暗黒のゲート
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脚本:前川淳 演出:角銅博之 作画監督:八島喜孝 |
★あらすじ
光が丘にデーモンが現れた!
闇の首魁と対峙する及川は用済みの賢を引き渡そうとしますが、そこに大輔が割って入ります。
しかし、究極体のデーモンにはパイルドラモンの技もまるで通用しません。
インペリアルドラモンに進化し、さらに駆けつけた京たちと力を合わせても結果は変わりませんでした。
しかもデーモンは、何と自力でデジタルゲートを開く力を持っていました。デジタルワールドに放逐しても無意味なのです。
力の差の前に絶望しかける子供も出はじめたとき、賢が奇策に出ました。かつてダゴモンの海に行った経緯のある
自分のデジヴァイスを使い、デーモンをかの黒い海へ封じ込めようというのです。
闇への恐怖に耐えながらゲートを開こうとする賢を見て、大輔たちも必死に激励。甲斐あって、なんとか勝ちを拾うのでした。
及川たちが逃走したため、さらわれた子供たちもぶじに解放されます。
しかし、及川のほんとうの狙いはわからないままでした。
その夜、賢は両親にすべてを話し、ワームモンの存在を明かしました。
事件はいよいよ、最後の局面を迎えようとしていたのです……
★全体印象
45話です。タイトルコールは朴ろ美さん(賢)。
影絵は紫の背景と街のイメージをバックに、デーモンへ三大ジョグレス体が挑む形になっています。
全編の八割がデーモンとの戦いで、バトル主体ともいえるお話。
ただし後半はほぼ防戦一方で、賢とゲートをめぐるやり取りですから派手とまではいえないかもしれません。
おまけに勝ったものの、決してデーモンを討てたわけではないのであまりスッキリしませんね。
当時は最終話までにまた出てくるだろうと、勝手に思い込んでいたものです。
このお話で披露されたデーモンの実力が、私に「本当の意味で恐ろしい敵はラスボス以外にいる」と思わせた原因です。
ベリアルヴァンデモンは野望を持った一個人にすぎず、デジタルワールドや人間界を狙う敵はまだまだ他にもいる。
02よりあとの未来は皆へデジタルワールドを認知させていくとともに彼ら闇の勢力や、あるいはまた別の敵と
世界じゅうが力を合わせて対抗していく展開になっていくのかもしれません。
タケルが02ラストまでしか本にしていないのは、むろん当時の体験にいちばん思い入れがあるというのもあるでしょうが、
その後はデジモン関連の出来事に楽しい思い出があまり無いからなのかのかもしれないと感じることがあります。
デジモンを認知させていく過程で、何かトラブルが無かったとは言えませんから。
いや、まあ……そういうことがあったに違いないと、ことさら主張する気なんざ毛頭ないんですけど。
作監は八島氏。作画監督としてのデジアド参加はこれが最後となります。
あいかわらず良く動きますが、今回はみんなテンパってるのでたまに表情がものすごいことになってました。
なにげに一話とメインスタッフが同じなんですね。
★各キャラ&みどころ
・大輔
闇にあてられたのか浮き足立つメンバーが多いなか、ひとりだけいつものノリを保っていました。
彼が賢へ激励の言葉を投げたことが、事態収拾の大きなきっかけにまでなっています。
土壇場の強さなら見せてきましたが、ここまでの形で示されたのは初めて。
彼はリーダーというより、それぞれが自分の持ち味を活かそう、活かして立ち向かおうと決断するための勇気、
それを与えてくれる人物なのだと思います。失敗も多いけど、最後の最後で頼りになってくれるのはやはりこの男。
私はずっと大輔にそんなイメージを持ってきました。今も変わっていません。
まあ、美味しい語りは49話に取っておきましょうか。
でもこういうムードメーカー的人物像って、どっちかというとやっぱり三番手造形なんだよなあ……
それこそが彼の最大の個性でもあるんですけど。
・京
前回のショックが抜け切れないのか、いまいちテンションが低いままでした。
