弟よ、なぜ!? 敵ジェネラル・ユウの悪夢 |
脚本:三条陸 演出:三塚雅人 絵コンテ:えんどうてつや 作画監督:高橋晃 |
★あらすじ
キリハが見かけた人物を弟と直感し、捜索を始めたネネ。もちろんタイキたちも一緒です。
果たしてユウが発見されるのですが、だまし討ちに遭います。彼の態度と行動は極めて敵対的なものでした。
さらに現れたツワーモンがボディガードを名乗り、ユウを連れていってしまいました。
単身後を追うネネの前に、過去の幻が展開してゆきます。
その中で改めて対面を果たす姉弟でしたが、ユウはネネの説得に耳を貸さず、自分の意志でここにいると断言。
デジタルワールドの覇権を賭けた戦いをゲームと言い切り、データ排除と称してツワーモンらに攻撃を指示。
間一髪のところでメルヴァモンが駆けつけ、タイキたちも幻の結界をこじ開けて駆けつけます。
しかし強敵ツワーモンに加えダークナイトモン、そしてリリスモンとブラストモンらのデジクロス体まで乱入。
さらに謎の幻術がX4らを惑わせてゆきます。敵を視認することができず、苦戦するクロスハート。
そこでタイキはメルヴァモンとハイビジョンモニタモン、それにワイズモンをデジクロスさせて感知能力を高め、
幻術の仕掛人・ドウモンを撃破しました。すべてはツワーモンの配下であるこの魔人デジモンの仕業だったのです。
敵をハッキリと認識したシャウトモンたちの前に、巨大なエネルギーが。
ダークナイトモンとツワーモンがユウによってデジクロスしたムソーナイトモンが、巨砲で狙いをつけていました。
シャウトモンとメタルグレイモンは土壇場でダブル超進化し、この攻撃をどうにか凌ぐことに成功します。
気づけば、ユウもダークナイトモンらもどこかへ去っていました。
ダークナイトモンたちの本来の目的は、タイキたちの領土となったハニーランドからユウを拾うことだったのです。
いまや敵対者となった弟。ネネはメルヴァモンの激励を受け、なんとしてもユウを止めると誓うのでした。
★全体印象
37話です。
最後のキーパーソン・天野ユウとの対面篇だけあって脚本・演出ともにメイン格が揃っていますね。
30話以来となる、1話で区切りのつくエピソードでもあります。基本が3話または2話完結ですから珍しい。
ユウがどのような理由で敵ジェネラルになっているかが肝でしたが、だいたい予告通りでした。
これが単に「認識不足」から来るものなのか、そうではないのか、またはそうだとしても別の意味があるのか…
わかったようでまだわからないことが多いです。敵になるのはもともと明白だったわけですし。
さて、こっからどう折り畳んでゆくのかな。
てなわけで大筋は順当そのものなんですが、三条回らしく見どころの多い回でもありました。
味方デジモンの顔出しも多く、リボルモンやモニタモン、ワイズモンらの出番も用意されています。
さらに彼らとメルヴァモンのデジクロスによって状況の打破がはかられるなど、クロスウォーズならではな展開。
敵側もドウモンが術士としての本領を存分に発揮していたり、ムソーナイトモンが初登場したり
リリスモンが戦線に復帰したりと、密度は非常に濃いものがあります。後期の鬼太郎を連想させる詰めっぷり。
加えて今回の見どころは、暴走に暴走を続ける富田作画でしょう。完全にタガが外れてます。
作監こそ高橋氏になってますが、実質ほとんど富田氏の独壇場みたいなもんでした。
特にネネは見せ方が普通のカットに至るまでいちいちフェチっぽくて「どうしよう…」となるのは必至。
わかりやすい竹田氏のお色気カットに比べると、何かこう見てはいけないものを見てる気持ちになります。
まあ、ここまで来たらもうどこまで突っ走るか見てみたい気もしますが…大丈夫かなぁ。
ただでさえ最近は…おっと、これ以上はここで語ることじゃないか。
★各キャラ&みどころ
・タイキ
ユウが操られてはいないことをいち早く見抜くなど、相変わらず鋭いところを見せてますが今回も控えめ。
