8月14日
(晴れ)




 予想もしていなかった毒ガス攻撃による健康への影響が心配されたが、幸い何事もなく無事に朝を迎えることができた。最初はこのユースは一泊だけのつもりだったが、あまりに居心地がいいのでもう一日だけ延泊することにした。フロントに行きその旨を告げると、そこのおねーちゃんが早口の英語で「○△×◎・・・」と何やら指示をだした。よく聞き取れず困惑していると、後ろから「荷物を一度外に出すように行っているんですよ」という声が!「あっ、ここにも日本人がいたんだ!」 振り返るとなんと韓国人の若い女性!



 ちょっと、よ〜く考えてみよう。


この女の子、韓国人だからもちろん韓国語はしゃべれるよね。


そして英語を訳してくれたわけだから、英語もしゃべれるんだ。


そしてそれを日本語で教えてくれたから、日本語も話せるの?









完敗です!



 まさに「顔から火が出る」くらい恥ずかしい瞬間だった。この旅行中、至るところで韓国人の若者グループと遭遇したが、彼らのほとんどは英語が堪能。僕らも中学一年から英語を学んだはずなのに、どうしてこんなに話せないのだろう?やはり受験だけを考慮した文法、読解重視の英語教育が悪いのか!・・・と責任転嫁してしまいたいが、実際は自分の努力が足りなかったわけで・・・






やっぱNOVAかな?



 
 昨日友達になったKevinくんに別れを告げ、いよいよユングフラウヨッホへ向かうことにした。Interlaken Ost駅からLauterbrunnen行きの列車に乗り、ここでヴェンゲルンアルプ鉄道(WAS)に乗り換える。WASはスイス最長のラック式鉄道で、急勾配を力強く登っていく。日本のツアーの多くはユングフラウヨッホ観光を半日で済ませているが、Kevinくんの忠告どおり日本人らしくない旅をしようと決めた僕は、のんびりと途中下車しながら、この登山鉄道の旅を楽しむことにした。Lauterbrunnenから約15分でユングフラウを正面に望む標高1274mの台地に開ける村、Wengenに到着。ここもMurrenと同じく、ガソリン車の乗り入れを禁止しているので空気がとても爽やかだ。アルプスののどかな風情にしばらく浸った後、再びWASで終点Kleine Scheideggへ向かった。そして高度が上がるにつれトップ・オブ・ヨーロッパの絶景が徐々に姿を現してきた。



光に輝く山々



 駅舎以外は何もないWengerralpで降りてみた。右手は連峰と氷河のパノラマ、左手には青々とした牧草地、ハイキング客しかいない静かなこの場所で、大自然を独り占め。




Wengerralp アイガー、ユングフラウをバックに
自然がいっぱい 花々



 
 ここから15分ほどで終点Kleine Scheideggに到着した。アルプス三大北壁の一つ、アイガー北壁を正面に望むこの場所はユングフラウ鉄道への乗り換え地点である。ちょうどお昼時だったので、眺望のよいカフェのテラスで昼食を摂った。旅も終盤で所持金も残り少ない。ちょっと悔しいが最も安いソーセージを注文した。僕の隣の席は日本人の親子。子供はたぶん4〜5歳だ。僕がその年代のころの家族旅行といえば霧島がいいところだったのに、何なのこの違い・・・と少しひがんでみたりするが、この絶景を前に心が広くなっていた僕はすぐに平常心に戻った。でもね、でもね・・・








ボク、そんな歳でステーキ食べるの?



おにーさんと交換しない?
 





