未来を守れ! DATS最後の戦い

 脚本:山口亮太 演出:深澤敏則 作画監督・絵コンテ:八島義孝
★あらすじ
 真の姿をあらわし、白銀の巨躯で天から見下ろすイグドラシル。
 もはや戦うしかない。立ち向かう大たちだったが、神を名乗るだけあって敵はすさまじく強い。
 なんとか態勢を立て直そうとする大たちを尻目に、イグドラシルは人間界へ向かう。自らの手で人間界を破壊するつもりだ。

 やがて破壊の権化と化した神が、とうとう人間界へと降り立った。クレニアムモンを見守る知香とピヨモンにも危機が迫る。
 ぎりぎりで間に合った大たちはバーストモードを発現させ、もてる最大の技をたたきつけた。
 だが確かにダメージを受けたはずのイグドラシルは、瞬時に再生してしまう。神の前ではなすすべが無いというのか。
 それでも、大たちは退かなかった。二つの世界はどちらも潰させない。強い想いが今、力となる。

 吹き上げるデジソウルに引かれてデジモンたちもつぎつぎと集まり、世界の衝突を防ごうとしはじめた。
 ついには忠誠あつきロイヤルナイツたちも主君の傍若無人へ業を煮やし、反旗を翻す。
 クダモンの力で復活したデュークモンもまた、神の絶対性に大きな疑問をいだいて槍を向けた。

 怒り狂うイグドラシルは、デジモンたちまでをも攻撃しはじめる。そして不意に、神託から言葉が消えうせた。
 イグドラシルの正体は、何者かに建造されたデジタルワールドの管理プログラムだったのだ。
 ロイヤルナイツたちはクレニアムモンを助け、総出で世界を支えている。偽神と戦えるものは、もうセイバーズしかいない。

 かくしてDATS最後の、そしてセイバーズ最後の戦いの火蓋は切って落とされた!
 
 
 
★全体印象
 47話です。とうとうあと1話になってしまいました。
 一抹の寂しさを感じています。もう来週で終わってしまうんですね。

 さて、さすがに強いイグドラシルのお披露目から人間界大ピンチ、「逆襲のシャア」もかくやの大状況、
 ロイヤルナイツの反旗、そして神のさらなる本性と、ラスト前だけあってこれでもかとばかりに盛り上げまくってくれます。
 熱さを持ち味のひとつとするセイバーズの面目躍如といったところでしょう。

 ロイヤルナイツの造反はかなり急に見えますが、半分くらい予想通り。それに、描写の少なさがかえって助けになっています。
 心理のうつりかわりについてなら、クレニアムモンがほぼ代表してやってくれていると思えばいいでしょう。
 要は大なり小なり、彼らにもクレニアムモンのような葛藤があったということです。

 まあこうなると死に損な方々が約二名出てしまうことになるんですが……。
 もっとも、ドゥフトモンの考えだけはイグドラシルにかなり近かったようだから何とも言えません。
 神の目にあまる振る舞いと正体を見た後はわかりませんけれど。

 そういえばクダモンの生存も確認されましたね。ここまで来たらなんとか無事に戻ってこれるでしょう。
 あとはラストまで一直線です。

 作画はおなじみの八島氏ですが、演出にはかなり力が入れられています。でもきっとまだ序の口。
 次回は出せるかぎりの全力で仕上げてくるにちがいありますまい。
 
 
 
★各キャラ&みどころ
 
・大
 大詰めともなるともう、熱いぜ兄貴とか頑張れ兄貴とか、そういう言葉しか浮かんでこなくなっちゃうんですが、
 デジソウルを天まで噴き上げたのにはちょっと驚きました。できてもおかしくないななんて冗談まじりに思ってたら、
 この人ほんとにやっちゃいましたよ。まだ驚かせてくれるなんて、まったく君ってやつは。
 
 その後、仲間たちがなにごともなく同じことやらかしたのにはもっとひっくり返りました。
 ですがもう、ツッこむ気にすらなれません。だって、できるんだからしょうがないじゃありませんか(^▽^;)
 すでにそーゆーレベルの話じゃないんですよ、セイバーズは。

