はみパロ2『再会』

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はみパロ1をぜひ先に読んで下さい。…その後のお話なのです。設定は、”今”です。

 

その朝、兵吾は新宿へ向かう電車に乗っていた。
以前兵吾が所属していたことのある西新宿署での捜査会議に出席する為である。

ここの所、広域も忙しい。発足当時は所轄署から煙たがられる存在であったが、
最近では良好な協力関係を保っている。時には所轄署の方からの協力要請もある。
「使えるものは使ってやろうってことに、やっと気付いたんだよ」などと兵吾は毒づいているが…。

今も、杉浦・秋本は埼玉で発生した連続強盗事件に、
西崎・さくらは東京・神奈川で出回っている覚醒剤の摘発に、各県警・所轄署と協力して捜査に当たっている。
兵吾も工藤と共に都内で発生した通り魔事件を担当していたが、
この件が無事解決した所へ、西新宿署からの協力依頼の話が舞い込んできたという訳だ。
広域が捜査の主導権をとる訳ではないので、先ずはひとりで向かうことになっている。
(工藤は杉浦たちへ合流することになっている)

駅を出て、署までの道を歩きながらなんとなく感慨にひたっていると、携帯が鳴った。

玲子 「もしもし?おはよう」
兵吾 「おはよう。どーした?何かあったか?」
玲子 「ううん、別に。ただ、寝坊せずにちゃ〜んと向かってるかなぁと思って(^^)」
兵吾 「あのなぁー(ーー;)」
玲子 「冗談よ、冗談(^_^;)。(でも半分本気)」
兵吾 「…たくっ」
玲子 「ちょっとね、やっぱりあなた一人で行かせたこと、心配になってきちゃって」
兵吾 「何だよ、それ!」
玲子 「いい?広域の代表として行くんだから、くれぐれも大人しくしててよ」
兵吾 「わかってるよ(ーー;)。俺だってな、そんないっつもいつも暴れてるわけじゃないだろ」
玲子 「…どーだか。とにかく。ちゃんとこっちにも連絡いれてちょーだいよ」
兵吾 「はい、はい。わかってますって。」
玲子 「じゃあね、よろしくお願いします」

電話を切って、ぶつぶつ言う。
兵吾 「まったく、いつまでも子供扱いしやがって…」

西新宿署。
感じは兵吾が居たころとそんなに変わりない。
廊下を歩いていくと、前から見知った顔がやってきた。
竹内 「よぉ。兵吾じゃないか」
兵吾がここで新米刑事だった頃、ビシビシと鍛えてくれた先輩の一人である。

兵吾 「どうもお久しぶりです(^^)」
竹内 「今日はどーした。広域さんがこんな所まで出張ってきて」
兵吾 「ちょっと呼ばれまして…」
竹内 「あぁ、そうか。例の事件か。ご苦労さんなこった」
兵吾 「竹内さんもお元気そうですね」
竹内 「まあな。一線は退いたけどな、こーして”警察”にしがみついて働いてるよ」

竹内は捜査中の怪我が原因で現場を離れ、現在は庶務課長をしている。
今も片足を引きずるようにしている。

竹内 「菊枝さんは元気かい?」
兵吾 「あー、もう元気元気。俺なんかいっつもおちょくられてますよ(^_^;)」
竹内 「お前は菊枝さんと相性がいいからな(苦笑)」
兵吾 「えー、よくないですよ(^^;」
竹内 「くくく(笑)。くされ縁とでもいうのかな。
     お前が本庁に引っ張られたら、菊枝さんも後を追うように本庁にいったしな(^^)」
兵吾 「はは・・・(^_^;)」
竹内 「ま、もし暇があったら、顔だせや。一杯飲もう」
兵吾 「はい」

歩いていく竹内の後ろ姿を見送る。
兵吾 「(タケさんも来年あたりで定年だよなぁ・・・)」

気持ちを切り替え、捜査課の部屋へと入る。ざっと見回して、昔なじみはいなそうである。
兵吾 「(その方がやりやすいな…)」

早速捜査会議が開かれた。
兵吾は前の席へと進められたが、部屋の一番後ろに座ることにした。その方が、雰囲気もよく読み取れる。
各担当者が事件発生から今までの経過を報告していく。

今回の事件は、2週間前に一人の少女が死んだことから始まる。
鈴木直美、17歳。ビルから転落し、即死だった。
彼女は学校の成績も優秀で、周囲からは問題となるような事実は見つからなかった。
ただ、級友の話で最近勉強に息詰まっていたとの証言もあり、
遺書はなかったが争った形跡もなかったことから自殺として処理されようとしていた。
ところが彼女の体内から薬物が検出されたことにより状況は一変した。
この1週間前に19歳の少年がナイフを振り回して通行人を刺殺する事件があったが、
この少年と同様の覚醒剤が検出されたのである。
ところが少年と少女の接点がまったく浮かばず捜査は難航していた。

捜査員1 「…少年は無職で友人のアパートで生活していました。
       この友人も含め、数人の仲間と夜は街でたむろしていた模様です。」
捜査員2 「仲間のうち、大方は身元が確認できましたが、お互いの住所や本名を知らないで
       付き合っていた者も数名おり、現在、この者達の身許確認作業中です。」
捜査員3 「このグループ周辺から鈴木直美らしき少女の存在は、今の所浮かんできていません。」
捜査員4 「鈴木直美は、都内の高校に通っており、家族は両親と妹。
       学校では特にクラブ活動には入っていません。
       週に3回、学校と家との間に位置する予備校に通っていました。
       おとなしくて、真面目、いわゆる"優等生タイプ"と周囲には見られていました。」
捜査員5 「実際、彼女が遊び歩いている、と言った話は出てきません。
       学校、予備校の友人たちについても同様です。」

兵吾は資料に目を通しつつ、黙って聞いている。
捜査員たちは、後ろにいる兵吾を気にしつつ報告している為、やや緊張気味である。
会議に参加している大方の捜査員は兵吾よりも年齢的に下のようである。
兵吾 「(ここも随分平均年齢が下がったな(苦笑))」
そんなことを思っていると、次の報告が始まった。

女性刑事 「少女の周りはどちらかというとガードが固く、学校側も今回の件が表沙汰になるのを恐れて
        あまり協力的ではありません。現時点での捜査結果も芳しくありません。
        しかし、彼女が何らかの方法で覚醒剤を手に入れていたということは間違いありません。」

鈴木直美の検死結果では、死ぬ直前に大量の覚醒剤を打って(もしくは打たれて)いるが
そのだいぶ以前から覚醒剤を使用していたことがわかっている。
普通に学校生活を送っていたことを考えると、”自分の意志”で使用していたものと考えられる。
最近は「頭が冴えて勉強がはかどる」といった理由で覚醒剤を使用する若者も増えており、
街中で簡単に取引が成立してしまう。

