おらの出張体験記、米国同時多発テロ発生!

2001.09.30

まえがき

それは日本人サラリーマンであるおらが米国出張中の出来事だった。米国時間2001年9月11日(火)朝、米国東部で同時多発テロが発生した。その際、現場から遠く離れた南部のアラバマ州にいたおらだが、その後テロの影響をもろに受けた出張となった。危険な目にあった訳ではないが、会社の指示で人生初の拘留もどきの生活が続いたのだ。この物語は米国同時テロ発生の状況下で、その拘留もどきの生活から逃れるため、おらが如何に行動していったかを記したサヴァイヴァル記である。


9月11日(火)

おらは前夜、アラバマ州のハンツヴィルという町に2泊の予定で到着していた。ハンツヴィルはアラバマ州北部に位置し、第ニ次世界大戦後にミサイル研究所が設置されたり、米国航空宇宙局(NASA)がジョージ・マーシャル飛行センターを開設するなど、宇宙開発研究の基地があることで知られる町である。日本との時差はサマー・タイムで-14時間。おらがアラバマ州を含め、米国南部を訪れたのはこの出張が初めて。日本出発時の9月9日(日)からそれまでののトラブルといえば、PCから会社のLANへアクセスする際に必要な会社支給のセキュアーIDカードを無くした事ぐらいだった。これはこれで面倒なことなんだが、じき、そんなのは比じゃない事態がやってくる。

09AM、宿泊先のハンツヴィル・マリオットに隣接されているUSスペース・アンド・ロケット・センターにおらはいた。10AM頃センターの人間から「米国のセスナがペンタゴンとマンハッタンに爆弾落とし、ホワイト・ハウスに突っ込んだ」と聞かされた。ほんとかいな!?まるでトム・クランシーの小説“日米開戦”の最後の場面さながらじゃん。いろんな噂が飛びかってたらしいが、ホテルに戻りテレビをつけたら、どのチャンネルもそのニュースばかり放映してる。結局4機の民間機がハイジャックされ、マンハッタンの世界貿易センターのツイン・ビルに1機づつ計2機、ペンタゴンに1機、ペンシルバニアの農場に1機が突っ込んだ事を知った。ATTACK ON AMERICAだの”Act of warだのいろんな見出しがテレビや翌日の新聞に見受けられたが、その日のCNNではAMERICA UNDER ATTACKの見出しで終日そのニュースを放映していた。おらは戦争が始まったのかと思っていたが、テロ事件として扱っている。

USスペース・アンド・ロケット・センター内に立ち並ぶロケット

民間人を巻き込んだこの無差別攻撃は許し難いものではあるが、このところエゴが目に余る米国だから、米国憎しと思う国や組織がいて、米国に対するテロが今後も続く事は十分考えられる。おらの知る限り、一般的な米国市民は、日本人よりも親切で、善良な人間がほとんどだが、対して米国政府は未だに戦勝国の筆頭面をし、国益の為なら自国に都合のいいルールを世界に押し付ける高慢な政府だ。おらからしたら、米国政府は読売ジャイアンツとなんら変わるところがない。

今回のテロにはいずれも米国系のユナイテッド航空とアメリカン航空の機体が使われたが、米国の正式名称はUnited States of Americaだから、犯人は挑発目的で米国名の一部を使った大手のユナイテッド航空とアメリカン航空の機体を狙ったんじゃなかろうか。おらが今回の出張で使う航空会社はノース・ウェスト航空とUSエアー航空だから大丈夫だろう。ゲッ、USエアー航空も米国名称の一部を使ってる!でもUSエアー航空はマイナーだからテロリストには相手にされないだろう。たぶん…。

さて、おらはこれから、ホテル近くのロケット開発と防衛ミサイルの重要拠点であるNASA研究施設併設の米軍基地に行く必要があった。訪問先の少佐から電話があり、「この状況では民間人は基地に入れないかもしれないが、とにかくホテルに迎えに行く」と言われた。そこへロサンゼルスにある、おらの勤務先の米国支社の駐在員から電話があり、「外出禁止」だと。おらは「でかけざるを得ない」と回答した。その後すぐに東京本社から9月12日付、”米国における同時テロ発生に伴う処置”なる通達が電子メールで送られてきた。その中には、「米国関連施設へは極力近づかない」という一文があった。冗談じゃない。おらが外出できないんじゃ、お客さんである少佐に申し訳ないし、はるばるここまで来て目的果たさない訳には行かない。そこでおらは、通達の一文に“極力”がある事を幸いに、迎えに来てくれた少佐と共にホテルからクルマで米軍基地に向かった。

米軍施設はテロにあう危険性が高いという事で、その米軍基地には待避命令が出ており、基地のゲートは脱出するクルマで大渋滞。しかしおらは幸いにも簡単に入門でき、この日の目的を果たす事ができた。少佐からおもしろい話が聞けた。少佐がペンタゴン勤務の友人を心配して、事件後すぐにペンタゴンに電話をしたら、その友人はペンタゴンが攻撃にあった事を知らなかったらしい。ペンタゴンはおっそろしくでかい建物だから、一部が破壊されても気が付かない部署もあるんだろう。

問題は明日だ。おらは明日ワシントンD.C.にあるレーガン空港経由で東部のニューハンプシャー州にあるマンチェスター空港までUSエアー航空便で飛び、明後日には今回の出張の重要な目的であるB社との交渉をしなきゃならん。しかし、空港は違うとはいえ同じワシントンD.C.のダレス空港は今回ハイジャックされた機が飛び立った空港だから、レーガン空港は閉鎖されているかもしれない。

今日入手の本社通達には「米国現地法人では、飛行機を含む公共交通機関の利用を全面禁止」との一文がある。“米国現地法人では”ってのは“米国現地では”の間違いか?おらは本社からの出張者であって、米国現地法人、つまり米国支社の人間じゃないから飛行機使っていい事になるぞ。そんなわけがない。全くこれが会社の正式文書だと思うと情けなくなる。これは文章のミスに違いないが、そのミスを利用させてもらってフライトが欠航になってない限りはおらは飛ぶつもりだ。うまくすればワシントンD.C.上空からペンタゴンの様子を見れるかもしれない。それに再度出張し直すのは嫌だから、なんとか今回の出張で交渉を済ませたいのだ。その為には、B社は明々後日の金曜日が休みだから、明日飛ぶしかない。

ちなみに二輪サーキット野郎のおらとしては、テロで死ぬよりサーキットで死ぬ確率の方がうんと高いと思ってるし、テロに遭って安楽死する方が、サーキットで下手に不治のケガするよりよっぽど楽だから、この状況下で飛行機に乗る事への恐怖感はからっきしない。ついでに言うと、おらは本書を現地で執筆し始めたが、なんかおら従軍記者みたいでわくわくしてきた。ニュー・ヨーク出張でなかったのが残念だ。

おらの二輪メカニックの江場ちゃんがおらの安否を心配して電子メールを送ってくれた。「箱根の山を始めて越えた、おらのSRV250」で3枚目扱いしたばかりのおらなのに、やさしいなー。今度は本間師匠よりは色男として記述してあげよう。

多くのビルで星条旗を反旗に翻している。星条旗の製作会社は大繁盛らしい。夜にブッシュ大統領のテレビ演説があった。


9月12日(水)

あいかわらずテレビはテロのニュースを流しっぱなし。今日のCNNはTHE DAY AFTER / AMERICA UNDER ATTACKの見出しだ。核戦争を題材にしたThe Day Afterってタイトルの米国映画があったな。午前中は全ての空港が閉鎖されているようだが幸い午後には空港閉鎖も解けるとのことで、おらはUSエアー航空のフライトを夕方の便に変更した。空港内外でのセキュリティー・チェックが相当厳しいらしい。でも荷物の少ない旅慣れたおらは、空港で持ち物全部チェックされても平気だぞ。ただ米国市民じゃないから、身包み剥がされるかも。

おらは国内外問わず2日間以上の出張にはPCを携帯するようにしているが、今回もPC持ってきてホントによかった。こんな時、インターネット・アクセスできる事で、ウェブからフライトの状況を確認したり、電子メールが使えるってのはどえらい重要な事だからだ。生命線とも言える。特にテロ直後は、航空会社に電話をかけても繋がらないか、「ウェブを見て下さい」の録音アナウンスが流れるか、長時間待たされるって状況だった。ただノースウェスト航空のウェブはなかなか表示されず閉口したが。