 というか今の兄貴だったら、サーベルレオモンくらい拳だけでのしてしまいそうです。親父ができたんだから間違いない。
 
 
・アグモン→シャイングレイモン→シャイングレイモンバーストモード
 最終話直前とあって苦戦しかしていません。
 折れるのが当たり前みたいになったジオグレイソードが哀しいですね。
 なんかこれだとバイオダークドラモンはよっぽど弱かったんだなってことになってしまいます。

 しかも敵は癌細胞のような不死性と高速自動修復特性の持ち主です。果たしてどう無効化するのか。
 
 
・淑乃・トーマ・イクト組
 意外に目立ちません。頑張ってはいるんですが兄貴が濃すぎました。
 出番や見せ場がしっかりあるのに霞んでしまいがちというのは、なんだかシャッフル同盟の皆を思い出します。
 惜しいことに人数が合いませんが、隊長を加えればいちおうイメージも合致。

 さしずめトーマがジャック・イン・ダイヤ、淑乃がクイーン・ザ・スペード、イクトがクラブ・エース。
 そして隊長がブラック・ジョーカーという具合に収まりますね。大はもちろん、キング・オブ・ハート。

 そういえば隊長はかんじんなときにいつも出戦できないので、そういう意味でもジョーカーでした。
 どうも、いささか引きが弱かったようです。
 
 
・知香組
 クレニアムモンを飽きもせず眺めていたせいで、最後の最後にえらいことへ巻き込まれました。
 当然、あっというまにボコられて世界押し返し隊に加わっています。

 あんなん見ちゃったらいろいろと考えるだろうなあ。最終話が楽しみ。
 
 
・デジモンたち@世界押し返し隊
 大たちの生きたいという強い意志にこたえ、数は少ないながら続々と集まってきました。
 これは大たちに味方しているというよりむしろ、人の意志に影響されやすいデジモンの特性がそうさせているのでしょう。
 そう考えれば、ロイヤルナイツたちも大らのデジソウルにつよい引力を感じて集合し、神への疑問を抱くきっかけになった、
 と推測できることになるでしょう。

 終盤ではイグドラシルの攻撃をくらい、幼年期が消滅するシーンがあります。これはかなりえぐい。
 デジタマは残っているので、あんなんでもギズモンのD崩壊弾よりは優しいんですが。
 
 
・ロイヤルナイツ@世界押し返し隊
 というわけで彼らもあっさり造反。あとはデュークモンがちょっと戦った程度で、世界押し返し隊へ編入です。
 電撃くらったときクレニアムモンが死ぬんじゃないかとはらはらしましたが、とりあえず安心でした。
 まあ最終話まで油断はできませんが。

 オメガモンは結局ほとんど戦うことすらなく、やっと喋ったと思ったらすでに味方側でした。
 やはり主役の、それもかならず筆頭に挙げられる存在をうかつに動かすというわけにはいかなかったか、
 ただ単にクレニアムモンをメインで押す方針だったというだけのことだったのでしょう。

 こんだけ人数が出てきたのは箔にハッタリ、そして視聴者サービスの域だったと考えた方がよさそうです。
 倉田篇ラストの盛り上がりを繋げるには最適のメンバーでしたし。

 ちなみに、オメガモンの声は高橋広樹氏。なんとインプモン=ベルゼブモンを演じてた方です。出世…なのか?
 なぜか田中秀幸氏ではありませんでしたが、まあいろいろ事情があるんでしょう。
 
  
・イグドラシル
 この存在は「正義という敵」だったということなのかもしれません。
 世界そのものを存続させることが神としての使命であり、絶対の正義だというのはわかります。

 しかし、ヒイロ・ユイも言っていました。世界が変わっていくとき、まっさきに犠牲を払わされるのは誰なのかと。
 神は絶対的に正しいゆえに、俯瞰でものを見ているがゆえに、そこで生きている小さな存在に注意を払わないのです。
 ちょうど私たちが、知らず蟻の巣を踏み潰しているように。