デーモンの強さの前にも真っ先に意気消沈してしまいますし、やはり精神的ダメージが大きすぎたか。
なんとか立ち直るのは後半の大詰めになってからですから、見せ場というほどのものはなかったと思います。
しかし、それも仕方のないこと。
真の邪悪たる暗黒のデジモンたちと命のやり取りをさせられたのは、この件が初めてなのですから。
それを考えれば、むしろ良く乗り切ったと言ってあげるべきかもしれません。
また今回は賢に力添えをし、その凄まじい恐怖をある程度共有するという場面がありました。
のちに結ばれる伏線とはいえないでしょうが、覚えておいていい事実だと思います。
・伊織
なるべく割り切って戦いに挑もうとしてましたが、やっぱりテンションが低かった人のひとり。
おまけに捨て鉢なセリフもけっこうあったので、悪印象を持ってしまった人もいたんじゃないでしょうか。
そんな時でも反論は理詰めなあたり、彼らしいといえば彼らしいんですけどね。
結果的には賢の奮闘を目の当たりにし、気迫を振るい起こして支えに走っていました。
かつては闇の力を恣とし、それゆえ誰よりも闇を恐れていたはずな賢の覚悟に、何かを感じたのでしょう。
・タケル
デーモンに向かって激発するシーンもありましたが、希望が見えた後は自分を取り戻していました。
伊織同様、いちばん闇を忌避しているはずの賢が示したド根性にアテられた面もあるでしょう。
もしかしたらこの時、タケルは賢のことを本当の意味で許せたのかもしれません。
自分自身のためだけに闇を弄ぶのではなく、闇に打ち克つために敢えて闇の力を使い、耐え抜いて道を切り拓く。
そんな賢の挑戦を見て、完全にシャッポを脱いだのがこのお話だったのではないかと感じました。
ラスト手前で賢に見せた態度が、なんとなくそれを表しているような気がしてなりません。
・ヒカリ
こちらは賢への気遣いが目立ちました。
感受性のつよさや闇への恐れなどタケルとは別の意味で似た者同士なので、気持ちがよくわかるのでしょう。
真っ先に賢を支えようとしたのが彼女だということは、書きとめておくべき事実です。
・賢
44話のぶんを取り返すかのような出張りっぷり。後半はほとんど主役です。
今回、彼が選んだ手段は本来、忌むべき過去の産物。禁じ手といってもいい手段だったと思います。
しかしそれを使う動機はいままでと全く違うもの。仲間のため、巻き込まれるかもしれない多くの人々のため、
そして歩みはじめた新たな道のため、掴むべき未来のためにあえて恐怖へ挑みました。
面白いのは、そんな彼の思いにちゃんと闇が応えてくれるところ。
闇にも光にも本来善悪はなく、恐れるべきはそれを使う自分自身の心ということなのかもしれません。
以前タケルが闇のちから自体が憎いわけではないと言ったのは、そういう意味だったのでしょうか。
ひょっとすると将来、賢は数少ない闇を克服した男として、その特技を活かした活躍をしているのではありますまいか。
闇の恐ろしさを知り、手綱を取っていく人物として。ちょっとだけ、そんなことを思いました。
そういう側面をさらに進めたのが、フロンティアの輝一ではないかと見ています。
・パートナーデジモンたち
いちおう一通りのパターンで応戦してるんですが、敵が強すぎてまともにはダメージを与えられていません。
ファイターモードが出てきても正面からでは状況を好転させられなかったので、かなりやばい状況でした。
まあファイターモードが最大の技を出してないので、あのまま本当に勝てなかったのかどうかはわかりませんね。
ただし、情け無用のデーモンが相手では周囲にそうとうの被害を出してしまったでしょう。
それは子供たちにとり、決して勝利とは言い切れない結果です。
デーモン放逐はベストな手とはいえないかもしれませんが、そういう意味でベターだったようですね。
フレイムインフェルノを無効化できるシャッコウモンの防御力は、いつ見ても大したものです。
よく見ると、決して丸ごとを吸いこんでるわけじゃないみたいなんですが。
・シュウ兄さん