おらはマイクロソフトは好きではないが、今回だけはマイクロソフトに助けられた。会社のセキュアーIDカードをなくしちゃったおらだから、会社のLANを通して電子メールを送受信する事ができず、マイクロソフトのhotmailだけが頼りになったからだ。会社には緊急なものだけhotmailに送るよう依頼した。hotmailは、もともと自分のPCがない出張時などにどのPCからでもIEをメーラーとして電子メールの送受信ができる重宝する代物だ。しかも無料。あくまで非常用で、機能は限られているが、hotmailの電子メール・アドレスを持ってなかったら今回おらは往生こいたろう。

まさかとは思うが、テロの首謀者が日本人でない事を祈る。でないと、おら帰国できなくなるかもしれん。それにしても、やたらと“パール・ハーバー以来の攻撃”と報道されるから、頭くる。米国本土が攻撃くらったのは確かにパール・ハーバー以来の事だが、戦争として米軍が攻撃食らったパール・ハーバーと無差別テロを一緒にするんじゃねーっつの!だいたいてめーらは今まで何回他国の本土を攻撃してるんだよ。

夕方のフライト時間までホテルで本書を執筆し続けるつもりでいたところに、昼頃米国支社から電話があった。本社からの新たな通達に、「グループ社員は、空港利用が解除され、本社トップからの許可があった場合に、飛行機の利用を許可するが、それまでは公共の交通機関を利用禁止とする」とあると。こりゃあかん!本社トップなんて言われても、日本は今、深夜じゃん。おらはこの日のフライトを逃したら、今週の仕事がパーになっちまうんだ。おら米国支社の駐在員に「折り返し電話する」と伝え、迷った挙げ句、USエアー航空に電話してフライトの状況を聞いてみた。そしたらワシントンD.C.のレーガン空港までは飛べても、そこからマンチェスター空港までの便がキャンセルされてた。万事休す。これで迷う事なく、今週のB社との交渉は諦め、会社の指示通り、ハンツヴィルに留まる事にした。ワシントンD.C.までは飛べるが、ペンタゴンの状況見たさに会社クビになっても適わんし、今ワシントンD.C.でホテルを取るのは難しいだろう。また、通達の中には、「米国公共施設には近寄らない」と、今日になって“極力”が取り除かれてた。一日違いで、ルール違反を免れたおら。ホテルは明日まで延長できた。

B社と連絡を取り合い、来週月曜に交渉を行う事で合意を得た。交渉相手方のうちの一人もテキサス州に出張中で、おら同様足止めくってるとのことで、結局おらが今日ニューハンプシャー州に行けたとしても、意味がなかった事を知った。

どのみち外出禁止だが、ハンツヴィル近郊には観に行くべきものがなにもない。それに加えて部屋の窓からの景色に飽き飽きしたおらは、この拘留状態にいいかげん耐えられんくなってきた。部屋の窓から見えるのは展示物と化したスペース・シャトルとロケットの群れだけで、あっという間に見飽きる景色なのだ。何とか別の場所に移動したい!が、ここからアトランタまでは比較的近いものの、おらはどうせならオーシャン・ヴューのホテルに滞在したかった。ここから東のサウス・キャロライナにMyrtle Beachという場所があり、そこなら空港も近くていいんじゃないかとB社の人間に教えてもらっていたから、できればそこに行きたかったが、クルマで行くには丸一日かかる距離だし、空港名がMyrtle Beach International Airportじゃあ、会社に対しておらの魂胆がみえみえだ。Myrtle Beach以外に行きたい場所としては、現地取材のできるニューヨークもあったが、これからニュー・ヨークに行くとなるとクビ覚悟だ。しかも、おらの性格を知り尽くしているおらの上司から、ニューヨークにだけは行くなと既にくぎをさされている。

この出張中、B社の人間に教えてもらった地図表示のウェブ・サイトであるMapquestが重宝した。地図持ってても、これがないと地名ではそれがどこにあるか見つけられないんだ。おらは今までExcite Mapsを使ってたがMapquestの方が使える。

嫌んなるほど見飽きたホテルの部屋からの景色

結局この日は、一日中PCと格闘し、米国支社の駐在員に許可を取って昼飯食いにレンタカーでちょっと外に出ただけ。南部だけあって、アフリカン・アメリカンが多い。彼らの英語はほんとに同じ英語かと思うぐらい聴き取りにくい。

国内線は飛び始めた便もあるようだが、ウェブで見る限りほとんどがキャンセル状態。ノース・ウェスト航空に確認したところ、国際線は少なくとも明日の07PMまでは飛ばないとの事だった。

おらが今、一番恐れている事は何か。それは今回持参した本が、大藪晴彦の“汚れた英雄”第1巻から第3巻だけで、既に第2巻をほぼ読み終わってる事だ。全4巻だから第4巻を持ってこなかった事が悔やまれて仕方ない。今はフライトの確認・キャンセル・変更、レンタカーの延長・キャンセル、本社・米国支社・B社との電子メールや電話のやりとり、本書の執筆等で結構忙しく、一日一食が続いている状態で、本読んでる暇がないから当分は大丈夫だが、ホテル拘留が長くなって暇になったらどうしよう。それでなくても第3巻は帰りのフライトで読む分だったのに…。

部屋の窓から見えるのはあいかわらず同じ景色で、天気も能天気に晴れ続き。そのおらが救われたのは、今回出張前日に何枚か買って持ってきた音楽CDの中に当たりがあった事だ。それは初めて買ったハープもので、おらはそのCDばかり何十回も聴いてた。そのCDなかったら、おら拘留状態に耐えられんかったな。おらは出張の際、普段の通勤でも肌身放さない携帯CDプレーヤーだけでなく、必ず小さなスピーカー・セットも持って行くんだ。おらは歳のせいか、最近はポップ・ヴォーカルを聴く事は希で、ジャズ・ヴォーカルを聴く事が多いが、今回はあんなに嫌いだったクラシックまで持ってきてる。

おらを救ってくれたハープのCDは:

HARP FAVORITES/Naoko Yoshino, Ayako Shinozaki, Kazuko Shinozaki [Harp]

その他に持って行ったCDは:

CHOPIN (THE LEGENDARY 1965 RECORDING)/martha argerich [Piano]

FREDERIC CHOPIN/Maurizio Pollini [Piano]

NEARNESS OF YOU (THE BALLAD BOOK)/MICHAEL BRECKER [Jazz]

DINO/JESSICA FOLKER [Pops]

Laura Pausini/Laura Pausini [Italian Pops]

CARMINE MEO/emma Shapplin [Pops like Opera]

あとは既に持ってた次の5枚の計12枚。

Laura Pausini/tra te e il mare [Italian Pops]

八神純子/Best Collection [Japanese Pops]

AGNETHA FALTSKOG/THATS ME ? THE GREATEST HITS [Pops]

BARBRA STREISAND/CLASSICAL...BARBRA [Classic Vocal]

FATIMA RAINEY/Love Is A Wonderful Thing [Pops]

おらは1984年の初めての海外旅行時に三省堂の“GEM Dictionary”を買って以来、それを通常の業務でも愛用してる。たばこの箱ぐらいの大きさで英和・和英ともに使える携帯用の辞書だ。載ってる単語が限られるものの、その分探したい単語がすばやく見つけられて、大きな辞書より使い勝手がいい。普段の出張では外国人から魚の名前を聞かれたときにぐらいにしか辞書なんてのは使う機会がないから、持ってこない事もあるんだが、今回の出張に持って来てよかった。今回ばかりはいろんな場面で役立ったのだ。昔、新幹線の車中でもらった杏里のサイン付きだぞ。よく17年もの間なくさないで持ち続けてるもんだと、おらはこの辞書を見るたびに感心する。


9月13日(木)

多くの空港が閉鎖解除されだしたが、飛んでる便は航空会社によってまちまちだし、未だにほとんどの便がキャンセルされてる。

B社の社員1名がハイジャックされた飛行機に乗ってて亡くなり、B社近郊のパトリオット・ミサイルのメーカーであるレイセオンの社員8名も亡くなったと聞いた。また、先に述べたテキサス州で足止めくってたB社の人間がB社のフライト利用禁止通達を受けて、米国南西の端テキサス州から東北の端ニューハンプシャー州まで4日間ほどかけてレンタカーで帰る事にしたそうだ。おらの会社もせめてレンタカーでの移動は認めてほしいもんだ。てなわけで、とてもB社とビジネス交渉するような状況じゃなくなってきた。B社も、この状況下での来週の交渉には消極的になり始め、おらの事も心配してくれて、可能な限り帰国したほうがいいと言い出した。その後本社の上司からも、本社のフライト利用許可が出たら一旦帰国した方がいいと言われた。今回の交渉は、重要かつ緊急を要するものだったから、おらはなんとか遂行したかったんだが、こうなったら致し方ない。

