アポカリモン...可能性という名の闇

大山様、この度は非常に私好みのコーナーを作って頂き大変ありがとうございます。早速、以前ネタを振っていただいたアポカリモン(&ミレニアモン・ベリアルヴァンデモン・『暗黒の種』・メフィスモン)について考察してみましょう。

数あるデジモンの中でも特に印象深い『デジアド無印』ラスボス・アポカリモン。
進化と共生をデジモンのテーマと見ていた私にとって、彼の言葉は強烈な説得力を持っています(CVが大塚さんだからなあ!)。究極体ではなく至高体とか呼びたい位(笑)。

彼は一体何者だったのでしょうか。

『我々』という言葉を一人称に使うアポカリモンは自称『絶滅種の残(留思)念・怨念の集合体』であり、『進化の歴史の犠牲者達』です。
しかしその言葉通りにとるなら奇妙な点が二つあります。

第一に、死んだデジモンは始まりの町で再生(別の種に再構築)される点。
このシステムの存在により、デジモンの絶対数は増える一方です。発展途中の世界であるデジタルワールドが生物の数を急速に増やし、進化の促進と生態系の多様化をはかっているのでしょうか? いずれにせよデジタルワールドには厳密な死は存在しないのです。

第二に、絶滅種の集合体にもかかわらず現存種(ボスキャラ達)の技を使う点。
言葉通りなら、今は失われた種族の見たこともない技を放ってくるのではないでしょうか?
実はこの怨念の集合体、子供たちと会話した人格(便宜上『彼』と呼びます)は、アポカリモンの一側面というか、表面的人格に過ぎないのです。

本来デジタルワールドの存在でないアポカリモンは、デジタルワールドに干渉するために「デジモンとしての姿=我々が知るアポカリモン」を用意したのでした。ですから厳密にはアポカリモンという呼称もその正体を言い表しているものではありません。
また本来人格をもたないアポカリモンは、自身の行動原理に即した人格として死んだ=否定されたデジモン達の怨念を集め、子供たちと現存種、そしてデジタルワールドを否定しました。この表層的行動主体が『彼』です。

小説版で語られるアポカリモンの正体は…まあ伏せておくとして、(おそらく自分で気付いていないでしょうが)『彼』は自身が語ったような進化の礎ではありません。
しかしながら、戦い敗れたデジモンの無念とその個体に行き着くまでの過程=種族という「くくり」の共有意識(個体は転生しても種族は蘇らない)に記憶される膨大な進化の系譜からできているのは間違いないようです。
『彼』は世界に現れながらも消えていったifの世界の住人たちでもあり、「こんなのもアリ」という進化の可能性の塊です。それが『光』と対峙する『闇』の化身とはどういうことでしょう。

かつて子供たちは「無数の世界が存在するとして、それが全て混じると『黒』い世界一つになる」と考え、デーモン達『闇の世界の住人』はその『黒』い世界を実現するために無数の世界に侵攻していると仮説をたてたことがありました。
混沌は黒く、『闇』に近いのです。
そしておそらく、選ばれ無かった無数の可能性もまた。

可能性を否定するもの、それは『決定・確定』です。これに選ばれた可能性は実現し、選ばれなかったものは闇の中に埋もれ行くのです。
闇夜を懐中電灯で照らすと、『光』の円錐の中に形が浮び上がり、他が唯の闇であるように。
「『光』あれ」の一言が混沌から世界を生んだように。
『光』がもたらす秩序が可能性の海=混沌に決定をもたらし、一つの可能性を現実に引き上げて実現させ、その他は全て『闇』に沈む。こうして世界は続いてゆくのでしょう。

だからアポカリモンは『光』を、光あふれる世界を、世界の秩序を憎むのです。自分を選ばなかった全てを恨むのです。

その影響を受けたダークマスターズもまた然り。スパイラルマウンテン形成の真の目的は新たなる支配秩序の樹立ではなく、(彼らも気付かなかったのですが)「始まりの町の機能を奪う」事、進化=『光』を否定する事だったのです。
結局『闇』は『光』に勝てませんが、滅ぶ事もありませんでした。
『光』は『闇』を退けますが、『闇』はあまりに広く深遠なのです。