 とはいえ結局はこの頑迷固陋もまた、ただの操り人形だったようですが。
 そしておそらく、イグドラシルを建造して設置した見えざる何者かこそがほんとうの神なのでしょう。
 いや、神というより世界そのもの、世界が生まれたときに自然と成り立った現象、事象の集合体なのかもしれませんね。
 だから答えない。現れようがない。我は神だと語らない。ただそこにある、それが神だと私は思います。

 ぺらぺらと御託をならべながら目の前に現れたとき、人は疑うべきなのかもしれません。
 こいつは神ではないと。人智を越える力を持っていることだけが、神の条件ではないのだと。

 セイバーズの敵は絶対の悪、そして絶対の正義そのものだったのだと、今ならば言えるかもしれません。
 正反対のようでいて、価値観を押しつけてくるという意味ではじつに似ていますからね。

 なお「悪」の肩書きを持った敵とは言うまでもなく、倉田のことです。


・イグドラシル戦闘形態
 白い意味不明な形をした物体。奇妙なツタや、どこからともなく現れるミサイル状の水晶、黒い放電現象などが武器です。
 特にツタは見かけによらず強力で、バーストモードであろうが数体まとめて叩きのめしてしまうほど。
 ただの打撃ではなく、一種のエナジードレイン特性があるのかもしれません。

 それにしても名前といい、デジモンというよりはその天敵デ・リーパーを思い起こさせる形態です。
 デジモンを管理しようというなら当然、デジモンを押さえつけられる力を持っていなければなりませんから
 デ・リーパーのような特性を実際に持たされているのかも。
 だとすれば、そもそもそれが間違いのもとだったんじゃないでしょうか。

 かつて、次元の穴が人々を神隠しに遭わせ、それがデジタルワールド発見につながりました。
 ひょっとしたらそれは偶然ではなく、いつかこの狂った神の抑止力となり、デジタルワールドと人間界を救うための
 真の神の御手がはたらいていたのかもしれません。とりあえず世界現象とでも呼びますか。

 では、なぜデジタルワールドの発見が世界現象として起こったのか。
 おそらく、イグドラシルを止められるのはふたつの世界の住人が力を合わせたときに生まれるものだけだったからです。
 人間だけでも、デジモンだけでもヤツを止めることはできないでしょうから。
 
 
 
★名(迷)セリフ

「言ったであろう。これは天罰だ」(イグドラシル_7D6)

 なんかさらに急激に矮小化していってます。
 形をとってあらわれた時点でもう、ものすごい勢いで神っぽくないんですが。
 
 
「この命、燃え尽きようとも…わたしたちは、あなたと戦う!」(ララモン)

 生命の花をバリバリ咲かせそうなセリフです。
 
 
「これは喧嘩じゃねえ! みんなを守るための戦い…そうだよな! 父さん!!」(大)
 
 守るべきものがあると知り、それを力に変えられるものこそ真の漢。また父に一歩近づきました。
 守るものがない倉田軍団や、大義を持っているようで実は何もない目の前の偽神には、だから絶対に負けられないのです。

 少なくともこの世界においては、神より番長のほうがエライようですね。
 
 
「ダメよ! クレニアムモンはお父さんの代わりにデジタルワールドを支えてくれているのよ!
 逃げ出すわけにはいかないわ!」(知香)

 えらく漢らしいセリフです。まあ、ダメになったら結局どこに逃げても同じですしね。
 って君、いつどうやってバンチョーが父だと知ったんですか? ひょっとしてもう説明を受けてたとか?
 ああ、クレニアムモンが教えてくれてたのかもしれませんね。ハショってるだけで。
 
 
「わからないのか? これは浄化だ!」(イグドラシル_7D6)
 
 どう言い方を変えても虐殺です。民族浄化って言葉もありますよね。
 一見もっともらしい大義をふりかざしている点で、すでに倉田よりも始末におえません。

 つうか倉田のことを知っていながら間接的な策すら打たなかった以上、あんたも同罪でしょうに。
 大門博士は報復に報復で返すのをやめてくれと言っただけで、何もするななんて一言も言ってないんですよ。
 いやむしろ、安易な武力行使でさえなければいくらでも手はあったはずです。
 
