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| 「ええと、高城時計店…ここ、だな」 カーナビと地番を頼りに、下町の商店街の中にあるその店を無事発見した葉子と祥一は、その戸口に立った。 『高城時計店』と書かれたガラス戸は閉まったままだったが、営業中の札がかかっていたので、葉子は遠慮がちに戸を開け、中へと入っていった。 「すみません、あのー…」 店内には人気がなかった。しかし微かに奥の方から人の気配がするような気がして、少し大きめの声で奥に向かって呼びかける。しばらくすると奥からひょこりと顔を出した男がおや、という顔をする。 「いらっしゃい。ちょっと待ってね」 男は葉子が何か言おうとするのを見越したようににっこりと笑い、言い置いて再び奥へと引っ込んだ。 どういうことだろうかと祥一と2人顔を見合わせていると、先ほどの男と良く似た、しかし明らかに愛想が何割か足りていない男が出てきた。 「いらっしゃい。」 先ほどの男とは違い、こちらはにこりともせず低い声で告げる。男の年齢は30代前半の祥一とそう変わらないように見える。 「あの、この預り証なんですけど…」 葉子は人形と一緒に出てきた預り証を男に見せた。それをちらりと見ただけで、男はああ、と頷いた。 「修理は出来てる。もうちょっと待ってくれ」 「お待たせ。よいしょ…っと」 その声にかぶるように先ほどの男が、先日葉子たちが見つけたのと同じ位の木箱を抱えて奥から戻ってきた。 そしてそれをそっと、ショーケースの上に置いた。 「で、かなえさんは?」 どうした?と視線で促したのは後から出てきた方の男。 「香映君、大丈夫だよ。かなえちゃんの…そう、多分お孫さんかな?彼女の若い頃によく似てる」 ね?と柔らかく微笑みかけられて、まるで若い頃の祖母をよく知っているような口ぶりに不思議な気持ちではい、と頷く。その男がどうみても40以上に見えないだけに、余計違和感が募る。 「あの、祖母が先日亡くなって、それで…」 「ああ、そう、亡くなったのか…」 男がしんみりと、昔を思い出しつつも寂しそうな顔つきになるのを横目に、香映と呼ばれた男は木箱の蓋を開け、中身を葉子達に見やすいように箱の位置を少しずらした。 中を見た葉子と祥一は思わず声をあげる。もう1体の人形と同じく、古い人形とは思えないほど綺麗なその人形は、写真で見た、昔のかなえに良く似ていた。 「確認してくれ」 そう言われて、葉子と祥一は顔を見合わせた。 「私達、実は祖母が亡くなって遺品を整理しているときにこれを見つけたんです。だから何処が壊れててどう直ったのか、確認しようにも…」 「…そうか。ではどこも壊れていないかどうかでいい、確認を。幸い製作者本人が見付かったからな、大丈夫とは思うんだが。あ、それから代金はもう貰っている」 「え?作った人、まだいらっしゃるんですか?」 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。祖母の結婚当時の作品ということで、既に製作者は死んだものと勝手に思いこんでいたのだ。横を見ると同じ思いなのか、祥一も目を丸くしていた。 「ああ、まだいるぞ。もっとも、現役ってわけじゃないらしいがな」 香映は人形の足をそっと持ち上げ、足の裏を葉子と祥一の方に見えるようにする。 そこには『玖珂理』と書かれてあった。 「くが、り…?」 「へぇ、これヨーロッパとかそっちのだと思ってたけど違うんだ」 その問いには、時計店の2人は良く似た笑みを僅かに浮かべるだけで答えは返ってこなかった。 「…はい、大丈夫だと思います」 葉子が人形を抱き起こして、壊れた個所がないかどうかを確認して頷いた。 「それ、俺が持つよ。車に運ぼう」 祥一が言うのに甘え、箱の中に入れ直した人形を祥一が抱え、店の外へと運び出す。その後についていこうとした葉子に、香映が声をかけた。 「ああ、アフターケアは1度だけなら受け付ける。応急処置ならともかく、本格的な修理はさすがに製作者じゃないと無理なんだが、あの人も隠遁生活長いからな。取次ぎももう1度だけならサービスしとくよ」 振り返った葉子は、僅かに笑みを浮かべた香映を見て、その笑顔が思いの他暖かい事に気がついた。多分、普段この香映という男にとっては過分な譲歩だろうと言うことにも気がついていた。 「どうして、そこまで…」 「かなえさんはお得意さんだったからな」 ふい、と横を向く香映の様子がまるで照れているかのようで、葉子は思わず笑みを浮かべていた。 「また遊びにおいで。ええと…」 もう一人の男が暖かい笑みを浮かべて手を振っていた。続きが何を促しているのかを悟った葉子は、笑顔のまま名乗った。 「葉子です。木原葉子」 「そう、ようこちゃん。またね」 葉子は二人に向き直った。 「ありがとうございました」 笑顔でぺこりと一例すると、葉子は今度こそ戸を開け、祥一の待つ車へと歩いていった。 車に乗りこんだ葉子は、祥一へと話しかけた。 「ねぇ、この人形、伯母さんに見せに行きたいんだけど…」 「そりゃ母さんも喜ぶよ」 祥一も笑顔で頷き、二人は受け取った人形を見せに祥一の家へと向かって車を走らせた。 ◆◇◆◇ 「てことで無事持ち主の孫の手に渡ったぜ。…ああ、そうだ。あんた、気にしてただろ?」 葉子と祥一が帰った後の高城時計店、店内。受話器を片手に店主の香映は少し笑みを含んだ声で報告を入れていた。 「ああ、似てた。…なぁ、たまにはこっちにも出て来いよ。いつまで篭ってる気なんだ?」 受話器からはぼそぼそと、相手の返す声が聞こえてくる。それに楽しそうに笑い声を上げる。 「ん、じゃあまた…ああ、今変わる。名柄、あんたに変われってさ」 香映が楽しげな表情のまま、受話器を名柄、と呼んだ、自分に良く似た男に渡す。 香映は名柄と目線で挨拶を交わすと、電話口で話す名柄の声を聞きながら、楽しげな表情のまま自分の仕事場へと戻っていった。 <終わり> |