オメガモンとは何者であったか

(この考察はアニメ『デジモンアドベンチャー』の世界観のみに限定しています。『テイマーズ劇場版』やカードを含む各種ゲームは一切考慮に入れていません)

オメガモン。
聖騎士型デジモン・ジョグレス体の元祖ということのみならず、デザインの完成度や登場シチュエーション、キャラクターのドラマ性などにおいても一つの頂点を極めた存在であり、デジモン・オブ・デジモンと呼んで差し支えない人気モンです(ただ誰もが最強格と認識する故にやたら引き立て役に出されるので、ちょっと悲しいのですが…セラフィモンもそうか)。
そんなオメガモンを少し掘り下げてみました。

まずオメガモンが登場する2つの劇場版、それぞれにおけるオメガモンを再確認してみます。
 
 
>『僕らのウォーゲーム!(以下『ウォーゲーム』)』におけるオメガモン

ほとんど説明不要ですが、オメガモンはディアボロモンの脅威から世界を救って欲しいという願いを込め、世界中から送られてきた応援メールから生まれました。
無数の応援メールが集まったデジタマの中で、ウォーグレイモンとメタルガルルモンは、まず巨大化し、そして腕に変形しました。
この点からオメガモンは最初にサイズ及び形状が決まっていた事が分かります。
人の型はメールから抜け出した「光」=人の「希望」によるもので、この「希望」の「光」が実際に『力』を持つ=デジモンとして実体化する際に応援=「希望」を託された対象である究極体2体を媒体=依代としたのでしょうか。
その威力は圧倒的で、グレイソードによるカタストロフィーカノンの反射は725体前後(『公式大図鑑U』P101参照(笑))のディアボロモンを粉砕し、続くガルルキャノンは一発あたり5千〜3万数千体(※)のディアボロモンを文字通り消し飛ばしてしまいます。

※ディアボロモンのコピー速度は画像及び劇中の時間表示から約3秒。
光子郎の「またコピーした…1万6千! どんどん増えてます!」という台詞から砲撃開始まで約6秒。
上記台詞からなお分裂中であり、数字を読み上げるまでにタイムラグがあるはずので更に1〜3回程分裂。
最終的に3万2千〜12万8千体と仮定。
ガルルキャノン発射カット4、着弾爆発SE4。但し2回のSEはカットに直接かからないので4〜6発と仮定。
 
 
>『ディアボロモンの逆襲(以下『〜の逆襲』)』におけるオメガモン

偶然であれ奇跡であれ、一度進化すればその情報は蓄積され、各々の進化系譜に組み込まれるのでしょうか。
2度目は太一とヤマトの二人がいきなりアグモン・ガブモンから出現させました。
しかしながらこのオメガモンは前回のものに比べ、明らかにその能力は劣っています。
仮に2体の相互作用によりウォーグレイモン・メタルガルルモンを合計した以上の能力を有していようと、かつての圧倒的な力には至っていません。
ネット界ではクラモンの群れ(前回の威力を持ってすれば個体数など無視してもいい位です!)を薙ぎ払うことも適わず、現実世界ではアーマゲモンにほとんどダメージを与えられないまま敗退してしまいました。
が、オメガモンは当然まだ終わりません。
大輔と賢の叫びが集まった子供たちの心を動かし、一つの方向に向かい始めた時、太一とヤマトの下にも空が到着します。
彼女によって二人は再び「希望」を取り戻しました。
この時、オメガモンは機能を回復したと思います。
しばらくして(おそらく『力』がある程度満ちるのに時間がかかった)定位置に腕が戻り、光りだしたオメガモンはしかし再生しませんでした。
代わりにその白い巨体はなんとホーリーリングに、そしてオメガブレードになってインペリアルドラモンの元へ飛びます。
オメガブレードに蓄積された皆の「希望」の『力』は瞬時にインペリアルドラモンのデータを上書きし(回復させたのならポジトロンレーザー砲も復元されているでしょう)、黒い装甲を白に、装備をポジトロンレーザー砲からオメガブレードに変更したパラディンモードに新生させました。
 
 
>オメガモンの本質

『ウォーゲーム』のおける誕生の描写を素直に受けるなら、オメガモンは多くの子供たちの「希望」の「光」が実際の『力』となった姿です。
とはいえ、そのままでは「希望」は「光」に、『力』にはなりません。
想い・心の力はデジヴァイスで「光」に変換され、初めて『力』になるのです(例外は初めから「光」を心に持っている八神ヒカリ位です)。
では何がオメガモンを形作ったのでしょうか?
心を『力』にするもの、『力』を縛り、方向性と形を与えるもの。

