死ぬなグレイモン! シャウトモンDX誕生

 脚本:米村正二 演出:貝澤幸男 作画監督:梨澤孝司
★あらすじ

 メタルグレイモンを吸収し、さらにパワーアップしてしまうネオヴァンデモン。不死身の体には技も通じません。
 その体内に吸収した無数のロップモンが、ネオヴァンデモンに不滅の体を与えていたのでした。
 ついに邪悪の牙がX5をも捕らえたとき、飛び出したロップモンが白い光を放ちます。怯むネオヴァンデモン。
 その間に、タイキたちは半ば呆然としたキリハを連れていったん撤退します。

 ネオヴァンデモンの弱点。それが伝説の白いロップモンにあると睨んだタイキたちは、地下神殿へ向かいます。
 覇気を取り戻したキリハをはじめ、仲間たちの援護を受けてタイキ、シャウトモン、ロップモンが最奥へ辿りつくも、
 そこには何もありませんでした。そしてネオヴァンデモンが現れ、白いロップモンなどは存在しないと嗤います。

 賭けに出たシャウトモンは、自らネオヴァンデモンの中へ飛び込みました。ロップモンも一緒です。
 ネオヴァンデモンに吸収されつつあり、諦めかけていたメタルグレイモンを叱咤するシャウトモン。
 そしてロップモンの叫びが、涙がメタルグレイモンの心を動かしてゆきます。

 ロップモンは吸収された同族たちと力を合わせ、シャウトモンたちにパワーを与えます。超進化を遂げる二体。
 ネオヴァンデモンがそれさえも抑え込もうとした時、ロップモンが最後の力を発揮。
 命と引き換えに、二体は軍団を越えた奇跡のデジクロスを果たしました。その名もシャウトモンDX!
 ロップモンたちの消滅により不死の力を失ったネオヴァンデモンは、圧倒的パワーの前にあえなく消え去るのでした。

 犠牲を払いながらも、傷だらけの勝利を得た連合軍。
 もう二度とこんなことは繰り返させない……ようやく訪れた朝日をゆく背中は、より強い決意に満ちていました。




★全体印象

 34話です。
 脚本は前回に引き続いて米村氏。演出は貝澤氏なので前回と合わせ、スイーツゾーン篇に近い顔ぶれです。

 さて、毎度毎度後半を盛り上げるのがヘタな米村氏ですが、今回はなかなかの仕上がりでした。
 次々と迫る敵をかわしながら奥へ奥へと進む神殿の場面やDX登場など、貝澤氏の演出もノリにノっています。
 画面にテンポとパワーがあり、グイグイと引き込まれるものがありました。

 それだけに、ロップモンがガチで死んだのはちょっとショックだったりします。
 今までのクロスウォーズでは、この類のデジモンが犠牲になったことは一度もなかったはずなので……
 不死のネオヴァンデモンを討つ象徴として、ひとつの死が必要だったのかもしれないのですけど…ね。
 とりあえず敵の強大さ、戦いのさらなる熾烈を示すひとつの事象にもなっているとは思います。

 ただ、冷静に見るとツッコミどころが結構あるんですけど。
 後詰めに残った場面でそれなりに挽回したものの、やっぱり色々アレなまんまのキリハとか。
 今回になって突然キュートモンがロップモンと仲良しそうになったこととか。
 ブルーメラモンの件といい、ゲストの死で盛り上げようとする米やんの傾向がまた出ているとか。
 これじゃあ、どちらかというと「死ぬなロップモン!」ではありませんか。

 でもまあ、今回に関してはあんまり気にしなくていいんじゃないでしょうか。
 これで前半がもうちょっと良かったらさらに盛り上がったと思いますけど、もはや言いますまい。




★各キャラ&みどころ


・タイキ


 ネオヴァンデモンを討つ鍵が白いロップモンにあるとあの状況下でしっかり掴み、キリハを落ち着かせたりと
 相変わらずのクールガイです。冗談抜きで、彼がいないとこの連合軍は成り立たないでしょう。
 ネネはタイキとキリハの繋ぎを取ることもありますが、それだってタイキがいないとできないことですから。