兵吾は報告している女性刑事の後ろ姿を見ていた。
肩下ぐらいまで髪がある為、顔は見えない。ハキハキとした話し方からは気の強さが伺える。
実際、話っぷりからすると、先に報告した捜査員たちの上の立場にいるらしいことがわかる。
どこか聞き覚えのある声だと兵吾は思っていた。

彼女の報告が終わり、兵吾に発言が促された。
兵吾は雅美が作ってくれたフロッピーを係の者に渡し、内容をスクリーンに映し出してもらった。
現在、西崎・さくらが捜査中の覚醒剤密売の調査資料だ。これをもとに説明を進める。
兵吾 「…という訳で、ごく末端の小売屋は明らかになっていますが、卸元については目下捜査中であり…」

東京・神奈川で最近出回っている覚醒剤の密売ルートと今回の西新宿署の事件が関連があるかどうかは
現時点では見極めるのは難しい。
そこで広域としては、両方から捜査を進める方針をとることにした。
西崎・さくらの方は、広域が指揮をとる形で捜査を進める。
西新宿署の一件については、”西新宿署に協力をする”という形で捜査に”参加する”形をとることにした。
合同捜査本部を設置しない代わりに、広域が両方の捜査の橋渡しの役割をするという訳だ。

兵吾の報告も終わり、捜査方針が確認され、会議は終了した。
刑事課の課長が揉み手擦り手状態で兵吾に近づいてきた(笑)。

課長 「いやぁ〜、いかがでしたでしょうか?」
兵吾 「詳細はよくわかりました。こちらとしても全面的に捜査に協力したいと思います。」
課長 「いやぁ〜、ありがとうございます(^^)これで百人力ですな。は、は、は…(笑)」
兵吾 「(ちょっとあきれ気味)…早速捜査に参加したいんですが、誰と組めばいいんでしょうか?」
課長 「あ、はいはい。あー、早川くん!」
先ほど報告していた女性刑事を呼びとめる。
課長 「こちらはうちの主任の早川です。鈴木直美の捜査は、彼女をリーダーとして進めております。
     じゃあ、早川くん。後はよろしく頼むよ」

そういうと課長は去っていってしまった。
兵吾は彼女を紹介されてから身動きひとつしない。目は彼女の顔を見つづけている。

女性刑事 「お久しぶりね、高見さん」

彼女は、昔一緒に捜査をしたことのある、早川秋美であった。

 

え〜ん、終わらないよぉ〜(^_^;)
…こりゃあもうちょっと長くなるです、ハイ。続きはまた後日、ということで(^^;;;;

 

秋美 「さっきの高見さんの顔、おかしかった(笑)」

秋美は前を見て運転をしながら、思い出し笑いをした。
兵吾もまた助手席側の窓の外の景色を見ながら苦笑した。

兵吾 「しょうがないだろ、ホントに驚いたんだから(^_^;)。

     まさかお前が新宿にいるなんて思いもよらなかったから…」
秋美 「私だって、ウチに来るのが高見さんだってわかった時は驚いたわよ」
兵吾 「新宿に来てどのくらいになる?」
秋美 「んーと、3年かな。あの後、大久保から月島に行って、それからココ。」
兵吾 「ちゃんと”刑事”やってるみたいだな(ニヤ)。すごいじゃないか、捜査チームのリーダーだなんて」
兵吾はちらっと秋美の方を見た。
秋美 「そんなすごくないわよ、別に。実際には上の係長がリーダーだし。
     少年の方の捜査はまた別チームがやってて、そっちにもリーダーは居るわけだしね。」
赤信号で止まり、一息ついて秋美は兵吾の方を向いて言った。
秋美 「鈴木直美の周辺からは今の所何も浮かんでこないのよ。
     それは彼女がとても上手く立ち回ってた、ってこともあると思うんだけど、
     周囲のガードも固いのよね。学校も予備校も、変な評判を立てられたくないみたいで、
     決して非協力的、という訳ではないんだけど、もう一歩踏み込めないのよねぇ。」
兵吾 「まあ当然だな。予備校はともかく学校ってのはひとつの社会だ。部外者には厳しいさ。」
秋美 「そうなのよ。で、まあ男よりは女の方がまだやりやすいんじゃないかっていうんで、
     私をリーダーにしただけのことだと思うのよ。
     でもね、成果が出なくってちょっと自信が無くなってきたところだったの。
     だから高見さんが来てくれて心強いわ。」
兵吾 「そんなにおだてたって、何もでないぞ(笑)」
信号が青に変わり車が走り出す。
兵吾 「・・・とりあえずは初心に返って、当日の足取りからだな。」

鈴木直美は死亡した当日、いつも通りの時間に家を出ている。
駅に向かって歩く娘の後ろ姿が、母親が見た最後の姿になってしまった。
学校の授業を最後まで受け、その後学校から電車でふた駅離れた場所にある予備校に向かっている。

午前中は学校周辺の聞き込みをしたが、やはりたいした収穫はなかった。
次の予備校付近へ着いた時には、ちょうど学生の下校時刻になっており、通りを歩く人の数も多くなっていた。
駅近くで車から降り、予備校までの道のりを歩いてみる。
秋美 「いつもは予備校へは同じクラスの友人一人と一緒に行っていたらしいの。
     だけどその子、風邪で学校を休んでいたので当日は一人で来たらしいわ」
兵吾 「一人だけなのか?他にも同じ学校でこの予備校に通っている子は?」
秋美 「何人かいるわ。この予備校はまあ中堅といった所だけれど、
     最近CMやポスターなんかの広告も盛んだしね。
     学校からも比較的近くだし、通いやすいんでしょ。違う学年の子も含めれば14人いる。」
兵吾 「他の子とは仲良くなかったのか?」
秋美 「良くもなく悪くもなく、といった所みたい。途中で会えば一緒に来たり、帰ったりしてたみたいなんだけど、
     特別親しい、っていうことでもなかったみたい。」
兵吾「なんか、つまんねぇなぁ、そういうの…」

