Operation Doodlebug

本部長です。
 
 
アリジゴク作戦。
『テイマーズ』のクライマックスを飾る、ネット管理局とワイルドバンチが総力をあげたデ・リーパー殲滅作戦です。

が、正直本放送時私にはよく理解できませんでした(笑)。

今回はこの『テイマーズ』ばかりかおそらく全シリーズ中最大規模にして最もSFテイストあふれる一大作戦・オペレーション・ドゥードゥルバグにスポットをあて、その細部を自己流に再確認してみました。
 
 
 
■作戦概要
地上=リアルワールドとデジタルワールドをつなぐ『筒』トランスポーティック・エディ。
これを実はブラックホール発生プログラム(!)だったプログラム・シャッガイにより超光速で逆回転させることで局所的タイムマシンに変え、デ・リーパーを元のプログラムにまで退化させる作戦です。

これだけ聞いても何がなんだか分かりませんね(笑)。

※ケイブンシャの『デジモンテイマーズ大百科 完結編』にはシャッガイ(改)の機能が「プログラムを初期状態に戻す(やはり時間を巻き戻してか?)」と書かれていますが、その場合シャッガイ(改)を起動させればそれで済むことになってしまいます。
ここではシャッガイ(改)はあくまでアリジゴク作戦の一要素として解釈しています。
 
 
 
■攻撃対象:デ・リーパー
デジモンの天敵ともいえる存在、デ・リーパー。
もともと不要なデータを消去し、メモリを整理するプログラムであったらしいのですが、その正体は不明です。
ほとんど暴走といった活動を続け、遂にはデジタルワールドやネット環境どころか地球上全ての活動体の整理を開始。その過程で心・感情という不安定要素を持ち、度を越えた活動を行うもの全て=デジモンそして人間を排除対象と定めました。

実際謎だらけの存在で、そもそもどこから来た(どこにいた)のかもハッキリしなければ、活動に当たってエネルギーを補給している描写すらないのです!
デジタルワールドの最深部=最外縁、四聖獣の領域の向こうから侵攻してくる描写はありますが、以前からそこにいた=デジタルワールドの先住者的存在とも、四聖獣によってそこに追いやられたとも解釈できます。
活動エネルギーを求めない以上、それ自体はトランスポーティック・エディから得ているのでしょうが…(樹莉の悲しみが力を与えている、ともとれる描写はありましたが…まさか心をエネルギーにするメンタルな存在ということはないでしょう)。

確かなことは情報だけの世界から実体化という方法でリアルワールドに現れた(デジモンのリアライズ同様、擬似タンパクを媒体にしているかは不明)ということ、そして目的が人間の排除ということです。
 
 
 
■リアルワールド
さて、リアルワールド…私たちの現実世界では、どんな情報も物理的な媒体なしでは存在できません。
プログラムやデータなど磁気信号は言うまでもありませんが、音声も気体(液体や固体でも可)の振動、私たちの思考・記憶すらもニューロンを形成するシナプス間の化学物質のやりとりです。

デ・リーパーも例外ではありません。だから実体化したのです。
しかしそれは同時にデ・リーパーが質量を持ったということ。
重力の支配から逃れられないということです。

デ・リーパーが重力を制御できる可能性は非常に低いです。
情報だけの世界=重力の無い世界(もちろんデジタルワールドには重力が設定されていますが、それはあくまで仮想的なものに過ぎません)にあったものがどうして重力を操れるのでしょうか?
事実デ・リーパーは大きく地に広がり(含むデ・リーパーゾーン)、デジタルワールドで見られた空中を泡状に浮遊する振る舞いは見られていません。一見飛行しているかのエージェントですが、よく見ると(バリアたるADR−09ゲートキーパーを除き)全てケーブルで本体?に支えられており、振り上げた触手の先端と見ることもできます。
この点からもブラックホールを用いた本作戦は極めて有効だと言えます。
劇中の言葉を借りるなら

