サーキット側から賠償請求されます。尚、車両保険はサーキット走行には適用されません。

 

 

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