Backfiring Valentine

※擬人化前提

 想いを伝えるのに、理由はいらない。


 さる2月11日200X年、日本中の男女がソワソワとした気分になっていた。誰もが期待と不安を胸に抱く。もっとも、男共はただ待つばかりで何もできず、 女性達はラッピング用の包装紙を買ったり材料を買ったりと忙しそうだった。それもこれも、3日後に控えた、一年でただ一回きりのイベントに向けて。
 それは、、、

「『ばれんたいん』?」

「おう、そーだぜチビモン」

 夜分遅く、一人の小学生が、頭の上にのっかってる小さな子に向かって話しかけている。言わずと知れた選ばれし子供の一人、本宮大輔とそのパートナー、ブイモンである。もっとも、今はブイモンは退化して幼年期であるチビモンに戻っているが。二人ともベッドの上でゴロゴロしていた。

「ばれんたいん、、、ってなに?だいしゅけ」

「へっへ~、お前は特に気にいると思うぜ?いいか、バレンタインっていうのはなぁ、、、」

「いうのはなぁ?」

「一言で言えば!『チョコの日』だ!!」

 ズバッと言い切った大輔とその内容に、チョコ大好きなチビモンが黙っている筈がない。聞くや否や目をキラキラと輝かせ、

「ほんと?ほんとほんと!?ほんとにチョコの日!!??」

「そうだぜチビモン。この日ばかりは好きなだけチョコが食えるんだぜ!?く~楽しみだぜ!」

「チョコチョコ~!!」

「まぁ、他にも重要な意味があるんだけどな、バレンタインってのは」

「じゅーよー?」

「そう。んでもってこれがバレンタインの醍醐味なんだ。それはだな、『好きな人からチョコを貰う』!これに尽きる。」

「、、、すきな、、、ひと?」

「そうなんだよ。まぁ、正確には『好きな人にチョコをあげる』って方かな?ともかくだ、今年こそはヒカリちゃんから本命貰えるといいよな~。それと間違ってもタケルの奴には負けたくねぇな~」

『ヒカリ』の名前のところで、少しだけ胸がチクッと痛くなったチビモンだが、表には出さなかった。

「そう、、、なんだ。もらえるといいね、だいしゅけ」

「おうよ!お前も祈ってくれよな、貰えるようにってよ」

「、、、うん、、、」

 その日の真夜中。大輔本人はデカい鼻ちょうちんを膨らませて熟睡していたが、チビモンはずっと起きていた。頭の中でずっと繰り返される、大輔の言っていたバレンタインの意味。


『バレインタインってのはなぁ、好きな人にチョコをあげる日なんだぜ』


 ず~っと考えたが、決めた。大輔には怒られるけど、それでも、、、!
 チビモンはそっと、大輔を起こさないようにベッドを出た。そして、窓を開けて、一度大輔に連れてってもらった記憶を頼りに、光ヵ丘マンションへと向かった。





コンッ、、、。

何か物音が聞こえたが、、、。

コンコン、、、。

もう一度聞こえた。外からだ。

テイルモンは音を立てないようにそっとベッドから抜け出し、ベランダの方へと寄った。カーテンを少しだけ開く。そこには、赤い瞳をした仲間であるチビモンが立っていた。申し訳そうな顔をしながら、、、。

「チビモン?」

テイルモンは少しだけ窓を開けてチビモンを部屋の中へと入れた。幸い、太一もヒカリもアグモンも起きたような気配はない。

「、、、いったいどうした?こんな時間に」

「うん、、、、、折り入って、相談があるんだけど、、、」

「私にか?」

「テイルモンは、一番の物知りだから、多分知ってると思ったんだ」

 ただ相談したい為だけに、わざわざこんなとこまで来たのだろうか?しかも、この状況からするに、大輔はこの事を知らないだろう。いろいろと考えを巡らせつつも、テイルモンは答えた。

「で、相談って?」

「、、、うん。実は、、、さ、、、、」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「、、、、、、、、、というわけなんだ。お願い、協力して!おれにとっては、すっごい重要なんだ」

 事情を聞いたテイルモンと、必死に頼みこんでいるチビモン。テイルモンは、半分呆れていた。その『事情』というのが、かなり突飛な物だったからだ。

「貴方本気なの?」

「うん!」

  どうやらその決心は固いらしい。どう説得してみたところで、絶対に諦めないだろう。テイルモン自身も、諦めたというか覚悟を決めた。
フゥ、と小さいため息一つついてから、