「重力のあるリアルワールドに出てきた報い」

なのです。

(ADR−09ゲートキーパーはデ・リーパーの一種というよりもそのカーネルが引き起こした『現象』、デジモンたちの技=ゴマモンのマーチングフィッシーズが呼び出す魚の群れのようなものでしょうか。他のエージェントとは明らかにデザインラインも違いますし)
 
 
 
■トランスポーティック・エディ(transportic eddy)
デ・リーパーが具現化したゲートです。
が、デ・リーパーが作ったものではないと思われます。
後述しますが、これの完全閉鎖がデジモン達の退化も促しました。おそらくワイルドワンのリアライズなど全ての事件の元凶ではないのでしょうか。

発生原因や細かな原理は一切不明ですが、デジタルワールド(あるいはそう設定された限定領域の向こう側、コンピュータネットワークという情報のみの非実在空間)の存在を実在として直接リアライズする機能を持っているようです。

トランスポーティック・エディについて劇中の台詞や描写から読み取れる事は

1・光速を超える速度で回転している
2・デ・リーパーを急速に進化させた
3・逆回転させれば時間を逆行できる

という3点です。

1から、トランスポーティック・エディが空間そのものであることが分かります(やはりネット側からの観測でしょうか?)。
モノ・実体であれば質量があり、そして通常質量があるものは光速以上で運動する事は出来ません(光=光子は質量0だからこそ光速で運動するのです)。
この大原則の回避法の一つがインフレーション宇宙論のような空間そのものの運動です。
空間そのものには質量はありませんから。

2と3からは、これの回転方向が通常の時間の流れと同じ方向を向いているということが分かります。東京は地球の北半球に位置しますから、きっと上から見たら反時計回りに回転しているでしょう(赤道でピークになる地球の自転速度に引っ張られているから)。
これにより、トランスポーティック・エディ内部の極狭い空間(表面、といった方が適切かな? 厚さ0の二次元空間でしょうね)は見かけ上時間の流れが早いのではないでしょうか。
時間=光速ですから、超光速の空間内では外の通常空間と比べてより早く時間が進むという理屈です。少しアヤシイですが(笑)。
この作用がデ・リーパーを急速に進化させたのでしょう。
事実デ・リーパーの多彩な形態分化はリアルスペースに現れてから始まっています。

空間そのものに干渉できるのは重力しか、重力が働く場しかありません。
というのは、重力場とは質量によって生じた空間の歪み=空間そのものなのだから。
このため、シャッガイが必要になるのです。
 
 
 
■プログラム・シャッガイ
デジタルワールド・リアルワールドに相互に干渉して超小型ビッグバンを起こし、発生したブラックホール(宇宙誕生初期にいくつもできたといわれるミニブラックホールでしょうか?)に人工知性を引き込むというけっこうナゾのプログラムです(笑)。
ネット上のデジタルワールドに設定されている仮想重力によるのでしょうか、ブラックホールでありながらデジモン(と可視光)以外には目立った影響を与えません。
テイマーたちのパートナーの一体、『テリアモン』に仕込まれ(本体ではなく、ダウンロードするシステムが組み込まれていたようです)、デ・リーパーゾーン内に持ち込まれました。

この時使用されたのは改良型のシャッガイ・カーネル3.2なるバージョンだったとか。
容量の小型化や作動安定性の向上はもちろんですが、ブラックホールの中心となる『テリアモン=セントガルゴモン』を押しつぶさない工夫、例えば中心の外側にリング状の特異点(注)を持つ変則的なブラックホール(むしろ実在するならこういった形だろうと考えられています)を作るなどの仕様変更されている事でしょう。

注…落下速度=脱出速度が光速を超える、密度と重力が無限大に強くなり大きさ0の点にまで押し潰された空間です。あらゆる物理法則が崩壊することから、ここと外界の境界=前述の光速の境界を「事象の地平線」と呼びます。
 
 
 