アイガー北壁 昼食を摂ったレストラン





 この美しいアルプスも、かつては山麓に住む人々にとって恐るべき魔界だった。いまは優美で女性的と形容されるユングフラウのような山でさえ、魔物の住みかとして敬遠されていたのだ。しかし、18世紀に入ると、巨峰の美しさ、荘厳さに目覚めた人々が山登りを始めた。近代登山の幕開けは1786年、ヨーロッパ・アルプスの最高峰モンブランの初登頂に賞金がかけられ、医師のM.G.パッカールが8月7日に頂上を極めた。




アルプス最高峰:モンブラン(4807m)





 アルプス登山の黄金時代は、1865年のE.ウィンパーによるマッターホルン初登頂で終焉を迎え、めぼしい巨峰はあらかた征服されてしまった。そこで、次世代のアルピニストたちは、より困難なルートの開拓に着手した。なかでも、アルプス三大北壁のひとつ、アイガー北面氷壁は、最後の難関として彼らの前に立ちはだかった。しかし、1921年に日本人登山家の槙有恒がアイガー東山稜初登攀という快挙を成し遂げたのち、1938年にA.ヘックマイヤーが画期的な12本爪のアイゼンを駆使してアイガー北壁を制覇。ついに人間業では絶対に不可能と思われた魔の山も完全征服されるにいたった。(ガイドブック丸写し)


 このアイガー北壁に日本ルートと言われる、最難関ルートを開拓した方をご存知でしょうか?東京女子医大泌尿器科の今井通子氏です。マッターホルン北壁、グランドジョラス北壁登攀と合わせ、女性として世界初の欧州三大北壁完登者となった鉄人です。詳細は新田次郎の小説「銀嶺の人」をお読み下さい。M.G.パッカールにしろ、今井通子にしろ、医師ながらこういう偉業を残すとは・・・
                 
 


アイガーをバックに




 照りつける太陽と高原の爽やかな風が混ざり合い、ポカポカとちょうどいい感じ。昼食後、この緑豊かな草原をすこし散策することにした。放し飼いの牛、真っ青な空、そしてアルプス。






Kleine Scheideggにて 牛さんたち
メンヒ(4099m) Kleine Scheidegg






 いよいよ最終目的地ユングフラウヨッホへ向かう。ユングフラウ鉄道は緑まぶしい高原を登ったのち、アイガーとメンヒの岩盤を貫くトンネルに進入する。岩盤内には2つの駅があり、アイガー北壁の絶壁に開いた窓からは眼下の高原や氷河を見学できる。



つまりですね・・・





アイガー北壁のこの矢印の場所に






 このように穴が掘ってあって、この窓から外を見ると








ご覧のような風景がひろがっているわけです。




僕らは労することなく、この風景を眺めることができているわけだが、この絶壁に挑戦し、命を落とした人が一体何人いるのだろう?普通の人ならこんな壁を登ろうとは思わない。しかし、世の中にはいるんですね。窓から下をのぞくと、ザイルを組んで登っている人の姿が見えた。心から尊敬する。

 終点ユングフラウ駅は標高3454m、ヨーロッパ最高所の鉄道駅だ。列車から降り、地下のトンネルをくぐると永久氷河をくり貫いた「氷の宮殿」に到着する。氷の中だから当然極寒!凍える思いをしながらも幻想的な氷の世界を堪能することができた。




氷の宮殿 マジ寒!




 この氷の迷路を抜けると、そこは一面の銀世界。20km以上にわたって続くアレッチュ氷河の輝きと、正面にそびえるユングフラウの雄姿を望むことができる。




アレッチュ氷河 その周辺
氷河の上にて 雪・雪・雪・・・




 反射する光で、サングラスなしではとてもじゃないが目を開けていることができない。僕のこのサングラスはイタリア製なんだぞ・・・と言いたいが、ただテルミニ駅のスーパーで買ったというだけで、 1000円の安物。

 観光客用のスペースを越えると、そこはもうプロの世界。上の写真「雪・雪・雪」の真ん中に細いラインが見えるが、これはユングフラウ山頂を目指して歩いていった登山家の足跡。「クレバスあり、注意!」の看板に恐れをなした僕には、柵を一歩越えることくらいしかできなかった。



ここは立ち入り禁止区域 スイス国旗




 年中雪に覆われているこの場所にはなんとスキー場がある。子供だましのような規模だが、ちゃっかりミニリフトまで用意されている。興味はあったものの、先ほどから体調が悪いので残念だが断念することにした。体調が悪いっていうか、息が切れるのである。それもそのはず、ここは富士山の山頂ほどの標高なのだ。この一年後に富士山の頂上で同じ苦しみを味わうとは思ってもみなかったが、このときは自分の足で登ってきたわけでないのでまだ比較的余裕があった。しかしスキーはちょっと無理でしょう!