「分かったわ、協力する。それに、私もやっておきたいからね」

「ほんと!?ありがと~♪♪」

 思わずテイルモンに抱き付くチビモン。そのチビモンの頭を、「はいはい」と言ってポンポンと叩く。

「じゃ、行こうか」

 そう言って、パソコンのモニターに近付く二人。

「ホントはいけないんだけど、、、まぁ仕方無いか。」

 そう呟くテイルモン。机の上に置いてあったヒカリの D-3をモニターに近付け、『もう一つの世界』への扉を開かせた。





 翌朝。

「ちょっと大輔!あんたマジ起きないとやばいよ!!」

  ドア越しに、姉のジュンの声が聞こえてきた。まどろみの世界から、無理矢理自分を現実へと引っ張り出す大輔。むくっ、と上体を起こすものの、未だ半分現実・半分夢の世界といった感じだ。

「~~~おいチビモン、どうして起こしてくれなかっ、、、、、、、?チビモン?」

  ふと隣を見るも、そこにパートナーであるチビモンの姿はいなかった。部屋の中を捜してみるも、チビモンの姿は何処にもいない。

「あれ、、、、何処行っちまったんだあいつ、」

 大輔!と、今度はドア越しに母の声が聞こえる。

「しょうがねぇ。捜すのは帰ってきてからだ。学校にいるかもしんねえし」

 大輔は身支度を整えた。



「おっはよ~ヒカリちゃん♪♪」

「おはよう、大輔君」

 もはや大輔に取って毎朝の日課となった感のある、同じ選ばれし子供の八神ヒカリへの挨拶である。本人曰く『これで好感度アップな挨拶』らしいが、別に今迄これといった成果は、当然無い。そこへ丁度、大輔に取っていろんな意味で鬼門である、金髪の少年が教室へ入ってきた。

「おはようヒカリちゃん。おはよう大輔君」

「おはようタケル君」

「、、、よぅ」

 高石タケルその人である。彼も大輔・ヒカリと同じく選ばれし子供の一人であった。ともかく、大輔にとって、彼はいろんな所での壁である。ヒカリが関系する場合は特に。3年前の先代選ばれし子供の頃からのチームだったそうだから、常に一歩負けてる事になる。先手を打っておきたかった。

「ところでヒカリちゃん、3日後のバレンタイン、もうあげる相手決めたの?」

 と、先手にしてはストレート過ぎな気もする質問をヒカリに聞いた。

「それって、『本命』って意味で?」

「まぁ、そういう事になるのかな」

「その意味だと、まだ決めてないよ」

 大輔はその台詞を聞いた時、心の中でガッツポーズをした。この分だと、まだ本命のチャンスはある!と考えている中、そこへ

「あまり期待しない方が良いと思うけどなぁ、、、」

 ボソッとタケルが呟いた。それを聞き咎める大輔。

「ちょっと待て!それって一体どういう意味だよタケル!」

 タケルに詰め寄る大輔だが、当のタケルはニコニコしたまま少しも動じない。

「『期待しすぎるともらえなかった場合ショックが大きい』ってだけだよ」

「俺が貰えるわけないって言いてーのか!?」

「別にそうは言ってないってば。ようは貰えたら『幸運だった』ぐらいの心構えの方が気楽だって意味。大丈夫、大輔君は僕から見ても充分カッコイイから、本命あげる子もいるよ♪」

「お前に言われてもあまり嬉しかねぇな」

 そんな二人をクスクス笑いながら眺めてるヒカリ。このぐらいのやり取りも、日常茶飯事になってしまった。

「あ、そうそう。タケル、お前チビモンが何処にいるか知らねぇ?」

「何処って、、、どういう意味?大輔君家じゃないの?」

「いやさ、、、昨日寝る前までは一緒だったんだけど、朝起きたらいなかったんだ。遅刻ぎりぎりになりそうだったから、捜してる時間なくてさ。それで、もし
かして他の連中のとこに行ってるのかなと思ったんだけど、、、いないのか、やっぱ」