 それでもなお何ひとつ対応策を講じなかった以上、はじめから人間を厄介者としか見ておらず、
 機会さえあれば攻め滅ぼすつもりだったんだろと言われても反論できませんよ。
 でなければ、なぜああも人間の抹殺にこだわるのか説明がつかないことになってしまうではありませんか。
 
 
「私の裁きは…デジモンたちの意志…」(イグドラシル)

 勝手に決めないでください。
 
 
「どっちも潰させねえ! 人間界も、デジタルワールドも! どっちも守ってみせる!!」(大)

 それでもこれは神ではなく、人間の言葉といったほうがしっくりくるものです。
 だってこんな熱血な神様なんて見たことがありませんもの。

 ただし、世界はどうやらセイバーズの側についたようですよ。
 
 
「大はひとりじゃないッ!!」(トーマ)

 トーマの今までのセリフの中では、最高に熱いもののひとつ。
 大ばかり目立っているように見えても、彼らだって頑張っているんです。
 
 
「そうか…!
 デジモンは人間の想いのちからに影響されやすい。人の想いの中でもっとも強いものは、生への執着…!」(野口博士)
「そしてその想いは…われわれが太古から持ちつづけてきたもの。その想いのちからは純粋で…強い!」(湯島のおっちゃん)

 解説ありがとうございます。
 この想いはデジモンも同じはずですから、両者がうまく合致したことになりますね。
 しかしサイコフレームというよりは、何やらゲッターみたいになってきた。
 
 
「感じる…! デジモンたちの力を…! ふたつの世界を守らんとする想いをッ!!」(クレニアムモン)

 一種の男塾大鐘音。これを受けてクレニアムモンも奮起です。すっかり熱血漢になりました。いや、もとからそうなのか。
 
 
「イグドラシルにひとつ聞きたい…! 神とはなんだ!?」(オメガモン)

 少なくともぺらぺら喋ったり、明確な意志をあらわして押しつける存在ではないと思います。
 信じられなくなったというだけでなく、単純に幻滅したんじゃないかなあ彼ら。
 
 
「生きたいと想う願いは人間も、デジモンも同じ…!
 イグドラシルよ、神を名乗るなら我らの願い、聞き届けてみせろ!」(デュークモン)

 仮にも主君が相手だというのに、あいかわらず偉そうです。
 前後のやりとりはまるで天蠍宮の氷河復活。クダモンはアンドロメダだったのか。
 
 
「ワタシノナマエハいぐどらしる。でじもんノ進化ヲ監視スルタメニ建造サレタ、WIZ_9000型こんぴゅーたー。
 ワタシノ進化実験ハ人間ノ介入ニヨリ失敗ニ終ワッタ。えらーこーど401ニ基ヅキぷろぐらむヲ破棄。
 全でーたを新世界ヘト移行スル」(イグドラシル)

 言葉までなくしたか。
 そしてやっぱり、人間のことは最初っから異分子、ウィルスのような存在としてしか認識してなかったんですね。
 それにしてもWIZって…。
 
 
「てめえ……自分の思い通りにならなくなったからって、見捨てるのかよ! そこに根を張って生きる命を! 仲間を!
 その程度にしか思ってねえのかよ! 命の重さを、その程度にしか思っていないお前に…
 神を名乗る資格はねえ!!」(大)

 かつて大は、自分を裏切ったトーマを怒りのあまり、消し去ろうとしてしまいました。
 そんな大だからわかるのでしょう。その果てに待っているものは破滅しかないのだということを。
 たとえ何百回裏切られようと、失ってはならないものがあるのだということを。

 デジモンでも人間でもなく、ましてや神などではありえないただの機械には、もはや何を言っても届かないのでしょうが。

 人間やデジモンなら間違ったと気づければ認めてやり直すことができますが、機械には自分が間違っていることがわからず、
 ただ目の前のエラーを処理することしかできないのですから。

 
 
★次回予告
 かなりの大盤振る舞いなラストになりそうです。
 私に夢と娯楽と創作意欲を与えてくれた番組でした。おっと、謝辞は最後に取っておかないとね。