破滅のパワー シャイングレイモン暴走

 脚本:山口亮太 演出:伊藤尚住 作画監督:浅沼昭弘・信実節子
★あらすじ
 トーマへの怒りと憎しみが、シャイングレイモンを黒く染めてゆく。
 その凄まじいパワーを制御できず、目標を見失っても暴れつづけるパートナーに大が涙したとき、ようやく荒れ狂う力は収まった。
 しかし代償は大きく、シャイングレイモンはデジタマに戻ってしまったのである。

 もはや邪魔者はいなくなったと確信する倉田は、トーマにみずからの野望を示す。
 デジタルワールドにあった謎の遺跡から卵の状態で発見したというベルフェモンの力を自らのものとし、デジモンの殲滅のみならず
 人間界そのものをも牛耳ろうというのだ。そこへ尾けてきていたイクトが乱入するが、ガオモンに阻止される。
 逃げるイクトたちの始末をみずから駆って出るトーマ。彼は本当に倉田へ魂を売ってしまったのか?

 イクトの危機を知って飛び出そうとする大を、バンチョーレオモンが戒める。
 憎しみにとらわれるままパートナーを自滅させ、拳にも輝きを失ってしまった大へ、彼は失望の言葉を残して去っていった。
 その間にも戦いは続く。善戦するイクトたちだったが、やはり完全体のままではミラージュガオガモンには勝てない。
 ようやく駆けつけた大たちの目の前で、彼らは湾内へたたき落とされてしまう。

 もはや、倉田の野望を止められる者はいないのか。
 そんなとき、病室に佇むリリーナのもとをある人物が訪れた……なぜ、この人がここに!?



★全体印象
 35話です。

 倉田の策略の前にいまや半壊・分裂状態のわれらがセイバーズ。
 最悪の状況で迎える最凶の敵……逆に言えば、これほど真のバーストモードが似合う展開はないということになりますか。
 レイヴモンの登場がいつになるのかも微妙なところではありますが、さて。

 この回のオンエアは、映画の公開とほぼ前後するものとなっています。
 といっても内容的にはまるっきり対照的で、出てくるバーストモードも赤かったり黒かったりと忙しい。
 巨大なる力は使う者の心次第で表裏一体だということを伝えてくれています。

 そういえば、究極体のモード違いが暗黒進化で暴走するなどというケースはシリーズ初。
 テイマーズで言えばデュークモンクリムゾンモードが暴走するようなものですから、シャレになりません。
 理性がない分むらも多く、標的には逃げられていましたけど。

 一方、倉田はいよいよ本性を剥き出しにしてきていて、逆に破滅を自分で早めはじめています。
 年末ぎりぎりの37話までに、一定のケリはつくのでしょうか? でなければ、悶々とする正月を送ることになりそう。
 この先の展開とあっては、もう全然読めません。ロイヤルナイツは果たして敵なのか、味方なのか。

 アナザーミッションがああいう展開だから、ロイヤルナイツが敵になると予想してるんですが…。
 だって大たちに加えて彼らが味方についたら、どんな敵が相手でも弱いものイジメになってしまいますし。
 中立を保って一人ふたりしか手助けしてくれないというなら、アリですけど。

 さて、どうなっていくのでしょうね。



★各キャラ&みどころ

・大
 前回、あれじゃ彼が怒るのも当たり前だと書いたものですが、どうやら怒り方が悪かったらしいです。
 トーマのことや今後のことを考えての怒りではなく、ただ「裏切られた」という不快感を晴らすためだけに怒りを憎しみに変えて
 つい昨日まで仲間だった者を本気で消そうとしてしまった。その場の鬱憤を晴らしたいがために。
 だから、その代償を払うことになったのです。

 思えば彼は、どんな時でも力を使うこと自体にはポジティブでした。
 ネガティブな感情で力を振り回すというのは初めてだったと思います。6話の一時期よりもっと悪い。
 それはむしろ倉田に近くて、男らしくはないということなのでしょう。
 どれだけ強くなってもどれだけ頑張っても倉田に勝てずにいる状況が、知らず知らず彼をそういう状態へ持っていっていたのでしょうか。

「深淵を覗き込むとき、深淵もまたあなたを覗いている」という、ニーチェの言葉を思い出します。

 後半では一転、アグモンへの責任感から腑抜けのようになってしまいますが、ここで映画が活きるかたちに。
 彼はかならず立ち直るのでしょう。もっと強くなり、もっと進化して。

 そのときには、ロイヤルナイツともやり合えるようになっていることでしょう。


・シャイングレイモン・バーストモード(黒)
 トーマはもちろん、倉田も知らなかった姿。この黒バージョン、正式名称はなんと言うのでしょう?