ちょうどファーストフード店の前を通りかかった時、中からみゆきが出てきた。学校の友達と一緒のようだ。
みゆき 「あれ?兵吾くん!」
兵吾  「みゆきちゃん!どうしたの、こんな所で…」
みゆき 「こっちに友達の家があって遊びに来てたの。(小声で)兵吾くんはお仕事?」
兵吾  「ああ。(秋美を振り返って)あ、娘のみゆき」
秋美  「こんにちは(^^)。早川です。」
みゆき 「こんにちは(^^)」
秋美  「お父さんに似てなくて可愛いわねぇ(*^^*)」
みゆき 「よく言われますぅ(*^^*)」
兵吾  「ちょ、ちょっと、それはないでしょっ、ふたりとも!!(ーー;)」
みゆきと秋美は顔を見合わせて笑った。
みゆき 「それじゃあ私、帰るね。お仕事頑張ってね。」
兵吾  「うん。前の事件が片付いてやっとみゆきちゃんとデートできると思ったのになぁ…(T_T)」
みゆき 「しょうがないよ。今度の事件が片付いたらデートしてあげるから…(^^ゞ」
兵吾  「よーし、頑張るぞぉー!」
みゆき 「ははは(^^;)じゃあねぇ〜」
兵吾  「気をつけて帰るんだよ!」

先に歩き始めていた友達に追いつくようにみゆきが小走りで去っていく。
それを見送る兵吾。そんな兵吾を見て秋美がつぶやく。
秋美 「すっかり、お父さんなんだね、高見さん。」
兵吾 「最近なんだ、やっと父親だって名乗れたの。」
秋美 「え?」
秋美の顔をちょっと見てから、兵吾は歩き出した。秋美もそれについて歩き出す。
兵吾 「ずーっと母親と暮らしてて、4年前に再会したんだ。
     だけど、最初、名乗れなくて、親友から始めたんだ…」
秋美 「…そうだったの。高見さんの結婚の話も離婚の話も、うわさで聞いて知ってはいたけど。
     でもそんな風に見えなかったよ、今。
     ずーっと一緒に暮らしてる仲のいい親子にしか見えなかった。」
兵吾 「そう?(と、とっても嬉しそうに笑う)」
秋美 「うん」
ちょっと照れた兵吾はわざと陽気に気合を入れた。
兵吾 「さあ、仕事!仕事!(^^)」
2人はちょうど青になった横断歩道を渡った。

みゆきは友達の所まで追いつくと、後ろを振り返った。
肩を並べて歩いていく兵吾と秋美の後ろ姿が小さくなっていく。
なんとなく、みゆきの心にひっかかるものがあった。それが何なのかはよく分からないけれど…

みゆきが家に帰ると、珍しく玲子が先に帰ってきていた。
玲子  「お帰りぃ〜(^^)」
みゆき 「ただいま。あれ〜、早いね。」
玲子  「また戻らなくちゃいけないんだけど、時間が空いたから、みゆきと夕飯食べたくて帰ってきちゃった」
玲子は夕飯の支度をしている途中らしく、エプロンをしていた。
みゆき 「なんかいい匂いがするぅ(*^^*)。」
玲子  「さあ着替えてきて、手伝って!」
みゆき 「は〜い」

ここの所、玲子も泊まり込みや残業が続き、ゆっくりとふたりで食事するのも久しぶりだった。
少し早めの夕飯を終え、玲子が署に戻る支度をしているのを、みゆきはソファに座って見ていた。
みゆき 「…お母さん。今日、昼間兵吾くんに会ったよ」
玲子  「んー、どこで?」
みゆき 「トモコの家の方で。」
玲子  「ふ〜ん。高見さん、嬉しがったんじゃない?
      仕事が忙しくて、『みゆきに会えない、会えない』ってボヤいてたから(笑)」
みゆき 「うん。…それでね、見たことない人と一緒に仕事してた。」
玲子  「ああ、きっと西新宿署の人よ。今、高見さん、西新宿署の捜査に参加してるから。」
みゆき 「あ、そうなんだ。でも…」
玲子  「ん?でも何?」
玲子は支度の手を止めて、みゆきの隣に座った。
みゆき 「なんかね、気のせいかもしれないけど、ずっと前からの知り合いって感じだった…。」
玲子  「そうかもしれないよ。高見さん、西新宿署に居たことあるから。」
みゆき 「え、そうなの?それじゃあ、そうなのかなぁ…」
玲子  「名前聞いた?」
みゆき 「早川さんって女の人。」
玲子  「う〜ん、母さんは知らないなぁ…。母さんもね、西新宿署に居たことあるんだけど、
      母さんが行く前に居た人かなぁ…。」
みゆき 「え?じゃあ、お母さんと兵吾くんが知り合ったのって、ひょっとしてそこなの?(@_@)」
玲子  「うん、そうよ(*^^*)」
みゆき 「そうなんだぁ!もっとその頃の話、聞かせてぇ!」
玲子  「ま、また今度ね(^_^;)(照)。ほら、母さん、もう行かなきゃ…(と逃げるように立ち上がる)」
みゆき 「ずっる〜い!!(ーー;)」

みゆきが漠然と感じていたもの。それは兵吾と秋美の距離感、みたいなもの。
環やさくらとはまた違った、そう、しいて言えば、玲子との距離感に近いようなもの…

兵吾と秋美は、予備校で清掃のパートをしている田川靖恵から話を聞いていた。
校舎内で予備校の事務員から話を聞いていた時、
何かを話したそうな靖恵に兵吾が気付き、そっと近くの喫茶店に呼び出したのだった。
靖恵は60代半ばぐらいで、笑顔がとても人懐っこい感じだ。
靖恵 「いえ、あのね、大したことじゃないんですけどね、私の気のせいかもしれないし…」
秋美 「なんでもいいんです。気付いたことがあったら聞かせてください。
     何か捜査のヒントになるかもしれませんから。」
靖恵 「あの、亡くなった娘さんのこと、悪く言うようで嫌なんだけど…」
兵吾 「と、言うと?」
靖恵 「あたし、見たんです・・・」

広域本部。玲子が一人で残業をしている。そこへ兵吾が入ってきた。
兵吾 「あれ?残業か?」
玲子 「うん、今度の会議に使う資料作り。なかなか終わらなくって…」
玲子はパソコンから目を離し、凝った肩を動かした。
兵吾は玲子の側に近づき、肩をもんでやる。
玲子 「あー、気持ちいぃ。ありがと(^^)。」
兵吾 「あんまり根詰めるなよな。体壊すぞ。」
玲子 「うん。そっちはどう?」
兵吾 「大した進展はないな。でもひとつ手がかりが見えてきた。」
玲子 「手がかりって?」
兵吾 「今日、死んだ鈴木直美が通っていた予備校で、清掃のパートをしている女性から話が聞けたんだ。
     で、彼女によると直美は予備校が終わった後、遊びに出かけていたらしい。」
玲子 「本当?」
兵吾 「彼女は予備校の近くに住んでるんだが、帰りに駅ビルのトイレから着替えて化粧して出てくる
     直美を見たことがあるそうなんだ。なんで直美のことを覚えていたかというと、
     その少し前に落としたものを拾ってあげたらとても丁寧にお礼を言われたらしいんだ。
     それで、今時珍しくきちんとした子だなぁと印象に残っていたらしい。」
玲子 「それがホントだとすると、今まで浮かんできた周囲の話とちょっと違うわね。」
兵吾 「ああ。先ずはその裏付けをとらないとな…」

