8月9日
(晴れ



 ヴァチカンは世界一小さな国家であり、世界一有名なカトリック教会でもある。日曜や祝日には教皇宮殿のバルコニーに法王が現れ、サン・ピエトロ広場に集まった群集に祝福を施す。

 さて、いざヴァチカンに入国〜と意気込んでみても、ねえ、どこからがヴァチカンなの?と悩んでしまう。国境も何もない。テヴェレ川のほとりからコンチリアツィオーネ通りを西に進むとサン・ピエトロ広場に到着する。カトリックの総本山サン・ピエトロ寺院の前に広がる壮大な広場。南北に長い楕円形をしていて直径は240m、30万人を収容できる。ここはネロ帝が聖ペテロを処刑した場所でもある。



サン・ピエトロ広場



 いよいよサン・ピエトロ寺院に入る。キリスト教を公認したコンスタンティヌス帝が324年に着工した。その後1506年からブラマンテ、ミケランジェロらの設計により再建された。歴史も規模も芸術性もカトリックの総本山にふさわしい。入り口から入場しようとすると警備のおじさんが僕を指差して「NO」と言っている。



あ〜そうか、PETボトル持って入っちゃいけないんだ!



 持っていたPETボトルをリュックにしまい、再び入場を試みる。
警備のおじさん、今度は僕のほうまで寄ってきて

「No!」



 なんだこいつ、日本人をバカにしているのか!
仏教徒はダメなのか!このヤロー


しかしよく話を聞くとどうやら僕の
短パンが気にいらないみたいだ。



 そうなんです。キリスト教の聖地だから、短パン、ノースリーブなど肌を露出する格好での入場は認められていないのである。理不尽に思えるがそこは文化の違い。日本人にとっては法隆寺の本堂に土足であがるようなものだ。ということで今日の入場はあきらめた。明日また来よう。

 という訳で、隣接するヴァチカン美術館へ行った。貴重な美術品が集まるローマの美術館のなかでも、所蔵の点数、重要性で群を抜く存在。展示品は歴代法王の個人コレクションと、礼拝堂や居室への装飾からなり、時代的には古代ローマとルネッサンス期のものが多い。



ラオコーン像 壁画(ラファエロ作アテネの学堂)



 天井見ても壁見ても、あらゆる作品がミケランジェロ作、ラファエロ作・・・なんて贅沢な美術館なんだ!そんなヴァチカン美術館の目玉がシスティーナ礼拝堂の祭壇画、ミケランジェロの最高傑作「最後の審判」だ。システィーナ礼拝堂は写真撮影禁止。こっそり撮影できそうだったが、作品のあまりのすばらしさに隠し撮りする気持ちも起こらなかった。


 さて、皆さん「ローマの休日」という映画をご存知ですか?オードリーヘップバーン演じるアン女王とグレゴリーペック の扮する新聞記者 ジョーブラッドレーとのラブストーリーだ。ストーリの面白さだけではなく、オードリーの魅力が満載の名作である。



「ローマの休日」から オードリーへップバーン


 
 そのローマの休日で一躍有名になった場所がスペイン広場。スペイン広場は近くにスペイン大使館があったことからその名が付いた。広場の中央には、ピエトロ・ベルニーニの手によるバルカッチャの噴水がある。映画ではオードリーがジェラート(アイスみたいなもの)をほうばるシーンがあったが、現在この場所での飲食は禁止されている。階段に腰掛け、オードリー気分でジェラートを舐めることはできない。残念。



「ローマの休日」でのスペイン階段 左と同じ場所



 普通夏の観光シーズンはこのあたり身動きも取れないくらい混雑するらしい。でもこの日は空いていて階段を一人占めしちゃった・・・



スペイン階段 バルカッチャの噴水



 古代から水道施設の発達しているローマでは、街のいたるところで泉が見られる。きれいで冷たいこの泉の水で喉を潤す人も多い。ただし硬水のため日本人の口には合わないらしい。しかしバルカッチャの噴水から滴る水があまりにおいしそうでついつい飲んでしまい、見事次の日は下痢になった。



 続いてはトレヴィの泉。肩越しにコインを投げ入れると、ローマにまた来ることができるという伝説で知られている。もちろん僕もまたローマに行きたかったので、伝説に則りコインを投げ入れた。



PETボトルの中身はバルチャッカの噴水の水 トレヴィの泉




ガイドブックにはこのように書いてある。「ローマの7つの丘の中で最も高いクイリナ-レの丘からはかつては緑に覆われた貴族たちの別荘地だった。16世紀にグレゴリオ13世が夏の離宮としてクイリナ-レ宮を設け、今は大統領官邸として使われている。西方に、サン・ピエトロ寺院の美しい姿が見える。」と・・・これを信じて真夏のイタリアをひたすらに歩いた。で結論!