●ミレニアモン・キメラモン
大騒ぎした割には大事には至らなかった『2000年問題』。
しかしコンピュータ社会の危機という現実世界のパニックはデジタルワールドに新たな闇・邪神ミレニアモンとして具現化します。
それはダークマスターズで唯一無数のデジモンのパーツが組み合わされた=より混沌の概念に近いムゲンドラモンを非マシン型デジモンのパーツで補ったという形をしていました。ダークマスターズがアポカリモンに育まれた事から見て、ミレニアモンが『彼』の再臨なのは間違いないでしょう。アポカリモンから独立を果たしたのです。
結局2000年問題同様、実力はさしたるものではありませんでしたが(笑)。
これと戦った記憶、そして体内に入った『暗黒の種』が、後に賢にキメラモンを作らせます。様々なパーツを混ぜた=それだけ混沌に近いキメラモンは、例えエンジェモンの翼を使おうとデビモンの腕を使うまいと、闇の尖兵と化したでしょう(おそらくデルタモンも)。


●ベリアルヴァンデモン
小説で明かされますが、デビモンは世界の原型たるファイル島から黒い歯車を世界中に広げるために、エテモンは黒いケーブルによるネットワークの形成のためにダークマスターズが派遣していた事が語られます(スパイラルマウンテン形成のためです)。
つまりヴァンデモンだけが、独立した勢力として現実世界に侵攻しています。
ですがそもそも吸血鬼に関するデータから生まれた彼がアポカリモンの影響を受けていた事は間違いありません。吸血鬼が支配する死に覆われた世界=絶対安定した変化無き世界はアポカリモンの望む世界でもあるのです。
おそらく彼はアポカリモンの影響で、初めから完全体であるあの姿で誕生したのでしょう。そして無意識に自分のルーツであるアポカリモンの一部=『彼』=ミレニアモンの力の結晶『暗黒の種』を求めたのです。


●暗黒の種
小説でゲンナイはこれの前段階『暗黒球』をピエモンに打ち込まれます。その影響を押さえるべく、彼は老化し代謝を押さえる事を選びます。この暗黒球、闇の力を凝縮したもので目標を内部から闇に染めてゆく=闇の住人に変える作用があり、後の『暗黒の種』は闇のデジモンの重要な武器になったとあります。
これが様々な可能性を秘めた混沌の結晶(のデータ)である事は明白です。
かつてデビモンが巨大化したのも、エテモンがブラックホール(?)に飲まれながらも一時的に帰還を果たし、更には究極体となって完全復帰したのもこの力によるのでしょう。
闇はかくも秩序(この場合デジタルワールドの物理法則、常識)を超えた結果を生み出すのです。
また人間に用いた場合、能力が強化されるというより「勉強が出来る・スポーツが出来る」といった潜在的可能性を引き出し実現させていると捉えるべきでしょう。
これを人の心の闇で育て開花させたものが『暗黒の花』。
混沌の力の一部である『暗黒の種』が転じたもの、それは個体の秘める可能性を超越し、無限の可能性=混沌へ通じる門であると私は考えます。そこから無尽蔵の力(=可能性ひいては結果)を得られるものと考えれば、これをただ一輪得ただけでデータの亡霊のような状態であったヴァンデモンが自身を究極体ベリアルヴァンデモンに再構築できたとて不思議ではありません。
『デジアド』のデジタルワールドはコンピュータ上で作られたデータ(正確にはそれにこめられた人の思い)が「思考・思念が実現する世界」を経て構成された世界でした。あの世界こそ、『光』と『闇』がぶつかり合い『無限の可能性』と『唯一つの現実』が交差する世界なのかもしれません。
アポカリモンは『光』と『闇』について、様々なことを私に考えさせてくれるのです。


>メフィスモン
そんなわけで、スケールの小ささといい思想の薄っぺらさといいこれは『デジアド無印』ラスボス・至高のアポカリモンの後継者とは思えません(笑)。カードゲームの設定か何かが具現化したものから生まれたのでしょう。
のっけから長い文章です(汗)。
相変わらず厚顔無恥な本部長でした。