『オメガインフォース(+オールデリート)』
〜デジモン必殺技解釈4

本部長です。
随分間が開いてしまいましたが、デジモン必殺技解釈の4回目をお送りします。
今回取り上げるのはX抗体入り赤枠オメガモン、通称オメガモンX、でも中身はやっぱりオメガモンのオメガインフォースです。

…また必殺技じゃない…というか技じゃない(特殊能力ですよね)。そればかりか(やったことないので不明ですが)ゲームとかでもおおよそ再現されないであろう、案の定『デジタルモンスター ゼヴォリューション』じゃ見事にスルーされた能力です。
ところが考察を進めていくうちに思いがけずオメガモンXの新必殺技・オールデリートの考察(というほどのものでもありませんが)までできてしまいました。まあラッキー。

それでは、よろしければ長文にお付き合い下さい。
 
 
 
■一体どういう技なのか?

『戦闘時に一瞬にして先を読み対応できる究極の力「オメガインフォース(最後Omega-獲得Gain-力Force)」を身に付けたため理論上は無敵』
(バンダイ『デジモンウェブ』内『デジモンペンデュラムX』ページより)

しかも対デクスモン戦において最終的に消去不可能と「断定」したことから文字通り「最後=結末を獲得=知る」力であり、単純に近未来を読み取る能力ではないようです。
ただし「戦闘時に」とある通り、いつでもあらゆる事象を見通せる訳ではなく、現在行われている戦闘限定のようです。またこの辺りははっきりしないのですが、自身が戦っていない傍観している戦いの結末が分かるかは微妙ですね。
いずれにせよ攻撃補助に分類される類の能力であり、それによって得られるのは「情報」のみ。
直接戦闘能力を強化するものではありませんが、その恩恵は絶大なようですね。

未来を知る。
これは大きく分けて二つのパターンが考えられます。

現在のデータを元に推論する『未来予測』。
何らかの方法で直接未来の情報を得る『未来予知』。

ではそれぞれをなす為の方法とともに、果たして本当に『理論上は無敵』なのか考えてみましょう(って、すでにデクスモンに勝てない=無敵ではありませんがね)。
 
 
 
■未来予測
『先を読み対応できる』という表現により適切なのはこちらでしょうか。
 
 
・経験
秀でた武術家が戦う前に勝敗を知る、という話は様々なメディアで出てきます。
私自身武術を学んだことがないので推測でしかありませんが、相手の外観=身体各部の発達具合から身体情報(リーチとか筋力とか攻撃パターンとか)を、立ち振る舞いや気配などから技量を推し量り、おそらく把握しているであろう自分のそれらと比較検討するのではないでしょうか。
しかしながら、人間とほぼ同じかよりシンプルなデジモンのメンタリティを考えると、過去の経験を判断材料に用いるのは当然という気がしますね。完全に本能というか刺激に対する反応だけで動き全く学習しないデジモンの方こそ少数派のように思えます。
ここで思い返していただきたいのが、オメガモンがそもそもウォーグレイモンとメタルガルルモンの合体デジモンであるということ。単純に考えて同年齢(?)のデジモンの2倍の経験を有するのです。さらに

必殺技は、メタルガルルモンの形をした大砲から打ち出される冷気弾で敵を凍結させる『ガルルキャノン』。
(バンダイ『デジモンウェブ』内『デジモンアクセル ジャスティスゲノム』ページより)

とあるように、X進化前からオメガモンはメタルガルルモンの攻撃能力(≒コキュートスブレス)を備えています。この点からオメガモンが合体前の特性を失わずに保持していることが伺えます。

オメガインフォースとは、歴戦の勇士ウォーグレイモンの勘(経験に基く無意識下の計算?)・判断と戦闘機械メタルガルルモンの測定・分析能力、そして双方の戦闘経験がX進化によって昇華され、相乗効果の域を超越し新たなる能力にまで高められたもの。
こう考えると戦闘に関してしか先が読めないのも当然といえますね。

