仲間はファルコモン!? モーレツ! ブロッサモン

 脚本:横手美智子 演出:中尾幸彦 作画監督:信実節子
★あらすじ
 淑乃が倒れた─。
 原因ははじめ疲れによるものと思われていたが、イクト&ファルコモンの襲撃を契機にウィルス性のものと発覚。病はイクトにまで伝染し、彼を助けるためファルコモンから意外な申し出がなされる。ワクチンがあるという「流れ者の岬」へ一緒に来てくれというのだ。人間が住んでいたという穢れた場所らしいが、おなじ人間である大たちなら問題はないだろうという。

 果たして、岬に建てられていた奇妙な逆さの館からワクチンが見つかる。誰かが使っていたらしい古いパソコンも発見されたのだが、そこへゴツモンの差し金でブロッサモンが襲撃してくる。ファルコモンを信用できる漢と見た大は彼を先に行かせ、トーマとともに敵を撃破するのだが乱戦のなかでパソコンが破壊され、せっかく見つけた大門博士への手がかりも失われてしまうのだった。

 大との信義を守ったファルコモンのおかげで、淑乃はぶじ回復を果たす。
 しかし、くわしい事情を知らぬイクトの心はファルコモンと違い、頑ななままだった…。



★全体印象
 16話です。今回はアバンが恐ろしく短く、文字通りの導入レベル。
 やはり、回によって配分に相当自由が設けられているみたいです。

 タイトル通り、ファルコモンが一時行動を共にする回。これが味方フラグなのはだれの目にも明らかですが、思ったより早い印象です。ちょっと前にピヨモンの一件があったばかりなので、もうちょっと事がこじれるかと思ったんですが…そうでもなかったみたい。ただ、彼らはなりゆき上敵のポジションにいるものの、当初から悪を感じさせる行動はほとんどしていないので、さほど不自然ではありませんけれど。

 逆にここから数回引っ張った後にやられても、それはそれで納得いかないでしょう。お話のパターン上、中にはどうしても悪役にならざるをえない回が出てくることになったかもしれませんから、その後からでは思ったほど効果をあげられない可能性があります。いまのうちからアピールをしておけば、後から悪役を演じることになったとしても「葛藤もあるんだよね」と頭の中で補正をきかすことができるでしょう。

 さらに、物語の裏へかかわるいくつかの伏線も打たれていてはずせない回です。
 「流れ者」という地名、置かれていた古いPC、そして何故かそこに保存されていた「人間にも感染するウイルスの」特効薬。
 洋館の雰囲気といい、バイオハザードシリーズをも思わせる謎と薄気味悪さいっぱいのエピソードでした。いったいあそこで、何が研究されていたのでしょうか? そして、岬を訪れたという優しいユキダルモンの身にいったい、何が起こったのか……?
 今後の物語を予感させてくれる、溜めのきいた一篇だと思います。

 作監は7話以来となる信実節子さん。場所によって微妙なところもなくはありませんでしたが、後半の戦闘シーンなどはこれといって問題なし。あるいは戦闘に力を入れてほかを絞った結果なのでしょうか。そんな中、淑乃が妙に可愛らしかったような…病気のせい?
 あとイクトもカットによっては妙にアレで…実は女の子でしたって言われても驚けませんねこりゃあ。
 でもそれだったら診察のときにわかってるはずだし……んなわきゃないか。

 ところで横手脚本だと大のおバカ加減がパワーアップする気がするのは思い過ごしでしょうか。



★各キャラ&みどころ

・大
 ピヨモンと知香の件で彼なりに忸怩たる想いはあるだろうと思ってたんですが、別にそんなことはありませんでした。
 彼にとっては、そいつが「以前何をやったのか」より「今目に写ったもの」のほうが大事で、信じるべきことみたいです。再三繰り返していたとおり、ファルコモンの中に男を見たからこそ、いっさいを脇に置いて歩み寄りを決めたのでしょう。道中でも、ファルコモンへ率直に謝る場面で好漢ぶりをアピールしていますし……あの時点で、それなりの事情を察する、または察しようという気持ちになったのかな。
 あのあたりは、アグモンと当たり前みたいに殴り合って兄貴と舎弟の間柄になった一話を彷彿とさせてくれます。
 相手の本質というか、気持ちをストレートに受け取って答えるのが彼という男でしたね。

 この調子だと、くわしい事情さえわかればメルクリモンにさえ歩み寄ってしまいそうです。まあ、この場合はまず勝たなきゃダメでしょうけど。

 戦闘シーンではマッハガオガモンの手から飛び出して殴りに行ったり、あいかわらず無茶にもほどがあります(^^;)
 受け止めてもらえるという確信があるからできることなのかもしれませんが。

 その一方上で書いた通り、目的を忘れてアグモンと水遊びに興じたりトーマに二度も訂正されたり、おバカさも強調されてます。
 トーマとの絡みが最初に描かれたのは横手脚本ですから、持ち味として積極的に出しているのかな?