そこまでして見に行くべき場所ではなかった!よって写真もなし!




 日も傾きかけ、幾分日差しも弱くなってきた。これはチャンスと少し離れた「真実の口」の見学に行くことにした。ここも映画「ローマの休日」で一躍有名になった場所だ。大理石に彫られた海神トリト-ネの口に手を入れると、嘘つきは手が抜けなくなるという伝説がある。また古代にはマンホールの蓋として使われていたとも言われている。



僕はちゃんと手は抜けました。



 この「真実の口」の近くにはチルコ・マッシモという巨大な競技場跡がある。映画「ベン・ハー」に登場する4頭立て戦車レースが行われたのがここだ。最盛期には30万人の観衆を収容することができたという。



チルコ・マッシモ



 ここからしばらく歩くと、古代ローマの政治、経済、宗教の中心地、フォロ・ロマーノに到着する。かつては市が立ち、巫女が祈りを捧げ、会議が開かれ、皇帝が凱旋行進を行った。数々の建造物が建ち並んでいたが、283年の大火や5世紀のゲルマン人の侵入などによりやがて荒廃してしまった。



遠くにコロッセオを望む マクセンティヌス帝のバジリカ
元老院内部 今は廃墟と化している。



 元老院とは共和政時代にカエサルらが活躍した政治の最高機関である。いわば国会。今は完全な廃墟となっているが、往時はどんなに華やかだったかと考えると松尾芭蕉のこんな歌が思い出された。




さても擬義臣直ぐってこの城にこもり
功名一時の草むらとなる
国敗れて山河在り城春にして
草木みたりと笠うち敷きて
時の移るまで涙を落としはべりぬ


夏草やつわものどもが夢のあと
   



つわものどもが夢のあと



 



 ホテルに帰る地下鉄の中は非常に混んでいていかにもスリがでそうな雰囲気だった。僕はローマではベストのチャックにはカギをかけていたし、パスポートもズボンの下に隠してあったので「来るなら来い、このやろう」とで〜んと構えていた。すると10歳くらいのジプシーの女の子が僕のほうに寄ってきてなんかモジモジしている。もしやと思いベストを見てみるとチャックをこじ開けようとした跡がある。すぐにその女の子の腕を掴み払いのけた。しかしこっちが気づいて抵抗しているのに強引にチャックを開けようとする。ちょっとむかついて本気で腕を掴んだら、まわりにいた男性から「子供だから・・・」と諭された。まあ何も取られなかったし、よく考えたらこんな歳でスリをしないと生きて行けないジプシーがかわいそうだったので許してあげることにした。しかし、次の駅で降りた彼女は僕に向かってこう捨て台詞をはいた。




「ニーハオ」





今度は絶対しばいてやる!




 
 今日の夕食は昨日チャーハンを温めてもらった中華料理屋に行くことにした。中に入ると3人のアジア人女性が食事中だった。最初は韓国人だと思っていたがこっそり話を聞いているとどうやら日本人らしい。ノルウェーで出会ったO山君以来日本人としゃべっていない気がした僕は思いきって仲間に入れてもらうことにした。3人ともフィレンツェで料理を学んでいて、小旅行でローマに来ているらしい。しかも偶然泊まっているホテルも一緒だった。話も弾み、久しぶりに楽しい食事ができた。


 今夜も夜のローマを楽しみに出かけることにした。目的は昼に行ったトレヴィの泉のライトアップ。地下鉄に乗ると中学生くらいの男の子グループに遭遇した。彼らは僕を見つけるなりこう言った。


 



「なんで中田はローマからパルマに移籍したんだ?」




ローマの中学生へ


 僕はサッカーは詳しくないのでごめんなさい。分かりません。そんなことは本人に直接聞いてください。それともう一つお願いなんですが、僕の顔を指差してみんなで「ナカタ、ナカタ」と叫ぶのはやめてください。全然似ていません。むしろ




僕のほうがいい男です!




たぶん・・・


 地下鉄を降り、しばらく夜道を歩いてライトアップされたトレヴィの泉に到着した。コロッセオ同様、もうひとつもの足りなさを感じた。どうしたイタリア!



トレヴィの泉



 テルミニ駅に帰ったとき、ふと一つのアイデアが閃いた。「うふふ、あのおねえさんたちと飲んじゃおう!」地下のスーパーでワインを購入し、急いでホテルに戻る。そしてさっき聞いていたおねえさんたちの部屋に行き仲間に入れてもらった。ほんと気さくな人達で今日初めて会ったのにそんな気がしないほど仲良くなった。日本人というだけのつながり、ただそれだけ。でもそれで十分なんだね。いや〜楽しい夜だった!!!





8月10日へ