レアカードが消えた! 無敵のルークチェスモン

 脚本:吉田玲子 演出:古賀豪 作画監督:大西陽一
★あらすじ

 カードゲームでランキング1位になることを熱望しつつも、全く上がらないランクに焦りを募らせていた少年、ヒロヤ。
 そんな彼をナイトチェスモンが唆し、他のプレイヤーからレアカードを巻き上げてゆきます。
 噂を聞きつけて追跡する少年ハンターたちでしたが、まんまと逃げられてしまいました。

 やがて望み通り、ランキング1位となるヒロヤ。が、ナイトチェスモンはその欲望を吸い取って超進化。
 ルークチェスモンとなり、ヒロヤに見切りをつけて去ってしまいます。
 友と思っていた存在に裏切られ、強さを求めるため手段を選ばぬ姿勢に自分を重ねてショックを受けるヒロヤ。

 その間にも、ルークチェスモンは子供たちの欲望を次々と吸い取ってどんどん強くなってゆきます。
 少年ハンターたちが再び挑みますが、圧倒的パワーと質量、防御力の前に手が出せません。
 しかし、ユウは「強いカードを集めるだけが本当の強さではない」とヒロヤに語った自らの言葉を思い出し、
 奇策と仲間との連携をもってルークチェスモンに挑戦してゆきます。
 強さに溺れたルークチェスモンは自らの砲で自らを傷つけ、ガムドラモンたちの追撃で轟沈するのでした。

 こうして、大事件は終わりを告げます。
 いつか対戦しよう。過ちを悟ったヒロヤはレアカードの返却を約束し、ユウと固い握手を交わすのでした。



★全体印象

 74話です。脚本は吉田氏。今期の氏にしては珍しく、タギルメインではありません。
 演出の古賀氏はこれがクロスウォーズ初参加。かつては「ガイキング」「ハピラキ」に参加しており、
 特に後者ではSDを務めたほどの人です。今期は何やらやけに初参加が多いですね。
 販促を全くやっていない分、逆に人事の縛りが少ないのでしょうか?
 何はともあれ、バトルシーンの迫力は出色でした。もっと担当回を見たかったなぁ。

 物語運びはユウがメインなのですが、主役的扱いを受けているのはむしろゲスト担当のヒロヤでしょう。
 彼の焦燥と増長、転落、そして立ち直りが短い尺の中で丁寧に描かれ、完結に至っています。
 やられる場面が多くてワリを食った感のあるタギル組は、しかし持ち前の打たれ強さを活かして奮戦。
 勝利の一翼を担っています。

 しかしVジャンプに載っていた例のアレは、今回に至っても登場しませんでした。
 次回も雰囲気的にとても登場しそうにないし、一体いつ出てくるのでしょうか?? ラスト手前とか?
 次のVジャンでアニメ紹介が終わるのだとしたら、歴代の紹介にどうしてもスペースを割くので
 先行して載せてしまおうという肚だったのでしょうか。まあ、わからんでもないですが……

 すでに20話を数えるということもあって、少しずつですが強敵の登板率も上がってきていますね。
 今回のナイトチェスモンも相当のワルでした。
 事件の凶暴化、凶悪化はやはり、ラストへのひとつの布石なのかもしれません。



★各キャラ&みどころ

・タギル

 負けてもやられても全くメゲない不屈の精神力と旺盛な行動力で目立ってはいますが、シナリオ的には脇です。
 後半のバトルではガムドラモンを一旦引っ込めてブロッサモンで粘り、トドメ段階で再びガムドラモン復帰と
 ユウの作戦もあって柔軟な運用を見せていました。というか、僅か数分で全快するガムドラが半端ねえ。

 ブロッサモンは71話のベツモン戦に続いての登板です。
 相変わらず、敵を拘束することにかけては超一流ですね。クロウォ界トップクラスではないでしょうか。


・ユウ

 少年ハンターたちの中ではメインを張ってますが、ヒロヤに比べるとあまりインパクトはありません。
 口には出していませんでしたが、ゲームに入れ込みすぎて現実にまで影響を及ぼすヒロヤの姿に
 どこか他人とは思えないものを感じていたのでしょう、単身で接触する場面もありました。
 圧倒的不利を策で覆す手際は、ジェネラルとして辣腕を振るった一年前を思い起こさせるものがあります。
  