米国に留まる理由が全く無くなった今、おらは、だんだん米軍基地近くの物騒な場所に拘留されている事が無気味に思えてきた。このホテルは米軍基地近くでは比較的目立つ建物だし、米国系のホテルだという事で、テロの標的になってもおかしくないのだ。

今夜は初めてホテル内のレストランで食事した。結局、今日もPCと格闘しっぱなしで一日夕飯一食のみ。たばこと水と音楽さえあれば、一ヶ月は生き残れるだろうが、おらは既に15Kg減量してあるからなー。

江場ちゃんからまた電子メールが来た。 さすが戦闘機屋だけあって“飛行機”のことを“航空機”なんて言ってる。本間師匠は今、WGPヨーロッパ・ラウンドにいってるそうな。

夜に本社の上司から電話があり、「会社からの通達がもうすぐ正式に出るが、米国内でのフライト利用の許可が降りるようだから、成田直行便のある空港のある都市までの便の予約をするように」と言われた。帰りの国際線がシアトル発だから、おらは急いでシアトルまでの便を予約しようとしたが、USエアー航空に電話しても聞こえてくるのは、録音の「少なくとも20分待って下さい」だった。で、本社の旅客部門に電話して予約頼んだらシアトル行きは満席だったので、サンフランシスコまでのUSエアー航空のフライトを予約した。ハンツヴィルからシアトル・サンフランシスコまでの直行便は存在せずいずれも、1回どこかを経由する必要があり、かつサンフランシスコからはシアトルまで更に一回余分に飛ばなければならないが、恐らくノースウェスト航空はこんな状況下だからシアトル発にこだわらず便を変更してくれるだろう。ところがその直後本社の部下から、「アトランタでテロの容疑者が逮捕されたから、フライト利用はやっぱりだめ。クルマでの移動はよし」との部長からの指示があった旨、電子メールが来た。すぐ本社に電話して状況を聞いたが、おらもやっぱりフライト利用はだめだと。電子メール読まなきゃ良かった。それからかなり遅れて、本社の正式通達が来て、「先程容疑者が逮捕され、まだ危険性があることから、日本時間の月曜日までは、フライトの使用不可」とあった。しかたなくサンフランシスコまでのフライトはキャンセルした。おらフライトの予約に要したこれまでの苦労が無駄骨となったことで、いい加減会社に振りまわされるこの環境下に嫌気がさしてきた。それに、もうハンツヴィルに留まるのは耐えられん。あいかわらず本社の文書は出来が悪く、「米国への出入国だけではなく、米国内便の利用を含めて全面禁止(フライトの利用禁止)とします」と、フライト以外の移動に関しては言及されていない。で、おらは、部長の指示では “クルマでの移動はよし”とあるし、軍事施設の近くは危険だって理由で(実際そうなんだが)、十分会社への説明がつくと判断し、明日レンタカーでハンツヴィルから脱出する事に決めた。本社の上司に許可を得ようと電話したが外出してた。

さて、どこに行くか。ノース・ウェスト航空の成田直行便がある空港近辺の都市は、とてもハンツヴィルからクルマで行ける距離にはないから最初から諦めた。米国内線を1回使って成田まで行ける空港のある、ハンツヴィルから一番近い都市はアトランタだ。でもアトランタで容疑者逮捕されたって事でフライト禁止になっったんだから、アトランタに行くのはバカだし、アトランタにオーシャン・ヴューはない。それにアトランタには同じ部の社員6人とその客2人が留まってる。そいつらに合流し、その中では年長で役職も一番上のおらがリーダー役にされるのもうっとおしい。1人気ままにサヴァイヴァルするに越した事はないのだ。しかし行き先の選択の理由は聞かれるだろうから、必要以上に遠い場所に行くのは不自然だ。おらが1人で半日ほどで走れる距離っていう制限もある。そこで米国地図とにらめっこしてたら、真南に行った海岸沿いに、有名な都市があるじゃないの。しかもおらはまだそこに行った事がない。その都市にはUSエアー航空でシアトルまで一回乗り継ぎで行ける空港もある。ハンツヴィルから450マイルと、ちと距離はあるが、理不尽な遠さでもない。こうしておらの移動先は決まった。ニューオーリンズだ!

レンタカーの契約再延長と返却地の変更、ハンツヴィル・マリオットの明日の宿泊キャンセル、シェラトン・ニューオーリンズの宿泊予約をし、明日クルマで移動する旨の電子メールを本社と米国支社に送った。既に深夜だから、本社と米国支社のどちらにも今読まれる時間帯ではない。「ニューオーリンズはだめ」と言わたり、通達内容が変わってクルマでの移動を止められたりしたらかなわんから、明日は米国支社がオープンするまでには、出発するぞ。本社は明日は土曜で休みだからだから問題ない。ハンツヴィルは、ロサンゼルスにある米国支社と2時間の時差があるから10AMにでも出発すれば十分だが、ニューオーリンズまで距離もあるから安全を見て08AM出発とした。本社との時差-14時間、米国支社との時差2時間を使ったおらの緻密な作戦だ。寝床についたのは既に夜中の03AMであった。


9月14日(金)

06AMに起床し、ホテルをチェック・アウト。いったいここに何泊してたのか検討も付かなかったが結局4泊してたのね。「これからニューオーリンズまでクルマで行く」とフロントの女性に話したら、そんなに無理な距離でもないわねって。嬉しいねー。会社もそう考えて欲しいもんだ。「Take care.」ってお決まりの言葉を言われたのに対し、「そっちこそ気を付けろよ。なんせ米軍基地が近いんだからな」と言い残した。ホテルの売店に行って地図を買おうとしたら、昨日まで売ってたのに、「クライシスで売り切れ」だって。米国人は今回のテロをみなクライシスと表現してた。

予定通り08AM発。レンタカー4日間借りて、たったの14マイルしか走ってない。これなら、タクシーの方が安上がりだったなーとずっと思ってたが、これからの移動を考えると返却しないで正解だった。これから450マイル、720Kmのドライブだ。東京-名古屋間の倍ちょっとか。一人じゃちょっときついかなーとも思ったが、数週間前におらは250ccの二輪で1,200Kmを二日間で走りきってて、それを思えばたいしたことない。しかもハンツヴィルからニューオーリンズまでは、ほとんどInterstate Highwayってな本格的な高速道路だけで行ける。おらは米国で、下道も使った大雪の中での悲惨な超長距離運転の経験があるんだ。そんときゃ運転は二人で交代しながらだったけど、それに比べりゃ、やっぱり楽勝でしょ。クルマをよく見たら、米国のレンタカーではめったにないCDプレイヤー付きだ。しかも南部じゃ喫煙もうるさくないからか、灰皿もちゃんと付いてる。二輪に比べたら、CD聞ける、喫煙できる、エアコンある、背もたれつきの椅子はある、クルーズ・コントロールはあるはで極楽ドライブだ。

ただひたすら南に向けて走る。クルマは日産のSENTRA。ブルー・バードのことかなー?4速ATのべた踏みで、時速115マイル、約180Km/hの最高速だから、たぶん1.8リッター程度だろう。ハイウェイに乗ってから、一時間ほどして、そろそろ分岐路になるはずなので、一旦ハイウェイを降りて、ガソリン・スタンドで地図を買った。その他に、生ハム、ピーナツ、ひまわりの種、$4のカー・ナビを買った。方位磁石ナビだ。日本では売ってないキャメルも二種類買った。日本では見かけないキャメルが他にもいくつかあった。おらが買ったのは、“ウルトラ・ライト”と“スペシャル・ライト”を一箱づつ。成田の免税店で買った、マイルド・セブン・スーパー・ライトはあと3箱ほどしかない。おらが外国のタバコで唯一飲めるのはキャメル。パッケージ・デザインも好きだから、日本でもキャメル・ライトを吸ってるんだ。それにしても、キャメル買うのにゃ苦労した。「キャメル!」、「カメル!」と何回言っても通じない。最後は現物見せて買ったが、「カムル」みたいな発音された。固有名詞の発音にはこう言う事がままある。日本人のいない米国の田舎で一回でキャメル買えるやつはえらいぞ。クルマん中で地図を見ながら生ハム食べた。