・ アグモン→ライズグレイモン
 こちらも大に負けないくらいおバカです。言動にとことん緊張感がありません。
 病気の概念さえ知らなかったのか…まあ、本人病気知らずですし、リアルワールドにいた時も誰かが風邪でダウンしたようなことはなかったはずなので、教わってなかったとしても不思議じゃないかもしれませんね。

 今回は完全体でもだいぶガラッパチで、わりに静かだった初進化時とちょっと変わってきてます。馴染んだ?
 スパイラルフラワーを弾いた装甲はたぶんクロンデジゾイト製なのでいいとして、生身の部分に当たってたらどうするつもりだったんでしょう?
 骨がクロンデジゾイト入りになってる可能性もあるので、皮一枚で止まりそうですが。


・トーマ
 めずらしく、そうとう無神経な失言をして思わず恐縮してしまう場面がありました。ああいうのは初めて見ます。
 なまじ知識と経験がありすぎるがゆえ、その常識にとらわれてしまう。彼の数少ない弱点です。7話でも顕著でしたっけ。
 不可抗力とはいえ手がかりを掴めないままに終わってしまうなど、前回活躍したツケか、あんまりいいところを貰えませんでした。

 とはいえ、早くもデジソウル・フルチャージを使いこなしているのにはビックリ。そういえば彼と淑乃は任意で出せるんでした。
 大も殴りさえすれば一気に完全体レベルまで持っていけるようなので、一回出せればどうも覚えてしまうようです。覚醒=会得って事でしょうか?
 なんにせよ、進化シーンが途切れずに進むのは良いことといえるかもしれません。


・ガオモン→マッハガオガモン
 今回はクール度合いが強めでした。これも横手脚本の色ってやつでしょうか?
 でも完全体時、大とアグモンの歓声にフッと笑うあたりへノリのよさを感じます。


・淑乃
 ダウンしていたので後半はたいした出番がありませんでしたが、心に残る言葉を残しています。
 この人は前からそう。派手さはないんですが存在感があるんですね。

 トーマは「これまでの無理が祟った」と言ってましたが、これは何もデジタルワールドへ来たあとのことだけじゃないと思います。
 特に大が来てからとみにデジモン犯罪が増えていたし、大はトラブルメーカーの側面がありながら機械がまったくダメ。トーマはトーマでたぶん別の仕事があるし……オペレーターさん方? あの二人は二人で専門の仕事がいっぱいあるからダメでしょう。それに、事件のファイルを作るのはやっぱり現場の人だと思うので、いろんな事後処理やらが全部淑乃のほうへ回ってきていたと想像するのは不自然なことじゃありません。
 そうして本人も気づかないうちに溜まってきたストレスがあるでしょうし、あれから一切語りませんがつらい出来事もありました。それでなくても、彼女はよく働いてるイメージがあります。気苦労が多そうなイメージも。倒れるのも仕方ないかなあというのが私の考えです。
 
 で、彼女がかかった病気はメインストーリー上の伏線であると同時に、次回への引きの役割も果たしているのでしょう。
 今回零したセリフを踏まえていると、次回がより理解しやすくなるんだと思います。


・ララモン
 ファルコモンの涙を見て信じようと言ったり、そんなファルコモンを安心させるように耳打ちをしたり、細かい心遣いが光りました。
 世話女房という意見を見た事がありますがまさにそんな感じ。戦闘は不得意でもこういう所でアピールできるなら、冷遇とは必ずしも言えません。

 とはいえ次回でついに完全体へ進化できるようになるので、メイン敵の首を取る活躍も期待ができます。頑張れ。

 
・ファルコモン
 イクトがまだまだ謎なぶん、こちらがどんどん掘り下げはじめられてます。
 上でも書きましたが、彼の行動は問題だらけではあったものの、悪ではありませんでした。デジタマの件にしても行き違いがなかったら、べつの結果になっていた可能性があります。同胞を巻き添えにしないよう、イクトを諌める場面もありました。だから、今回の立ち位置は必然といえます。ただ、それが予想よりも少々早かったというだけのこと。無限氷壁への到着も、だいぶ早まりそうです。

 イクトとの付きあいはだいぶ古いようですね。数年来のパートナーなのでしょう。
 回想シーンを見るかぎり、はじめはイクトを軽く見ていたようですが…何かきっかけがあったのでしょうか。
 そこにユキダルモンが絡んでいるのは、まず間違いないところですね。

 こうなると、メルクリモンの考えが知りたくなりますが…黙して語らず。さて。


・イクト
 ずっと寝てたわけじゃないので事の次第はだいたい知ってるはずですが、洋館でのやり取りは知らないので敵モードのまま。
 しばらくはファルコモンの葛藤で引っ張ることになるのでしょうね。
 回想シーンでは5歳くらいの外見で出ていたし、いろんな情報からみておおむね10歳前後と見ていいでしょう。知香と同じくらい。

 表情とか見てると本当に女の子じゃないかと勘ぐってしまいそうになるんですが、どーゆー意図であんな作画にしてるんでしょう。
 もちろん、フツーに男の子でもぜんぜん不思議じゃありませんが。