ユウはタイキをかなり意識してるようなのですが、その彼がパッと見それほど目立ってはいない状態なのです。
しかし実際に戦況を動かしているのは彼と知識を貸しているワイズモンなので、要であることに変わりはありません。
完璧超人といわれていますけど、その能力のほとんどを誰かのために使っているゆえのことでしょう。
普段口に出さなくても、誰もが重要性を理解している。工藤タイキというのはそういう男です。
ベクトルはやや違うけど、シャウトモンもそういう人物ですね。
・クロスハートの仲間たち
ベルゼブモンにリボルモン、モニタモン、ワイズモンと準レギュラーメンバーが目立ちまくった回です。
リボルモンやワイズモンの人をバンバン呼んでこれるのは、シリーズ構成の特権ですかね。
そのぶんメインメンバーは抑えめという不思議なことになりましたが、軍団バトルが意識されているとも言えます。
というか、予想してたより路線が変わってない気がしますね。オメガとジークも本当に切り札扱いだし。
あの二体とDXが安売りされるよりはいいですけど。今回も合体はしなかったし。
その他スパロウモンがネネ回らしく真っ先に彼女を追いかけたり、抑えるべき箇所は抑えてます。
でもメルヴァモンが台頭して一番ワリを食ってるのは、実際のとこ彼ですよね…
バリバリーンかジェットスクランダーにしかなれない悲しさかな。
・ネネ
背負った因縁といい、憂いのある表情といい、もはや完璧なヒロインとなりました。アカリの分も一手に請け負った感じ。
しかも4富田作画の大暴走を受けて、ただ両腕を上に上げているだけで唖然とするぐらいエロいです。何だこれ。
あまりに露骨かつフェティッシュなので、素直に喜んでよいものかどうか迷ってしまいましたよ。
単に胸を強調されるよりヤバくないですか。いろいろと。
とまあ惑わされがちですが、ここ最近の彼女にしては珍しく問題行動がみられました。
いかに流れ上必要なことだったとはいえ、たった独りでユウを追ってしまったのはまずかったでしょう。
メルヴァモンがクロスローダーに隠れていなかったら、今ごろどうなっていたことか。
それに彼女の独断専行でスパロウモンが負傷してたりするんですが、フォローされてませんね。
弟のことで冷静じゃなくなってたから仕方ないよねって感じでスルーされてましたけど、
穿った見方をすればちょっと批判も増やしそうな回でした。
元を正せばユウのためとはいえ、ヘブンゾーンの住人を思いっきり巻き込んだ経緯があるんですけど
そこもあんまり言われてません。美少女は得……なんて言いたくなりますが、
クロスウォーズのノリでえんえんと引っ張られてもそれはそれで困る気がしてきました。
ヘブンゾーン〜ダストゾーンだけでもかなり話数を使っていますし。
・メルヴァモン
彼女もバインバインに弾けてますが、何故かネネほど困惑はしませんでした。
見せ方があけっぴろげ過ぎて、むしろ健康的に感じてしまったせいですかね。これは前からですけど。
今回から「勘がいい」という設定が付与されました。
でもそこはデジモン、そんな表現を通り越してサイコミュ兵器すら操れそうなレベルに達しています。
デジクロスによってそれがさらに増幅されているであろうことは言うまでもないでしょう。
ハニーゾーン篇を受け、今度は彼女がネネを激励する側に廻っています。
登場間もないのに早くもパートナーの色を強めていますが、スパロウモンの立場が危うい。
ってか、あの巨体でどうやってこっそり入り込んだんでしょう。
・メルヴァモン・ワイドハイビジョンソード
それワイドやない。ワイズや。
そうツッコみたくなりますが、本作ですら意外に珍しい武器系のデジクロスです。メルヴァモンは持ってるだけ。
ワイズモンの知識とハイビジョンモニタモンの策敵能力、メルヴァモンの第六感を合わせることにより
隠れた敵をも正確に見つけ出して叩くことができます。あの亜空間航法は演出なのか、それとも短距離ジャンプ?