再び高速道路に乗り、全てのクルマをぶっちぎりながら南へ向けて走りつづける。一人だと安心してとばせるなー。米国では、スピード違反で捕まった事ないし、オービスは見た事ないが、途中でパトカーに捕まってたクルマがあったから、バック・ミラーと、前方にパトカーが隠れられそうな場所に気をつけて走った。テロのあった北東部からひたすら南に逃げるように走ってるから、沖縄戦さながらって感じだ。前夜は3時間睡眠だったから居眠り運転が心配だったが、眠気は襲ってこない。今回の出張での睡眠時間は平均4時間ぐらいだから、もう慣れっこなんだろう。

燃料ランプが点灯した。できるだけ早くニューオーリンズに着きたかったから、空中給油機ならぬ、走りながらガソリン入れてくれる地上給油車がほしかったなー。でもそんなもんないから、高速道路を降りて給油した。11ガロン、約42リッター。\120/$として、約\54/リッター。レギュラーの他にプレミアムが2ランクあって、一番高いやつでこの値段だから、べた踏みしなきゃもったいない。

このクルマはシートが悪い。角度はいいがクッションが柔らかすぎるのか、尻が痛くなってきたのだ。おらはクルマを買うとき、シートには相当気を配る。ちょっと試乗するぐらいではなかなかわからんが、少なくともシートの座りごこちとヘッド・レストの角度が合うか否かは、絶対に譲れないところだ。このクルマのシートはおらの二輪車、ヤマハSRV250とトライアンフTT600より始末が悪いや。

それは、おらを抜いてくコルヴェットでも現れんかなーと思いながら、時速70マイル制限のハイウェイを、時速100マイル(160Km/h)巡航で飛ばし続け、タバコの火をを灰皿で消していた際の出来事だった。バック・ミラーに“シェリフ”と書かれたパトカーがあっという間に迫ってくるのが見えた。瞬時にアクセル戻したが「捕まる!」とおらは観念した。しかしパトカーは「止まれ」とも言わずに、追い越し車線にいるおらの横を追い抜いていく。その後に止められると思ったが、なんとパトカーの後ろを車間距離ほとんど無しで黒塗りのクルマが続き、おらのスピード違反なんかどうでもいいって感じで、どえらいスピードで走り去っていった。いったいありゃなんだ?想像するに、なんらかの非常事態で移動する必要のある重要人物を、飛行機使えないからパトカーが先導していったってとこだ。おら後ろのクルマの車種が知りたくて追っかける事にしたが、どんなに飛ばしても、追いつく事はできなかった。

とうとう尻の痛さに我慢できなくなって、休憩所にクルマを止めた。そこはもうミシシッピ州だった。めちゃくちゃ日差しが強く、暑い。道理で、道路の端々に破裂したタイヤが転がってるわけだ。トラックのタイヤだろう。それからは、尻が痛くならないように、両腿に体重乗っけて走った。これは効きめがあった。

あつーい!

方位磁石ナビはひたすら南を指してる。と、前方にパトカーが2台つるんで走ってるのに追いついた。2台は時速70マイル制限を時速100マイル程度ピッタリで走ってる。おらはゆっくり走るのが苦痛だから、なかばやけくそで、パトカーの後を距離を詰めずについて行った。捕まったら「パトカーについて行けばテロから守ってもらえると思った」とでも言おうかと、言い逃れを考えながら。そのうちとうとう眠気が襲ってきた。

あまりの眠さに、休憩所へ。そこは既にニューオーリンズのあるルイジアナ州だった。ここからニューオーリンズまではあっという間だ。休憩所にあったインフォメーション・センターの人が親切で、心配だったホテルの位置もめちゃくちゃ丁寧に教えてくれたし、ニューオーリンズの地図や情報もたっぷり仕入れることができた。なんかルイジアナ州っていい感じ。ややこしいのはルイジアナ州の記号がLAってことだ。LAといえば普通はロサンゼルスを指す。

03PMにニューオーリンズのホテル着。予定通りの7時間。ニューオーリンズ市内を除き途中渋滞もなく、州境での検問や料金ゲートもなく、快適で安全なドライブだった。昨年南イタリアをベンツのワゴンで縦横無尽に走った経験を持つおらにとって、米国でてこずる道なんてないだろう。マンハッタンでの運転を皆恐れるが、おらには道が分かり易くて走りやすいとしか思えない。米国での運転でちょっと嫌なのは道がわかりずらいボストンぐらいだ。それでも南イタリアに比べりゃ天国。

“汚れた英雄“にとても偶然とは思えない、今回のドライブに酷似する文章があった。

「パトカーにも捕まらずに、晶夫(おら)が運転するMGA(SENTRA)ツウィンカムは、百マイル平均でサンフランシスコ(ニューオーリンズ)に入った。」

早速、米国支社の駐在員に電話したら、所長が代わって出て、移動の件が問題になっていた事が分かった。なんと、部長の移動許可は部長の早とちりだったようで、本社の指示としては、「特別な場合を除いて移動可」としていたらしい。ただしおらの移動は“軍事施設の近くは危険”って事で許可されたようだ。許可されるもなにも、おらは移動許可が出た事に基づいて移動したのになー。だいたい本社通達だって「フライトの利用禁止」とあっただけで、今になってクルマでの移動まで「特別な場合を除いて」と制限されてもおら知らんがね。だから「なぜ移動したのか」と聞かれても、おらは移動許可が出た上での行動である事を伝えたし、また「何故ニューオーリンズなのか」という質問には、「危険なアトランタを除き、ハンツヴィルから比較的近くて、1回経由で帰国出来る空港があるから」と回答した。ちなみに「アトランタで容疑者逮捕」ってのは誤報で、容疑者が逮捕されたのはニュー・ヨークだったと。なんておらに都合のいい誤報なの!「まあ無事についたんだからよかろう」ということで尋問は終わり、「ニューオーリンズはジャズの町。JAZが好きなら楽しめる」と所長が教えてくれた。でも、おらの勤めてる会社って、こんなにいい加減で、堅苦しい会社だったの?こりゃ本社の上司への説明に難航しそうだ。まあ、おらは例え“軍事施設の付近は危険”を理由にしなくても、会社の“誤”指示には一切抵触していないから何も後ろめたい事はないが、ニューオーリンズの選択理由だけは難しいだろう。でも着いちゃったもの勝ちだな。

可哀想なのはアトランタ組。彼らのうち一人は西海岸のサンタクララ駐在員で、4人でレンタカーで帰ろうとしたんだが、許可されなかったらしい。まあ、4人いるとはいえ、アトランタからサンタクララまでは遠すぎるから、まともにやったら許されんだろう。作戦が甘いのだ。

それにしても、シェラトン・ニューオーリンズ42階の部屋からのこの景色の良さは、今までがひどかっただけに、まるで天国だ。ニューオーリンズが海岸沿いだと思ったのはおらの勘違いで、中心街は海岸から結構距離がある為オーシャン・ヴューではなかったが、ミシシッピ川が見える広々とした景色だ。おらはこの景色の為だけに会社のうるさい通達を掻い潜って無理をしたと言っても過言ではない。部屋の機能も全然いい。FAXがあるし、電話回線が二つあるからインターネット接続しながら電話をかけられる。そしてシェラトンの特別会員用クラブ・ラウンジが同じ42階にあり快適そのもの。シェラトン・ニューオーリンズはミシシッピ川の河岸に建っているわけではなく、唯一河岸に建っているまともなホテルはと言えばヒルトンだ。マリオットがシェラトンの真ん前にあるが、シェラトンの42階はマリオットをはるかに見下ろす。それにしても、しばらく都会を見てなかったからか、ニューオーリンズがどでかい都市に感じられる。

シェラトン・ニューオーリンズの部屋からの景色

おらはクルマを運転するときだけメガネをかけるが、今回の出張にはそのメガネの上にかぶせるサングラスを持ってきた。今回の長距離ドライブにはそのサングラスが活躍してくれたが、メガネのレンズが片方無くなっているのに今日初めて気がついた。サングラスが乗っかってるから、メガネのレンズが無くなってたのにのに気づかなかったのだ。数日前にメガネ踏んづけてフレーム歪めてから、たまに外れるレンズだったし、どうせキズだらけだったから、まあいいか。しかし、この出張ではいろんなものなくすなー。ここでもまたPCと格闘して、03AMに就寝。一歩も外出する余裕なし。


9月15日(土)

06AM起床。昨日は一回もテレビを見なかったが、今日CNNを一瞬だけみたらタイトルがAMERICAS NEW WARとなってた。CNNは鷹派か?