■ブラックホール・タイムマシン
さて、ブラックホールの重力と回転でトランスポーティック・エディを引っ張り、逆回転させれば本当に時間が巻き戻せるのでしょうか?
デ・リーパーが『筒』の表面上の存在=その内壁にへばりついている二次元的存在なら可能かもしれませんが、デ・リーパーは(彼らから見て時間の流れが異なる)リアルワールドの人々とタイムラグなしに対話していますから、トランスポーティック・エディに縛られていないのは明白です。
残念ながら、そう簡単にコトは運ばないようです。

というわけでもう一ひねり―劇中のセリフ通り、局所的タイムマシンが必要です。

ブラックホールは質量・電荷・回転量の3つの個性しか持たない単純な存在ですが、この「事象の地平線」の彼方の点は文字通り「この世のものならぬ」作用を物体に、そして空間と時間に及ぼします。

無限大の密度が生む重力は超光速の引力として物体を落下させる。
極大の重力場=空間の傾きは空間と時間を歪め、条件によっては入れ替える。

超光速の運動、空間と入れ替わったために移動可能になった時間。
シャッガイが生み出すブラックホールは、強大な重力でデ・リーパーを引きずり込み、問答無用で時間の旅に送り出すタイムマシンに転用できるのです。

が、いずれにせよ、トランスポーティック・エディ内にシャッガイを送り込まねばなりません。
 
 
 
■レッドカード
予想される迎撃をかわし、シャッガイをトランスポーティック・エディ内にまで持ち込むには、デ・リーパーゾーンの影響=デジモンに何らかの干渉をし、最大の戦力たるハイブリッド究極体を分離・退化させる作用を無効化する必要があります。

そのために開発されたのがレッドカードでした。
デジモン達固有の波長に近づけその体のおそらく表面だけを擬似タンパクから超流動体に変換するというものです(非固体の部分は赤いバリアの様に見えるようです)。
超流動体とは粘性0の超流動の状態にある流体の事で、容器の壁を登って流れたり原子一個ほどの隙間を通り抜けたりと奇妙な振る舞いをします。
超流動は目に見える同時に量子レベルの現象です。
この状態では多数の原子が全て一つの量子状態(エネルギー最低の状態)を占めています(ボース=アインシュタイン凝縮)。
これがどうしてデ・リーパーゾーンの影響から逃れる事に通じるのかは、そもそもデ・リーパーゾーンの影響が分からない(笑)ためよく分かりません。「一つの量子状態にする」ということが関係するのかも知れませんね(現実の超流動はエネルギー最低値=超低温で見られる現象であり、極々低温でも凍らない液体ヘリウムが−270℃位になった時に起こるようです。レッドカードは低温ではなく、進化プロセスに介入して直接一定のエネルギー状態にするのでしょうね)。

しかし急ぎ作った為か、その設計には人とデジモンとのハイブリッドが計算に入っていませんでした。結果、これまたなにがどうしたのか不明ですが、予想よりも早くテイマーとデジモンの分離が起きてしまい、ハイブリッド究極体は退化してしまいます。
デ・リーパーゾーン内で分離が起きたためにテイマーたちの脱出は事実上不可能となりましたが、ハイブリッドしていない上にデ・リーパーゾーンに突入可能な究極体・マリンエンジェモン(どういう訳か、オーシャンラブは唯一デ・リ−パーに対し有効な技なのです)により救出活動が行われ、テイマーたちは誰一人欠けることなく帰還したのです。
 
 
 
■その結末
作戦は成功しました。
デ・リーパーは消失、トランスポーティック・エディは消去され、デジタルワールドとリアルワールドの境界は再び強固なものとなりました。
この『筒』の消去自体はネット上の操作で可能だった様ですね。ネット上の情報世界と現実世界の接点はそのどちらからでも干渉できるもののようです。
その一方でアリジゴク作戦はあくまで対デ・リーパー作戦であったことが伺えます(『筒』を消してもデ・リーパーが残ったりしたら大変ですから!)。