 その大輔の問いに、首を横に降るタケル。

「そっか。ヒカリちゃんのとこには?」

「え!?、、、、う、ううん、知らない。ごめん」

「ヒカリちゃんも知らないのか。パソコン室にいるのかな、、、んにしてもどうしていきなり」

「静か~に!授業始めるぞ!」

 先生が教室に入ってきた。自分達の机へ戻っていく生徒達。その中で、タケルはさっきのヒカリの態度に不信感を覚えた。知らないだけなら、どうしてあんな動揺したリアクションを返したのだろう。鈍い大輔君は気付いてないみたいだけど、、、。そのタケルの視線を感じたのか、ヒカリがタケルの方へ振り向いた。ちょっと驚いたタケルだったが、ヒカリは人差指を立てて唇に当てた。どうやらヒカリは事情を知ってるらしい。後で聞いてみようと思ったタケルだった。



「じゃ俺、先にパソコン室に行ってるから」

「僕達も後で行くよ」

「おう」

 放課後、最後の授業が終わるやいなや、大輔は廊下を全速力でかけていった。タケルとヒカリは、その後をゆっくりと追っていく。

「で、、、ヒカリちゃん。朝の話だけど、チビモンが何処にいるのか知ってるの?」

「、、、御免なさい、言えないの」

「僕にも言えないの?」

「約束だから、、、ごめんね?」

「そこまで言うなら、僕は何も言えないけど、、、。二人とも、無事なんでしょ?」

「それは確かよ」




「いないってどういう事だよ!!!」

 パソコン室に思いきり大きな声が響いた。その騒音に、同じく部屋にいた同じ選ばれし子供である井ノ上京と火田伊織、そしてパートナーデジモンであるウパモン、ポロモン、パタモンは思わず耳を塞いだものだ。

「そんな大きな声出さなくても聞こえるわよ!まったく、、、、、、ともかく、あたしは知らないわ。伊織は?」

「いえ、、、僕も知りません。ウパモン達は昨日からずっとここにいたそうですけど、来てないんですよね?」

「いや~チビモンはここには来なかったがや」

「私も、見ていません」

「僕も~」

「っとに、どうなってんだ一体、、、」

 流石に大輔は不安になってきた。拐われたとかならまだしも、一人で出ていって失踪したなんて無かっただけに、焦りは募る。そこへタケルとヒカリも部屋に入ってきた。

「あ、タケル君ヒカリちゃん聞いた!?チビモンが、、、」

「うん、僕達も聞いたよ」

「とにかく捜さなきゃ!協力してくれるよな!?」

「それは構いませんけど、、、具体的にどう捜します?」

「思いあたるとこ全部だよ全部!」

「分かったわ!じゃあ、2時間たったら、またこの学校に戻ってくるって事で!ポロモン、行くわよ!」

「はい!」

 京とポロモンが勇んで教室から出ていった。

「じゃあ、僕達は学校から南側を捜してみます」

「行くだぎゃ~」

 京達とは対照的に、伊織達も出ていった。

「ヒカリちゃん達も頼む!俺行ってくるから!あ、一応賢にも連絡しといてくれ!!」

 京に負けず劣らずの勢いで駆け出していく大輔。タケルはヒカリの方を見たが、ヒカリはぎここちない笑顔を作って「大丈夫よ」と言っただけだった。





 その後二日、大輔達は行ける限りのお台場を捜し回った。別の街に住む、同じ選ばれし子供の一乗寺賢や、時には、八神太一や石田ヤマトといった先代選ばれし子供達の助けも借りたが、以前としてブイモンとテイルモンの消息は掴めなかった。もしやと思い、一行はデジタルワールドへと出向いてしらみつぶしに捜してみたが、、、。
モニターが光り、先に大輔が現実世界へと戻ってきた。続いて京達も戻ってきた。

「っっっっっっくっそぉ!」

壁を思い切り殴る大輔。

「ちょ、ちょっと大輔。落ち着きなって、ね?」

「お前こんな状況でよく落ち着いてられるな!?もうこれで3日まるまる姿消してる事になるんだぞ!?ホントにあいつ、どこ行っちまったんだ!!」

流石の京も伊織も、かける言葉を失う。

「落ち着けよ大輔。でないと、見つかるものも見つからないぞ」

とは太一の言葉だ。今日は彼も共にチビモン捜索に参加していた。だが、いかに尊敬している先輩の言葉でも、今の大輔を落ち着かせるまでには至らなかった。

「やっぱり俺、ぎりぎりまでもう一回、辺り捜してくる!」

「やめなよ大輔君!もう外真っ暗なんだよ?」

 確かに、今日はかなり長い時間デジワルワールドへいた。時計はもう、午後7時を達っしようとしている。

「じゃあ何だよ、何もせずに黙ってろってのか!?」


「そういう事だよ」


 太一が言った。その言葉に驚く大輔。

「闇雲に捜すよりは、ブイモンが帰ってくるのを待つ方が今は得策かもしれないって事だ。大丈夫だ大輔、ブイモンの事だ。今夜あたり、ひょっこり帰ってくるにちげーねーって」

