エテモン! 悪の花道

 脚本:西園悟 演出:早川啓二 作画監督:伊藤智子

★あらすじ
 ホエーモンのおかげで、ぶじにサーバ大陸に到着した太一たち。
 彼に教わったとおりなら、半日歩いたところにコロモンの村があるはずなのですが、そこはパグモンの住み処でした。
 多少の引っ掛かりをおぼえながらも、歓迎を受ける子供たち。ご馳走を味わったおかげか、タケルのポヨモンがトコモンに進化するのですが、朝起きてみるとそのトコモンの姿がありません。不安にかられた一行は、捜索をはじめます。

 ずっと感じていたコロモンの匂いを頼りに単身滝に赴いたアグモンは、グルグル巻きにされて閉じこめられているトコモンを見つけました。しかも、そこには大勢のコロモンたちが閉じこめられていたのです。これは乗っ取りだ! 真実を知ったアグモンに、パグモンに命令していたガジモンたちの襲撃が。
 同じく真実を知った太一たちが駆けつけ、その場は撃退に成功するのですが、連中には黒幕がいました。悪の完全体にして最強を名乗る「エテモン」です。

 自慢のダークネットワークを使い、村の無差別破壊をはじめるエテモン。ヤツの必殺技「ラブセレナーデ」の前では、パートナーたちの進化も封じ込められてしまって手も足も出ません。なすすべのないまま、コロモンたちの案内で滝の裏へ逃げこむ一行は、奇妙な文様がある壁に突き当たりました。
 そのとき、太一の持っていたタグに反応が…かざした先で実体化したのは、なんと紋章でした。タグにぴったりとはまり込む大きさです。

 紋章があらわれた後には壁が消え、見おぼえのない景色が広がっていました。これはコロモンたちの避難経路でもあったのです。
 一瞬にして遠くへ逃れた子供たち。それを知ったエテモンは、むしろ不敵に笑うのでした。



★全体印象
 15話です。タイトルコールはエテモンの増谷康紀さん。背景の影絵もエテモンです。
 02もそうですが、じっさいの出番より前にここで声優さんがバレてしまうことが多いですね。アクの強い人が多いし…。

 題名通り今回はエテモンの独壇場で、残念ながら子供たちはまったく歯が立ちませんでした。彼はデビモンとはまるで逆の、自分が出張って部下にサポートをさせるタイプなので、子供たちは完全体進化まで逃げの一手。で、その間に紋章を集めていく展開になるわけですが、20話まではある意味でダークマスターズ篇以上に「追われている」感が強い流れ。そうしたプレッシャーが、ファンからは「今ひとつ」との評価を下される原因なのかもしれません。
 しかし、暗黒進化やそれを踏まえた上での完全体進化という一大イベントもしっかり仕込まれているので、決して軽視はできないでしょう。

 ただこの回、ざっと見たところだと小ネタはいろいろありますが、全体的に薄めです。
 子供たちもそれほど特筆すべきセリフを発してませんし、お話の流れもあんまり濃密じゃありません。そのように感じるのはたぶん、ファイル島篇がキャラ紹介として強い側面を持っており、私がそこに惹きつけられていたからかもしれませんね。もちろんそこで確実に積み重ねられたものがあるので、やや平板に感じたとしても破綻にはほど遠く、ちゃんと見れるお話に仕上がってるわけで…。つまり、名篇ではないまでも普通におもしろい、ということです。
 まあこの「普通」が問題なんでしょうが…。ファンってのは貪欲なものだから。

 とはいえ、ここでデビモンと真逆といっていいノリな悪役・エテモンを持ってきたのは正解でした。
 単なる拡大コピーよりもはるかに新鮮味がありますし、それにあの愉快犯的なノリは、暗黒進化などで一時的に落ち込みがちな子供たちのテンションと好対照をなしています。紋章捜し篇にあまり暗さがないのは、彼のおかげといっても過言ではありますまい。「大将」っぽいところもあって好感すら持てます。
 また彼のあとに、より以上の部下をかかえデビモン以上の冷酷さをもつヴァンデモンを持ってきたのも効果を上げてますね。