しかし、それによってリアルワールド内ではデジモンたちもただのプログラムに戻ってしまうという事態になりました。
つまり、デジモンもまたトランスポーティック・エディを通ってリアルワールドに現れていたのです!
超光速で回転する『筒』は異世界の存在を本来属する世界とつなげているパイプ、様々な世界の接点だったのです。

こうしてテイマーとデジモンたちは本来の居場所・当たり前の日常に帰ってゆき、2つの世界はあるべき姿を取り戻すのでした。
 
 
 
■落とし穴
ところで実はこの計画、とんでもない大穴が開いているのです。
山木室長の言葉、「局所的なタイムマシン」が全てを語っているのですが、本編中では誰も突っ込みませんでした。

最もストレートかつ本編に沿った時間操作法である超光速での運動を用いても、時間を撒き戻す事は出来ないのです。

時間を逆行する事と逆流させる事は全く別の問題です。

過去に行ったからといって移動主体の経過時間が戻るわけではないのです。
タイムマシンで10年前にいったら10年若返った、なんて話はありません。
第一それでは10年分の記憶も無くなってしまい、ただ世界と哀れな時間旅行者を混乱させるだけです! そればかりかそのタイムマシンが作られた時点までしか戻れないと言う事になります(作られて10年経ったタイムマシンは10年前まで戻る過程で無くなってしまうでしょう。こういう世界ではタイムマシンは熟成させる必要があります。○年物のマシン、という具合に)。

時間逆行=過去に行くのは時間移動。
時間逆流=過去に戻すのはエントロピーの逆転。

(少なくともこのリアルワールドにおいて)時間とはビデオテープのようなものではありません。その場合、この宇宙の終わりまで歴史は確定していることになります。
時間はビデオテープというより、無数のコマ(無限短の一瞬)の集合がたまたま連続してつながったつぎはぎのフィルム、とイメージした方が適当かもしれません。
その瞬間は一回きり、繰り返したとしてもその時その時で違う結果となるでしょう。もし時間が逆に流れたとしても、その異常な時間の中はやはり未来へと向かっているのです。

そして現在までのところ、我々の科学は(ごくミクロな事象以外の)エントロピーの逆転を認めていません。
科学でないものを科学で出来るはず無いでしょう。

オペレーションドゥードゥルバグはデ・リーパーを元のプログラムに戻してなどいないのです。
時間移動の過程、それこそブラックホールでバラバラに引きちぎり、あるいは時間移動中に活動困難な状態にしたとしても(空間と入れ替わった時間=何もない世界をどの位彷徨うか分かりませんが、主観的時間経過によりデ・リーパーはそのエネルギーを消費します。何せ完全に無補給で放り出されるのですから!)。

ただ別の時間、順当に行けば過去へ送り込んだだけ。

デ・リーパーは「いつ」「どこ」に飛ばされたのでしょうか?
一つ、面白い仮説が立てられます。

飛ばされたのが物語開始前のデジタルワールドだとしたら。

デ・リーパーは活動を再開し、デジタルワールドを侵蝕しようとするはず。
実体を破壊され、エネルギーを失い、原始的な活動しかできない状態のデ・リーパーも、少しずつ力を取り戻し強大になってゆくでしょう。
それは傍から見れば、『進化』し『学習』しているように見えるはず。

四聖獣たちはこれに抵抗し、中でもチンロンモンはデ・リーパーを目覚めさせた元凶と思しきデジエンテレケイヤーを、デジノームによってデジモンにするでしょう。

そうして、物語は始まるのです。

タイムパラドックスものの定番、環状に閉ざされた歴史ですね。
こうして出自その他、デ・リーパーの謎は全て解消というか、無意味になってしまいます。
彼らはこの宇宙の歴史から切り離された存在。
どれだけ無敵の力を得ようと、そのときそのときの歴史が多少変わろうと、最後は過去に飛ばされてしまう。

デ・リーパーは決して勝利することはない、故に最強の存在たりうる。
言わばこの宇宙にとって『無意味』な存在なのですから。

本部長でした。