「、、、、、、、、、、、、、、分かり、ました」

 力無くうなずく大輔。

「とにかく、今日はもう遅い。皆も帰った方が良いだろう」

 自分達の荷物を掴んで帰ろうとする太一達。ふと、後ろにいた京が呟いた。

「そいえば、明日はバレンタイン、か。憂鬱なバレンタインになりそーねぇ」





 結局、その日の夜も、ブイモンは帰ってこなかった。1時過ぎくらいまで起きていた大輔だったが、寄せる睡魔には敵わず、寝てしまった。朝起きても、隣にあの子の姿は無かった。おかげで、焦燥感・寝不足・イライラしていると見事に三拍子揃ってしまい、最悪の気分で学校へ歩いていった。校門へ来る時点で、既に気の早い子供達はチョコレートの受取り断わり等をしていたが、大輔の眼中にはない。力無い足取りで、そのまま校門をくぐる。途中伊織とすれ違ったが、声をかける気力も無かったようだ。そのまま教室へ向かっていく。

「大輔さん、、、?」

 伊織は一応挨拶したものの、どうやら聞こえてないようだ。小さくため息をつく伊織。その伊織の背中を、誰かがバンッ!と思い切り叩いた。

「痛っ!?」

「へっへ~。おはよっ伊織」

「なんだ京さんですか。おはようございます」

 その京も、階段を上っていく大輔の後ろ姿を見て、顔を曇らせた。

「あいつのあの様子だと、やっぱりまだブイモン、、、」

「どうやらそのようです。ほんとに、どうなってるんでしょうね」

「うん、、、、、、、、、、、、、、、、、あそうそう、はい伊織、これ」

 と、京は赤い包み紙の物を伊織に渡した。

「、、、????何ですこれ」

「何って何ぼけてんの。バレンタインチョコに決まってるじゃん。義理だけど」

「え?あ、、、、ああ、どうも、ありがとうございます、、、」

 少し頬を赤くする伊織。どうもこの手の行事には、何時まで立っても慣れそうにないと思った。





「「おはよう、大輔君」」

「、、、、、、、、あぁ」

 教室に入ると、ヒカリ・タケルの両方から挨拶された大輔だが、いつもの覇気はない。一瞬顔を合わせる二人。そして、ヒカリは銀紙に包まれたチョコレートを持つと、机に力無くうなだれてる大輔に近付いた。

「はい、大輔君の分」

「んぁ?」

 大輔は顔をあげた。顔面に銀色の物がある。

「、、、あぁ、サンキュ、ヒカリちゃん」

 けど、受け取るなり大輔は早々と机の中に入れ、また突っ伏した。すると、ヒカリは大輔の耳許に近付き、こう囁いた。


「今日、放課後私と一緒にパソコン室に来て。重要な事だから」


 その言葉に、大輔は再び顔を上げた。

「、、、それって、どういう」

「とにかく後で。事情はそれから話すから」

 そう言うと、ヒカリはタケルの机へ戻っていた。何か言おうとした大輔だったが、再び睡魔と、ついでに連日の疲れまで押し寄せたため、また机に突っ伏した。




 結局、その後6科目の授業は最悪だった。しょっちゅう寝てしまっては先生に怒られ、頭がグルグルしてて授業内容もよく覚えてない。とにかく、早く時間が過ぎて放課後になるのを祈ってた。そしてその放課後。