 ところで今回はめずらしくアグモンの単独行動があり、進化できずにボコボコにされる場面も見られます。
 実は、アグモンが単独で動く理由がどこにもありません。太一が残ってる理由もない。単独行動はどちらにとってもいい選択肢じゃありません。デビモン以上の闇がどこに潜んでいるかわからない状況下ではなおさらです。

 ですが問題はそうした矛盾ではなく、なぜそのような展開にしたか。推測ですが、ふたりが顔をあわせたときの反応を描きたかったんじゃないでしょうか?
 このとき、太一はアグモンの無事を確認するとすぐさま進化の指示を出しています。ここに違和感を感じた人が、結構いたみたいなのですが…しかし今考えれば、このやり取りは意図ありにせよ偶然にせよ、16話以降への伏線のひとつになっていたんじゃないでしょうか?

 これは藤田さんの演技ひとつとってみても言えます。「大丈夫か」も「進化だ!」も毅然とした宣言ですが、そこにアグモンを心配するような気持ちはあまり感じられません。それより敵を倒す事を優先しているようにすら聞こえますし、表情もそうです。
 もしかしたら、太一はパートナーデジモンが敵を倒すための力である以前に、共に歩むべき友であるという気持ちが薄れかけていたのかもしれません。もっと平たく言えば、ありがたみを忘れかけてたのかもしれない。だから、アグモンの意志と関係ないところで進化だけを求めようとしていったのではないでしょうか。

 あの短いやり取りは紋章を手に入れたときのセリフとあわせ、太一の心情を推しはかる材料になっているのだと思います。



★各キャラ&みどころ

・太一
 今回はやたら単眼鏡を使ってました。それにしたってアグモンを一人で行かせるのはまずいでしょう。
 そういえばミミにはオフロ用具をぶつけられるし、後半の見せ場には違和感があるしで、実はあんまりいいところがなかったような。


・ 空、ヤマト
 今回はこれといって特筆すべき出番がありません。見せ場ならまだまだいっぱいあるので、今はしかたないでしょう。
 しかし丈はミミに手がかかると思われてたのか…。


・光子郎
 はずみでミミに押し倒されたり入浴場面を見てしまってオフロ用具をぶつけられたり、役得なんだかひどい目にあってるんだかわかりません。
 持ち前の理屈っぽさでパグモンに反論したりもしています。


・ミミ
 よくしゃべるせいもあって、気のせいか今回はほかの子より目立ってたような…。
 めずらしくお風呂シーンもありましたが、お色気担当の代名詞・織本泉には及ぶべくもありません。いくら1学年下だからって…ねえ?


・タケル
 ポヨモンが進化し、まともに会話できるようになったことをとても喜んでいましたが、それだけに行方不明になったときの表情が暗い。
 それ以外は他と似たり寄ったりでした。


・デジモンたち
 自分の嗅覚に自信があるのか、引っ掛かりを感じて調査を進めていたアグモンが今回の殊勲賞です。
 2体1の苦しい状況でとっさに打開策を思いつくあたりの機転は、パートナー譲りでしょうか。

 あとはトコモンが無闇にかわいいんですがどうしましょう。


・パグモン
  コロモンの村を乗っ取り、子供たちを待ちかまえていた幼年期のウィルス種です。
 シルエットはいいんですが、目が全然可愛くないし性格もひねくれてますね。力が弱いから、それでもまだ可愛いもんですけど。
 フロンティアでは集団でおそってくるなど、さらに凶暴になってるケースがありました。


・ ガジモン
 ウィルス種の成長期。哺乳類型です。エテモンの手下のなかではかなり頭数が多く、いろんな雑事をこなしているようですね。
 ダークネットワークというインフラがあるにもかかわらず、連絡自体はどーやら自分の足でやってるみたいですが…。
 見ていると、エテモンに対してはけっこう気軽にツッコミを入れたりしてます。大将のほうも人使い…じゃなかった、モン使いが荒いかわりに、失敗してもゲンコツ程度みたいなので、良好な関係とはいわないまでもそれなりに手下…というか、舎弟が集まってるみたいですね。