バトル終了後に登場。引率者役ということになるので、子供たちを送ったほうぼうで頭を下げてくれました。いい人だ。
この際の行動が、ジュンのドラマに終止符を打つことになります。
・ジュン
シュウ兄さんに一目ぼれ。恋人がいるらしいヤマトからあっという間に鞍替えしました。
これにて彼女の出番はほぼ打ち止めとなることになります。
……サマーキャンプにまで押しかけていったあの行動力はなんだったんだろう。
まあ別の見かたをすれば、特定の相手がいるのにアタックをかける趣味はないということなのでしょうけど。
思い込んだらまっしぐらなくせにそういう所だけ気が利くあたり、弟に通じるものがありますな。
さらに言えば、何があってもメゲないあの頑丈さもさすがに大輔の姉といったところです。
向いてる方向が恋愛に偏ってるというだけで。似たものどうしだから、ゴッツンコも多いってことですか。
・一乗寺夫妻
さすがに不可解さをおぼえたのか、賢の行動について疑問を呈していました。
息子のことをよく見ている、または見るようになった証拠ともいえます。
これが、賢ちゃんにカミングアウトを決意させるきっかけとなりました。
それにしても奥さんは出たら泣かなきゃ気が済まないんですね。もう完全に芸の域へ達してますこの人。
・及川
なんでデーモンのことを知ってるのかさっぱり説明してくれないまんま、さっさと逃走してしまいました。
黒幕なのに表立ってバトルをしないという、シリーズ通してもめずらしい悪役としてある意味確立されています。
彼自身はあくまで人間ですから、それが当たり前なんですが。部下もそんなに強くないし。
・アルケニモン&マミーモン
部下のみなさん。デーモンに一撃でぶっ飛ばされたものの、いつのまにか車を調達して及川の逃走を手助けしました。
もうこの頃になると、まともに戦闘する場面すらなくなってきてますね。残る見せ場はもう48話ぐらいか……
・デーモン
あいかわらずフードを脱がないままですが、その力はまさに魔王にふさわしいもの。
デスペラードブラスターを涼しい顔で受け止めて巨大化、インペリアルドラモンを加えたジョグレス体一斉攻撃にも動じず、
それどころか仮にも究極体+完全体との衝突合間にデジタルゲートを開いてみせるパフォーマンスまでしてました。
……こいつは一体なんなんだ。
感じるのは純粋さです。もちろん、いい意味でではありません。
身も心も魂さえも、混じりっけなしの闇から生まれた生粋の暗黒、純血の悪魔。そんな雰囲気を感じるんですよね。
本来の設定では天使側からダークエリアに堕ちたらしいので、生まれた時からそうだったわけじゃないのかもしれませんが、
デジアド世界にかぎっては何だかそんな風に見えるんですよ。
だから強い。人間を利用しなければ力を維持できないベリアルヴァンデモンとは違い、単体であの力を出せる。
彼らが暗黒の種を手に入れて何をしようとしていたのか本当のところはわかりませんが、
もし渡してしまったら恐ろしいことになったでしょう。押し込められたのがダゴモンの海ってのがまた怖いんですよね。
個人的にはベリアルヴァンデモンよりも強いと思っています。
ミもフタもないことをいえば、とつぜん出てきてあっというまに消えたポッと出の人というだけなんですけど。
でもたぶん、世間のほとんどがそーゆー認識じゃないでしょうか。しかも根本的解決になってないまま放置ですし。
★名(迷)セリフ
「やったか!?」(大輔)
今回はなんと二度も言います。これじゃデーモンを倒せるわけがありません。
「何故さ……!?
何故あらわれる!? 何故そっとしておいてくれない!? 闇の住人なら、闇の世界にいればいいんだ!
勝手に出てくるな!! 」(タケル)
デビモンに近い存在といってもいいデーモンが相手ですから、舌鋒も鋭くなってますね。
このシーンのタケルはかなり凄い顔をしてました。歯グキまで見える。
テンパリ具合にテイマーズ34話を思い出しました。あっちのほうが後ですが。
「ククク……
そもそも、ワシたちがどうやってこっちの世界に来られたと思っているのだ?