 実はトーマにはバレていて後から「なんだ、気づかなかったのか?」というオチになったりして…。


・メルクリモン
 彼はなぜ大たちを放置しているのでしょうか。
 たどり着けないと思っているのか、余計なちょっかいを出して子分に被害が出てはたまらないと思っているのか、それともおおまかな事情を知っていて、大たちが居城に来ることができたら全てを語り、そのうえで叩きつぶそうと思っているのか…いずれにせよ、むしろやる気まんまんに見えます。

 人間界に来た時なにかを感じて、 大たちに興味が湧いたという線も少しはありますけど……対決のときが楽しみ。


・ゴツモン
 勝手に気をもんで勝手に手を回している感じですが、一応メルクリモン陣営の指揮官的位置にいます。
 なんにしても彼がいないと敵が出せない。その役割は重要ですね。

 もっとも、メルクリモンへの強すぎるともいえる忠誠心やユーモラスな面もあって、それほど悪い印象のない役柄になっています。
 死んじゃったりしたら惜しいキャラですね。


・ ブロッサモン
 ゴツモンや首魁のメルクリモンよりむしろ悪モンっぽい、今回の敵役です。
 でも、よくよく考えてみたら彼(?)とて外敵の征伐に来ただけのことで……ちょっとばかり気の毒だったかも。

 ただ、ブロッサモンはデジアドでの初登場時、ピノッキモンに銃殺されるためだけに出てきた存在でした。02では心のないダークタワーデジモンとしての登場だったので、まともにしゃべって敵として立ちはだかるパターンは今回がはじめてです。「ゼボリューション」でも一応セリフ付きで出ますけど、デジアド01のときと似たような扱いなので、結局今回がいちばんマシなんですよね。

 というか花弁回して普通に飛んでたのにはびっくり仰天しました。お前、飛べたんかい!
 でもなりゆき上、完全体2体を相手取ることになってしまいあえなく昇天。さすがに2体はオーバーキルですよ(^^;)


・ ユキダルモン
 ファルコモンの回想に登場します。いままでの同一種とちがい、女性のパーソナルを持っていました。
 優しそうなこのデジモンがなぜ「死」を迎えることになったのか? なぜ「死」という概念が強調されたのか?
 このぶんだと、案外早く明かされることになるかもしれませんね。

 

★名(迷)セリフ

「医師免許…!? 確かあいつ、オレと同い年だろ!?」(大)

 「オレも小学生だけど小学校にしか通ってないぞ」というセリフを思い出してしまいました。
 その後うっかり聞き流しそうになりましたが「完璧超人」と言ってます。すげえや完璧超人。すでに公共電波に流せる慣用句ですよ。
 そこで「こいつ完璧超人かー!?」を思い出すのもお約束ですが、もっと前にながいけんの漫画で見た気が…。


「てめぇ! 病人に手を出すたぁ、それでも男か!!
 男はなぁ、自分より弱い者に拳は…向けるもんじゃねェんだー!!」(大)


 わかってた事ですが、やっぱりこういう考え方なんですね。
 強い者と交わし弱い者を守る拳。喧嘩番長ですから、そこらのダせェチンピラとは違うわけです。


「だから人間はキライなんだ…!」(ファルコモン)

 トーマの台詞を受けての言葉。吐き捨てるような口ぶりに、どんな過去が隠されているのでしょう…
 「死というものへの軽視」にかかわる何かを言われたりしたことがあるのでしょうか。
 デジタマに戻るというのはピヨモンのように、死にも等しい意味合いを持っていると思っているんですが…。


「当たり前だ…! オレたちは仲間だ!」(大)

 飛躍しててさすがにびっくりした台詞。ついこないだメガバーストかまそうとした相手への言葉とは思えません。
 しかしまあ、ファルコモンに心意気をかいま見、さらに目的も同じとあれば、少なくとも今は仲間だという捉え方で間違いじゃありません。
 大のことですから、その場かぎりのつもりで言ったわけじゃないんでしょうけど。


「強く……なりたいな…」(淑乃)

 迷惑というのがどこらへんに掛かってるのかわかりませんが、土壇場じゃ大やトーマに頼りっきりだという引け目があったのでしょうか?
 もちろん、この台詞はそれだけじゃなく…過去も含めたいろんなものをひっくるめて言ってるのでしょう。
 次週に期待です。


「わからねェなら教えてやる! 男は絶対…仲間を裏切らねェもんだ!
 おまえは男だ! ちっぽけな勇気をふりしぼって、オレたちをここまで案内してくれた…男の中の男だ!
 だから…オレはお前を信じる!」(大)


 誰のためでもない、自分に誓った誇りがあるから信義を守る。その心意気がファルコモンにあると感じたから、まず自分が信じようと歩み寄ったのですね。今回においても最初は問答無用だったので、やはり道中のやり取りがひとつのキッカケだったのでしょう。
 それ以前に、ファルコモン。本気で裏切るつもりの人は、普通そんな事言いませんよ?



★次回予告
 雪山ってことは、早くも無限氷壁に近づいてきたのでしょうか?
 チラッと出てきましたが、次の敵はマンモンのようですね。相手にとって不足なし。
 ライラモンの華麗なるデビュー戦、堪能させてもらうとしましょう。