 ユングフラウ駅からしばらくのところにスフィンクス展望台がある。ここからはアレッチュ氷河の反対側、つまり昨日僕が訪れたアイメントフーベル方向の山々を望むことができる。




アルプスの夏 同じく




 ここで一人の日本人女性と知り合った。薬剤師の卵、A倉さん。英語が堪能な彼女は友人の家を転々としながら旅をしているらしい。すっかり気が合い、一緒にお茶することになった。




A倉さんと





 ユングフラウ駅には売店や郵便局、カフェテリアなどがある。ここのカフェで僕はすごいものを見つけてしまった。それは「焼酎入りコーヒー」。表記も「shoutyu」となっている。焼酎の本場である鹿児島の住民としてはこれを飲まないといかんでしょう!思い切って一口!





まずい・・・





 朝倉さんのように普通のコーヒーにしておけばよかったと心から後悔する。この一杯の焼酎入りコーヒーが、3時間後に致命傷になるとは、この時知る由もなかった。


 駅ではもう一つおもしろいものを見つけた。富士山登山記ですでに登場しましたが、日本の丸型ポスト!富士山郵便局からの贈り物らしい。ここユングフラウを始め、インターラーケンは日本との繋がりが強い。インターラーケン市と大津市は姉妹都市らしく、町の中心部には大津市から贈られた日本庭園もあった。




丸形ポスト




 ただでさえ高山病で気分が悪いのに、さっきのくそまずいコーヒーでさらに気分不良になった僕は、そろそろ下山することにした。行きはヴェンゲン経由の西回りコースだったので、帰りはグリンデルワルトを経由する東回りのコースにしよう!一度クライネ・シャイデックで降り、登山列車を乗り換える。列車はアイガー北壁の真下を通り、一気に高度を下げていく。





これもアイガー北壁




 
 一時間ほどでインターラーケンに到着した。ちょうど夕食の時間だったので、街のメインストリートを歩き、適当な店を探す。さすがは日本人で溢れかえっている街だ。いたるところで日本料理店の看板が目に付く。スイス料理にまったく興味がない僕は、迷わずオープンテラス付の日本料理店に入った。そこでこれまた一番安いカレーライスを注文。暮れていくアルプスを眺めながら料理を待っているときだった。突然、信じられないような腹痛が僕を襲った。




やはり、あの焼酎入りコーヒーか・・・





 慌ててトイレに駆け込む。腹痛と戦うこと10分、ようやく自分の席に戻るとすでに注文していたカレーが来ている。温かそうな湯気を立てて・・・






 食欲、さらに減退!






 虚しく食事を終え、ユースに帰っている途中、トランクを引きずりながら歩く3人の女性と出会った。よく見ると何かを探しているようだ。こんな時間に女の子だけで出歩いているのは韓国人しかありえない。もし韓国人ならきっと僕の泊まっているユースを探しているのだろう。勇気を出して声を掛けてみるとやはりそうだった。3人のうちもっともかわいいYoon-naちゃんだけが英語を話せるらしく、仲良くおしゃべりしながらユースへ向かった。楽しいお話もできた上、感謝までされなんかとても幸せな気分。


 バーでビールを購入し、今夜も一人で誰かが声を掛けてくれるのを待っていた。あっ、さっきのYoon-naちゃんだ!でも彼女はニコッと微笑んだだけで、他の友達とはしゃぎながら僕の前を通り過ぎていった。賑わいの残るバーを後にして、僕はベットへ向かった。




8月15日へ