この仮定ではオメガインフォースはオメガモンの知識経験に基くものでしかありません。
従って(全てがデータと計算『だけ』で成り立っている、極端に言えば結末が最初から決まっている決定論的な味気ない世界でない限り)、どんなに垣間見える未来が正確であろうと「断定」することは不可能です。
まあ単純にデクスモンを前にして「彼我の戦力差が火を見るより明らか=勝てない」と感じただけかもしれませんが、オメガインフォースとは少し違うようですね。
もっともおそらく、いいえきっとオメガモンはこの能力を使っていることと思います。それこそ常に。
 
 
 
■未来予知
結末までを、しかも「確実に」知るにはやはり直接未来の情報を得るしかないのではないでしょうか。それは即ち、未来から情報を得ることに他なりません。
未来から情報を得るということは即ち過去へ情報を送る何かが存在するということ。
幸い私たちの科学は未来から過去へ情報を送ることが出来るかもしれない存在を幾つか予見しています。

未来へ向かう通常の波動『遅延波』の相互作用である過去へ向かう波動『先進波』。

一つの発信源から飛び出た二つの粒子間に働く距離を無視した同調作用『量子結合』。

静止質量が『虚』の為、速度の下限が光速という仮想(屁理屈)粒子『タキオン』。

これらの内先進波と量子結合は基本的に送信側と受信側との間でやり取りされる信号=オメガモン以外の何者かが必要な能力となりますので、ここでは単独で存在できるタキオンを取り上げることにします。

※送信側と受信側に分かれているのは信号を向ける先が確定するからでもあります。当然、タキオンを用いた通信でも受信側があった方が良いのです。
つーかそもそも『過去のある一点』なんて『どこ』なんだ(笑)。

>タキオン
私たちの科学は現在相対性理論により時間の速さ=光速としています。すごく大雑把に言って、あらゆる事象は光速で未来へと押し流されているのです。

その相対性理論によると、静止質量を持つ=静止質量が『正』の粒子が運動をすると、質量が増えていきます。粒子を運動させる=加速させるエネルギーが粒子の質量として蓄積されてゆく、とイメージすれば良いでしょうか(質量=エネルギーだから原子の質量を減らしエネルギーにする原子力発電とかができる訳で)。
この質量の増大は速度が上がるにつれ深刻な問題となってきます。重くなるということは動かす為のエネルギーも大きくなるということですから。そして光速に達すると、どんな粒子も質量が無限大になってしまい、動かす為に必要なエネルギーも無限大=動かせないということになってしまうのです。
この為、静止質量が『正』の粒子は決して光速で動けません。
光=光子は静止質量が『0』の為、静止することなく光速で動き続けるのです。
ちなみに静止質量が『負』つまり負の物質(必殺技解釈「メガデス」参照)でも運動の方向が逆になるだけでやはり光速では動けません。
ところが仮に静止質量が『虚』=虚数であった場合、話は変わってきます。
虚の質量を持った粒子は常に光速以上で動き続け、通常とは逆にエネルギーを失うと加速します。
つまりエネルギーを与えられると次第に減速してゆき、無限大のエネルギーによって光速になるのです(ちなみにエネルギー0で速度無限大)!
この逆の意味で光速を超えられない『虚』の静止質量(静止できないのでこの言葉も変ですが…)の粒子はギリシャ語の『速い=タキス』から『タキオン』と名づけられました。

超光速粒子タキオンは光速=時間の速さを追い越す為、結果として過去へ過去へと移動する粒子です。
 
 
 
■タキオン通信
具体的なことはさっぱりですが(というか数式上存在してもいいんじゃない?的粒子に具体的もへったくれもないのですが)、タキオンを発生させてかつ時間の向こうの送信先を特定し、タキオンに指向性を与えた上で信号を乗せ、かつタキオンを受信することが出来れば(問題だらけだな…)、タキオンで過去に情報を送れるはずです。
まあとりあえずタキオン通信が可能として話を進めましょう。