 とはいえこのヴァンパイアランドでも、彼自身は存在感のみ示して見せ場は他へ譲っていますね。
 相方のシャウトモンが補ってる形。29話といい、彼が目立ちまくるときは節目ですから温存してるのかな。


・シャウトモン


 米村脚本にしてはセリフの切れがいい気がする今回。
 終盤はほとんど独壇場でした。DX時に見せた涙と叫びが印象に残ります。これは演出と坂本氏の演技力の賜物。
 哀れみさえ篭ったネオヴァンデモンへの言葉は、王の風格というやつでしょうか。


・クロスハートの仲間たち


 主に地下神殿手前でのバトルで活躍していました。
 ボス戦にも前回の終盤から今回の序盤にかけて参加してるんですが、負け戦ばっかりなのが辛いところ。
 それでも超進化やDXが出るのは最後の方なので、彼らの仕事が無くなっているわけではありません。
 むしろ手が足りないぐらいです。軍団バトルの利点はこういうところにもありますね。
 合間合間にちょくちょくバリスタモンやドルルモンのセリフあり。

 キュートモンは上に書いた通り、今回になって急にロップモンとの親密度が上がっているように見えました。
 ラストカットはロップモンへ別れを告げる彼の振り向きで終わってます。演出のパワーに流されかけますが、
 そこまでやらせるほどかしらと余計なことを考えてしまいました。

 ベルゼブモンはX5を援護防御した後行方不明になっていましたが、最後でまた登場。
 こっそり逃げようとしてたネオヴァンデモンの残骸を踏みつぶす後始末を行っています。
 たいした役じゃありませんが、美味しいところをつまんではいますね。

 
・ネネとスパロウモン

 飛行能力があるというだけで、単独の立ち回りが成り立つコンビです。
 今回は神殿に迫る敵を迎え撃つという、本来とはちょっと違う役回りを演じていました。
 ランダムレーザーは多数の敵を狙えますが、攻撃力不足がネックですかね。

 次回からは噂のメルヴァモンが登場してネネと絆を結ぶと言いますが、彼女は神人型で恐らく地上戦が専門。
 ネネに文字通り背中を預ける役はスパロウモンで安泰でしょうね。何かと使い勝手もいいし。


・キリハとブルーフレア組

 後詰めとして不死身の敵を押しとどめ、遅れて合流する形でした。
 これに伴い、デッカードラモンが八面六臂を演じますがそれでもサイバードラモンは出ません。解せぬ。

 前回よりはマシですが、今回もキリハは色々とネタキャラでした。
 序盤の茫然自失とタイキへ詰め寄る場面はなんかもう目頭が熱くなります。なんつうメンタルの弱さ。
 ああ、だから強くなりてーと思ってるのか……変な意味で納得しそうになりましたよ。
 中盤の殿軍志願も独断だし、タイキみたいに柔軟な男じゃなきゃ到底うまくやれそうにありません。
 35話以降の三条脚本ではどういう描写になってるのか気になります。

 メタルグレイモンもそんなジェネラルに似てか、意外とメンタルが豆腐。
 シャウトモンやタイキがブレないので余計にそう見えます。ロップモンがいなかったらどうなってたか…
 吸収されたおかげでネオヴァンデモンの不死身を無効にする道筋がついたので、怪我の功名ではありますが。

 そういえば、タイトルバックからキリハがメタルグレイモンに呼びかける場面があるのかと思ってましたが
 別にそんなことはありませんでした。そのぐらいはやるかと思ったんですが。
 

・シャウトモンDX

 ロップモンの命懸けの行動によって現れた、奇跡のデジクロス体。
 主人公とライバルのモンスターが最強形態で合体するという、オメガモンにも近い存在といえます。
 そのパワーは、半ば崩壊気味とはいえネオヴァンデモンを瞬殺するほど圧倒的。性格もより不敵になります。
 今回見せた他にも、まだまだ技を持っていそうですね。