「で、ヒカリちゃん。用って?」

 タケルを含めた他の生徒達が帰ったあと、大輔はヒカリに聞いた。


「最初に、私大輔君に謝らなきゃいけないの。御免なさい、、、」


「え?、、、、、、、、でも、なんでさ」

「私、、、ブイモンが何処にいるか知ってたの」

「!!ホントなのかヒカリちゃん!?で、あいつは、、、あいつは無事なのか!?」

「それは絶対。テイルモンも一緒にいるから」

「テイルモンも?いったいどういう事なんだ!?」

「あの二人、どうも3日前、ちょうどいなくなった日ね?その日からデジタルワールドにいたらしいの」

「デジタルワールドに?でも、昨日はずっとデジタルワールド捜したのに」

「ゲンナイさん、、、、、って覚えてる?前に説明した」

「ああ、太一先輩が『じじい』って呼んでる。なんか凄い人なんだって?」

 その言葉に、ヒカリは苦笑いしたものだ。

「そう。ともかく、二人でゲンナイさんの家にいたらしいの」

「けどヒカリちゃん、そこまで知っててどうして教えてくれなかったんだよ」

「私だって今朝までは何処にいたのか、知らなかったの。私の Dターミナルに、テイルモンから伝言があったから」

「けど、あいつなんだってこんな事、、、」

「それは私も知らないわ。だから、聞きにいくのも兼ねて、今からパソコン室に行くの」

「え?、、、、、って事は!」

「そろそろ帰ってくるって」

「それを早く言ってくれよ!」
 言うなり大輔は駈け出していった。

「あ、待ってよ大輔君!」

 ヒカリも慌てて追いかける。





 思い切りドアが開けられた。大輔が肩で息をしながら立っている。複雑な顔をしながら、、、。

「あ、大輔。それにヒカリ」

 そう答えたのはテイルモンだ。隣に立っているブイモンは、左手に中くらいのバッグを持って、でも視線を床に落としたまま。

「テイルモン、どういう事なの?私心配したんだから、、、」

 後から追い付いたヒカリが言う。

「御免、ヒカリ。けど、これにはちゃんと理由が」


「この大馬鹿野郎!!!!」


 大輔が怒鳴る。ビクン、と肩を震わすブイモン。

「なんで黙って行っちまったんだよ!しかもデジタルワールドだぞ!?お前が敵わないデジモンでも出たらどうするつもりだったんだよ!!俺がいないとお前は進化もできないんだぞ!?」