・ エテモン
 ロックなノリで弾けまくりワルの花道を大股で進む、目立ちたがりのデストロイな完全体です。
 しかしその実力は本物。成熟期のままでは、何体でかかってもまったく歯が立たないほどの強さを誇っています。その上本人がガンガン前に出てくる性格ですからたまったものではありません。…というか、舎弟のガジモンたちはむしろ彼にブレーキかけるのに四苦八苦してそうです。
 専用の笑天門カーを持ってますが、引っぱるのはモノクロモン。これも打ち負かして舎弟に引き込んだ口なのでしょう。

 このように、負かしたデジモンを倒さずに手下として働かせるのが彼のやり方です。

 部下が大勢いるという点だけならヴァンデモンやダークマスターズもそうですが、どちらかというと戦う前に膝を折って服従するパターン。しかしエテモンの場合は、手下にしてる全員にガチンコ勝負で勝ってる節さえあります。自分が頂点であることを名実ともに証明しなければ気がすまないタイプですからね。そして一度部下にした相手は簡単に処分したりせず、可能なかぎり有効利用する。特に、負かしたナノモンを使ってダークネットワークを構築させているあたりは意外にあなどれません。そのナノモンはエテモンを評して力だけの猿と言っていましたが、なかなかどうして合理的なヤツです。


・ 日数経過
 前回からちょっと修正したほうがよさそうです。
 太一は「海を出て今日で5日」と言っていました。海を出たのは、7日目の日中です。ということは、その時点から15話の朝をむかえるまでが5日ということ。つまり大陸に上陸したのは12日めの朝、という結論になります。
 パグモンの村で1日を終えてますから、エテモンに襲撃を受けたのは13日めの日中ってことになりますね。そろそろ2週間か。

 

★名(迷)セリフ

「んん…? タイ料理がどうしたって……?」(丈)

 食べたことあるのかな。


「では皆さま、お元気で!
」(ホエーモン)

 ホントにいい人…いや、デジモンでした。


「いつ着くのよぉ…何時何分何秒?」 (ミミ)

 言いかたが可愛らしい。


「ミミ!」 (太一)

 あわてると「ちゃん」がはずれるみたいですね。


「はーい、拍手!」 (ミミ)

 なんだかんだで、いつのまにか盛り上げ役になっちゃうんですねこの子。


「いよっ! エテモン様! キング・オブ・デジモン!」 (ガジモン)
「うっさいわね! 朝っぱらから声が大きいわよ!」(エテモン)
「それをいうならエテモン様のほうが……」(ガジモン)
「シャーラップ! おだまり!」(エテモン)


 悪の組織というか兄貴と舎弟といったほうが近いなあ、このやり取り…。
 この後エテモンはさらにガジモンのツッコミを受けてガビーンとなったりします。


「ほかの連中は連れていかないんですか?」 (ガジモン)
「選ばれし子供なんて、あちき一人で充分!(キラーン)」(エテモン)


 単に目立ちたがりなんでしょうけど、戦うほうにとってはこれほど怖い相手はいないかもしれません。


「くそぉ…あの滝さえなければ…! …滝…そうだ!」(アグモン)

 これって飼い犬は飼い主に似てくる法則ってやつでしょうか? それくらい太一に似てきてます。


「進化だ、アグモン!」(太一)

 うーん、やはりこのシーンは微妙に違和感がある。やはり故意にそうしたのでしょうか?


「紋章だ…ついに手に入れたんだ…!
 こいつさえあれば、エテモンなんか怖くないぜ! 」(太一)


 そのように考えると、この場面ももう少し違って見えてきて、次へより自然につながるようになってきますね。



★次回予告
 いよいよあの恐るべき暴走がはじまります。
 そして作画も負の方向へ大暴走してるんですが……どうしましょう、これ。