今日地図見て分かったが、メンフィスの方がニューオーリンズより、よっぽどハンツヴィルから近くて、かつシアトルまで経由無しで飛べる。これつつかれたらまずいなー。でも知らなかったんだからしょうがない。おら地理では落第点しか取った事ないし、南部に来たのは初めてなんだ。

デジカメのバッテリーがとうとう切れた。明日は6人乗りののエアー・ボートでスワンプ・ツアーなるミシッピー川の湿地帯にワニを見に行くツアーの予約を入れたので、どうしても写真を撮りたいのに!ホテルで5Vのアダプターないか聞いたがないと言われ、アダプターを買うのもバカらしいから、カメラ屋に行って「金払うからバッテリーだけ充電させてくれ」と頼んだがだめ。何とかしてアダプターを買わせようとする。アダプターの値段は$249.99となってたが、おらが店を出ようとすると、「$70にする」と。それでも帰ろうとすると「$60ではどうだ」と。すぐ横のカメラ屋に入ってまた充電頼んだがだめ。金払うって言ってんだから、いくら払うかぐらい聞いてくれても良さそうなものなのに鼻から相手にされない。でも、この店ではいろんなメーカーのデジカメの端子に対応してて、電圧も3Vから7Vまで対応するアダプターを$20で売るという。おらはそれを買った。ケースにはSale Price $99.99となってた。ここの店は随分良心的だ。「チョトマッテ」なんて日本語まで使いやがる。おらはニューオーリンズに着いてから東洋人はホテルで一人見ただけだが、普段は日本人が多いのか?いずれにしても米国でこんなインチキ臭いショップに遭遇したのは初めてだ。まるで東南アジアで買い物してるみたいで、ちょっとがっかり。

ついでに町を歩いてみた。まだまっ昼間なのにすごい活気だ。町にいるのはほとんどがアフリカン・アメリカン。ニューオーリンズはジャズの町との事だが、少なくともおらの歩いてる通りはR&Bの町だ。そこらじゅうのバーからどでかい音でR&Bが聴こえてくる。R&Bはおらの好きなジャンルじゃないが、夜にまた来てみよう。

典型的なフレンチ・クォーターの街並み

腹減ってたわけじゃないが、もう03PMだし、なにか食っといた方がいいだろうと思って、レストランに入った。おらが据わったカウンターの一つ空けた席に8点つけられる白人の美人が一人で座ってた。話しかけたら、ギリシャに旅行するため、ヒューストンからニューオーリンズに来たところ、テロで足止めくってると。スープを頼んだらうまかったが、8点女が驚いてるから、何で驚いているのか聞いたら、おらはtrout (鱒)と読んだつもりだったのが、turtle (亀)のスープだったのだ。確かにおらは亀の肉は嫌いだが、このスープはおいしかったぞ。ニューオーリンズでは、亀はスープのだしにはしても、食べる習慣はないらしい。crawfishというのがあったので「どんな魚?」とアフリカン・アメリカンのウェイトレスに聞いたけど、なんだかよくわかんない。で、ちょうど8点女が今食べてるのがそれだと言う。ライスにスープがかかってて、ぱっと見うまそうだったからそれにしたが、出てきたのを食べたら、スープの中になんか海老みたいなのがはいってる。「これ海老?」と8点女に聞いたら、海老ではないが…と彼女もうまく説明できない。んで、ウェイトレスに「これは海老かロブスターか?」と聞いたら、「どちらでもないけどロブスターを小さくしたようなもの」だと言う。最悪だ。最初からそう言え!後でわかったがこれはザリガニだった。まさかfishと名のつくものがザリガニだなんて・・・。ウェイトレスが「うまい?」と聞くので、適当に返事したけど、8点女には「おら海老類は嫌いなんだ」と言ったら、「タバスコかけたら」って言われ、それで臭みが消えるならと、たっぷりかけて食べた。8点女がなかなか席を立たないから、おら1時間以上彼女とウェイトレスと交互に話し続けた。ウェイトレスが「この町は夜も安全」というから、「おらはカラテ・マンだからそんなこと気にしない」と空手のポーズをして見せたらウケタな―。って事は冗談だと思っわれたんだろうか。実際おらは空手をやらんが、日本人なら空手やってて当然と思われても不思議はないと思うんだけど。でも8点女はおらをとろけるような瞳で見つめてた。ウェイトレスが「ナイフ出されたらどうすんのよ」と言うから、「ナイフなら大丈夫だけど、拳銃だけは勘弁だ」ともっともらしい事を澄まし顔で言うおら。そしたらウェイトレスが回りにいる店の大男連中にそれを言いふらすもんだから、「ちょっとオレ相手に空手を見せてくれ」なんて言われたらどうしようと冷や汗もんだったぞ。

8点女とウェイトレス

8点女もウェイトレスも今回の事件を怖がってた。遠く離れた都市で起こった事件なのにおらには意外に思える。おらはどうしても、このテロの恐怖をサーキットでのそれと比較してしまう。二輪でサーキットを走る時の危険はもろに自分に身近なものだが、いくら今米国にいてもおらにはテロが身近なものとは感じられないのだ。汚れた英雄“の主人公である北野になりきってたおらは、北野ならものにできると思いながら、8点女をどう攻めるか考えてた。普通ならホテルの電話番号と部屋番号を書いて渡すところを、日本人がスケベと思われるのも嫌だから、「日本に来る事があったら電話してくれ」とそのまま名詞渡して、帰り際に「時間があるなら夜に食事にでも誘ってくれ」とホテルの電話番号と部屋番号を名詞に書きこむつもりだった。ところが、彼女は男との待ち合わせだったらしく男がやって来て8点女とおらの間に座った!その男は待ち合わせ場所を間違えて隣の店にずっといたようだ。おらの名詞が彼女のカウンターに置いてあるのはバツが悪かったなー。でも部屋番号書かなくてよかった。北野だったらこんな状況でもなんとかしちゃうんだろうが。

ホテルに戻ったら米国支社の人間からおらの生存確認電話が留守電に残されてたので、コール・バックした。これまで毎日生存確認されてきたが、土日もかよ!駐在員の話によればアトランタも攻撃目標になってたとCNNでリポートされてたそうだ。結果論だが、会社の指示に抵触する可能性のある危険を冒してでも、アトランタでなく自分の行きたいところに来たおらの決断は正しかったのだ。おらは本能的に危険を回避する場所に移動してたのか?おらネズミじゃないぞ。まだアトランタに残ってるだろう連中が心配になってきた。やつらは脱出してるんだろうか。おらは、できれば拘留食らってて神経質になってるらしいアトランタ組とは関わりあいたくなかったが、その話を聞き、彼らがこの事を知らないかもしれず、ほっとくのもなんだと思い、何とかしてやろうと考えた。「今日はもう遅いが、明朝すぐに近くの別の都市に移れ。責任はおれが取る」とでも言ってやりたいところだが、それによって奴等にパニクられ、交通事故でも起こされるのは嫌だし、おらは会社の指示に反してまで奴等の命の責任を負うほどのお人好しでもないから、彼らには連絡せず、本社人事部に一報を入れる事にした。何回か電話したが日本時間の11AMを過ぎても誰もでない。土曜だから誰も出社してないんだ。土日も誰か置いとけって人事部に言っといたのにひどい会社だ。仕方ないから本社人事部の責任者の携帯に電話し、「アトランタが攻撃目標だったニュースを米国支社の人間から聞いたが知ってるか?」と聞いてみた。「知りませんでした。情報収集します」と。呑気なもんだ。おらは「アトランタの連中が神経質になっているからよろしく頼みます」と言って電話を切った。あえてアトランタ組は移動させるべきとは言わなかったが、言いたい事は通じたはずだ。あとは会社の判断に委ねるだけ。

これでおらはスッキリして夜の街に繰り出した。「コンニチワ」と話しかけてくるやからがいる。やはり普段は日本人観光客が多いんだろうか。でも、テロ事件の為に日本人がいないとしたらテロ前にいた日本人はどこへ行ったんだ?観光客だから会社のあほな指示に従って拘留される必要ないから、とっくに移動したんだろう。