「、、、ごめん、大輔。でもこれは」

「言い訳なんて聞きたかねぇ!!」

 一喝した大輔は、窓辺へ寄る。そして手を腰に当て、黙った。必死に怒りを抑えている、と言った感じだった。重苦しい静寂に耐えかねたのか、ブイモンが口を開けた。

「、、、、、だいす」

「今俺に話しかけるな」

 手で遮る大輔。

「、、、、、、、、自分でも何言うか、分かんねぇ」

 その言葉を聞いたブイモンは、少し瞳に涙を浮かべながらも、ただ黙って部屋から出ていった。

「ちょっと大輔君!今のは少し酷いじゃない!!ブイモンが可哀想よ」

「ヒカリの言う通りだ、大輔。せめて、ブイモンの言い分くらいは聞いてあげれば、、、」

「お前がそんな事言えるのかよ!?だいたい、お前等二人で何してたっつーんだよ!」

 そんな大輔の悪態に少しも怯まず、テイルモンはヒョイ、と机の上に座る。

「だったら教えてあげるわよ。私達二人はゲンナイの所にいたの」

「それは聞いた!問題は『何を』だよ、『何を』!」

「これが、その『何を』だ」

 そう言うと、テイルモンは先程ブイモンが持っていたのと同じバッグの中から、綺麗にラッピングされた物を取り出した。

「、、、何だよこれ」

「今日は何の日だ?大輔」

「何の日って、、、バレンタインに決まってんじゃん。え?じゃこれチョコ?」

「御名答」

「は?じゃなにか?『テイルモンとブイモンは二人でゲンナイのところにいて、二人でチョコ作ってた』って言いたいのか?」

「その通りだ」

「、、、おいおい、こんな時に冗談は」

 と言いかけて、大輔は言葉を喉の奥に戻した。テイルモンの顔が真剣そのものだったからだ。


「、、、本当、なのか?」


 こくん、とうなずくテイルモン。

「でも、、、なんで、、、あいつ、、、」

「バレインタインの事は、貴方がブイモンに教えたんでしょう?それであの時、わざわざ私の所まで来たんだ。そしてこう言ったの。


『オレ、、、絶対、大輔にチョコあげたいんだ!オレの想いと一緒に!!』


 ってね。もっとも、『人にあげるのは手造りが一番』なのは、ヒカリの知識のおかげだけど」


 テイルモンの説明に、だんだんと体の力が抜けていくような感覚を、大輔は感じた。

「だ、、、だけど、どうしてあいつ、俺には一言も言ってくれなかったんだよ!!」

 その大輔の言葉に、テイルモンは少し険しい顔をした。


「そりゃあ、どっかの誰かさんがブイモンの目の前で

『ヒカリから貰えると良いな~』

 とか何とか言ってれば、言うに言えなくなるのは分かりきってる事よ」


 その言葉を最後まで聞く前に、大輔は拳を握りしめていた。さっき自分が言った事を、今更になって後悔し始めた。

「俺は、、、俺は、、、」

 その大輔の呟きを聞いてか聞かなかったのか、ふいにテイルモンが言った。

「あの子、多分屋上よ」

「!!」

 聞くが早いか、大輔は走り出していった。

「まったく、大輔のあのストレートな性格は当分なおりそうにないな」

「でも、それが大輔君の良い所でもあるのよ?」

 テイルモンの台詞に、ヒカリは思わず苦笑したものだ。もっとも、言い出したヒカリでさえ、あのストレート過ぎな性格は時にトラブルメーカーにもなると思っているあたり、どっちもどっちである。流石に最近は多少落ち着いてきた感はあるが。

「あ、ヒカリ?私はまだやらなきゃいけない事がある。出かけてきてもいいかな?」

「今度は何処よ?」

 ズイッ、とヒカリはテイルモンに迫った。苦笑するテイルモン。


「フジテレビ局、、、。あの人に、これを渡しにいくの」


「あ、、、その為にテイルモンも?」

「ああ。ホントは、あの人にはもっとちゃんとした形で渡したかったんだけど、、、ね」

「ん、、、分かった。でも気をつけてね?」

「分かってるよ」





 屋上への階段をダッシュで上りながら、大輔はさっき自分がブイモンに言った言葉を呪った。今回は、考え無しの自分に心底腹が立った。けど、過ぎた事を悔やんだってやった事は変えられない。今はとにかくブイモンに、、、!ようやく屋上のドアが見えた。勢いそのままに開ける大輔。

「はっ、、、はっ、、、はっ、、、」

 息を落ち着かせながら、回りを見る。ブイモンは、、、、いた!膝を抱えて座っている。大輔はブイモンの真後ろに立った。

「、、、、、ブイ、、モン」

 はっと、ブイモンが後ろを向く。

「、、、大輔、、、」

「隣、、、座っていいか?」

 小さくうなずくブイモン。大輔は隣にあぐらをかいた。が、、、言うべき言葉が口から出ない。ブイモンも何か言いたそうだったが、やはり言えない。先程あんなやりとりをした直後の後だけに、二人の間に気不味い沈黙が流れた。


「「、、、、、、あのさぁ」」


 二人は同時に言った。

「ブイモンから言え、、、、、、、、いや!やっぱ俺から言わせてくれ!!ブイモン、、、ごめんな!」

「そんな、、、どうして大輔が謝んのさ!?」

「俺、、、お前の事ちっとも信用してなかった。俺達パートナーなのに、、、パートナーってのはお互いに絶対の信頼を置かなきゃいけねぇのに、、、なのに、、、俺は!ブイモン!本当に、ごめん!!」

 そんな大輔の姿に、ブイモンも戸惑いと申し訳無い顔を見せる。

「大輔は、何も悪くない。悪いのは勝手に出ていったオレなんだ。だから、、、大輔は謝んなくていいんだよ?」

「違う!俺がお前を出ていかせちまったんだ。3日前、お前の気持ちも知らずに俺があんな事言ったから、、、、本当に、ごめん、、、な」

 そんな大輔の手を握るブイモン。

「もう、いいよ。すんじゃった事だし、、、。ね?」

「、、、あぁ。ありがとな、ブイモン」

 再び座り直す二人。

「テイルモンから聞いたんだけどさ、あのゲンナイって人のとこにいたんだってな?」

「うん。アグモンとかテイルモンは、ゲンナイさんとは古い旧友なんだって。で、テイルモンが、ゲンナイさんがチョコレートの作り方知ってるって言うから、連れてってもらったんだ」