玲子は”ありがとう”という感じで、肩をもんでくれている兵吾の手を軽く叩き、立ち上がった。
玲子 「人手は足りそう?」
兵吾 「まあ今の所はな」
玲子はコーヒーをふたつ入れて、ひとつを兵吾に手渡した。
玲子 「西新宿署はどうだった?変わってた?」
兵吾 「いや、変わってなかったよ(苦笑)相変わらずボロボロの建物だったし。
     でも中の人間はあんまり知った顔は残ってないみたいだったなぁ。
     あ、そうそう。タケさんに会ったよ。」
玲子 「そう。懐かしいわ。」
兵吾 「タケさんも歳とったよ。」
玲子はひとくちコーヒーをすすり、思い出したように笑いながら兵吾に聞いた。
玲子 「今日、みゆきに会ったんだって?」
兵吾 「ああ、びっくりしたよ。まさかあんな所で会うとは思わなかったから。」
玲子 「みゆきがね、なんか気にしてたわよ(^^)」
兵吾 「何を?」
玲子 「早川さんって、一緒に組んでる人のこと。」
兵吾は玲子の口から秋美の名が出て、一瞬ドキリとした。
兵吾 「気にしてるって?」
玲子 「みゆきの知らない人と仲良さそうにしてたから、ヤキモチ焼いたんじゃないの(笑)」
兵吾 「な、仲良さそうって、べ、別に…」
玲子 「早川さんって、私は知らないけど、前から西新宿に居た人?」
兵吾 「いや、西新宿は3年前からだって言ってた。
     前に彼女が大久保署に居た時に、一緒に仕事したことあるんだ。」
玲子 「そうなの…。みゆきもね、最近あなたと出かけてないから淋しいのよ、きっと。」
兵吾 「俺だってさぁ…」
兵吾が反論しようとする所へ、玲子が畳み掛けるように言う。
玲子 「私だって、みゆきと同じ気持ちよ。」
兵吾 「え?」
玲子はちょっと照れたように兵吾から視線を外す。
玲子 「ずーっと仕事が忙しいじゃない。たまにはさ、一緒に食事したりしたいなぁ、とか…」
兵吾 「玲子…」
玲子 「え、あ、やだ、2人でじゃないわよ!みゆきも入れて3人でに決ってるじゃない。そうよ、3人で…(^_^;)」
兵吾と玲子は2人して照れてしまう。
兵吾 「・・・ああ。今の事件が片付いたら、3人で出かけよう。食事の前にどこか遊びに行って…」
玲子 「…うん(^^)」

 

まだ、終わらん…(^_^;)

 

翌日の捜査会議で、田川靖恵の証言内容が報告され、改めて予備校周辺を洗い直すことにした。

直美が、死んだ水曜日に受けていた授業は1コースだけで、8時には終わる。
これまでの捜査では、当日は授業後ひとりで帰ったものと思われていた。

いつも一緒に予備校に行っていた友人は、帰りは一緒になることはないとのことだった。
家の方向が違うことと、受けてる授業がすべて同じではないからだ(そして当日は休んでいる)。
水曜日の授業、”英語強化特進コース”の受講者たちに、以前に聞いた話では、
誰も当日は一緒に帰っていない、ということだった。

が、それも怪しくなってきた。
靖恵の話では、駅ビルで見かけた直美には連れがいたとのことだった。
その連れの方は、よく見えなかったらしいが…。

水曜日のクラスの受講者は21名。その一人一人に再度話を聞く。
彼らは皆、死んだ直美同様、成績はトップクラスの者ばかりだった。
彼らの多くは、なぜ何度も何度も警察に話を聞かれるのかと、不快な態度を示した。

その中で兵吾の気になる少年がいた。
大抵は警察に事情を聞かれるというだけで、どこか落ち着かない様子になるのが、
彼だけは妙に落ちついた態度だったのだ。

宮川一也。直美とは別の学校の生徒だ。

一也 「いやー、彼女とは2、3回授業のこととかで話したことはありますけど…、
    本当に今回のことはびっくりしました。」
秋美 「何か彼女が悩んでいるとか、もしくは困っているような話はきいたことはない?」
一也 「別に。そんなに突っ込んだ話はしたことありませんから。
    それにしても彼女、自殺じゃないんですか?なんでまだ警察が捜査してるんですか?」
兵吾 「…彼女は自殺した、と君は思うのか?」
一也 「だって、みんなそう言ってますよ。」

臆面もなく話し、どこか自信に満ち溢れた一也の姿は、兵吾の心に引っ掛かるものがあった。

兵吾 「なあ、あの宮川一也について何か情報はあるか?」
秋美 「宮川…え、えっと(と手帳をめくる)、彼はね、学校でも予備校でも1番の成績よ。周りも一目置いた存在ね。
    家族は両親がいるわ。だけど、彼は一人でマンションに暮らしてる。」
兵吾 「一人で、高校生が?」
秋美 「ええ。父親は会社役員で、母親はフラワーアレンジの学校を経営してるの。
    両親ともに家にはあまりいないし、勉強がはかどるからってマンションを与えてそこで暮らさせてるみたい。」
兵吾 「結構なご身分だな…(^_^;)」
秋美 「彼がどうかしたの?」
兵吾 「なんかなぁ、気になるんだよなぁ…あいつの態度…」
秋美 「…高見さんがそう言うのなら、張ってみましょうか?」
兵吾 「え?いいのか?」
秋美 「高見さんの勘を信じるわ。」

それから兵吾と秋美で一也の行動を監視した。
すると彼のマンションに水曜日のクラスの生徒が度々訪れていることがわかった。
その中には、”直美が勉強で悩んでいた”と証言した、直美の学校の生徒も含まれていた。

また彼らがクラブ「A」という店に出入りしている事実も判明した。
その店は少年課や風紀の方でもマークしている店で、そこのDJのヒロシは以前に薬で捕まったことがあった。

直美より前に死んだ少年も、友人がAに出入りしていたことが判明した。
また、西崎に照会したところ、あっちで出回ってるヤクのルートのひとつはAであるらしい。
目をつけている売人の一人がAに出入りしていることがやっと最近わかったということだった。