町の怪しげなInofrmation Center前に突っ立ってたおっさんに、女のヴォーカル聴かせる店がないか聞いてみたら、その真ん前の “Sweet Katheleen’s DIXIELAND JAZ CLUB”って店で聴けると。店に入ってみると随分古臭いジャズ演奏だ。店の姉ちゃんに「女のヴォーカル聴けるか」と聞いたら「キャスリーンが歌うけど、いつ歌うかは分からない」と。とりあえずテーブルに座りこの土地のDIXIEビールを注文した。テーブル・チャージなしで$4は安い。キャスリーンはなかなか登場せず、古臭い演奏聴いてて眠気が襲ってきた。そういや昨日もあまり寝てない。仕事してないのになんでこんなに忙しいの?でもおかげで“汚れた英雄”の第3巻は手付かずだ。やっとキャスリーンの登場。50代か?でも、ジャズ・ヴォーカルは年齢いってる方が味が出るからよしとしよう。しかし同じような古臭いレパートリー。彼女が歌い終わったところで、おらはがっかりして店を出た。Dixieland ジャズってのがニューオーリンズのジャズらしい。だめだこりゃ。ニュー・ヨークでスムース・ジャズ聴いてるほうがよっぽどまし。

Sweet Katheleen’s DIXIELAND JAZ CLUB

町をさらにミシシッピ川方面に歩くとCYCIC PALMって安っぽい看板だしてる露天が、公園前の広場に延々とある。占いだ。変な町。

ホテルに戻ったら、入り口にアフリカン・アメリカンの5人程と白人1人の女達が立ってた。結構いい女ばっかじゃん。でもおらは食欲沸かず。部屋でまたPCと格闘し02AMに寝床。


9月16日(日)

08AM起床。この出張中はだいたい06AMには自然と起きるんだが、今朝はめずらしく目覚まし時計に起こされた。今日はスワンプ・ツアーがあるから目覚ましかけといたのだ。スワンプ・ツアーにも大きく分けて二種類あって、一つは30人乗りぐらいの船でゆっくり下流をめぐるやつ。もう一つは6人乗りのエア・ボートってので、川の奥深くまで行くアドヴェンチャー的なやつ。おらはもちろんエア・ボートのツアーを予約してあったんだが、今日の朝電話があり、テロで2人しか客が集まらず、キャンセルだと。そりゃ困るから明日はどうだと聞いたら、恐らく明日も無理だと思ったんだろう。今日のツアーでそんなに奥に行かないやつならあると。しかたないからそれにした。

朝食とりにクラブラ・ラウンジに行ったら誰もいない。ウェイトレスになんでこんなにすいてるのか聞いたら、クライシスにより団体客のキャンセルが相次いでいるからだそうだ。ウェートレスが、「あいつが憎い」みたいなことをいうから「犯人見つかったのか?」と聞いたら、ビンラーディンってのが犯人だと言う。「そいつは犯行声明発してるのか」と聞いても、知らないらしく、メディアが犯人として報道してるようだ。ウェイトレスはテロの実行犯に飛行練習をさせた事も随分非難してる。「アメリカ政府にも問題あるぞ」とおらは言った。今度は一昨日会ったカナダのビジネスマンがおらのテーブルにやってきて、「近々アフガニスタンと戦争になるかもしれない。アフガンをサポートしてるのはパキスタン。ロシアは米国側」だと。その後、米国人ビジネスマンが加わり、空港セキュリティの厳しさについて話し始めた。おらはテロ後の二日間ぐらいはテレビを見てたが、その後はテレビも新聞もほとんど見てなかったから、パキスタンが出てくるとは思わんかった。パキスタンは核を持ってるが、その核はインドに対してのものだから、ニューオーリンズまで届くような核ミサイルを持ってるとは思えない。でもおらはやっぱり無意識のうちに敵地から遠い、ニューオーリンズにやってきたのか?「イランとイラクは静観」と彼は言ってたが、NATO諸国対アフガン・パキスタン・イラン・イラクの第三次世界大戦なんて可能性があるかも。おらは初めて今の状況が尋常じゃない事態だと思い始めた。こりゃ、のんびりワニ見に行ってるような状況じゃないかもと思ったが、じっとしてても仕方ない。

今回のテロ事件で、おらはアメリカ市民のテロに対する考え方に違和感を覚えずにはいられない。テロを完全に防ぐのは不可能で、テロのなくなる社会にする事を考える方が大事じゃないの。米国市民は世界から自分らがどう思われてるのか正しく認識できてないんだと思う。そんな事を伝えるメディアは、米国には無いのだろう。米国の体質は、世界大戦前とあまり変わってないし、市民はメディアに振りまわされてる。また、日本が東京一極集中であるのに対し、米国は主用都市が分散しているから、リスク分散型の国だと思っていたが、こういう事態が起こると、ホワイト・ハウスのあるワシントンD.C.の比較的近くに米国最大の都市ニューヨークがある事にリスクを感じざるを得ない。ワシントンD.C.がロシアや中国から遠い東海岸にあることは、今まで米国にとって有利な条件だったが、今後もし中東の脅威が中国・ロシアのそれよりも増すとすれば、東海岸にワシントンD.C.がある事は有利とは言えなくなる。

おらは半年くらいなら米国に留まってもいいが、キャッシュが心配だ。キャッシュはクレジット・カードでおろせるが、クレジットになるから恒久的なものとしては使えまい。それより帰国できないと、サーキットとサーキット・マシンとテニスの相手を探さにゃならん。日本にあるサーキット・マシンは今使い物にならなくなってるから、こっちで買い直してもしかたないとは思うが、米国では世界グランプリ(WGP)が見れない。それにせっかく買った10月に行われるWGP@もてぎのチケットが無駄になる。そんときゃ、飯田氏に進呈するか。パドック券もあるぞ。WGPは別としても、米国に住むぐらいならおらは欧州に住みたいなー。

スワンプ・ツアーの現地に行ってから分かったが、エア・ボートのツアーは全然別の場所との事で、おらが参加したツアーは、なんと普通の船のツアーだった。最初からエア・ボートじゃないと言えよな!でも、ホテルまでの送迎付きで$22は随分安いし、何も見ないよりはマシと諦めた。せいぜい1.5mくらいのワニが計10匹ほど泳いでたり、ラクーンを3匹ほど見れただけの、いまいちつまらないものだった。マシュマロを投げるとワニが寄ってくる。おらがここで泳いだら、あのワニ連中とどういう戦いになるんだろう?なんてばかげた事を考えるおら。明日はエア・ボートに乗るぞ。でも客不足で無理かなー。全てのツアーに電話してやる。

それにしても、いつもの事だが、観光案内の英語は、早すぎて全然聴き取れんなー。映画なんかも、字幕見ないと全然わからんおら。こんなんじゃ、いくらトライアンフのスピード・トリプルを自在に乗りこなせても、CIAのエージェントとしてミッション・インポッシブル3の主役になれそうにない。せっかくフル充電してきたデジカメだが、スワンプ・ツアーの途中で動作不良となってしまった。

朝食時にはこのクライシスの中、米国に取り残された事への不安が募ったおらだったが、スワンプ・ツアーに行って気分が変わった。おっかながってる市民もいるにはいるが、ニューヨークから遠く離れたこの町では、みんな仕事したり観光したり、結局普段と変わらない生活してる。だいたい、戦争になったとしても、米国は憎らしいほど強大な軍事力、製造力、経済力を持ってるから、こういう時は、その憎らしい米国にいる事で却って安心を覚える。下手に日本にいるより安全かも。それに米国があれ以上本土攻撃されるとは思えない。

ニューオーリンズにはメジャー・リーグ(MLB)のチームがないのが残念だと思ってたが、それどころじゃない事に今日やっと気が付いた。中断してるMLBの行方はいったいどうなるんだ?数年前の選手会ストライキの年同様、ワールド・シリーズがなくなり、下手したらイチローの首位打者とMVPの獲得もお蔵入りなんて事になったらどえらい事だ。

ニューオーリンズには、ニューオーリンズ・セインツがある事を思い出した。アメフトのプロ・チームだ。おらはひょっとしてゴールド・セイントとして、アテナに呼ばれてニューオーリンズに来たのか。“なぜ、ニューオーリンズに来た?”には、いろんな説がありすぎて、自分自信混乱してきた。