それは心と心をつなぐ環(和)。
心と心のつながりが、絆が無数の心を一つにし、『力』にするのではないでしょうか。

それこそ、『〜の逆襲』でオメガモンが転じたホーリーリング。
言い換えれば、ホーリーリングがウォーグレイモンとメタルガルルモンを括って『力』を束ね形を与える器を形成していた。
ジョグレス体とはホーリーリングで2体のデータが括られた個体なのです。これは『02』最終回にてゲンナイさんが「ジョグレス進化のために必要だった」とテイルモンのホーリーリングを無断借用していた(笑)事実と符合します(デジタルワールドの要石・ホーリーストーンとはこの環の力で世界そのものを安定させ方向性を定めようと設置あるいは発生したものかもしれませんね)。

ウォーグレイモンとメタルガルルモンを結び付けるオメガモンの白い体は、変形したホーリーリング=『力』の容器なのです。

こう考えれば『〜の逆襲』における敗因は明白でしょう。
あのオメガモンは、単にデジモン化したホーリーリングに過ぎません。

何故なら、器たるその白い身体は満たされていないから。

東京湾に集まった子供たちは当初ギャラリーに過ぎず、平和の祈りも共に戦う意思もなかったのですから。
いわば孤立無援(選ばれし子供たちの応援はあったでしょうが…)の中で太一&ヤマトとオメガモンは敗れたのです。
ウォーグレイモンが転じた左腕・メタルガルルモンが転じた右腕がちぎれた姿はバラバラの人の想いを象徴しているようです。

ですが空によって2人があきらめない心を取り戻したとき、再びオメガモン=ホーリーリングは機能し始め、大輔と賢、そしてインペリアルドラモンに向けられる多くの子供たちの勝利への『希望』を蓄積しはじめます。
そう、現在『希望』の対象は破れたオメガモンではなく上空のインペリアルドラモン。
蓄積された『力』はインペリアルドラモンを対象としており、オメガモン=ウォーグレイモン+メタルガルルモンは自身の復元・戦闘再開よりもジョグレスを解除、集まった『力』その全てをインペリアルドラモンへと託したのです。
ウォーグレイモン・メタルガルルモンをインペリアルドラモンと置き換えれば、『ウォーゲーム』における最初の誕生の時とほぼ同じ状況(インペリアルドラモンをジョグレス体=デジモン2体と考えればパートナーデジモン×2+ホーリーリング×1と構成要素の数も同じ)といえるでしょう。
 
 
>何がホーリーリングを形成するか

ゲンナイさんがテイルモンのホーリーリングを使っていたということは、エージェント達でもホーリーリングを作れないということです(同時にデジヴァイスによる進化システムに外部から何らかのアシストがあったということです。もしかしたらデジヴァイスはホメオスタシス、あるいはそれに類する遥かに巨大なシステムの端末かもしれないのです!)

ではオメガモンのホーリーリングは一体?
いずれの場合もホーリーリングはテイルモンの元にあったはず。
何が心のつながりという象徴的なものを実体とするのでしょうか?

1.ホーリーリングはテイルモンの一部
2.テイルモンはデジタマの時「光」の紋章とつながっていた

と、やはり「光」による作用ではないでしょうか。
ですが『ウォーゲーム』において、ヒカリはディアボロモンの存在すら知らなかったはず。オメガモンの誕生に関わっていたとは思えません。

これは完全に推測ですが(紋章が浮かんだりしていませんからね)、「光」は太一とウォーグレイモンに宿っていたのではないでしょうか。
ウォーグレイモンの誕生に際し、太一は「光」の矢を受け、その『力』がデジヴァイスでアグモンに注がれてワープ進化が起こっています。
更にこれまでのところ、ゲートがない、あるいは閉じたネット界と現実世界を行き来したのは太一・ヤマトそしてエンジェウーモンのみ(※)。
まず太一がネット界に入り、二人の絆がヤマトも招き入れたと考えられなくもありません。
一方でヤマトに宿っているであろう「希望」の矢の作用、太一とウォーグレイモン・ヤマトとメタルガルルモンのつながりが引き起こした現象の可能性も大きいです。

いや、『〜の逆襲』において二人が「希望」を取り戻した事でオメガモンが再起動したと考えると、「希望」も関わっているはず。
だとすれば、ホーリーリングの誕生は「光」と「希望」の相互作用による、とも考えられます(『黄金のデジメンタル』を生み出したときもそうだとすれば、なかなかに興味深い事です)。