捜査員1「間違いないですよ。その店でヤクの売買が行われ、恐らく鈴木直美もそこでヤクを手に入れた…」
捜査員2「鈴木直美の家から薬や注射器の類は見つからなかったし、その宮川一也のマンションが怪しいんじゃないんですか?」
捜査員3「しっかし、そうだとしたら信じられないよなぁ。
     あの部屋に集まってるのはみんな学校で優等生だと評判の生徒ばかりですよ」
秋美  「現場を押さえましょう!」

一也たちがAに揃った所を見計らって、踏み込んだ。

その場にいた高校生たちは、ヒロシから薬を買っていたことを認めた。
そしてそれはやはり一也の部屋で使っていたらしい。
高校生1「でも、俺ら、バカじゃないですから、ホントにちょっとだけですよ。
     ヤク中になんてなったらバカらしいし。ちょっとした気分転換ですよ」
悪びれるでもなく彼らはそう自供した。
一也の部屋からは覚醒剤とそれから大麻が押収された。

一也の取り調べ。兵吾と秋美もいる。

一也 「あ〜、バレちゃったらしょうがないですね。そうですよ、ヒロシさんからちょっと分けてもらってたんですよ。
    おかげで勉強がはかどりましたけど・・・くっくっく。」
秋美 「鈴木直美さんもあなたの部屋で薬を打ったことあるのね?」
一也 「ありますよ。でもね、いっつもいっつもクスリやってた訳じゃないですよ、ボクたち。
     まっすぐ家に帰りたくない時とか、刑事サンにだってあるでしょ?(^^)
     そういうヤツにあのマンションの部屋を提供してただけですよ。」
秋美は一也の正面に座っている。
兵吾は、秋美と一也の間に立ちながら、黙って一也の顔を睨んでいる。
秋美 「直美さんが亡くなった日のことを話して」
一也 「あの晩も彼女、マンションに来て、他の連中と話したりしてましたね。クスリはやってませんよ。
     でも9時半ぐらいに帰っていきましたよ。
     いつもは11時ぐらいまで他の連中とうだうだやってるんだけど、そう言えば珍しく早い時間だったな…」
秋美 「その時、彼女何か言ってた?」
一也 「いや、別に何も。ただ時間を気にしてたような感じだったけど。」
秋美 「他に何か最近、彼女のことで気付いたこととかない?」
一也 「う〜ん、特にないなぁ。いつも通りだったけど。
     部屋に来ても女の子たちと洋服とか、買い物の話とかしてたし…
     あ、こんなことつぶやいてたことあったな。
     『人間って見掛けじゃわからない。良い人が悪い人のこともある』とかなんとか。
     『なんだいそれ?』ってボクが聞いたら、『最近気付いたこと』とか言ってた。
     ボクが『世の中そんなやつらばっかりだよ』って言うと『そうかもね』って笑ってたけど」
秋美 「…どうして、直美さんの学校の人に”勉強で悩んでた”なんて言わせたの?」
一也 「だってそうでも言っとかないと、ボクたちのこと調べられちゃうかもしれないじゃないですか?
     これから受験に向けて大事な時期なんですよ、ボクら」
秋美 「でも、結局はこうして警察に調べられることになっている…」
一也 「ま、しょうがないですね。でも、ま、ボクたち若いですから(笑)」
一也たちには親が頼んだ強力な弁護士が付いている。それにいずれにせよ、未成年である。
一也はそのことも十分に判っているのだ。
黙っていた兵吾がつぶやいた。
兵吾 「…お前、自分が何したかわかってんのか?!(怒)」
一也 「わかってますよ、それぐらい(笑)」
兵吾が一也を殴ろうとするのを、秋美は必死に止めた。一也は相変わらずヘラヘラ笑っている…

一也の部屋から、直美が転落死したビルまでは30分あれば行ける。
死亡推定時刻は22時から23時であることから、
おそらく一也のマンションを出てまっすぐ現場まで向かったのであろう。
時間を気にしていたことからも誰かと待ち合わせをしていたのではないか、と考えられる。
そしてそこで何者かに覚醒剤を大量に摂取させられた。
(直美が当日、一也の部屋で薬を打っていなかったことは他の者からも証言が取れている)
その後、ビルから転落した−−−

薬をさばいていたヒロシは現場から逃走しており、緊急手配されていた。
やがて必死の捜索の末、ヒロシは発見された。拳銃で撃たれて川に浮かんでいたのだ。

 

あと、もう少し…(^_^;;;

 

ヒロシに撃ちこまれた弾丸は貫通しており、発見されていない。
捜査本部では、警察に目をつけられたヒロシが邪魔になり、
恐らくは薬を仕入れていた先の組織に殺されたと見ていた。

直美がヒロシと2人で話していたという目撃証言もあり、
直美が待ち合わせしていたのはヒロシであろうということになった。
そして何らかのトラブルが2人の間にあり、直美が死んだ。
当時者が死亡している為、事故なのか他殺なのかは特定できないが、事件はこれで片付こうとしていた。
今は、ヒロシが仕入れていた覚醒剤のルートの解明に力が注がれている…

兵吾と秋美はどこか釈然としない気持ちを抱えていた。
兵吾 「…なんかなぁ、すっきりしないんだよなぁ。」
秋美 「鈴木直美が会っていたのは本当にヒロシだったのかしら?」
兵吾 「ん?」
秋美 「宮川一也は直美が『…良い人が悪い人のこともある』と言っていたと言ったわ。
     …ヒロシは女遊びも派手だったし、どうみたって”いい人”じゃない。」
兵吾 「確かにそうだな。直美が会ってたのはヒロシじゃない・・・
     宮川が直美からその話を聞いたのは死ぬ1週間前ぐらいだから、そのぐらいに誰かに会ったんだ。」
秋美 「以前から知ってたかどうかわからないけど、
     ”いい人”が”悪い人”に気付いたのよね、きっと。」
兵吾 「その線で探ってみよう。」

兵吾と秋美は2人して、はみだして捜査を進めた。
捜査本部の考えの通り、ひょっとするとヒロシが犯人である可能性も当然ある。
しかし、何であれ、2人は中途半端で捜査を終わらせたくなかったのだ。死んだ直美の為にも。

すると直美の学校の友人からこんな証言がとれた。
友人 「…なんかね、おこづかいくれそうな人が見つかったって言ってたの。
     だから大学に入ったらいっぱい遊ぼうって話してて…。
     私がまさか『援交とかじゃないよね?』って聞いたら、
     『はは、まさか。この間、お母さんと出かけた時に思いがけない所で思いがけない人に会った』って
     言ってたから、てっきり私は親戚のおじさんか何かだと思ってたんだけど…」