タキオン通信で未来の記憶を受信する。
何せ実際に自分が経験した(する)のですから、これ程確実な先読みもないのではないでしょうか。
しかし現在の自分に出来るのはあくまで受信のみ。未来の自分が記憶を現在即ち過去の自分に送信することが前提になります。
この場合、信号を受信する時点で共通する記憶は送る必要はありません。丸ごと送ったりしても、その膨大なデータの大部分は既に持っているわけですから。送信する記憶はできるだけ明確に特定できる時点、初まりがはっきりしている事象に関するものであることが望ましいと思います。事象そのものに明確な区切りはありませんが「ここから」と送りたい記憶を特定することは出来るでしょう。
オメガインフォースがこれから始まる、または現在行われている戦闘に対して使われる理由の一つは、この送信データの整理の為ではないでしょうか(いくらなんでも戦闘を開始した時点は特定できるでしょうから)。
 
 
 
■リセットボタンに伸びる指
さて首尾よく未来の記憶を得たとしましょう。
単純に考えて、記憶通りに行動すれば記憶通りの展開と結果が得られます(もちろんその時が来たらタキオン通信で過去に情報を送らねばなりません)。
ですが普通未来の情報を得たのなら、より良い展開と結果を模索するのではないでしょうか? というか、『対応できる』そうですからすでに未来を変えている。
これはオメガモンがとんでもない怪物になってしまった可能性を示唆します。
つまり望ましく無い結果になった場合、「ここから」という時点にタキオン通信を送り、再び違う展開を試みるという可能性。

要するにタキオン通信を用いたオメガインフォースはセーブ+リセットと同じ効果をもたらすのです!

通常私たちの知覚できる全ての存在は(私たちがそうである故に)時間軸に対し未来への一方通行しかできませんが、タキオン通信を使いこなせば未来⇔過去の双方向移動が可能になります。別に直接実体を持って過去に行く必要はありません。情報さえ送れればタイムトラベルは成立するのです。
それらは移動可能な方向(三次元とか)の意味と世界における存在の位置の二つの意味において、私たちより高次元の存在です。
それらにとって世界はやり直しがいくらでもきくゲームの様なものでしょう。
『理論上無敵』というのも頷けるというものです。

このオメガインフォースの欠点は主観的にオメガモンだけ時間がどんどん経つ=年を取る可能性があることです。確かに肉体的には変化しないのですが、タキオンの受信は当然として未来の記憶が際限なく増えていくのですからそれの保持だけでもエネルギーを消費するでしょう。記憶容量の問題や処理限界の問題もあります。
もちろん未来の記憶と異なる行動を取った時点でタイムパラドックスが起こり、送信される未来の記憶も変わる=未来の記憶は常に一つのみという可能性もあるのですが(これに対し前述の老化・消耗はどんどん歴史が分岐してパラレルワールドができていく訳ですね。オメガモンは未来の記憶を得たことで過去→未来という縦軸に対し歴史を横に平行移動している、と言い換えれます)。

いずれにせよ、対デクスモンで「消去不可能」と「断定」したのはつまりデクスモンを倒した記憶が得られない=あらゆる未来において倒せなかった、または全ての未来においてオメガモンが倒されたという訳です。
 
 
 
■オールデリート
オメガインフォースを身に付けると共に追加された新必殺技オールデリート。
オメガインフォースの正体をタキオン通信と仮定するとオールデリートも説明できてしまいます。
というのは『タキオンを用いた広域破壊ガジェット』が日本SF界に存在しているからなんですね。それは一時期決戦兵器や必殺技の代名詞といっても過言ではない、メジャーかつインパクトのあるシロモノでした。
このアイディアはきちんと理論付けることは出来ませんので、私の想像を交えながら紹介します。

