はみパロ1『プロローグ』

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タイトルからわかるかと思いますが、「はみだし刑事」のパロディです。
実はこれ、この後の話を作りたくって作った(ん?なんか変な言い方だ(^^ゞ)お話です。
兵吾が刑事としてまだまだ若手だった頃のお話です・・・
う〜ん、なんか説明の文章ばっかり・・・(^_^;)

 

19年前。

兵吾は当時、西新宿署の刑事課にいて、毎日を事件に追われていた。
刑事になって約3年。しんどいこともあるが、充実した日々を過ごしていた。

ある時、隣接する大久保署管内で連続強盗事件が発生し、西新宿署に捜査協力の要請があった。
この強盗事件はまだ犯人の特定はできていないが、
目撃証言等から少年グループの犯行という線が濃厚であり、
盛り場を有する西新宿署に協力を求めてきたのだった。

ベテランの竹内と担当していた恐喝事件が解決した所であった兵吾に、その仕事が廻ってきた。
その頃刑事課ではいくつもの事件を抱えており、なお且つ西新宿署としては成果にならない捜査に
みんなが敬遠し、若手の兵吾に仕事が振られた、ということである。

兵吾と組んで捜査にあたることになったのは、大久保署の早川秋美であった。
彼女も刑事になってやっと2年目の若手であり、
大久保署側も他署と組むという面倒臭い仕事を若手に押し付けた訳である。
捜査の主体は、犯行に使われた車や遺留品の特定の方にあり、
この繁華街での聞き込み捜査は形式的なものであったのだ。
(もちろんこっちで有力な情報が得られれば人手が増員されるということになる)
しかし、上の者の意とは別に、2人は協力しあって地道に捜査を進めた。

協力しあって、とは言っても最初は衝突ばかりしていた。

秋美は、交通課の婦人警官であったが、
本人の努力の末(もちろんチャンスにも恵まれたのだが)刑事に昇進した、という経歴の持ち主で、
兵吾に負けず劣らずの熱血漢であり、正義感も気も強かった。

ほんの些細なことでHと口ゲンカになり、どちらも一歩も引かない、ということが度々あった。
秋美 「あなたねぇ、どうしてそう言い方しかできないのぉ!(ーー;)」
兵吾 「俺の言い方のどこが悪いっていうんだよっ!!(~○~;)」
(と、言うような些細なことである・・・まったくねぇ・・・)

ただ、捜査を進めるにつれ、お互いに似た者同士であることに気付き、
暗黙の内に相手を認めるようになっていった。
彼女もまた天涯孤独の身の上であった。
彼女の両親は彼女が幼い頃に相次いで病死し、
3つ年下の妹は彼女が中学2年の時、目の前でトラックにはねられて亡くなっていた。
頼れるような親戚もなく、自分独りで生きてきた、という話を
一緒に捜査を始めて2週間が経った頃、屋台でラーメンを食べながら兵吾は聞いた。

捜査は、難航していた。目撃情報や遺留品からの捜査は行き詰まりを見せ始め、
またこの間にも同一犯と思われる強盗事件が発生していた。
そしてこの件の被害者が死亡し、強盗殺人事件に切り替わっていた。

兵吾と秋美は繁華街での聞き込み捜査から、
最近金回りがよいという1人の少年Aにたどり着いた。
そしてこの少年がバイトする店で兵吾の顔見知りの少年と出会った。
日下守。以前に兵吾が万引きで補導した少年だった。

兵吾 「よぉ!守。元気そうじゃないか」
守  「あ、高見さん。お久しぶりです。」

その守の話では、Aは仕事ぶりも真面目だし、とてもそんな事件に関わっているとは思えないということであった。
参考までに聞いた犯行時刻のアリバイも、全部ではないけれど
ほとんど守と一緒にバイトに出ていたということであった。