やはり、事件の起きる1週間ぐらい前のことだったという。
直美の母親にこれから伺って話を聞きたいと連絡をすると、弱々しい声で、構わない、という返事をもらえた。
鈴木直美の自宅に向かう途中で無線が鳴った。
捜査員1 「主任、今どこですか?」
秋美   「今、鈴木直美の家に向かう途中よ。それより何?」
捜査員1 「ヒロシの周辺で男が一人浮かびました。その男がヒロシにヤクを卸していたようです。」
秋美   「どんな男なの?」
捜査員1 「歳は60前後。店の開店前や閉店後にヒロシと接触していた姿が複数目撃されていました。
       足を引きずっていたという特徴以外には人相等は特定できていません。」
秋美   「組関係じゃないの?」
捜査員1 「今、その線でみんな動いてます。主任、早くこっちに戻って来てくださいよぉ〜。
       俺、もう課長に誤魔化せないっすよぉー(^_^;)」
秋美   「ごめん、もうちょっとだけ。急に確認したいことができたとか言っといて。」
捜査員1 「ホントに早くしてくださいよー。」
無線を切る秋美。
兵吾 「お前、部下にも慕われてるんだな。」
秋美 「さあ、どうだか(笑)。高見さんだって、慕われてるんじゃないの?」
兵吾 「俺には部下はいないからさ。逆に俺が部下だし…。後輩の工藤や秋本ってのはいるけどなぁ、
     あいつらは俺のこと慕ってるっていうよりは、俺が遊ばれてるって感じかな(笑)」
秋美 「なんだ、やっぱり慕われてるんじゃないの(^^)」

鈴木直美の母親は事件があってから体調を崩し、ずっと寝込んでいるという。
今も起きてきたばかりという感じで兵吾たちを迎えた。側には直美の妹が付き添っている。
秋美    「突然、申し訳ありません。直美さんのことで確認したいことがありまして…」
直美の母 「なんでしょう…もう警察にお話するようなことはありませんけど。
        本当に……娘のことは親の私たちが一番何も知らなかったんですから…」
兵吾    「…お聞きしたいのはですね、事件の起きる1週間ぐらい前に、
        直美さんとどこかへお出かけにならなかったか、ということなんですが。」
質問が予想外のことだったらしく、母親は少し戸惑った表情をみせた。
直美の母 「直美とですか…。最近はあんまり直美と時間が合わなくって、
        一緒に出かけると言っても…」
懸命に思い出そうとしている母親の側で、妹が何かを思い出したらしく母親に話し掛けた。
直美の妹 「ほら、お母さん。車、駐車禁止の札つけられちゃったのって、その頃じゃない?」
直美の母 「あ、…そうね、そうだわ。いえ、お恥ずかしい話なんですが、お友達の家に車で遊びに行った時に
        そのお宅の前に路上駐車していたら、あの、オレンジ色の鎖みたいのつけられちゃいましてね。
        そんなに長い時間停めていたつもりはなかったんですけど、ついおしゃべりしちゃいましてね。
        私、そういうこと初めてで、家に帰ってきてオロオロしていたら、直美が帰ってきまして、
        主人がまだ帰宅していませんでしたので、直美についてきてもらって警察に行きましたの。」
秋美    「そうですか、それは災難でしたね。それで、その後どこかに寄られたりしましたか?」
直美の母 「いえ、真っ直ぐ家に帰って参りました。
        …そうですね、直美と出かけたと言えば最近ではそれぐらいですね。
        ……本当に、もっと色々と、出かけておけば、よかった…」
泣き出した母親を前に、兵吾と秋美は顔を見合わせた。
どこにも出かけていない。警察以外に…。
兵吾は突然あることに気付き、恐る恐る母親に尋ねた。
兵吾 「…それで、その駐禁をとられた警察っていうのは、どこですか?」
母親に代わって妹が答えた。
直美の妹 「西新宿署ですけど。」

鈴木直美の家を出ると、兵吾は自分で運転して西新宿署へと急いだ。
助手席の秋美は訳がわからないといった感じだ。
秋美 「どうしたの?何かわかったの?!」
兵吾はそれには答えず苦しそうな顔で運転を続けた。
そこへ西崎から兵吾に電話が入った。
西崎 「高見さん?…じつはクラブAから流れていた薬のことでちょっとわかったことがありまして…」
兵吾 「なんだ?」
西崎 「成分を科研で調べてもらった所、昨年都内で出回っていた東南アジアルートのものと、
     ほぼ一致することがわかりました。」
兵吾 「…それって、確か、新興のヤクザやさんが勢力拡大の為にバラまいたやつか?」
西崎 「そうです。ただそれはすべて押収されていて、そのルートも絶たれたはずなんです。」
兵吾 「その押収したブツは今、どこにあるかわかるか?」
西崎 「本来なら警視庁で管理しているはずですが、
     一部はまだその押収した所轄署で保管されているはずです。」
兵吾 「…その、所轄の中に、西新宿は含まれているか?」
西崎 「…はい。」

秋美にもようやく事態が飲み込めた。
直美は母親に付き合ってきた西新宿署内である人物を見かけたのだ。
その人物は署内で保管されていた押収品の覚醒剤をヒロシに横流ししていた。
直美も恐らくヒロシとその人物が取引しているのを偶然見かけたことがあるのであろう。
だから驚いたのだ。『良い人が悪い人のこともある』と言って。
西新宿署では押収品の管理は庶務課で行っている。
そして、課長の竹内は来年定年を迎える歳であり、片足を引きずっていた…!

西新宿署に着いた兵吾たちは竹内を探した。そして、屋上で竹内を見つけた。
近づいてくる兵吾の表情を見て、竹内はすべてを察した。

竹内 「やっぱり、お前にはわかっちまったか…」
兵吾 「タケさん、どうして!…どうしてこんなこと…」
竹内 「…なんかな、空しくなっちまったんだよ、刑事をやってることがさ。
     足、怪我して、一線を退いて、考えたんだ。何十年と刑事やってきて、俺に何が残ったのかって。」
兵吾 「タケさんは立派な刑事ですよ!みんな尊敬してます。
     俺だって、タケさんに鍛えられたこと、感謝してますよっ!」
竹内 「(ふっと笑い、)ありがとな、そう言ってもらって。でもな、やっぱり、俺には何も残ってないんだよ、何も。
     捜査を理由に女房の死に目にも間に合わなかった。」
兵吾 「でも…!」
竹内 「女房は交通事故だったんだ。相手の運転手、まだ大学生だった…。
     そいつ、すいません、すいません、って謝ってさ。もう2度と車の運転はしませんって土下座したんだ。
     俺も許そうって思ったよ。まだ未成年だったしな。
     …でも、そいつな、去年、また事故起こしたんだ。飲酒運転でな。」
兵吾 「だからって…」
竹内 「ああ、わかってるさ。俺がこんなことする理由にはならないってことはな。だけどな、
     犯罪者を捕まえて、そいつを更生させてやってるなんて思い上がりが俺のどこかにあったんだ。
     そんな薄っぺらい社会正義振りかざして、刑事やってきたんだよ。ところがどうだ。
     今の若いやつらは、罪を犯しても自分が未成年ってことで守られていることを知っている。
     悪質な確信犯だ!!」
兵吾 「…だから、だからあのクラブに薬を横流ししたんですか?未成年者も手を出すだろうことを知ってて!」
竹内 「ああ、そうだ。あいつらは自分たちが頭がいいと思い込んでいる。
     ふん、バカらしい。あんなやつらヤク中になっちまえばいいと思ったんだよ。
     でもどうだ?取り調べてみて、あいつら、悪いことしたなんて気はまったくなかっただろ?
     自分が悪いことをしたことすら、わからない。バカだよなぁ・・・くっくっくっ(笑)」