大量のタキオン粒子が通過する時空間は周囲の時空連続体に対し非常に不安定になります(あ、ここが一番不可解なところなので疑問挟まないで下さいね(笑))。
そんな時空間上では物質であれなんであれ、秩序を保つことは出来ません。紙の上に砂で絵を描き、その紙をぐしゃぐしゃにするようなものです。砂粒一つ一つを安定させていた重さ、即ち秩序を保っていたエネルギーが仇となるのです。特に物質であればその原子構造に封じ込めたエネルギーが膨大な熱として解放され、自身を焼き尽くしてしまいます(強制的に引き起こされる核分裂、といったところでしょうか)。
あまりに壮絶かつ無慈悲な威力ゆえ、初使用するや禁じ手扱いとなってしまいました。

時空間そのものを揺るがし、存在の根底から破壊。しかもその破壊は「熱」という形で現れる。
ウォーグレイモンが転じたグレイソードによる必殺技・オールデリートに相応しいと思いませんか?

で、結局このタキオン兵器は何なのかと言うと…『波動砲』なんですね、『宇宙戦艦ヤマト』の(笑)。
 
 
 
■今回のツッコミ
タキオンという実在すら疑わしいものを持ち込んだ時点でツッコミどころだらけです(笑)。
あと受信した信号の読解=自分の記憶に組み込むのにどの位の時間がかかるか分かりませんが、『一瞬で』とあっても0ということはない筈。また同じ時点からやり直したい場合が複数あった場合、同時に複数のタキオン信号を受信できるかも疑問です。前後に『一瞬』ずつずらさなければならないとすると、状況にもよりますが過去を変えられる回数は制限されるかもしれませんね。
そもそもタキオンを発生、信号を送るのって一瞬で出来るのか?
受信はなるほど『一瞬』かもしれませんが、送信の方は?
それこそ波動砲よろしくじっとしてエネルギーを集中、記憶を過去に向かってロードさせる=無防備にならないと使えないかもしれませんね(『デジタルモンスター ゼヴォリューション』ではあっさりとオールデリートを発動させてましたが、記憶を変換した信号って送信そのものに時間かかりそうな)。
 
 
 
■ 総括・パンドラの箱の底
あらゆる災いの「魔」を封じたパンドラの箱、しかし最後にその箱に残ったものは『希望』でした。
多くのフィクションで語られる有名なギリシャ神話の一幕ですが、私は高校時代に違うバージョンを目にしました。それがとても印象深いのです。
「魔」が開放された時、パンドラはあわてて蓋を閉じました。そのため何とか最凶最悪の「魔」だけは解き放たれることが無かったのです。

それは「未来を知らせる魔」。

こうして世は災いに満ちましたが、人は『希望』を失わずにすんだのです。

私としてはこちらの方が原典に忠実なのでは、と思っています。人の不忠・不誠実さと愚かさの体現者として作られた女パンドラと彼女に決して開けるなと渡された箱。それに『希望』が入っていた=『希望』まで災いと同列というのは釈然としないのですが・・・それとも災いが無い世界=日々平穏な世界には『希望』もいらない、という寓意なのでしょうか(まあ結局開けちゃうだろうからせめてもの救済措置だったのかな)?

未来は分からないから、未知だから未来。
未知は怖いことですが、そこに立ち向かう『勇気』があれば様々な可能性−『希望』を見出せるのです。

未来を知る力・オメガインフォースを得たオメガモンは、それ故に未来を、『希望』を失ってしまいました。

未来の情報を得るオメガインフォース。
それはオメガモンが認める最終的(オメガ)な結末以外の全ての可能性を否定する力。
世界の未来をその一点に向かって捻じ曲げ収束してゆく、即ち未来を奪う力なのです。

これではアルファモン&オウリュウモンに主役を譲らざるを得ませんね。

ところでこのオメガインフォース=リセット説は別の『ある能力』と同じもの、と解釈することも出来ます。
まあバレバレなんですが、一応それは改めて次の機会に。

本部長でした。