トーマ栄光なき戦い 暗躍トゲモン
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脚本:大和屋暁 演出:深澤敏則 作画監督:出口としお |
★あらすじ
現役復帰して以来、破竹の7連勝を挙げているプロボクサー・早瀬翼。その陰にデジモンの影ありとみたDATSは、内偵を進めていた。憧れの早瀬選手が不正をしているとは信じられぬトーマは、独自に早瀬選手へ接触。容疑者が絞り込まれていく中、再三の検証を続ける。
果たして犯人は早瀬ではなく、一人娘の愛美だった。彼女に取り憑いたトゲモンがその棘を使い、早瀬の対戦相手を不調に陥れていたのだ。トーマはみずから囮となってトゲモンを誘いこみ、ガオガモンの怒りの一撃が敵を葬り去る。
すべてを知った早瀬は、最後になるかもしれぬリングへと向かう。
愛娘に自分の正々堂々とした戦いを見てもらい、その心へ大切なものを残すために……。
★全体印象
9話です。
何やら8話と同じようなパターンだなあと思ってあんまり期待してなかったんですが、嬉しいことに予想がはずれました。
バトルよりもドラマ重視のお話ですが、かなり良く纏まっています。ちょっとした推理ものの様相も呈していて中盤まではなかなか緊迫感もあり。そのあたりからなんとなくは読めてきますが、もう一段仕掛けてあったというオチですね。ボクシング周りの素材もベタな分基本は押さえられているため、素直に見ることができます。ジムオーナーがああいう人なのは、もはや様式美でしょうか。
ベタというのを差し引いても、ゲストの早瀬選手は過不足なく立てられていて好印象です。
ただ35歳という微妙な年齢や、妻子持ちという設定は妙にリアル。取材の結果か、脚本の大和屋氏自身がボクシングファンなのかもしれません。
前回が人の弱さを見せたものなら、今回はこの早瀬選手が人の強さを見せてくれる形になっています。
戦闘はお約束を交えながらわりにすぐ終わってしまいますが、作画こそデグってはいるものの動きや演出はまずまず。
すでにスタッフが一巡したのを考えると、どうやら演出まわりはそこそこ安心できそうです。
まあ、今はプリキュアに行ってる川田氏がローテにいないというだけで5割以上はマシになるんですが…(ひどい言い草だ)。
★各キャラ&みどころ
・大&アグモン
道場破りから潜入捜査へ捩じ込んだりと、兄貴は今日も今日とて無茶な人です。
ただし、8話にくらべれば出番は少ないほう。それでも存在感は確保しています。
・ 淑乃&ララモン
こちらも出番は多くありませんが、着実に捜査を進める姿や奥さんを擁護するセリフが心に残りました。
たしかに戦闘はろくにしてないんですけど、彼女らも妙に存在感があります。
大とトーマの間に割って入るときの腕バタバタが楽しい。
・トーマ
前回の淑乃と似た立場になりましたが、彼もクールでした。DATSとしての本分を見失ってはおらず、しかし幼い頃のキラキラした瞳に象徴されるような、ボクシングを愛するハートも感じ取らせてくれています。捜査が実を結んだのは、彼が早瀬という人物をを信じ続けたおかげなのですから。ただ、感情論ではなくあくまで確たる裏付けが入るあたりが彼らしさってところでしょうか。
こうなると大も同じような立場に立たせてほしくなるなぁ…。
トーマたちよりも随分荒っぽいリアクションにはなるでしょうが、それこそが彼らしさだし。
・ガオモン
重要なポイントではきっちり喋っているので、セリフの数のわりにはすごく目立ってます。
かなり熱いセリフも飛びだして、当初の戦闘マシーン的イメージがいい意味でどんどん崩れてきていますね。
・DATSのみなさん
隊長は裏であれこれ手を回していますね。表に出てこない人員が相当いるんでしょう。