夕方ノース・ウェスト航空のウェブにアクセスしてみたら、久々に正常に繋がった。ハンツヴィルを出るまでは、ウェブ・アクセスを試みても、電話しても、ノース・ウェスト航空にはなかなか繋がらなかったんだ。なんと、ニューオーリンズから乗り換え一回で済む、ミネアポリス経由成田行きの便があった。乗れるかどうかは分からんが、これでおらのニューオーリンズ行きは完全に正当化できるぞ。おらUSエアー航空のチケットを使う事にこだわり過ぎてたようだ。USエアー航空のチケットは、もともと払い戻し可能なものだし、今回のダイアの乱れで、ゾーン・ペックスのノース・ウェスト航空のチケットも、14日までのフライト予約が入ってたチケットは無料で払い戻しだの乗り継ぎ変更だのが出来る事になってるからシアトル経由でなくても問題ない。ノース・ウェスト航空に電話してみたら、これもあっという間に繋がって、明日のミネアポリス経由成田行きの便の予約が取れた!3席だけビジネス・クラスがあいてて、14日予約以前の客は、エコノミー/ビジネスのチケットに関係なく予約を入れてると。ってことはおらは帰国便をマイル引き落としでビジネス・クラスにアップグレードしてたが、そのアップグレードは次の出張時に使えるかも!(後日談:実際使えた。)ちなみに日航はウェブで見ただけだと、9月末までは満席になってるが、ノース・ウェスト航空のウェブでもこの先一週間は全て欠航になってたから、実際日航便の状況がどうだったのかは分からない。今回はどこの航空会社もウェブの修正までは手が回らなかったようだ。USエアー航空だけはその点テロ直後からウェブもちゃんとしてた。

日航なんかは、マイレージ会員の会員番号で、ウェブでも電話でも購入済チケットの確認ができるのに、ノース・ウェスト航空の場合、おらはゴールド・エリート会員だってのに、会員番号では購入チケットが検索できない出来の悪いシステムで、いつも辟易する。特にニューハンプシャー州にあるマンチェスター空港をよく利用するおらは、「ニューハンプシャー州のマンチェスター空港」と言っても英国のマンチェスター空港と間違えて、そんな予約はないなんて言われる事が続き、「米国ニューハンプシャー州の空港コードMHTのマンチェスター空港」とでも言わないといけないから面倒でしょうがない。今回分かったがノース・ウェスト航空の場合、ウェブでの予約確認には予約番号が必要で、電話でチケットの確認をするときもそれを聞かれた。でも予約番号なんてのはチケットには書かれていないのだ。また、ノース・ウェスト航空の場合は、マイルでのアップグレードの際、事前にノース・ウェスト航空のチケット・センターに出向いてアップグレード券を入手する必要がありめんどくさい。おらはそんなのにまともに相手をする気にならず、強引に空港で変更させるようにしてるがね。ちなみに日航の場合はアップグレード券を郵送してくれたり、出発当日に空港で受け取れる。ではなぜおらがノース・ウェスト航空を使うのか?大きな理由が二つある。一つはおらの勤務先がノース・ウェスト航空との契約で、片道を無償でビジネス・クラスにアップグレードしてくれるから。もう一つはこれも勤務先とノース・ウェスト航空との関係から毎年ワールド・パークス・ゴールド・エリート会員の延長が出来て、100%ボーナス・マイルがついたり、米国国内線のファースト・クラスに空きがあれば自動的にアップグレードしてくれるなど、特典がすばらしいからだ。それに米国系であれば、米国内線は同じ航空会社であれば追加運賃がかからないってのも魅力だ。ちなみにおらは主に日本国内で使う日航のJALグローバル・クラブ会員でもある。

急に帰国便の予約が取れて、なんかおら拍子抜けしたなー。ダイアの乱れは正常に戻りつつあるようだから実際に帰国できそうだ。おらは少なくとも、もう一週間は米国に滞在しなきゃならんものだとばかり思ってたから、次はどんな理由付けて、どこに移動しようかと考え始めてたのに。でも、これで予定している夏季休暇に間に合うから嬉しいぞ。あとは今夜の会社の指示待ちだ。「まだ待機しろ」とか、「米国系のフライトはだめ」とか言われるかもしれないのだ。

今日は本社が月曜日。日本時間の0930AMに東京本社に電話した。ニューオーリンズに移動してから初めての本社への連絡だ。会社の方針はまだ何も決まっていないと。人事部のやつらは土日に何の打ち合わせもせず、今日も定時出社してるんだろう。ほんと呑気なもんだ。現地にいる人間と、遠く離れたところにいる人間とでは、クライシスに対する意識に違いがある事はわかるが、今回はちょっとひどいんでない。顧客への配慮からY2Kではあんなに大騒ぎして正月返上だったのに、社員の安全に対する意識の低い事といったらない。こんな会社にいるおらはあほらしくなってきた。フライトの予約が取れた事を上司に伝えた。案の定、「なぜニューオーリンズなんだ?」という話になった。アトランタは危険だという情報だったし、経由一回で飛べる近郊の都市だからと伝えたら、そう深くは突っ込まれず、むしろニューオーリンズに関する知識を与えてくれた。ホッとしたおら。

スワンプ・ツアーの際に時間が無くて食べ損ねたワニを、夜食べに行った。ワニ肉のフライ(fried alligator)を注文したが、味は鶏肉みたいなものか。どのレストランもたいがいバンド付きだ。この店のバンドはDixiland ジャズではないが、ゲテモノ演奏でうんざり。昨晩よりも足を伸ばして町を歩いてみたが、やはり活気がある。カジノもあった。ニューオーリンズは夜道も安全だ。

ワニ肉のフライ

日本が01PMになるちょっと前にホテルに戻ると電子メールがわんさか来てた。まだ正式な通達は出ていないが、フライト利用の許可がおりたそうだ。ホントあっけない幕切れだった。いざ帰れるとなると、もう夏期休暇はどうでもいいから、従軍記者として米国に留まりたくなった。エア・ボートでのスワンプ・ツアーもこれではかなく消えたし、相手側の事情もあるから仕方ないが、出張目的の仕事を残して帰るのはテロに屈したようで、なんか気分悪い。

非公式な通達が出た。それには、「業務を終えたものは」帰国しても良いとなっていたので、おらは上司に「まだ業務が終わっていないがどうするべきか」判断を再度確認したが、B社の人間からの交渉実施に対する否定的なコメントもある事から、「帰国せよ」と。おらもこういう状況で、米国人に対し強硬な態度を示す必要のある交渉は無理と考えていたので、納得した。その後の本社公式通達では、「即刻帰国」に変わっていた。しかし非公式な通達であったとは言え、これだけの期間、社員を缶詰にしておいて、業務を済ませてから帰国しろとは、なんて会社だ。米国支社の駐在員に電話し、帰国便を伝えた。「これからは日本にいるおらよりそっちの方が危険になるから、戦争が恐くなったら、いつでも交代してやる」と言い残した。

アトランタ組からも電子メールが来てた。ここでは触れないが意外な内容だった。携帯電話の番号も書かれてたので初めて電話で話しができた。彼らと一緒だったお客さんが正規料金で買ってリコンファームまでしたチケットが、いざとなったら欠航でもないのに使えなかったらしい。アトランタの危険性については奴らも知ってた。それにしても、やつらは今回の件で会社への印象悪くしたろうなー。おらまでとばっちり食ったかも。他の部署の出張者はたぶんそんなにうるさい事は言ってないはずだ。おらはB社に電子メールを送り、明日帰国する事を伝えた。

明日は0735AM発の便に乗る。セキュリティー・チェックが厳しいから、3時間前には空港に来るようノース・ウェスト航空から言われてるから0430AMには空港に着きたい。ホテルから空港までは30分ほどで行けるようだが行った事ない空港だし、レンタカーの契約はハンツヴィルで借りて以来、何回も内容を変更してるから、返却でもめる事が十分考えられ、03AMにはホテルを出なきゃいかんだろう。既に01AM過ぎだから、出発まで寝ずに本書を執筆し続ける事にした。

さすがに、このホテルでも聴きまくったハープは眠気を誘うから、おらはまだ唯一今回の出張で聴いてない、AGNETHA FALTSKOG/THATS ME ?THE GREATEST HITSを取り出した。おらが愛するアグネサ。最後の晩にふさわしい一枚だ。


9月17日(月)

今日は時間刻みの記述だ。

0230AM:万が一寝てしまってもいいように目覚まし時計をセットしておいたが、本社の上司が親切にもモーニング・コールしてくれた。そんときゃ、おらは03AM出発を03AM出発準備開始と勘違いしてた。本書の執筆を止め、シャワー浴びて、身じたく開始。