秋美は、どこか狂っていると思った。どこかで、竹内の歯車はズレてしまったのだ。

秋美 「鈴木直美さんはあなたが殺したんですか?」
竹内 「あの小娘は、俺を脅迫しにきやがった。小遣いをくれとさ。
     まったく何を勘違いしてるんだか…。面倒だからな、ビルの屋上で気を失わせて、
     ヤク中に見せかけて突き落としたんだ。」
直美もまさか警官が自分を殺すなどとは思っていなかったのであろう。
彼女はまだ17歳の世間知らずの高校生だったのだから。
兵吾 「ヒロシは?ヒロシを殺(や)ったのもあんたなのか?」
竹内 「そうさ。あいつ俺に泣きついてきやがったんだ。
     まったくただ同然で薬をくれてやって、自分は大枚をせしめてたってのに、まだ悪あがきをする…
     ああいうウジ虫は死んだ方がいいんだよ…(笑)」

気付くと屋上には兵吾たちの他にも警官が駆けつけ、竹内は取り囲まれていた。
兵吾 「タケさん、自首して、罪を償ってください!」
竹内 「…もう遅いよ、兵吾。
     ……刑事を何十年と続けてきて、何にも残らなかった俺だけど、
     それでも”刑事”って仕事にしがみついて生きてきたんだ。
     なあ、…そんな俺が、刑事辞めたら、どうやって生きていけばいいんだろうな?」
兵吾 「それは、…俺にだってわかりませんけど、
     だからって、こんなことしていいって理由には、ならないでしょっ!
     タケさんはただ逃げてるだけですよ。前向いて生きて下さいよっ!!」
竹内 「そうだな…俺は、正面向くのが怖くなったのかもしれん。歳をとったからな…」
取り囲んだ警官達が拳銃を向けてじりじりと竹内に近づいた。
すると竹内は懐から拳銃を取り出し、兵吾に銃口を向けた。
竹内 「近づくな!」
警官たちは動きを止めた。兵吾はまっすぐ拳銃を睨み、少しずつ竹内に近づいていった。
兵吾 「もうやめてください!」
竹内 「…お前がこの捜査に加わるとわかった時、正直、嬉しかったよ。
     ああ、お前が俺の決着をつけに来たんだな、と思ってな。お前はいい刑事になったよ。」
兵吾 「俺が…刑事として成長してこれたんだったら、それはタケさんたち先輩のお陰です。
     …そうですよ、何にも残ってないなんて言わないで下さい。
     俺や他の奴らを、一人前の刑事になるように鍛えてくれたじゃないですか!俺だけじゃなくて、
     タケさんに感謝してる奴、いっぱいいると思います!そいつらの気持ち踏みにじらないで下さい!!」
竹内 「…そう言ってもらって、本当に嬉しいよ…。でもな、最後の幕引きぐらい自分でさしてくれや。」
兵吾 「バカなことはやめてください!!」
竹内 「最後に、お前に会えてよかったよ。…悪いな、兵吾。」
そう言うと竹内は、屋上の手すりをひらりと飛び越えた。
兵吾 「タケさんっ!!!」

兵吾は駆け寄ったが間に合わなかった。竹内は屋上から飛び降り、即死だった。
その後、竹内の自供通りの裏付けがとれ、事件は解決した。
竹内が持っていた拳銃もやはり押収品であり、ヒロシを撃った拳銃と同一の物であった。
そして、最後に兵吾に銃口を向けた時、拳銃に弾は入っていなかった…

 

ふーっ、やっと事件解決です(^^ゞ。
これからはエピローグです。そうですねぇ、本編で言えば、ラストの5分と言ったところでしょうか(笑)

 

新宿の街。
兵吾は秋美と並んで歩いていた。
秋美 「ウチの署はしばらく大変だと思うわ…。」
兵吾 「ああ、しばらくは色々とやりづらいだろうな。…がんばれよ。」
事件は解決し、捜査本部は解散となり、兵吾も西新宿から引き上げることになった。
兵吾 「…タケさんはさ、とっても愛妻家だったんだ。
    奥さんが亡くなって、一人になったのがいけなかったのかなぁ…」
秋美 「そうね。お子さんでもいたら、また違ってたかもしれないわね。」
兵吾はずっと考えていた。竹内に聞かれた質問に。
"自分から刑事をとったら何が残るんだろうか…"

交差点の所で2人は立ち止まった。
秋美 「今回、高見さんとまた一緒に仕事できてよかったわ。」
兵吾 「ああ、俺もだ。」
秋美 「ありがとう。」
秋美は手を差し出した。兵吾も手を伸ばし、その手を握り返した。
秋美 「最後に食事でも、と思うけど、みゆきちゃんと待ちあわせなのよね?(笑)」
兵吾 「ああ、悪いな。」
玲子が兵吾を気遣い、みゆきと3人で食事をしようと連絡してきたのだ。
兵吾はそんな玲子の気持ちが嬉しかった。今日はどうにも一人でいるのはつらい気分だった。
兵吾 「また今度、ゆっくり飲もう。」
秋美 「いやよ(笑)。だってどうせ屋台のラーメン屋じゃないの?(クスクスと笑う)」
兵吾 「そんなこと…(^^ゞ」

