8月13日
(晴れ)



 深夜0時過ぎ、列車の明かりが見えてきた時は心の底から喜びが沸いてきた。これでこの寒々としたホームからオサラバだ・・・早く眠りたい・・・今回乗車する列車は寝台車を連結していないので、普通のシートで夜を明かすことになる。万が一席が取れなかった場合には悲惨なことになるので、あらかじめ予約をしていた。ヨーロッパの列車は予約が入っている席はシートの上部(網棚の場所)に予約カードが挟んであり、そこ以外は自由席となる。列車に乗り込むと、真っ先に自分のシートに向かった。労せずに見つけた我がシート、しかしそこにはジプシーらしき親子連れが堂々と座っているではないか!


「あの〜すみません、ここ僕のシートなんですが」

「あっそう、子供が寝ているからあなた他のシートに行って」



 いくら子供のためとはいえ辛い・・・他の席を探すがどこも予約カードが挟んである。しかたがないのでその予約済みのシートに座ることにした。駅に停車するごとに目が覚め、このシートに座る人がいないかが確認できたら再び寝るということを繰り返した。そうこうするうちに夜が明ける。ほとんど徹夜状態。スイスの首都チューリッヒに到着したときはもうくたくた。6時27分着。

 今日の列車の旅はまだ続く。朝食を摂る間もなく、6時35分発Luzern行きの列車に乗った。この列車は7時27分にLuzernに到着し、そこで7時35分発Interlaken行きの列車に乗り換えるという計画だった。2階建ての車両はガラガラ。4人用のシートを占領して熟睡しふと目を覚ますと、さっきまでと客の顔がまったく変わっている。そう、この列車は折り返してチューリッヒに戻るのである。つまり僕以外のお客さんはみんな降りてしまって、チューリッヒに向かう客がすでに乗っているのだ!やばい、危うくチューリッヒに逆戻りしてしまうところだった!現在7時32分、猛烈ダッシュでInterlaken行きの列車に飛び乗る。


 列車の窓からは森や湖、のどかな牧草地などスイスらしい変化のある風景を楽しむことができた。スイスの湖は石灰を多く含むため、少し青白っぽい独特の色をしている。カレンダーなどでよくみる風景だ。



独特の湖水 こんな風景が続く



 今日の目的地インターラーケンはベルナー・オーバーラント(ベルン州の高原)の観光拠点となる街だ。ユングフラウ、アイガー、メンヒといったスイス・アルプスの代名詞ともいえる山々が連なり、世界中から登山者やハイカーが多数訪れるエリアである。インターラーケンとは「湖の間」という意味だ。トゥーン湖とブリエンツ湖の間に開け、2つの湖を結ぶアーレ川が街中を流れる。



2つの湖とインターラーケン




 駅で最寄の宿の所在を尋ねると一軒のユースを紹介してくれた。10分ほど歩いて、その紹介されたユースに到着。今までのユースとはまったく雰囲気が異なり、のんびりとくつろぐ若者たちで溢れていた。ここは設備面でも最高クラス。広々とした食堂にショップ、レンタサイクル、そしてなんとバーまで備えてある。とりあえず1泊分のお金を払い、荷物を置く。さあ観光!と行きたいところだが、洗濯物が大量に溜まっていたのでまずユース内のコインランドリーで洗濯をすることにした。コインを入れ、洗濯機を回す。そして乾燥機を使おうとした時、とある外国人が声を掛けて来た。「お金を浮かすため、一緒に乾燥させよう!」おっといいアイデアだ。彼はアイルランド人のKevin君。1人で観光に来ているらしい。お互い1人ぼっちなので気が合い、乾燥機が動いている間、彼と一緒に卓球をすることになった。アイルランドVS日本、卓球大会!その結果は







日本の勝利!







 2人分の洗濯物はなかなか乾かない。その間、いろいろとお話をすることができた。彼は昼からスカイダイビングに挑戦するという。ここのユースではスカイダイビングからラフティング、ハンググライダーなどなど様々なアドベンチャーを紹介しているらしい。この雄大な山々を眺めながらのスカイダイビングはさぞかし気持ちがよかろうと思ったが、お値段はやはり期待を裏切ってはくれなかった。彼は盛んにアドベンチャーに挑戦すべきだと誘ってくれたが、明日にはここを離れ、マッターホルンを望む街、ツェルマットに行く予定であったから彼にその旨を伝えた。すると「日本人はどうしてそう慌しい観光をするのか!もっと一箇所に腰を降ろしてじっくり観光するべきだ!」と説教されてしまった。彼の言うことも一理あるし、まあ最後の国でもあるからし、ここインターラーケンでゆっくりとヨーロッパ的な旅をすることに決めた。ツェルマット行きはあきらめたわけだが、そのことは今でも少し後悔している。理由は後で説明します。




ユースにてKevin君と(でけ〜)