※クラモン・アーマゲモンVer.も「容量の小ささを活かしたメールの添付ファイル」という形で現実世界に出現しましたが、それだけが理由とは思えません。これもその出自である「ネット上の人の悪意」という人の心の力≒「光」の作用によるものと考えています。
デジモンの進化の原動力である以上「光」は善でも悪でもない。そしてデジヴァイスでの変換前の想いでも無数に集めれば力を持つことはあり得るでしょうし、ネットに携わる人たちの中にヒカリ同様「光」を心に持つものがいないとは言えません。
それに加え受信者自らの「メールを開ける」という意思即ち「添付ファイルの中身との縁≒絆を望んで結ぶ」という心との相互作用で現実世界に引き上げられるのではないでしょうか。
もちろん『無数のメールに込められた何か(クラモンの出現を望んだ心の力)が集まりデジタマを形成する』という誕生プロセスそのものがオメガモンの模倣なのですが。
 
 
>ホーリーリングとジョグレス進化

前述しましたが『〜の逆襲』のオメガモンはいきなり現れます。

「アグモン(ガブモン)・ワープ進化〜!」

でも

「ジョグレス進化〜!」

でもなく、本当に唐突。
しかもまず巨大なウォーグレイモン&メタルガルルモンの頭部(!)になっている。初めから合体体勢(笑)になっているんですね。
これはもう進化ではなく、変身とか召喚(特殊二身合体:破壊神ウォーグレイモン+神獣メタルガルルモン=魔神オメガモン)とかかもしれません。
考えてみればオメガモン=ウォーグレイモン+メタルガルルモンは合体前後も究極体と進化段階が変化していないのですから『ジョグレス=ジョイント+プログレス進化』ではない、とも解釈できますね(もっとも超究極体なる便利な言葉もありますが)。

『02』第27話で光子郎の口からデジモン同士の合体の最初の事例としてオメガモンがあげられていました。それ以前にそういった事例があればゲンナイさん辺りが教えてくれそうな気がしますが、どうやらそれは無かった。この点から少なくともエージェントたちにとってもオメガモンの誕生は始めての、まったく予想していなかった出来事だったと思われます。
その『(ホーリーリングを用いた)デジモン同士の合体→新種発生』という事例から『ジョグレス進化』という進化システムを開発する過程で、『(太一とヤマトのパートナーから)オメガモンを出現させるシステム』が作られることは充分有り得ます(科学というものは「再現性(リピータリティ。同一条件下で同一手順を踏めば同一結果が得られること)」を重視するものです。技術とはつまりある事象からパターンを抽出し、再現性をもたせたものですから)。

一方、劇中で(テイルモンにホーリーリング返却後なのに)ブイモン・ワームモンはインペリアルドラモンにジョグレス進化しているので、エージェント達はホーリーリングのデータ化とそれの進化システムへの組み込みに成功した、とも考えられます。『〜の逆襲』のオメガモンもこの「正式採用型ジョグレス進化」で誕生したのだとすれば、旧デジヴァイスもD−3も同一の巨大システムの端末とも解釈できますね(同時にやはり『ウォーゲーム』と『=の逆襲』のオメガモンは別モンといえそうです)。

何はともあれ、事例第一号であるオメガモンの再現は必須だったでしょう。

少し話がそれますが、上記の様に考えれば、丈・空・ミミ・光子郎でも特定のペアでジョグレス進化ができるかもしれませんね。ズドモン×リリモン→マリンエンジェモンとか、ガルダモン×アトラーカブテリモン→クロスモンとか。
む、見てみたいかも…(笑)。
(まあ劇中の描写を見る限りアーマー進化が出来る=古代種とその末裔でないとジョグレス進化も出来ないのでしょうが…これは別の掘り下げの話題です)
 
 
 
多くの心を絆が束ね、形とする事で生まれる『力』。
その『力』に満たされし存在・オメガモン。
それは決して救世主とか、天の使者とかいった遥かな高みから差し伸べられる救いの手ではありません。
それは絶望の闇に抗う「希望」の「光」。
一人では決して生み出せない、けれど一人一人の心からしか生まれない祈りの化身なのです。

オメガモンは『デジモンアドベンチャー』という作品のテーマ、その一端を象徴するキャラクターだと思っています。

最後に。
オメガモンとは、通常ではありえない究極体同士の合体による「究極体を越えた究極体」に冠する尊称かもしれません(『最終体』とか)。
ですから仮にもう一組の究極体ペア・セラフィモンとホーリードラモンが合体したとして、それもまたオメガモンと呼ばれるのかもしれません。
 
 
本部長でした。