今回、オペレーターさんたちは出てきません。
・早瀬翼
ゲストキャラですが、精悍な壮年というイメージで立派な人物として描かれています。秘めた心の傷をのぞかせることはあっても、囚われるほどではなく…それだけ大人だったということでしょうか? よい意味でも、悪い意味でも。
事件後にトーマから事情を聞かされたようですが、この場合記憶を消すのは娘さんだけで、本人については守秘にまかせる形になったみたいです。
娘の異変に気づいてはいたのでしょうが実際にトゲモンを見たわけじゃないはずなので、
時にはそういうケースもあるってことでしょう。
ラストシーンはリングへ向かう後ろ姿で締めていますが、結果にかかわらず引退を余儀なくされそうな示唆。
あるいは、真っ白に燃え尽きるのかもしれませんが──そこは、想像にまかせるってところですか。
余談ですが声をアテていた千葉一伸さんはついこの間「ふたりはプリキュアSprash Star」のキング・オブ・ヘタレ、カレーパン………じゃなかった、カレハーンを演じたばかりで、それを意識するとものすごい落差があります。
・白川
おやっさん。むやみに濃い人ですが案外お茶目で「ああ、段平だな」と。
コワモテな声質は小村哲生氏。最近でいちばん有名な役というと「エウレカセブン」のユルゲンス艦長ですか。
小村氏はほかにも「SDガンダムフォース」で爆霸丸を演じており、マスターアジアもかくやな濃ゆい演技を見せてくれています。
・早瀬愛美
早瀬選手の一人娘。なんか奥さんにも早瀬にもあんまり似てませんがそれは置いといて、見返してみたらわりにバレバレでした。
妻子が画面に出てくるのはかなり早いし、中盤でも思わせぶりなカットがある上なかなか喋らないので、鋭い人ならそこでもう完全に見抜いてしまえるでしょう。悪意というより、不安な気持ちをつけこまれトゲモンが取り憑いたのですね。
ただそうすると、トゲモンは彼女の不安を感知してそれを解消する方向へ動いていたことになります。
そうすることによって表れる「安堵」という想いを食らっていたのでしょうか?
誰かが言っていたことですが、ほんとにゾンダーみたいだなあ。
・トゲモン
前シリーズのパートナー第3号。声は男の人でした。
体に生えたトゲがさまざまな効果をもたらすという設定らしく、それを用いて早瀬の対戦相手を不調に陥らせ、負けさせていました。あくまでも体調を崩させる程度にとどまっていたのは、愛美のかかえる気持ちが「不安」であって「殺意」ではなかったからでしょうか。
せいぜい4歳児の、それも邪念というよりは一種のストレスを媒介にしているためかあんまり強くはありません。
巨大化はしたけれど悪あがきはそこまでで、ガオガモンを前に粘ることはできませんでした。
★名(迷)セリフ
今回は後半に集中しています。
「リングの上にあがったら、一対一のガチンコ勝負! それが男ってもんだ!」(大)
彼にしてはめずらしく、トーマに華を持たせる恰好。
そして、どうしても男を語らせる方針みたいですね。
「マスターの愛するボクシングを…! 神聖なるボクシングを! 汚すヤツは許さない!」(ガオモン)
熱い、熱いぞ柴犬。
彼とトーマの出逢いはまだ語られてませんが、単なる主従関係よりもずっと奥の深いものだということは良くわかります。
「なぁに…人の記憶はそんなにやわなものじゃない。きっと心のどこかに、忘れちゃいけないものが残る…」(早瀬翼)
最後はなんとゲストキャラからのエントリー。
8話と似たパターンを踏んだ予告編は、実はフェイクだったのだと思わされる良いセリフでした。
強さは愛だ。
★次回予告
なんだか久しぶりな気がする大メインのお話。今度はトーマのお屋敷来訪ですか。
そして、洋館といえばお化けがセットでついてくるわけだ。