はみパロ5『風邪には気をつけようね』

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朝。広域の部屋。

玲子が入ってくる。

「おはよう。」
「あ、おはようございます。」

既に出勤していた杉浦、西崎らが答える。

少しして、工藤が駆け込んできた。
「おはようございますっ!ふー、セーフ!」
「おはよう。工藤くん、昨日も飲んだの?」
「あ、いえ。昨日は高見さん、まっすぐ帰ったんですよ、珍しく。」
「課長、さっき高見から電話がありました。風邪を引いて体調不良なので今日は休みたい、と。」
「風邪?珍しいわね…(苦笑)。」
「ええ(笑)。でもつらそうな声してましたんでね。熱があるらしいです。」
「そう…」

 

兵吾のアパート。

兵吾は熱を出して寝込んでいた。

昨日一日、ちょっと調子が悪いなとは思っていたが、今朝起きてみると体がとてもだるかった。
熱を測ってみると39度もあり、少し歩くのにもふらふらした。
「やっべぇ〜な。体温計、壊れてんのかな…」

今日は休むという連絡を入れ、家にあった薬を飲んだが少しもよくならなかった。

 

夕方。
兵吾は寒気を感じて目を覚ました。
午後になり、熱が上がったのか、かけていたはずの布団をベッドの下に蹴り落としていたのだ。
部屋の中は薄暗くなっている。
一瞬、朝なのか夜なのか判断がつかなかった。

喉がカラカラに渇いていたので、水を飲みに台所へとたった。
体中、汗をかいていたのが、冷えて、またぶるっと寒気が襲う。
視界がぼーっとしている所を見ると、熱もまだ下がっていないらしい。
冷たい水をコップ1杯飲み干す。
朝から何も食べていないな、と思う。いや、昨夜からか…。
でも何といって食べたいものも浮かばないし、作る気力もない。
結局、そのまままたベッドへと戻り、寝ることにした。
布団をかぶり、体を落ち着けると少し咳がでた。
「ごほっ、ごほっ…」

やがてまた、うつらうつらと眠りに入る。

兵吾は玲子と暮らしていた期間を除けば、体調の悪い時、いつも一人で寝込んでいた。
看病してくれる人も幼い時からろくにいなかった。
離婚してからまたそういう生活に戻った時も、特別寂しいとは思わなかった。
そういうものだと受け入れることに慣れてしまっていたからだ。

ただ今日は起きているのか夢なのか自分でもわからないぼーっとした頭で、
みゆきのことや玲子のことを考えていた。

 

ピンポーン・・・

どこか遠くでチャイムが鳴っている。

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン・・・

ようやっと夢うつつの世界から現実へと戻ってきた兵吾は、
その音が自分の部屋の玄関から聞こえてくることに気付いた。
「…はいはいはい。ちょっと待ってくださいよっと…」
のそっと起き出し、部屋の電気をつけ、ふらつきながら玄関へと向かった。
カチャリとドアを開けるとそこには玲子が立っていた。
「ごめん。寝てた?」
「玲子!ん…いや。どうしたの?」
「お見舞い。さぁ、寝て寝て。お邪魔しまーす。」
玲子は兵吾を部屋の中へと押し戻し、部屋にあがった。

「熱は?」
玲子はそう言うと兵吾の額に手をあてた。兵吾は突然玲子に触れられてドキっとした。
「あっ…」
「熱いじゃないの!もう!早くベッドに入って!」
玲子は母親のように兵吾をベッドに寝かしつけた。
「薬は飲んでるの?」
「そう言えば、朝飲んだきりだなぁ。薬もそれで切れちゃったし。」
「んもう、だめじゃないの。そんなことだろうと思って買ってきたわ。」
玲子は台所からコップ1杯の水を持ってきて兵吾に飲ませた。
その後、タオルを冷たい水で絞ってきて兵吾の額にのせる。
「気持ちいい。ありがと。」
「何か食べた?」
「いや。」
「お粥とか食べれそう?」
「多分、大丈夫だと思う…」
「じゃあ今作るから、それまで静かに寝ててね。」