 前回出番がなかったダメモンは今回も超進化さえしませんでしたが、代わりに素早く動き回って
 ルークチェスモンに誤射を誘発させ、強固な装甲に一撃必殺の瑕を穿つという殊勲賞を挙げました。
 というか、やっぱりあの煙って臭うんですね……

 今回のハントにより、またまた大物クラスを手に入れたことになります。少数精鋭ですね。
 まあ、タギルも前回にダゴモンを手に入れたわけですから条件は同じ。
 むしろ数と質の両方において、既にタイキにすら迫りつつあるような気すらしますね。

 そんなタギルも、いざとなればユウの指示に二つ返事で合わせてみせています。
 軽口をたたき合う仲だけあり、根っこのところでは信頼しあっているんですよね。


・タイキ

 脇の中でもさらに脇だった人。安定感がある上に自重してるので、こういう回だと実に目立ちません。
 前回もドラマ的にはともかく、バトル的にはほとんど貢献してませんしね。
 主人公レベルが二人いると片方の扱いに苦慮することは、グレンダイザーの昔から変わらないようです。
 あっちの場合、甲児が途中までまともな乗機に恵まれなかったりと涙ぐましいほどでしたっけ。


・ヒロヤ

 今回の実質的主役。
 どうしてもカードゲームに勝てない焦りから「レアカードさえあれば勝てる」という妄執に取り憑かれ、
 ナイトチェスモンに言われるがまま底なし沼のようにカード地獄に嵌ってゆく少年です。
 途中で欲の切れ目は縁の切れ目とばかりに絶縁され、それで目が覚めることとなりました。
 正体を隠す為に付けていた扮装がデジモンカイザーもかくやなシロモノで、大変恥ずかしいです。

 しかし本来は、秘めた負けん気こそ強いながらも至って普通の少年なのです。
 さらっと描かれてますが、元を正せばあまりにも拝金に傾いたあのカードゲームの仕組みにも問題はありますね。
 「努力を金で買う」を地で行った描写があったと思えば、金も努力も払わずに結果だけ掴む描写もありました。
 ヒロヤがやったのは後者です。攻撃力100万を何の苦労もなく手に入れたら、そりゃおかしくなりますよ。
 その瞬間からゲームは作業へと変わり、戦いの思い出は空っぽな虚栄へと変わるのですから。

 障害を乗り越え、謎を解き、はじめは勝てなかった敵を経験と努力で捩じ伏せる達成感。
 それを取り払ったとしても、人間同士の繋がりが残るのかもしれません。
 でもゲームとともに育ってきた私は、ツールでしかないかもしれないものにも価値を求め続けています。
 その価値を高めるためにこそメディアミックスがあり、商品を作品と捉える考え方があるのですから。

 正気に戻ったヒロヤが辿り着いた結論は「レアカードをそんなに血眼になって集めたってしょうがないよね」でした。
 それでも彼がシーモンスターを続けるのなら、かのゲームにはそれだけで終わらない奥の深さがあるのでしょう。
 そう願ってやまないところです。

 中の人は斉賀みつき氏。中性的な声質が印象的すぎる人です。女性でありながらイケメン声なんて言われるほど。
 「ゾイド」のレイヴンや「SDGF」の翼の騎士ゼロ、「ナージャ」のハーコート兄弟、「グレンラガン」のロシウなど
 個人的にも印象的な役が多い方です。未見では「ロックマンエグゼ」シリーズの伊集院炎山を長く演じてますね。
 要するに前々回の野田氏や前回の雪野氏同様、ゲストとしてはかなり名のある人というわけです。
 ちなみに、この人もデジモン初出演だったりします。



・ナイトチェスモン→ルークチェスモン

 ヒロヤを唆し、レアカードを奪っては勝たせて「強くなりたい」という欲望を吸い取っていた悪行デジモン。
 自身もひたすら強くなることを望んでおり、相性が良かったのか超進化までも果たしました。
 ルークチェスモンとなってヒロヤのもとを離れた後も欲望を吸収し続け、遂にはビル並みの巨体を手に入れます。
 この段階だったらベルフェモンとすら戦えそうだ。