「だからデジタルワールドの何処行っても見つからなかったわけか。でも、お前チョコレートなんて作るの初めてだったんだろ?大変だったんじゃねぇの?」

「、、、うん。最初はかなりドジやっちゃって、、、へへ。でも!力作、できたよ?これ」

 そう言って、ブイモンは左手にずっと持ってた袋から銀色で包まれたチョコレートを取り出した。ラッピングは丁寧だし、何より完璧なハート型である。

「へぇ~!!こりゃホントにすげぇや!うん、マジ凄いと思うぜ」

「へへ、、、ありがと、大輔」

 ちょっぴり頬を赤くするブイモン。そして、大輔の方に体を向けた。

「改めて、、、。大輔、ハッピーバレンタイン♪受け取ってくれる?」

「あったりまえだ!」

 大輔は勢い良くチョコレートを受け取った。

「今食べてもいいか?」

「うん。味の出来が、、、少し不安なんだ」

「おいおい大丈夫かよこれ?」

「なんだよ~その言い方」

「はははっ、ごめんごめん」

 言うが早いか、大輔はラッピングをやぶいてみた。少なくとも外見は、美味そうである。

「じゃ、いただきま~す」


パクッ♪


 暫く口を動かしてた大輔だが、暫くして動きが止まった。不安になったブイモンが問う。

「、、、大輔?やっぱり、、、不味かった、、、よね?」

「、、、う、、、、うめぇー!!めっちゃくちゃうめぇ!!!!!」

 大輔は叫んだ。ブイモンの方が驚いたくらいだ。

「そ、、、そんなに美味しかった?」

「当然だろ!?ってかこれそこらで売ってる市販のチョコより絶対美味いぜ!!少し苺の風味がするのがまた最高だ!!」

「ホント?ホントホント??良かった~♪♪」

 そのまま半分近く食べてた大輔だが、ふと手を止めて、そのチョコを半分に折った。

「大輔?」

「お前も食えよ。ホントは食べたくてしょうがなかったんじゃねーの?」

 その意地悪な質問に、ブイモンは膨れっ面をしたが、結局苦笑いしたあげく、

「、、、うん、ホントは俺も食べたくてしょうがなかったんだ♪」

「ほらよ」

 とこうなるわけである。ブイモンは自分の作ったチョコを口に入れてみた。

「うん、美味しいや♪」

 大輔もにっこり笑う。そのまま二人でチョコを食べていたが、ふと、大輔は意地悪な案を思い付いた。ニヤニヤ笑い出す大輔。

「どうしたの大輔?急に一人で、、、」

「ブーイーモン、お前チョコの欠片がついてるよ」

「え?どこ?どこ??」


「こ・こ・だ・よ♪」


「え?ど、、、、、んんっ」


 いきなり大輔の顔がアップになったかと思うと、唇を塞がれた。妙に生暖かい、、、。それが大輔の唇だと、ひいては、今自分達は『キス』してるのだと気付くのに大分かかった。みるみる真っ赤になっていくブイモン。暫くして、大輔はようやくブイモンから離れた。

「だ、、、だ、、、だ、、、だ、、、!!??」

「へっへ~。俺を心配させたお返しだっ」

 けどそんな大輔の言葉も、ブイモンの耳には入ってない。ブイモンは自分の唇を指で抑え、赤くなったまま俯きながら何やらブツブツ呟いていた。そんなブイモンの姿を可愛いと思いつつ、ニヤニヤ笑い続けていた大輔だったが、ふいに大きなあくびを一つ放った。

「ふぁ~~~~ぁぁぁ、っと」

 そんな大輔の様子に、ハッ!と現実に戻ったブイモン。

「だ、大輔?眠そうだね、、、」

「ああ。昨日お前が帰ってくるかと思って随分起きてたからな~、、、、、、、、そうだ。ブイモン、ちょっと正座してくんね~か?」

「正座?いいけど」

 そして、正座したブイモンの太腿に、ゴテッと頭をのっける大輔。

「だ、大輔!?」

「ごめん、また眠くなってきやがった、、、、暫く借りる」

 言うが早いか、大輔は軽い寝息をたてはじめた。最初はちょっと戸惑ったブイモンだったが、大輔の寝顔に癒されたのか、微笑みながら、大輔が起きるまで、ずっと大輔の寝顔を見ていようと決めた。




~Fin.~







管理者追記:

 100000ヒット記念として、一城寺様からいただいたお話です。
 時事ネタというのも手伝って機会を逸してしまい、アップがずいぶん遅れてしまいました。
 一城寺様には、この場を借りてあらためてお詫びいたします。

 しかしどうでしょう、この甘々さかげん。微笑ましくもこそばゆいような頬がゆるむような(^ ^;
 キャラの雰囲気もつかんでらっしゃるし、経験が少ないというわりにはいい感じじゃないかと思うんですが、いかがでしたか?