兵吾 「そっか。サンキューな。仕事中に悪かったな」
守  「いえ。お役に立てなくてすみません」

バイトに戻っていく守を見送り、歩き出した兵吾に秋美が疑問を投げかけた。
秋美 「…ねえ、今のあの子の話、全部信じてるの?」
兵吾 「ああ。あいつは俺に嘘をつくような奴じゃないよ。
     前の事件だって、もともと脅されて仲間に加わっていただけだし。
     本当は気持ちの優しい奴なんだよ。…そう優しすぎるぐらいなんだよな」
秋美 「私は守くんの話だけで、Aをシロだとは決められないわ。」
兵吾 「でも、今の話じゃ犯行に関わるのは無理だぜ。」
秋美 「Aが守くんに嘘をつかせてるのかもしれない。」
兵吾 「まさか!そんなこと…」
秋美 「だって、あの話ぶりじゃ守くんはAのことを完全に信じきってる。
     Aが何か上手く守くんを言いくるめてるんだとしたら?」
兵吾 「…」
秋美 「あなただって今言ったじゃない。”気持ちが優しすぎる”って。
     もしそこにAが付け込んでるんだとしたら?」
兵吾 「…そうだな。俺達はAのことを知らなすぎる。もう少し情報が必要だ。」
秋美 「ええ。」

兵吾と秋美はAについての調査を進めた。そして進めれば進むほど、Aは限りなくクロに近づいていった。
Aの仲間であろう少年グループもつきとめることができた。
捜査本部でもこの捜査結果を元に証拠固めに努めたが、なかなか証拠が揃わなかった。
あともう一歩という所でみんながジリジリしている中、最後の決定的な証拠をもたらしたのは守であった。

守から連絡が入り、兵吾と秋美は約束の場所へ向かった。
そしてその2人の目の前で守は車に轢かれて死んだ。それは事故であった。
但し、守は少年らに追われ、逃げる為に車道に飛び出したのだった。
秋美は事故の瞬間、体が硬直して倒れそうになった。妹の事故を思い出したのだ。
秋美 「あ、あぁ!いやぁー!」
パニックに陥りそうな秋美の頬を兵吾は思いっきり引っ叩いた。

兵吾 「しっかりしろ!お前、刑事だろ!!」「守のこと頼む!」

兵吾は少年らの後を追いかけた。
秋美は意識がはっきりすると守のもとへ駆け寄り、
周りいた人に救急車と警察に連絡するように頼んだ。

秋美 「守くん!しっかりして!」
守  「(途切れ途切れながら)…ごめん、刑事さん。俺、嘘ついてた…」
秋美 「いいのよ!わかってる、わかってるから…」
守  「Aは俺に”友達が金に困ってヤクザに脅されてるから仕方なく”って言ってたんだ。
    ”やらないと殺される”って。」
秋美 「うん。わかったから。もうしゃべらないで。」
守  「…でもそれ嘘だったんだ。俺さぁ、騙されやすいからさ。俺、聞いたんだ。
    あいつ”手伝ってる”だけだって言ってたのにさ、電話で仲間に指示してたんだ、
    ”いつもの所にちゃんと金、隠しとけ”って。”あの潰れたゲーセンなら絶対見つからないから”って。
    俺が”どういうことなんだ!”って言ったらさ、あいつ笑いながら、
    ”お前がバカだから利用したんだ”って言うんだ。
    俺、ムカッとしてさ、あいつに殴りかかったんだけど、逆にやられちゃってさ。
    …俺、高見さんに嘘ついたのが辛くってさ。早く高見さんに知らせなくっちゃって思ったんだけど、
    あいつらに見つかっちゃってさ。ほんと、俺って駄目だよね・・・」
秋美 「そんなことない、そんなことないよ。守くんのおかげで事件、解決できるよ」
守  「ほんと?…よかったぁ。俺さあ、高見さんにいつかお礼がしたかったんだよね…」
秋美 「うん。高見さんも喜ぶよ、きっと。
     あ、救急車きたからね、もう、大丈夫だよ、ほら、守くん…」