0300AM:ホテルをチェックアウト。高速道路までの道のりは、一方通行だのUターン禁止だので当惑したが、まだ暗いし、町にクルマなんかほとんど走ってないから、ルール無用で走った。

0330AM:レンタカー返却場所着。システム・ダウンで精算できずレシートを後で送ると言う。今回は度重なる延長あり、返却場所変更ありで、後日精算ではトラブルの元となりかねないし、会社での精算が二度手間になるから、システムの復旧にどのくらいかかって、空港までのシャトル・バスはどのくらいの頻度で出るのか聞いたら、15分でシステムは復旧し、シャトル・バスは10分毎に出ると言うので、システムの復旧を待った。

0400AM:レンタカー返却場所発。

0405AM:空港のノース・ウェスト航空カウンター着。乗客が10人ほど列をなしているが、カウンターには航空会社の人間は誰もいない。こういう時、エリート会員は重宝する。誰もならんでいなかった、ファースト・クラス用の場所におらは一人ならんだ。

0500AM:やっと航空会社の人間が来た。おらは、真っ先にチェックイン。セキュリティー・チェックがかなり厳しいだけでなく、機内持ち込み荷物も制限されると聞いていたが、バック二つとも機内持ち込み可能だっただけでなく、セキュリティー・チェックでいつもと違ったのはゲート前でIDの提示を求められた事だけだった。従い、定刻出発するまで、2時間半もゲート前で待たされた。眠くて本も読めない。おらはちょっと寝てしまったようだが、搭乗時には起きてた。あやうく熟睡するところだったよ。

0735AM:定刻出発。機内ではシートに座った時点から着陸ちょっと前まで熟睡。

1020AM:ミネアポリスに定刻着。空港内で牛肉の細切れハンバーガーと、チキンの細切れハンバーガーを食べた。初めて食べたものだがおいしかったなー。空港ラウンジに向けて歩いている時、メガネを機内に置き忘れた事に気がついた。またやったよ。でも、着陸した場所のカウンターに戻って、座席番号の書かれた半券見せたら、係員が飛行機に探しにいってくれてすぐ見つかった。だんだん、運が向いてきたぞ。

ミネアポリス空港にあるノース・ウェスト航空のラウンジはすごい。受付の姉ちゃんに「たばこを吸いたいが、一番近い空港出口はどこ?」と聞くと、ラウンジの中にあると。嘘みたいだが、ほんとにあった。これは米国の空港としては珍しい事だ。サービス悪いし、機内食はビジネス・クラスでもどえらいまずい等欠点は多々あるが、ビジネス・クラスのシート間隔が随分広くなってたし、ノース・ウェスト航空で大正解だ。ラウンジでは喫煙室近くのPCおたく用の電話回線・電源コンセント付きデスクで本書を執筆した。国際線の発着まで4時間ある。おらは前夜からこの4時間が心配だった。寝ちゃって乗り過ごす可能性がかなり高いと思っていたからだ。今のところまだ少し眠いだけ。ラウンジを一回出て、免税店に寄ってみた。途中The CardigansのLove Foolが聴こえてきた。久々に聴くリズムが、なんて心地良いんだろう。免税店のマイルドセブン・ライトが$21だって。日本で買う値段と同じじゃん。ここ数年米国の空港内免税店はどこもこんなだ。機内で買うのが一番安い。結局何も買わず。

近々にMLBも再開されるみたいだ。全て順調。あとはイチローの首位打者とMVPとワールド・シリーズ出場だ。“汚れた英雄”の第3巻もまだ全然読んでないから、帰国便では不自由しない。でもたぶん熟睡だろう。まずい食事食わずに済むしそれもよし。

0200PM:帰国便の搭乗アナウンスが流れた。機内にあった日本の新聞を一目見てびっくり。日本の新聞だと一面見出しを見ただけで今回のテロの状況がよく分かる。英字新聞の見出しは特殊な英語だからおらには難しい。日本の新聞の見出しも普段気が付かないだけで、特殊な日本語が使われてるんだけどね。“ビンラーディン氏”と“氏”がついてるのにもびっくり。米国では“Mr.”はついてなかったと思う。“米地上軍投入も視野”とある。ホントか?アフガンにはソ連も勝てんかったんだぞ。湾岸戦争とは違って、ヴェトナム戦争の二の舞になるんじゃないか?だいたい前述した用に、テロに対する反撃して、例えビンラーディンを捕らえても、米国の横柄さに対するテロへの根本的な問題解決にはならんと思う。

機内に入ったとたんに寝だしたおらだが、日本人フライト・アテンダントに大きな声でおらの名前を繰り返し呼ばれ「食事は何がいいか?」と起こされた。ほっといてくれよ。

機内でアトランタ組の1人に偶然会ってあれこれ話した。客も一緒。

CDプレーヤーのリモコンが機能しなくなった。今回の出張は、なんでこうも失くしもの有り、壊れ物有りなんだ?次に壊れるのは今乗ってる747か?

今回の米国拘留出張を振り替えると、おらいったい何しにいったんだって感じだが、体調と天候だけはバッチリの10日間だったのが幸いだ。しかしホテルに強制的に拘束される心情は経験者でなければ解かるまい。そういったストレスもあったのか、もともと短気なおらだが、今回予約変更やらなんやら、いろんな事でうまく行かないと、つい大声で喧嘩腰になる事が多々あった。でもどこの国でもこれが一番通用する。

今回こんな状況下でもハンツヴィル・マリオット、シェラトン・ニューオーリンズとも、おらはメンバーズ会員だったおかげで、どちらもクラブ・ラウンジが使える部屋にアップグレードしてくれたから、拘留状態の辛さは別として、優雅なホテル生活を味わえた。ちなみにおらは、このマリオット系とシェラトン系のメンバーズ会員になっているだけでなく、ヒルトン、ハイアット、バス・リゾート(インター・コンチネンタル/クラウン・プラザ/ホリデーイン)のホテル・メンバーズ会員になってる。全て無料。会員だと予約もしやすいので旅のプロフェッショナルには必携だ。


9月18日(火)

05PM成田着。フライトは結構寝れたから楽だった。日本で見るテレビの映像にはビックリだ。世界貿易センター・ビルが崩れ落ちていく様は、米国では放送してなかった。米国ではあの映像は放送禁止にしていたようだ。


9月19日(水)

出社したところLANが止まってる。たまにあるシステム・トラブルと違って、社内LANは復旧したが、社外とのアクセスができない。明日から念願の夏季休暇で沖縄に行くから、何とかその日のうちに電子メールの処理を済ませたときには、時差ぼけによるものか、疲れからか、眠くて死にそうだった。帰りの電車では、立ちながら満員電車でコックリ・コックリやるもんだから周りに嫌がられたなー。


9月20日(木)

宮古島に着いた。イチローのいるマリナーズが優勝した。MLB再開後二日間で二連勝しての優勝だ。既にワイルド・カードでのディヴィジョン・シリーズ出場が決まっていたし、テロ後とあって試合後に派手さはない。MVPはイチローかブーンと言ってる解説者がいた。ブーン?それならおらは、中継ぎだから記録上は目立たんが、佐々木よりも安定している中継ぎのローズをおしたい。

会社のPCを持ってきたはいいが、会社のシステムはまだ外部からのLANへのアクセスができない。昨日のトラブルは会社のシステムの問題じゃなく、ファイアー・ウォールにプロテクトかけてたらしい。全世界の多くの政府機関や民間企業が、社内に1台でも感染したPCがあればネットワーク全体に影響が出るという、強力なコンピュータ・ウィルスにやられたらしい。米国出張に引き続きhotmailに頼る日々が続く。hotmaillよ、死なんでくれ。

宮古島にて


9月23日(日)

宮古空港から羽田への便に乗る直前、劇画やドラマの主人公が一難去った後、つまらん事で死ぬ法則を思い出し、念の為本書の原稿を自宅のPCで使う電子メール・アドレスに送信した。宮古島での休暇も、ほとんど本書の執筆に費やしたおら。


あとがき

おらが一連の事件とは一切の関係がない事をことわっておく。なんせ全くの偶然ながら、おらが出張後にすぐテロが発生し、帰国翌日に日本のネットワークが強力なウィルスに攻撃され、その翌日におらは宮古島まで逃避しているから疑われてもしょうがないのは重々承知しているが…。本書が米国政府の目に触れたら、おらはCIAに尋問されるだろう。

今回のテロ行為により、犠牲になられた多くの方々やご関係の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

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