 オメガシャウトモンにジークグレイモンのゴツい胴体をあてがい、ハリネズミのように武装させたフォルムは
 黄金のボディとあいまっていかにも最強という風情。もう見るからに強そうです。
 バグラモンと戦うとなれば、もうひと味何かが必要になってくるかもしれませんが……さて。


・ロップモン

 ゲストキャラでは数少ない犠牲者のひとりとなってしまいました。
 というか、助けを求めてきたゲストが死んだのはこれが初めてじゃないでしょうか。それもこんな可愛いのが。
 ブルーメラモンやバアルモンはもとバグラ軍なので、ちょっと違うし…後者に至っては転生しています。

 もちろん、それだけデスジェネラルが強いということにもなるんですが…辛いところですね。
 犠牲が出ないとヌルいと言われるかもしれないし、犠牲を出せば安易に死に頼ると言われがち。
 そこらへんのバランスをどこで取るのかも、きっと大事なことなのでしょう。
 デジアドの4クール目はそういう意味でいろいろと衝撃的でした。まさにデスマーチ。

 デジアドといえば、今回はいろいろと興味深いイメージが垣間見えます。
 再生する敵、黄金の二体、取り込まれることが最後の鍵になる、最後の瞬間に光り輝くロップモンと、
 「黄金のデジメンタル」を連想してやみません。これは偶然なのか、必然なのか。
 旧シリーズにも関わっていたスタッフも多いですから、何かしらの意図があったとは思いますけど。

 何はともあれ、白いロップモンはネオヴァンデモンに死をもたらすものでした。
 不死の命脈をその役割を終えることで断ち切る、まさに銀の弾丸だったわけです。何故かはわかりませんが…
 フロンティアのケルビモンといい、ロップモン系はいつも死と隣り合わせなのでしょうか。
 例外は意外にも?テイマーズですが。


・ネオヴァンデモン

 白いロップモンを過剰に恐れるこちらからは、自分を滅ぼしかねない8人目の選ばれし子供と
 そのパートナーを捜し、人間界にまで来た元祖ヴァンデモンを連想できます。
 まあ、弱点を抱える不死者というイメージは吸血鬼としては定番中の定番ですけど。

 死なない敵というのは防御がおろそかな傾向があり、彼もその例に漏れません。
 しかし、敵すらも取り込んでしまう特性や超進化二体をも抑えかねないパワーがそれを補っていました。
 敵を取り込むというのはかの魔人ブウも持っていた能力。もっとも厄介なものの一つでしょう。

 ただ、そのせいで姿がコロコロ変わったりウネウネギュルギュルしたりするので落ち着きがありません。
 最後にはもうほとんど形を失ってしまい、闇そのものに目がついたみたいになってました。
 彼にとって、肉体の形質というものにはそれほど意味がなかったのかもしれません。

 ってか、終わってみれば無限再生という点でブレイクドラモンとかぶりまくっているような…
 無論、こっちのほうがより上の位置付けなのでしょうけれど。


・バグラ軍のみなさん

 まだまだ出てくる不死身軍団。演出の影響で、前回よりもさらに不気味です。
 でもデッカードラモンとスパロウモンにより、どうやら全滅させられた模様。消耗しますが倒せないわけじゃないですからね。
 ネオヴァンデモンも部下が無事なら取り込んで一命をとりとめたでしょうに、こうなってはもう詰みというものです。
 ベルゼブモンがいたから、どっちみち無理ですけど。




★名(迷)セリフ


「忘れていないかね? 私の体の中にいる無数のロップモンが、私を不死身にしていることを!」(ネオヴァンデモン)

 いえ、今初めて知りました。前回は説明してくれてるようで、してくれてません。
 もうちょい違うセリフなら違和感はなかったでしょうけど…
 いずれにしても、この一言がロップモンに決定的な変化をもたらしてゆくことになりました。