 無事洗濯も終わったところで観光に出かけた。アルプス観光のクライマックスとも言われるユングフラウヨッホへは明日行くことにし、今日はその周辺の村々の散策をすることにした。インターラーケンオスト駅から登山列車に乗り、氷河によって深く削られたU字型の谷底にある村、ラウターブルンネンに向かう。桃源郷とも呼ばれる風光明媚な村で、15分も歩くと緑溢れる草原に出る。かすかな水音をたてて流れる小川や美しい塔を持つ教会など、どこをとっても一枚の絵のような風景が展開していた。この村にはヨーロッパ第2の落差を誇るシュタウプバッハの滝がある。落差300メートル、あまりにも高いところから水が落ちてくるため、最後は雫になってしまう。アルプスの自然を愛したゲーテは1779年にこの地を訪れ、このシュタウプバッハの滝を詩に詠んだという。




シュタウプバッハの滝





 ラウターブルンネンにそそりたつ断崖の上に鳥の巣のように作られた村がある。人口わずか450人の村ミューレン。ユングフラウ地区のリゾートのなかでは最も標高が高く、アイガー、メンヒ、ユングフラウの三山をまとめて望める景勝の地だ。ラウターブルンネンからケーブルカーでグリュッチュアルプまで行き、そこから登山列車に乗り換える。



グリュッチュアルプ




 ミューレンはガソリン車の乗り入れが禁止されているので、空気の清浄なスイスの中でも、さらに空気がおいしい。空を見上げればアイガー、メンヒ、ユングフラウ三山の大パノラマが広がり、800mも下の谷底には緑豊かな村々が点在する。




ミューレンからの眺め 同じく




 ミューレンからさらにケーブルカーに乗ると約5分で標高1912mの草原、アイメントフーベルに到着する。放牧された牛が、首に付けた鈴を鳴らしながらのんびりと歩いている。ここからはさらに三山を近くに望むことができる。



左からアイガー(3970m)、メンヒ(4099m)、ユングフラウ(4158m)




 ここは冬になるとスキー場になるらしく、リフトがさらに上に向かって伸びていた。シルトホルンという標高2971m地点にある展望台までロープウェーで登り、このミューレンまで一気に降る。これがスイスのスキー。




アイメントフーベルにて 三山と高山植物





 ちょうどスイス空軍が演習をしており、この山々に時より轟音がこだましていた。真っ青な空に光る小さな点、なぜか不思議と調和していた。

 再びケーブルカーでミューレンに戻り、村の散策に出かけた。街のメインストリートもほんの数百m、すぐに村の外れに来てしまう。のどかな村の風景についつい睡魔が襲ってきたため、公園のベンチで一眠り。なにせここはスイス。治安に問題なし。ほんの30分ほどのつもりが気がついたら2時間も経っていた。まわりはもう薄暗い。どうせなら日没時の薄紅色に染まる三山の眺めを見てから帰ろうと、しばらくこの場所で粘っていたのだが、インターラーケン行きの最終列車の時間が迫ってきたため、後ろ髪を引かれる思いながらも駅へ急いだ。

 インターラーケンオスト駅周辺でレストランを探している時だった。ふと山手に目を向けると、雪の帽子をかぶるアルプスの山々がほんのりと赤く染まっている。ほんの5分間だけ、一瞬だけ姿を見せたアルプスの夕暮れ。



夕暮れのユングフラウ(4158m)



 夕食を終え、ユースに帰る時にはすでに日は暮れていた。明るい時にはなんともない道が、夜になるとまったく分からない。いろいろ道に迷い、ある宿舎にたどり着いた。ここで道を聞こうとすると皆がかたくなに拒否し
、早く出て行くように強く言われる。標識をよく見るとここは



女子寮じゃった・・・





 ユースに帰り、シャワーを浴びてバーに行くことにした。これだけ大きなユースだから1人くらい日本人がいるかと思ったのだが見た感じ1人もいない。本当に韓国人が多い。全体の3分の1は韓国人だ。部屋に飾ってある新聞記事を見ると、現代自動車がらみの繋がりがあるようだ。多国籍の若者が飲んでいる姿をみると、国ごとの違いがあっておもしろい。韓国人はほとんど飲まず、仲間で固まっている。ヨーロッパ人は国境を越えて肩を組みながら踊っている。日本人は(注!俺が日本代表!)ベンチで日記を書きながら、誰かが声を掛けてくれるのを待っていた。



しかし、誰も声を掛けず!





 そして1人寂しくビールを飲んだ・・・




 
 部屋に帰ると、部屋中に異様な臭いが漂っている。原因は足!1人、異常なまでに悪臭を放つ男がいた。一体どうやったらここまで臭わすことができるのだろう。こいつ、ガソリン車が規制されているミューレンには入れないのではないか?環境に悪い男だ!食べたものが逆流しそうになるのを必死に抑えながら就寝・・・




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