もし後者だとすれば、なにげにかなり凄い剣といえるかもしれません。
劇中ではドウモンを見つけ出し、ものの一撃で葬っていました。
向こうが油断していたとはいえ、結構な威力です。まあ、なにげに五体合体だし…
・キリハ&ブルーフレア組
なんか今回キリハが大人しいなと思ったら、ネネ絡みだからですか。
ユウ捜索にも特に文句らしい文句も言わず参加していたし、本当にネネ絡みとなると甘くなるなぁ。
多少水を差すようなことは言ってましたが、ユウを目撃した状況と発した言葉を考えると無理もないといえます。
ろくに話も聞かず結界を破りにかかるあたりは彼らしいですけど、それぐらいはもういつもの事。
グレイモンたちは基本的にキリハには従順なので、こういう時は戦闘要員に徹します。
超進化の都合上メイルバードラモンの出番が減るのはやむを得ないとしても、サイバードラモンはやっぱり出ず。
結界破りにサイバーランチャーぐらいは使ってもよかったと思うんですが……
デッカーグレイモンといい、このへんは使い切れてない印象を受けます。現場の苦労がしのばれる。
・ユウ
恐らくジェネラル最年少にして、最後に登場した少年です。
存在は19話で示唆されていましたが、ちゃんと出てきたのは30話と意外に遅いものがありました。
回想シーンではネネと仲の良い姉弟としての姿を見せており、優しい性格だったらしいことも示されてます。
それが表面上のものだったのか、それとも「裏返し」というヤツなのかでまた話が変わってきますかね。
実のところ、まだその人となりについては良くわからないことが多いんです。
加えて判断を曖昧にしてしまうのが、ネネに見せたという邪悪な表情。アレがあるために、
やっぱり操られてる部分はあるんじゃないの? と感じてしまいます。タイキの帰還を感知したりしてるし、
ダークネスローダーによって暴走してる何かがあるのかもしれません。
上で書いた「裏返し」というのはつまり、優しさの裏返しです。
描写から考えて「誰も死なない世界が創れる、または存在する」とでも言われた可能性があります。
最終的には誰も傷つけないで済むとわかれば、どんなに優しい人でも残酷になれてしまうものです。
ともあれ、ツワーモンやダークナイトモンはユウを持ち上げ、都合のいいことしか言っていません。
「実はあれは嘘だ」となったとき、ユウは果たしてどんな反応を示すのでしょうか。
さらに暴走してラスボスになる可能性もあるけど、今はまだそこまでじゃないですね。
沖佳苗氏の愛あるしるしな演技と振る舞いもあって、悪印象というほどのものはありません。
今後の処遇によってはどんどん壊れてゆくかもしれないので、注視していましょう。
・ダークナイトモン
ユウを拾うため、わざわざハニーランドにやってきました。タイキたちの前に現れるのは21話以来。
冷徹な彼にそこまでさせるということは、ユウは計画にとってよほど重要な存在なのでしょう。
それが兄に下克上するための切り札なのか、いわゆるD5の最重要ファクターなのか、それはまだ不明。
あるいは両方なのかもしれませんけど。
ユウに対してはその価値を認め、賞讃するセリフしか言っていません。ネネの時とは大違いです。
だから、今の彼はユウにとってゲームの駒であると同時に信頼できるパートナーでもあるのでしょう。
悪役っぽいのもアクセントっぽくて素敵だと思われてたりするかもしれません。
それだけに、注目はいつ「君はもう必要ない」と宣言するのかですが…
果たしてこの言葉を言うのは彼なのか、それともユウなのか。どっちにも転べそうな予感。
・ツワーモン
ユウのボディガードにしてダークナイトモンの間諜。
シャウトモンと対面するのは26話以来で、手を貸したのは内部抗争の一端とハッキリ口にしていました。
つまり軍団再構成にあたって三元士の追い落としを企て、実行したことになります。バグラモンの依頼か、黙認か。
そういえばダメモンの時、三元士を批判するセリフも吐いてましたっけ。いろいろ内情も見ていたのかな。
戦いにおいては、さまざまな術や部下を召喚しての忍者らしい戦いを見せていました。
特にそのスピードは驚異的で、デッドリーアックスモンとデジクロスすればさらに磨きがかかります。
ダークナイトモンほど自己主張はしませんが、その実力はやはり並みのものではありません。
ユウの護衛という役割が加わったのも、単なる合体要員にとどまらぬ待遇。
この設定は話のトリガーにもできますが、使われる可能性はたぶんあまり高くないと思います。
・ムソーナイトモン
ダークナイトモンとツワーモンがデジクロスした姿です。
よりによって頭が変わるんで果てしなく微妙な印象を受けますが、見たところ砲撃形態っぽいですね。
名前は変わってるけど、ドルルキャノン+シャウトモンにちょっと近いです。威力は一桁違うでしょうけど。
ツワーモンが入った関係か、技名は超力鳴動波という和風なものに変わります。
今回はオメガシャウトモンたちに凌がれましたが、ダメージを受けたかどうかすらわかりません。
もしバグラモンと一緒に攻めてこられたりしたら、果たして凌ぎ切れるのかどうか…
それは無い気がしますけど。
・リリスモン+ブラストモン+イビルモンズ
バインバインその2。ユウによって強制デジクロスされ、過激な姿になりました。
ポイントはブラストモンの首ハンマーと、イビルモンズの合体位置です。もう完全にイロモノだ。
本人たちもしまいには開き直ったのか、途中からどんどんノリノリになってゆきました。楽しそうだ。
酷い扱いではありますけど、思ってたほど酷くはなかったかも。
しかし、あの悪辣ナンバーワンのリリスモンが今やギャグキャラとは…趨勢の変化とは恐ろしい。
ブラストモンとセットにされた時点どころか、その前から素質はありましたけどね。
・ドウモン
タオモンかと思ったらこっちでした。
しかし結界を張ってネネに幻を見せたり、クロスハートから味方の姿を隠したりと妖しげな術のオンパレード。
それでいて本人は術を使うときだけしか姿を現さないので、まともに戦おうとすると厄介な相手です。
もっと厄介なのは、これほどの手練を従わせるダークナイトモンやツワーモンですが。
最期は自動販売機の中に潜んでいたところを、ワイドハイビジョンソードの一撃で消滅。
姿を隠すということはそれが弱点、直接的防御力はそれほど高くなかったようです。
彼の術と自然の多い舞台から、この回はどっか鬼太郎っぽいですね。
でも考えてみたら、結界を維持したまんま仲間を乗せて飛行までできるタオモンの方がすごいですね。
術の精緻さというより単純に法力の総容量の問題になりますけれど。
・バグラモン
デスジェネラルを3人も倒されたというのに、まったく動じる様子がありません。
まあ他の将軍たちが動じていないのですから、彼が動じているわけもないのでしょうけど。
それともやはり、タイキたちがデスジェネラルを倒してゆくことさえ彼の思惑通りなのでしょうか?