デジタルワールドに追い返したところで意味のないこと。いつでも自由に現れることができるのだ……
馬鹿め……!!
」(デーモン)
すっごく怖い事をさらっと言ってます。しかもそれっきり放置という。
そういえばVテイマー版のデーモンも自前でゲートを開いてましたし、ルーチェモンFDもそうでした。
魔王型デジモンにはすべからく、そういう能力があるのかもしれません。もしかしたら、ベルゼブモンにも。
ところで人間がいなくても力を維持できるとは書きましたが、現実世界への拘りは変わりませんね。
ただ侵攻の動機自体がそういう拘りを捨てるためのものなので、やはりもう人間を必要としなくなっている存在なのかもしれません。
であれば、パートナーの概念と真っ向からぶちあたる敵でもあるのでしょう。
ところでこっちのデーモンは自分のことを「ワシ」と言うんですね。
「一乗寺賢……一乗寺さんが、闇の恐怖と戦っている……」(伊織)
「なんとかして闇のゲートを開こうと、あきらめずに必死になって……!」(京)
「それなのに……僕は……!」(伊織)
「京のバカッ!!!」(京)
この二人に見せ場があるとすれば、やはりここでしょう。
なにげに伊織がさん付けで言い直しているところがポイントですかね。
「怖い……! 賢くんはこんな恐怖と戦っていたの……!?」(京)
見ようによってはフラグと取れなくもないシーン。
相手の気持ちを身をもって感じるというのは、大切なことだと思うので。
「そうだ、賢! しっかりしろよ!
お前は、もう昔のお前じゃない! デジモンカイザーじゃ、ねえんだ!!
悩んで……苦しんで……やっと闇の力に打ち克ったんだろ!? 自分がやったことの償いだって、してきたじゃねえか!
だからもう何も、恐れることなんかないんだ!!
自分を信じろ! 闇の力になんか負けんな!! オレたちがついてる!!! 」(大輔)
やりとりなど略。個人的に45話といえば、このセリフです。
賢だけでなく、全員に勇気が伝わった瞬間ですね。
大輔の良さが最大限に出た言葉のひとつでもあります。相手の本当に持っているものを自然に掴み、肯定してくれる。
賢にとって彼はまさにパートナー。デジモンじゃない、もう一人のパートナー、相棒なのですね。
たとえ進む道が違っていっても、きっとそれは変わらないのです。
目先の幻に惑わされない特質があるのも、だからだと思いますね。
本質を見抜き、何が真実なのかを「なんとなく」区別してのけられる男なのですから。
そんな彼だからなっちゃんの声だって届いたし、そこで聞こえたものこそ本質なのだと気付けたのでしょうね。
なっちゃんはなかなか見る目がありました。
「クククッ……愚か者どもめ。いずれ後悔することになるぞ……!
フフフフフ……ハァッハッハッハッハッ!!」(デーモン)
それでもなお、魔王は嗤う。
普通に考えればこれはベリアルヴァンデモンのことを言っているのでしょうが、
私にはなんかそれ以上の意味があるように思えてなりません。あまりにも不気味な予言だ。
願わくば、この世界にはもう二度と現れないでほしいものです。
「大丈夫。うちの親は事情をわかってるから。だから、いいんだ。さあ、行って!」(タケル)
遠慮がちな賢に車の席をゆずった時のセリフ。何かミョーにご機嫌でした。
賢とタケルの間柄がまた一歩変わったな、と思ったシーンです。近づいていってるのはどうもタケルのほうみたいですが。
「こんばんは。ボク、ワームモンです」(ワームモン)
カミングアウト。それもあって心に残ったセリフです。
この後お母さんが気絶するんじゃないかとハラハラさせられたのは秘密。
★次回予告
黒ウォさん再臨。ウォーグレイモンとの対決は、誰もが期待した美味しすぎるネタです。
デジアド最後の直井作画をとくと堪能しましょうか。