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金烏と玉兎(仮)


世の中の「歪み」を解消いたします−誰に頼まれた訳でもなく、ただ自分たちの為に。
辿りつくべき場所は、まだ、遠い。

 少年が空を切る勢いで、肩の高さまで腕を振り上げた。ぴんと延ばした腕に纏い付く様に何かが集まって来る気配がする。
「よせ、場が乱れる」
少年の背後から冷静な声が制止をかけるが、集まって来る勢いは衰える気配を見せず、徐々にぼんやりとした輪郭を形作っていく。
「白ける事言うなよ、これからこの」
一端言葉を切った少年が、伸ばした腕を顔の前に持ってきて手の甲辺りに口づける。
「俺のかわいい白兎ちゃんが大活躍するってのにさ」
目線だけを上げて、青年に向ってにやりと笑って見せる。
対する青年は、その言葉と表情に嫌そうに眉根を顰めている。
「お前もぼーっとしてねーで、早いとこ俺をかっこいいカラスちゃんに会わせてくれよ」
よどみなく続けられる少年の言葉に青年はただため息をついて、右手を振り下ろす。
ビシ、と地面がはじける鋭い音がして、いつの間にか青年の右手は淡く白金に輝く鞭が握られていた。
「そうそう、ようやくその気になりやがったか…」
騒乱の気配に、少年は嬉しそうに口の端を上げる。目線の高さに上げていた腕、それに纏い付くようにして現れた金色の剣を勢いよく振り下ろして、そのままの勢いで地面を蹴る。目指す先にあるのは闇色の靄…彼らが呼ぶところの『廃棄物』である。
 少年がそれら『廃棄物』に辿りつく直前、その靄の一部が盛り上がり、それまでのゆっくりとした動きからは考えつかない程の早さで、針のようにとがった先端が少年に向かって伸びる。
「…ちっ!」
少年が鋭く舌打すると同時にひゅん、と風を切る音がして、青年の手にあった鞭がしなり、その針を叩き落す。ぱりん、と、まるで薄いガラスが割れるような音がしてその針は霧散し、鞭と同じく淡い白金に染まった欠片はその後一瞬で鞭へと収束し、吸い込まれて行く。
「助かったぜカラスちゃん、それでこそ相棒っ!」
少年は一声叫ぶとそのまま靄の蠢くど真ん中へと突っ込んで行く。
「…っりゃあ!」
掛け声と共に切り下ろし、薙ぎ払い…そうして、わずかの間に、あたり一面に広がっていた靄を蹴散らしてしまうと、少年は満足そうに息をついた。
「どうよ、俺のこのかわいい白兎ちゃんの活躍は?」
自慢げな少年の言葉に青年は、器用に片眉を顰め、その右腕を再びしならせる。
「…!」
少年の耳に風切音と、頬に微かな痛みを残して、鞭の先端は少年の背後、わずかに残っていた靄を霧散させた。
「相変わらず詰めの甘い…」
「…っぶねーなぁ、おい…。でもま、助かったぜ、サンキュ」
青年の言葉が聞こえなかったのか、微かに切れた頬を手の甲で拭ってから明るく笑い、青年へと近付いて行く。そのまま青年の腕を取る様にして元来た方向へと歩き出す…その腕には既に、光る剣の姿はない。青年の右手の鞭も同様である。
「本日の廃品回収終了っと。さ、帰ろうぜ」
青年の、『もはや返す言葉なし』とでも言わんばかりのため息を供に、少年は青年を引きずるようにして、夜の闇の中へと姿を消した。

<終わり>