または、どう転んでも「D5」の予定は狂わないよう織り込んで計画を立てているとか。
タイキたちの行動がもし、その予定を単に速めるだけのものだとしたら……
あまり表舞台に出てはきませんが、リリスモンへ甘い言葉をかけて再利用したり
ボスとしての余裕と器を垣間見せています。使える部下は徹底的に使う主義なのかもしれませんね。
もちろん、その裏には冷徹な計算が働いているわけですが。
とはいえ、彼もラスボス候補としてはまだ決め手を持ってないんですよね。声が掛け持ちっぽいし。
一足早く退場するという、園崎のお父様なオチもあり得るかもしれません。
★名(迷)セリフ
「キライだ……生き物は死ぬから、キライだ……!
」(ユウ)
いきなりユウからのエントリー。
このセリフと輪から浮いている描写で、二人がさらに過去どういう境遇に陥ったのか推測ができます。
おそらく天野家の両親はどちらか、または両方が亡くなっているのでしょう。親戚に引き取られたかもしれません。
その経験がユウの心に拭いがたい傷をつけ、そこへ闇が巧みに入り込んだのでしょう。
発想を少し飛ばすと、死んだ親でさえ生き返らせられると唆された可能性もありますね。
もっとも、本人はどちらかというとゲームを楽しんでいるようにしか見えませんが…
「ったく…おまえ、ネネのことになると何でそんなに無鉄砲なんだよ?
」(タイキ)
メタルグレイモンに命じて強引に結界を破ったキリハに。
全くもってその通りですがキリハが無鉄砲なのはむしろいつも通りだし、何より君がそれを言うか。
ネネどころか、5分前まで敵だったヤツのためにさえ無茶をしそうな君が。
なお、この言葉はキリハに完全スルーされました。
「すばらしい…! さすがだよ、ユウ」(ダークナイトモン)
素早く戦術を組み立ててゆくユウに。
彼にしては珍しく全面的に誰かを褒めているセリフですが、それゆえ恐ろしく胡散臭いです。
回想から考えても、彼の本当の狙いはユウだったのでしょうね。ネネはユウを餌に利用されただけ。
その過程で練り出した力から生まれたのがダークネスローダーだとするなら、
ユウが心に秘めた闇とはどれほどのものだったのでしょう。そこんとこがまだ謎ですね。
「張り倒してでも止めるんだ。…あたしの弟を救うとき、ネネはそう言った。
力づくでも止めるんだよ!」(メルヴァモン)
35話を受けての発言。
弟イグニートモンを倒すことも辞さなかった彼女を救い、姉弟の運命を変えたのはネネでした。
力の行使は躊躇わない。しかしその力のすべては、大切な何かを取り戻すためだけに。
その想いが、今度はメルヴァモンからネネへ。心と心が相互に繋がり、二人の絆はこれで確固たるものとなりました。
二人の心がワイズモンの智慧やハイビジョンモニタモンの知覚と結びつき、事態を打破してゆきます。
その根底には、実のところ常にタイキがいるのでした。
(止めるわ…だってユウ、あなたは私の大切な弟だもの…!)(ネネ)
大切だからこそ、痛みを教えるために。ラストシーンを飾るモノローグです。
思いのほか前向きなラストでした。クロスウォーズのキャラは必要以上に悩まないので、らしいと言えばらしいです。
★次回予告
なんだかギャグ篇の予感…ですが、罠の予感もビンビンします。
ルカの中の人はひょっとしてクルモンかな? 中身はたぶんグリリバモンでしょうけど……