玲子は買ってきた材料を使って兵吾の食事を作り始めた。
兵吾は、台所にたつ玲子の後ろ姿を熱でぼーっとした目で見つめる。
熱のせいなのか瞼が重くなる。
目をつぶり、カチャカチャと台所から聞こえる音に耳を澄ます。
額のタオルの冷たさと、心地よい音に、うつらうつらとする兵吾。

 

玲子の作ったお粥を食べた後、落ち着いたのか兵吾はぐっすりと眠った。
玲子はこまめに額のタオルを取り替えながら、眠る兵吾を見守った。

 

夜中にふと目を覚ますと、そこに心配そうに見守る玲子の顔があった。
「…いてくれたんだ。」
「うん。どう?」
「いいみたい。」
「そう、よかった。」
玲子は兵吾にまた薬を飲ませた。
「ね、ちょっと汗がひどいから着替えようか。」
「えっ!いいよぉ。」
「だめよ。昨日から着替えてないんでしょ。はい、脱いで!」
なかば強引に着替えをさせられる兵吾。

「ね、さっぱりしたでしょ(笑)。」
「はい。ありがとうございます(笑)。」

兵吾の熱を測ってみる。
「う〜ん、まだ少し熱があるわねぇ…」
「でも昼間よりは調子いいよ。」
「そう?なら良かった。」
玲子は兵吾の額にタオルを乗せ直した。
そして兵吾を見つめながら髪をやさしく撫でる。
兵吾も玲子の顔をみつめた。
しばらく見つめ合う2人。
突然兵吾が手を伸ばし、玲子の頭をぐっと引き寄せた。
玲子にキスをする兵吾。
玲子は突然のことに驚き、一瞬、力が入ったが、やがて力を抜き、玲子もまた兵吾の頭を抱きしめた。
しばらくして、ゆっくりと顔を離す2人。なんとなく2人とも照れている。
「…ごめん。俺どうかしてるのかも…」
兵吾はなんだか突然無性に玲子が愛しくなったのだ。
だが、それだけ言うとふっと意識がとぎれた。
薬が効いてきたのか、急に体を動かしたことで体力を消耗したのか、兵吾は急に眠りに落ちていった…

 

部屋に差し込む朝日で兵吾は目を覚ました。
はっとして、体を起すが部屋の中に玲子はいなかった。
「あれ?」
起き出して部屋の中を見回すが、昨日玲子がいた、という痕跡がまったく残っていなかった。
額に乗せてあったタオルも無いし、台所もきれいに片付いている。
「あれ?おっかしいなぁ〜。夢だったのかなぁ…???」

兵吾は昨日玲子にキスしたことを思い出した。唇に感触が残っている気が、する。
急に非常に照れくさくなり、頭をかきむしる兵吾。
「夢…うん、そうだ!きっと夢だったんだ、昨日のことは!」
なにか自分を納得させる兵吾。

窓辺に行き、カーテンを開けるとまぶしい日差しが兵吾に降り注いだ。
「よーし!体調も戻ったし、元気に出勤するかぁ!!」

 

朝。広域の部屋。

玲子が入ってくる。

「おはよう。」
「あ、おはようございます。」

既に出勤していた杉浦、西崎らが答える。

少しして、工藤が駆け込んできた。
「おはようございますっ!ふー、セーフ!」
続いて兵吾が出勤してきた。
「おはようございます。」
「お、高見、もう具合はいいのか?」
「はい。ご心配おかけしました。もうバッチリですよ。」

兵吾は席につき、ちらっと玲子を見る。
玲子は何か書類に目を通している。兵吾のことは、これといって気にかけている風ではない。

(やっぱり、夢だったんだな、あれは…)

ひとりで頷いている兵吾を見て、西崎が声をかけた。
「どうかしたんですか?」
「え?あ、いや、別に。なんでもない(苦笑)。」
そう言うと、兵吾は机の上に溜まっていた書類に手を伸ばした。

「くしゅん!」

その時、玲子が小さなくしゃみをした…



<おわり>

 

えーっと、出勤途中の電車の中で、それこそ、ぼーっと考えた話です。
”ある日の出来事”みたいな。ただそれだけ(笑)。
でも本編でも、玲子が兵吾を看病するとか、その逆とか、そういうシーンは常々見たいな、と思っています(^^ゞ。

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