 しかしその強さをユウとダメモンに逆利用され、己の攻撃に対しては無力だったせいもあって大打撃を受けることに。
 そのままガムドラモンたちの一斉攻撃を喰らい、あえなく捕獲とあいなりました。
 あっけない顛末は、レアカードで布陣を固めて悦に入っていたら変幻アタックを食らって負けるという
 強いカードを持っているプレイヤーにありがちな負けっぷりを意識したものでしょう。
 すぐ後の「バトスピ」でも枚挙に暇がありません。ナンバー9とか異界王とかね。

 デジモンファンなら承知の通り、かつては「セイバーズ」でオペレーター二人と組んでいた個体の同種でもあります。
 言葉を一切発さない代わり、常に正義の心で戦っていたあの当時と違い、クロスウォーズではバグラ大魔殿にいたり
 今回のように悪行三昧を働いたりと、あまり扱いがよくありません。これも脇役の悲しさか。

 中の人は佐々木望氏。忘れがちですが、以前にもグランドロコモン役で出ています。
 昔に比べると悪役率がメチャメチャ上がりました。契機はやはり「ガンダムX」のオルバ・フロストだと思いますが、
 あの当時と比べても声質がだいぶ変わったので、ますます策謀キャラがハマるようになった感がありますね。
 最近、ささきのぞみという名前の女性声優さんも出てきたので大変紛らわしい。


・カードゲーマーたち

 ランクを上げることに血道をあげる方々。
 ヒロヤの周囲にいる三人(一応名前あり)は、彼の状況を的確に表現する割と重要な役割も担っていたりします。
 それ以上に印象的だったのは、伊倉一恵氏が演じる金持ちメガネですね。典型的な「努力を金で買う」タイプでした。
 努力を金じゃ買えないということは、本来なら金持ちこそが一番知ってそうなもんなんですが。
 カードセンターの片隅で萎びていた姿がなんとも哀愁でした。



★名(迷)セリフ


「ウルトラスーパーレアカードっっ!!」(ユウ)

 別に名台詞でも迷セリフでもないですが、あまりにも驚きっぷりが派手だったので思わずエントリーしてしまいました。
 予告のアレはこの場面だったんですか…何事かと思ったじゃないの。
 ちなみに件のカードは、メガネがママに買ってもらったものです。お前は骨川スネ夫か。


「酷い? 私はただ強くなりたいだけだよ。ヒロヤ、君と同じだ…! 君なら解ってくれると思うがね!」(ルークチェスモン)

 己の本性をストレートに吐き出すと同時に、ヒロヤの妄執を良くも悪くも吹き飛ばした一言。
 強さのためだけに手を結びかけ、そのやり方を客観的に見て初めて己の行動を見つめ直すキッカケを掴む。
 その意味では、アイスデビモンと留姫が結びかけた関係にとてもよく似ています。
 もし留姫がアイスデビモンと手を組んでいたら、もっと取り返しのつかないことになったでしょうね。


「…! そうだ、デジモンたちの戦いもいっしょだ…!
 個々の戦闘力は低いかもしれない。でも、敵を見極めて攻撃を組み合わせれば、きっとあいつに対抗できる!」(ユウ)


 ヒロヤにかつて自分が語った「強いカードだけが本当の強さではない」という言葉にある種のヒントを見出し、
 圧倒されかけた心を鼓舞した時のセリフ。ここからの彼はまさに往年を思わせる才気を発揮し、
 己の強さに溺れたルークチェスモンを自滅へと追いやってゆきます。
 それはもしかすると、過去の彼自身との対決なのかもしれません。城の名を持つ敵が象徴するように。



★次回予告

 どうやらまた公募デジモン回ですが、アイキャッチで紹介されたピロモンも超速登場するようですね。
 黒幕はセフィロトモンでしょうか? チョイ役だったメルキューレモンよりは優遇されそうです。
 あのピエロみたいなのは誰でしょう。ピエモンの変身か何か?