メルキューレモン〜鋼の錬金術師〜 その2

■スピリット強奪計画
さて、彼=セフィロトモンの最終目標はぶっちゃけて言うとデジタルワールドの支配権です。
どうしてそんな野望を持つようになったのかは後に譲りますが、いずれにせよ、彼の理想の前には壁がありました。ケルビモンです。
その力は強大無比ですから、ひとりで反乱を起こしてもとうてい敵いません。それどころか純粋な戦闘力に欠ける彼では、表だって叛意を見せた瞬間、ダスクモンの粛正に遭うでしょう。ダスクモンこそ、ケルビモンが直接指揮する手駒なのですから。

むろん、いきなりそんな事をするほど彼はバカではありません。むしろ頭脳こそが最大の武器といえます。
さらにもうひとつ、彼には強力な武器がありました。仮定ですが、それこそが野望のキモとなるデータの操作です。
もともと『フロンティア』世界のデータ=デジコードは流れがゆたからしく、デジモンたちはかなり自由に進化していました。自分の意志で進化と退化を使い分けますし、同種の何体かがジョグレスしてつぎの段階へ進化したこともあるほどです。人語を堪能に話し、文化も多彩ですから、もはや人間のちからを必要としない、歴史の古い世界なのかもしれません。

しかし前論にのっとって考えると、セフィロトモンの能力はずば抜けて優れていることになるでしょう。それでなくとも、鋼のヒューマン体にまったく違うはずの三大天使デジモンのデータを、なんの破綻もなく融合させられるのです。その上それを外部からの遠隔操作で戦闘させることができるとなると、もはや常軌を逸していますね。

セフィロトモンの切り札とは実のところセラフィモンのデータそのものではなく、この能力だったのではないでしょうか。
必要なのはただ、きっかけを作れるような強大なデータだったのです。さらに自分で直接操ることができれば理想的でしょう。土壇場で裏切られてはたまりませんし、そもそも彼は同僚の四闘士を信頼していません。ダスクモンに至っては敵視しています。
そんな彼にとって、起き抜け(笑)のセラフィモンを倒し、そのデジコードをスキャンできたことはまさに千載一遇の僥倖だったにちがいありません。仮にも三大天使、まともに向かっていっては歯が立たないはずですからね。
彼の野望は、ここから加速度的に歯車を回しはじめることになります。

23話において、デジモンの力を理解しはじめた拓也たちを見たセフィロトモンは一計を案じ、本体である自分自身が動く決意をしました。それが24〜28話におけるセフィロトモン内の闘いにつながるのは周知の事実ですね。
が、この作戦には引っかかるポイントがいくつもあります。彼が中に飼っているデジモンたちはいずれもなかなかの強者ではありますが、拓也たちを倒せるほどではありません。ラーナモンとて、ビースト体になっても五分五分といったところ。それも一対一という条件つきで、です。こんなぬるいやり方で勝てるとは、まさか思っていますまい。
ところが彼、拓也にだけは積極的に攻撃をしかけています。もちろん拓也はリーダーですから、集中してねらうこと自体は合理的でしょう。しかし、この一戦にはもう一つ重要な意味があったと思えてなりません。

29話でのセフィロトモンの発言を思い出してみましょう。
同話において、セフィロトモンは拓也たちの属性攻撃を身につけ、そのことごとくを反射していました。これこそが自分のほんとうの狙いだった、と豪語までしています。表面的にはただの悪あがきというか、虚勢に聞こえますが、実はあながち間違ってなかったんじゃないでしょうか?

私はこう思うのです。

スピリットと同じ属性のエネルギーを操作できるようになった=スピリットを扱えるようになった

つまりセフィロトモンはあの時点で、スピリットさえ手に入れればそれを使い、十闘士を疑似的に出現させることができるようになっていたのです!
 
 
 
■セフィロトモン快進撃!?
そう、28話で首尾よく拓也を始末できていれば、すでに火のスピリットを操作するノウハウは得ているわけですから、あとは手持ちの適当なデータをスピリットにあわせ、アグニモンやヴリトラモンを錬成すればいいのです。おまけにシャーマモンの例をみるまでもなく、二体を同時展開することだってできるでしょう。
こうなればこっちのものです。すでに一行の精神的支柱になっていた拓也がいなくなればほかの3人の戦意はいちじるしく減退するでしょうから、ブラックセラフィモンとあわせて三体で攻撃すれば簡単に殲滅できます。これで4種8つ。拓也らがスキャンしていた土と水の2種4つ、木のスピリット1種ひとつもあわせれば、実に13体もの十闘士デジモンを展開できるようになるのです。

残るは光と闇のスピリットですが、これもベオウルフモンとダスクモンを戦わせておき、頃合いをみて乱入すればいいことになります。ダブルスピリットエボリューションの存在はすでに認識していますから、アグニモンとヴリトラモンを融合させてアルダモンを作っておけば確実でしょう。ただし、ここまで暴れるとケルビモンの介入は避けられません。ことは迅速に進めなければならないでしょう。

さあ、首尾よく行けばこれですべてのスピリットが手に入ります。理論上はスサノオモンを作ることができるはずですが、光と闇を同時に操れるのがルーチェモンだけという設定があるので、そこまでは無理かもしれません。つまりロイヤルナイツはともかく、ルーチェモンにはどうあがいても勝てないことになります。

が、この段階まで来たということは、運が彼に味方しているのと同義。それに、実はケルビモンが集めたデジコードがないとルーチェモンの復活にトリガーがかからない可能性があります。スキをみてそれをも奪い、ブラックセラフィモンに取り入れれば、ケルビモンに勝てるばかりかルーチェモンの復活をも阻止できるかもしれません。オファニモンが邪魔をするかもしれませんが、もはや無視できるレベルの障害でしょう。そしてそれがうまくいけば、ルーチェモンも当面の復活をあきらめ、ふたたび眠りについてくれるかもしれません。ロイヤルナイツを懐に隠したままで。

あとは取り入れたデータを好きなように操作するもよし、いっそのことすべてのデータを取り込んで自分好みの世界に変えるもよし。ほとんど自在にデータを操れるセフィロトモンならば、それも可能でしょう。
 
 
 
■セフィロトモンの最期
…とまあ、仮定オンリーでずらずらとならべてきたロードマップですが、もちろん現実はそんなに甘くありません。彼は28話でアルダモンにヒューマンスピリットを奪われ、さらに29話で本体のビーストスピリットを失い、あえなく消えることとなったのです。
計画を進められる強力なカードを手に入れ、意気揚々と布石を打とうとしたまさにその矢先の頓挫でした。

ですが実をいえば、セフィロトモンの計画はそもそもの時点で失敗していたと思うのです。
そのわけは、また次の機会に……。