 戦闘力は確かにおそろしく高いものがあるんですが、力を制御できないので敵もよく見えていないようです。
 ただひたすらに暴れるだけ。周囲への影響が甚大です。33話では気をつけていたのに、これじゃ台なしではありませんか。
 ジオグレイソードを出したときまでは、確かにまだ輝きがみられたというのに…。

 最終的にはエアシグナルが発動したのか、なにやら強制的にデジタマへ戻されたように見えます。
 自滅した末の消滅ではないので、普通とはちがう気がしますね。デジヴァイスのおかげで記憶が保持されているかも。
 そうだとすれば、ギリギリ間に合ったってところでしょうか。

 悶絶し始めるときの目がかなり怖かった。


・淑乃
 これで現状、セイバーズの最大戦力は彼女たちのみ。ベルフェモンには女子供だけで挑むことになりそうです。
 まさに「超最悪なんですけど」というやつですね…。こんなときに男連中は何をやっているのかという話になってきました。

 …と、とにかく頑張れ。今このときは君らがセイバーズ希望の星なんだ。


・ララモン
 どうやらデジモン同士の「戦いの気」を感じ取ることができるようです。生きレーダーだなあ。
 探知に関しては設備いらないじゃんというツッコミは置きましょう。彼女とて24時間起きてるわけじゃないのですし。


・イクト
 さすが野生児、パートナーもあって隠密行動はお手のものですね。
 しかしそのまま報せを持って帰ればいいものを、全力で倉田のタマ取りにいったので台無し。このへんは猪突猛進です。
 トーマに関しては案外と冷静ですね。大がヒートアップしたぶん、かえってクールになれたのだろうというのがひとつ。
 あと、言っちゃあなんですがトーマについては大にほど懐いてないので、比較的落ち着いて対処できたんでしょう。

 バトルでは奮戦を見せてくれました。ミラージュガオガモンを相手に大顔負けのダイビングアタック。一矢を報いています。
 大がどん底なぶんだけ、イクト分が大量補充されました。落ち込んでる場合じゃないぞ兄貴。

 最後は海へたたき落とされましたが、あれで死んだと思っている人は誰もいますまい。
 予告にも出ているし、早々に救出されそうな気がします。


・ファルコモン→ペックモン→ヤタガラモン
 倉田を前にして逸るイクトを押さえたり、イクト以上に冷静です。結局は押さえきれなかったようですが。
 後半ではひさびさに成熟期の姿を披露していました。移動にならこれでも充分なんでしょう。

 そういえば、誰よりも早くイクトの過ちに気づき、少しずつでも説得しようとしていたのは他ならぬ彼でしたっけ。


・トーマ
 芝居がかった露骨なまでに倉田寄りな発言やガオモンとの意味深なアイコンタクト、イクトを始末したかどうか確認を怠る、
 あげくになぜかおっちゃんがリリーナの所に来ているなど、ここへきて状況証拠的に、裏切り自体のフェイクが濃厚になってきました。
 だとしたら、大はまるっきり怒り損ということになってしまいます。

 彼が「間違えた」のはまさにそこ。
 たぶん、悪くなるばかりの状況を打開するため、大の真似ではない自分なりの方法で突破口を開こうとしたのでしょう。
 しかし、それならそれで仲間にも教えるべきでした。敵を欺くにはまず味方からということなのかもしれませんが、
 黙りっぱなしなのはやはり良くなかったと思うのです。たとえ嘘でも、倉田側につくなどと前触れナシに言うべきではなかった。

 なぜこんなことになったのかといえば、彼自身が「仲間にいまいち信頼されてない」と思い込んでしまっていたから…かもしれません。
 もっと言えば、大があそこまで怒るなんて予想できなかった。それだけ信頼されていたなんて気付けなかったのでしょう。
 大にとってトーマはやはり凄いヤツだし、DATSの誇りを誰よりも持っていると思っていたはずでしょうに。
 つまり信頼を取り戻そうとして、実は信頼を失ってしまっていたのです。思い込みって怖いですね。

 それでも。
 それでも、私はホッとしています。本気じゃなくて良かった。本気だったらとても戻ってこれなかったでしょうから。
 仲間たちはよくても見ている方が納得できないところでした。どんな形であれ、フェイクで良かった。それが正直な気持ちです。

 こうなった以上は、一刻も早く戻ってきてほしいものです。みんな君を待っているんだから。


・ガオモン→ミラージュガオガモン
 バーストモードとの戦いでダメージを受けていたとはいえ、イクトとの戦いではバカに手こずっていました。
 その実、手を抜いていたのでしょうけど。 証拠に、確実に当てられる場面でフルムーンブラスターを撃っていません。
 またギズモンを下げていたので、イクトを倒したかどうか見ているのは彼らしかいない。