守は目を閉じ、反応しなくなっていた。
病院に搬送され、兵吾も駆けつけたが、守の意識が戻ることはついになかった。
兵吾 「守!!」

少年グループはその後逮捕された。主犯格はAだった。
黙秘を続けていた少年らであったが、守の証言をもとにゲームセンター跡から
盗まれた金品が見つかり犯行を認めた。

事件がすべて片付いた夜。屋台のおでん屋。兵吾と秋美がいる。

1ヵ月以上にも渡った事件が解決したにも関わらず2人の表情は暗い。
兵吾はもうすでにコップ酒を4杯ほど飲んでいる。

兵吾 「…俺が。俺が、もう少し早く守に『あいつには近づくな』って忠告しておけば、
     あいつは死なずに済んだのかもしれない。」

酔いたくても酔えない、という感じで吐き捨てるように後悔の言葉を続ける兵吾。

秋美 「…でもね、高見さん。守くんは、自分で納得しなくちゃ、多分そんな忠告聞かなかったと思うよ。」
兵吾 「じゃあ、守の死はしょうがなかったって言うのかよ!」
秋美 「そうは言わないわ。でもね、守くん、最後に『高見さんの役に立てた』って嬉しそうにしてたよ。」

そう言って、兵吾を慰めつつも秋美も空しさを感じていた。
守の死は単なる事故死として扱われ、この事故に関しては少年グループの責任は問えないだろうとされていた。

そうしてしたたかに2人で飲み、酔えない気分ではあっても
さすがに足取りが怪しくなってきた頃、屋台を後にした。

黙って2人で歩きながら、兵吾も秋美も孤独感に包まれていた。
明日からはそれぞれ自分の職場に戻ってまた別の事件を追い掛けなければならない。
守の死の悲しみ、自分自身が抱え込んでいる寂しさを押し隠して。

こんなにも自分に近しい相手、孤独な気持ちを共有できる相手は他にいないだろう。
兵吾と秋美はお互いのことをそんな風に思っていた。
そして、寂しさを埋めるかのようにお互いを求め合った…

翌朝。眩しい朝日が兵吾のアパートの部屋に差し込んでいる。
兵吾が目覚めると、秋美の姿はなかった。
机の上には置き手紙があった。

『このひと月ばかり、高見さんと一緒に仕事ができて本当によかった。
 あなたに出会えて、私はひとりぼっちじゃないと感じることができた。
 私たちは”同類”・・・仲間なんだと思う。 だから、昨夜のことは、お互いに傷を舐めあっただけのこと。

 今日からはまたお互いに新しい1日を始めましょう・・・
 いつかまた、もっとがんばって立派な刑事になった私をあなたに見せたい。ありがとう。秋美』

口許に笑みを浮かる兵吾。
兵吾 「・・・いつかまた会おうな。」
ベッドから起き出し、伸びをする。そして、ふと思い出したようにつぶやく。
兵吾 「ひょっとして俺って、また振られちゃったってことなのかな…(苦笑)」

寝不足の目をこすりながら、署の廊下を歩いていると、
後ろから松尾菊枝がやってきて兵吾の肩をぱしんっと叩いた。

菊枝 「朝から何、もさ〜っとしてるのよ。しゃきっとしなさい!しゃきっと!」
兵吾 「痛ぇって(~_~;)。菊ちゃんは、朝から元気だねぇ・・・」

菊枝は兵吾よりも10年ほど上の先輩刑事だが、何故か妙にウマがあう。

菊枝 「何?また昨日も飲んだの?お金もないくせに」
兵吾 「いいだろ。飲みたい気分だったんだからさ」
菊枝 「顔洗ってきなさいよ。今日はキャリア候補がウチに来るのよ」
兵吾 「キャリア候補?」
菊枝 「そう。ウチで現場の研修するんだって。」
兵吾 「俺には関係ないね」
菊枝 「あるわよ。きっと兵吾ちゃんが面倒みることになるんだから」
兵吾 「なんでだよ〜(ーー;)」
菊枝 「だってみんな面倒くさいから、どうせ兵吾ちゃんに押し付けるに決ってるじゃない(^^)」

ぶつぶつ文句を言いながら、菊枝と部屋に入っていくと、もう既にそのキャリア候補が署長と共に居た。

署長 「本日付で我が署で研修をすることになった根岸玲子くんだ」
玲子 「始めまして、根岸玲子と申します。よろしくご指導願います」

あ〜あ、また気の強そうなやつが来やがったなぁ・・・と兵吾は思った。
兵吾25歳、玲子23歳、菊枝35歳の春のことだった。

(おわり)