 直後のキリハが白目剥いてて(またか…)と思わされたりもします。


「メタルグレイモンが吸収されたのは… …くッ……ヤツが、弱かったからだっ!!」(キリハ)

 どっちかというと草尾氏の演技が印象的なセリフです。
 25話の発言にも通じるものですが、状況や本人の取り乱しっぷりのせいで必死感が滲み出ていました。

 が、事態は明らかに25話よりも深刻。デスジェネラルに吸収されて文字通りその手足とされるなど、
 誇りを掲げる彼らにとっては堪え難い屈辱でしょう。このようなセリフで簡単に断じることはできますまい。
 それでもこう言わざるを得ないところがキリハですが、彼の考え方は時に諦めへ繋がるようです。
 似たようなことがメタルグレイモンにも言えますね。


「気休めを言うなっ! おまえはいつだってそうだ…! 事態を甘くみすぎてるんだよ!!」(キリハ)

 つい見かねてなだめようとしたタイキの胸ぐらを掴みながら。
 …すいません、それはどっちかというと貴方だと思うんですが…あ、誰もツッコミませんね。
 というか、タイキが飛び込むのはヤバい状況だからで、それを承知でやらんといかんのがクロスハートですよ。


「どうだ? 気休めなんかじゃないだろ?」(タイキ)

 白のロップモンの話題に見えてきた光明を受けて。このポジティブさに、キリハも思わず相好を崩します。
 突っかかられても眉ひとつ乱さずにこう返されると、色んな意味でますますキリハが際立つというか…
 これが太一なら、掴み返すぐらいのことはやるでしょうね。やられたらやり返す性質ですから。


「行け! 行って見つけろ! そしてメタルグレイモンをオレの手に戻せ!」(キリハ)

 デッカードラモンとともに殿軍を務めつつ。
 物言いはものすごい上から目線ですが、これはまあ彼なりの責任の取り方というものなのでしょう。
 勝手におっぱじめてるあたりも、この場合は言ったらまず止められますから仕方ない面はあるかもしれません。


「じゃあ、なぜてめえには聞こえねえんだ!
 てめえを取り返す僅かな望みをかけて、命懸けで戦ってるキリハの叫びがっ!」(シャウトモン)


 それは、キリハと違ってお前がもう戦うことを諦めようとしているからではないのか。そういうことですね。
 このへんは畳み掛けるようにセリフが繋がるので、勝手にボルテージが上がります。


「…約束して。ボクたちみんなに…!
 ボクも…ボクたちにも、まだできることがあるんだ……だから約束して…! ネオヴァンデモンを絶対倒すって!」
(ロップモン)


 すでに物言いが個人ではなく、一族単位になりつつあります。
 吸収されて個性が曖昧になったことにより、何か根本的なものを掴むこととなったのでしょうか?
 白のロップモンとは一族の力が集約した霊的な何かで、彼はその媒体となりうる個体なのかもしれません。

 それにしても死亡フラグ満載なセリフですが、可愛いロップモンが言ってるところがポイント。
 みんな良くも悪くも前向きで戦うこと自体に迷いを持ってないので緩和されてますが、悲惨な状況です。


「ロップモン…! その約束…いま果たす!」(シャウトモンDX)

 力を失ってもなお生に執着するネオヴァンデモンに対し、死を賭けて誓いを残したロップモンに応えて。
 無数の烙印が勝利の十字架を刻み、醜悪な不死者を一片残さず焼き尽くしてゆきます。
 セリフ自体はごく普通ですが、音楽と演出でとにかく盛り上がる流れです。




★次回予告

 噂のメルヴァモンがいよいよ登場です。なぜか八島作画で。よく見るとスパロウモンとデジクロスしてますね。
 しかし、弟がいるとは知りませんでした。こっちは死にそうだけど……あのでかいのはハニービーモン+グランディスかな。
 ザミエールモンはピノッキモン型の悪役と見ました。ライラモンはフォレストゾーンの同一個体かな?