 というか、みすみすイクトを倉田の本拠地に連れてきたのはほかならぬ彼らだったりします。
 本来は倉田の手の内をイクトに探らせて帰すつもりだったのでしょうが、イクトが先走ったために止むなくああした手に出た、と。
 まあ、そんなところなんじゃないでしょうか。

 それでも下位ランクにまさかダメージを受けるとは思ってなかったでしょうから、トーマのアレは本気の賛辞なんでしょう。


・湯島のおっちゃん&カメモン
 どういうわけか、リリーナの所に現れました。神出鬼没です。
 ですが独自に動いていたとしても、なぜこの場所なのか。リリーナはトーマの妹というだけで本来は無関係だし、
 そもそも彼女が日本に来ていることを知っているのはごく限られた人間だけのはず。

 ここから導き出される答えはひとつしかありません。
 もっとも、今から彼らが何を始めようとしているのかまではわかりませんが。どこかへ避難させるとか?


・オペレーターズ
 秘密基地でデジタマについて調べていたりしました。出番としてはそんなもん。
 次回では戦闘にも参加するようですから、そちらに期待しましょう。


・知香と小百合ママ
 やはりというか、大を止めたのは知香でした。ここは第一クールが活きている展開。
 小百合ママはバンチョーレオモンについて、なにか気付いたようですが……。


・バンチョーレオモン
 いや、だからそんな大事なことなら先に言ってくれよと(^^;)
 言ったからってどうにかなることじゃないのかもしれないんですが。

 今回で、大門博士自身であるという線は消えたようですね。
 残すは博士のパートナーか、はたまた単なる知己かという線。濃厚なのはやっぱり前者ですかね。
 OPとかだいぶ意味深ですし。

 これでまた姿を消し、同じく行方不明になったイクトを鍛えるという展開もアリではあります。
 が、次回にはもうファルコモンが出ているのでそれは難しいかな。


・リリーナ
 病院にいましたが、話の流れからみてあそこは倉田の息がかかった施設でしょう。
 そこにおっちゃん達がああも簡単に入り込んでいるということは、誰かが手引きをしたと考えるのが自然です。
 彼女の運命やいかに。このぶんなら、悪いようにはならなそうですが。


・倉田
 味方についたとはいえ、昨日まで敵だったトーマにあっさり手の内を明かしたり、イクトの襲撃に腰を抜かして逃げ出したり、
 今までを考えるとダメダメです。どうも突発的事態には弱いようですね。これまでは周到に準備していたからうまくいったのでしょうし。
 ああして見ると、10年前とぜんぜん変わっていないんだなあと思わされるわけで。

 で、よせばいいのに分不相応な野望をあきらかにしました。悪いことは言わないからこのまま粛々と邪魔者を完全排除して、
 普通に社会的地位を手に入れた方がいいですよ? 人間、欲をかくとろくなことになりません。
 まだ僅かながら大義名分があったのに、自分からそれを捨てて周り全部を敵に回すとはなんという愚行。

 やっぱり、途中からベルフェモンに魅入られていたんでしょう。
 あの悪魔的な行動力も、それが一助をなしていたと考えるのが自然だと思います。


・ベルフェモン
 予告でびっくり変形を見せてくれる魔王型。テレビ初登場です。
 彼を封じたのがそもそも誰なのか、気になるところではありますな。やはりロイヤルナイツとか?

 このままおとなしく倉田に操られるままでは魔王の名折れですが、どうなるでしょう。



★名(迷)セリフ

「戦いの中で散っていったバロモンや、エルドラディモンや!! メルクリモンたちに!!
 てめえの命をもって詫びやがれぇ!!」(大)


 「ああ、間違えたんだな」と思った瞬間。
 やっぱりこういう戦いを、主人公がしちゃいけないってことなんですね。


「そう! 私はデジタルワールドと人間界、ふたつの世界を束ねる王となるのです!!」(倉田)


 はいはい。で? その後どうするんです?


「私は、マスターの進む道を信じる! たとえその行き着く先が、地獄だったとしてもだ!!」 (ミラージュガオガモン)

 ひょっとしたらもう二人とも、こうなった以上許してもらおうとは思っていないのかもしれません。
 事情が明かされればまた違ってくるとは思うんですが。


「おまえなら、英をも超えられる漢になってくれるのではないかと思っていたが……残念だ…!」(バンチョーレオモン)

 今のままなら貴様は虫けら以下だとでも言わんばかり。
 この後「悔しいけど……オレは男なんだな」に続くという説があります。



★次回予告
 ついにベルフェモンが覚醒。第3クールもいよいよ大詰めですね。
 すっかり忘れていましたが、ひっさびさに羽柴長官も出るようです。そう言えばいたなあ、役立たずの上司が。