そこへ、2人の方に向かって自転車でやってくる少年が、突然声をかけた。
「母さん!」
秋美は驚いて声のした方を見た。そしてニッコリと笑って、兵吾の方を向き直った。
秋美 「(ちょっと照れた感じで)…あれね、息子なの。」
兵吾 「えっ!?」
少年は2人の所まで追いついて、秋美の隣に止った。
秋美 「息子の慎吾です。
    (慎吾に説明するように)こちら、本庁の高見さん。今度の事件で一緒に組ませてもらったの。」
慎吾 「あ、どうも初めまして。母がお世話になってます。」
明るく健康的な少年だった。
兵吾 「いや、こっちこそお母さんにはお世話になったよ。」
秋美 「(慎吾に向かって)あんた、こんな所で何やってるの?」
慎吾 「バイトの帰り。母さん、今日はもう終わりなら、晩メシ、外で食ってこうよ。」
秋美 「そうね、そうしましょうか。いつもの所でいい?あんた先に行っててちょうだい。」
慎吾 「OK。それじゃあ、高見さん、失礼します。」
慎吾は行儀よく兵吾にお辞儀すると、自転車を走らせていってしまった。

兵吾 「驚いたなぁ〜、あんな大きな息子がいるとは…。でも、いい息子さんじゃないか(^^)」
秋美 「ありがとう。でもね、最近は言うこと聞かなくってね、困ってるの(苦笑)」
兵吾 「いくつ?」
秋美 「…17。旦那とはすぐに別れちゃったから、今は2人暮らしなの…」
兵吾 「そうか…色々と大変だったんだな。」
秋美 「大変だったけど、楽しかったわ。」
兵吾 「もし、俺に何かできることがあったら、いつでも言ってくれよ。
     って、俺じゃ、頼りにならないか…(苦笑)」
秋美 「そんなことないよ。ありがとう。そう言ってくれるだけで、すごく嬉しい。
     もし女親じゃ手に負えないことができたら、相談するかもしれないわ(笑)」
秋美は黙って兵吾の顔を見つめた。
秋美 「それじゃあ。」
兵吾 「ああ。元気で。」
2人は別れて歩き出した。

玲子は西新宿署に挨拶に来ていた。署長からは今回の捜査協力の御礼を何度も言われた。
署長は、今回の不祥事が大きく広まらないかということを、ただただ心配しているのだ。
玲子は今回はあくまで広域はサポートする立場であったこと、
だから広域が表立って今回の件を扱うことはないということを強調して、西新宿署を後にした。
玲子 「(ふーっ。まったく、自分の保身ばかり気にして…)」
兵吾とみゆきとは駅で待ち合わせをしている。
玲子は、少し約束の時間に遅れてしまっているので早足になった。
途中、偶然にも玲子は秋美とすれ違った。
但し、お互いに顔は知らないので、2人とも相手が誰だかは気付かない。
だが、すれ違った瞬間、玲子は何故か立ち止まり、すれ違った女性を振り返った。
玲子はしばらくその女性の後ろ姿を見ていたが、何故自分がそうしたかもよくわからず、
待ち合わせのことを思い出し、また駅へと急いだ。

秋美はいつも行くレストランに入った。先に来ていた慎吾が手を挙げる。
秋美 「ごめん、ごめん。待った?」
慎吾 「ん、大丈夫だよ。」
料理の注文をし、一息ついた所で秋美は慎吾に話しかけた。
秋美 「…ねえ、あんた歳、いくつだっけ?」
慎吾 「18!ボケちゃったのか?この間書類に書いてもらったばっかりじゃないか。
    それに母さんが俺を産んだのが25の時なんだろ?自分の歳から数えたらわかるじゃないか。」
秋美 「あれ?私、42じゃないのか・・・ははは(^^ゞ」
慎吾 「そんなとこで一つサバ読んでどうすんだよ…たくっ。」
秋美 「あはは…まあ、いいじゃないの(笑)。」
慎吾 「…ねえ、母さん。さっき一緒にいた高見さんって人、なんだか感じのいい人だったね」
秋美 「そう?」
慎吾 「うん。…今まであんまり聞いたことなかったけど、俺の父さんもああいう感じの人だったの?」
秋美 「何よ、突然。…でも、そうね、…似てるかも、ね。」
秋美は慎吾の顔を見つめた。どことなく父親に似てきたその顔を。
秋美 「母さん、あんたのこと産んでよかった…」
慎吾 「なんだよ、急に。…どうした?仕事でなんかあったのか?」
秋美 「うん。ちょっとね…つらい事件があったのよ。」
ちょうどそこに料理が運ばれてきた。
秋美 「あー、もうヤメヤメ。さあ、食べよう!」
慎吾は秋美が元気よく食べ始めたのをみて安心し、自分も料理を食べ始めた。

兵吾は後ろから玲子に呼び止められて驚いた。
兵吾 「あれ、玲子?!どうしたんだ?」
玲子 「西新宿署に一応、挨拶に行ってきたのよ。」
兵吾は無意識に秋美が去っていった方を見た。もう視界には秋美の姿は無い。
玲子 「あなたこそ、なにゆっくり歩いてるのよ。もう待ち合わせの時間過ぎてるのよぉ!(~_~;)」
兵吾 「ん、いや…」
玲子 「んもう、早く行かないと。みゆき、一人で待ってるわ!。」
兵吾 「あ、ああ。」
玲子は兵吾の腕を引っ張るようにして歩いて行った。

待ち合わせの場所に着くと、やはりみゆきが先に来ていて、2人を待っていた。
みゆき 「おっそーい!!って、あれ、2人で来たの?」
玲子  「途中で会ったのよ。」
みゆきは2人を見た。そして、急にニヤニヤして、からかうような口調で言った。
みゆき 「な〜んだ、お父さんとお母さんも結構ラブラブなんじゃない(^^)。」
玲子が兵吾の腕を引っ張るようにしてきたので、2人はちょうど腕を組んだような感じになっていたのだ。
兵吾と玲子はそれに気付き、慌てて手を離す。
兵吾  「いや、これは…」
みゆき 「まあ、いいって。照れなくてもさ(笑)」
そう言うとみゆきは、玲子の反対側に回り、兵吾を真ん中にするようにして、兵吾の腕をとった。
みゆき 「さあー、何食べよっかなぁー?」
玲子  「…そうね、お腹空いたわ。何ご馳走してくれるの?」
玲子とみゆきは兵吾の顔を覗き込む。
兵吾  「え?俺がご馳走するの?」
玲子・みゆき 「あったりまえじゃなーい(^^)」
そういうと、玲子とみゆきは兵吾の腕をとって、引っ張るようにして歩き出した。
兵吾 「ん、しょうがない…それじゃあ、バーンとご馳走しますかっ!(^^)」

父親にじゃれる母親と娘。それは端から見ても幸せな家族の姿だった…。

『自分待つ 家族がいる幸せ かみしめる』

END

 

終わったぁぁぁー!!!(^◇^)
想像以上に長くなってしまいました。ここまでお付き合いいただいた皆様には感謝感謝。m(__)m

…実は何気に、結構衝撃的なラストだと思うんですけど、…そうでもない?あんまりわからないかな(苦笑)