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2006. 4.13.Up Dated.
金融政策と不動産
 
 2006年は金融の量的緩和政策とゼロ金利政策によるボトム状態から脱し、新たな時代に入ろうとしています。
既に、量的緩和の解除によって市場金利が上昇していますから、ゼロ金利政策が解かれれば、更に、実勢金利が上昇するはずです。
 JREIT投資家にとって、金融政策によるJREITの価値と配当金への影響についての関心が高くなっていますが、今のところ明確な説明や的確な指摘はありません。
説明や確たる見通しがない事に対して不満を持つ投資家も居るようですが、元々、不動産と金融は川上と川下の関係にあり、川上で起こったことが川下にどのような影響を与えるのかは、まさに複雑系で予測が難しいとも言えます。
更に言えば、不動産価格の形成メカニズム自体すら未解明ですから、シミュレーションも出来ません。
 こうなると過去の経験則しか頼りになりませんが、不動産バブル前の日本は高度経済成長下にあり、労働力の都市への集中によって、不動産需給バランスの影響の方が大きくなり、金融政策との関係は隠れてしまっていました。
それでも、過去30年ぐらいの単位で振り返ってみると、おぼろげに浮かび上がってくる点もあります。
 
 日本は昭和30年代から経済が大きく発展し、インフレと金利上昇下にありましたが、この間に不動産に起こった事の中に、アパートの収益性の変化があります。
当時のアパートは庭先アパートとも呼ばれ、農家が畑を潰して、安普請のアパートを建て賃貸事業を行った例です。
元は畑等ですから、土地価格を0と考え、建築費だけを賃貸料で回収したのですが、初期には3年で回収出来たのが、5年〜7年に延び、昭和40年代には10年を越え、40年代後半には15年以上になりました。
回収期間が延びるということは、投下コストの増加に比べて賃料上昇が追いつかないという事ですので、利回りの低下になります。
そして、ついには、利回りを捨て土地の値上り益に依存する形に不動産投資が変わってしまいました。
この例を引くと、景気上昇下で起こる金利上昇は、長期で見れば、不動産投資の収益性に大きな影響を与えると言えますが、今日に当てはめてみるとどうでしょうか。

 現在は、未だデフレ下にあるとも言えますので、金利上昇も不動産投資コストを大きく増大させません。
仮に、デフレが終息し、インフレ基調に変わった時点で、金利上昇が続けば不動産投資の収益性は悪化する方向へ向かいます。
更に、土地価格の上昇も加われば、過去のように土地価格の値上りに依存せざるを得なくなるとも考えられ、再び悪夢が頭を持ち上げるかもしれません。
但し、この推測は10年単位での事ですので、現時点の投資という視点では判断材料にはならないと思いますが、金融当局にとっては気になる点かも知れません。
 日本経済を安定成長に向わせる為には、ゼロ金利政策の解除とデフレの克服が当面の課題ですが、副産物として生じる土地価格の上昇が問題なのです。
無闇に土地価格が上昇しないような政策を併用する事で金融政策の自由度が確保出来れば良いのですが、かつてのように国土利用計画法を適用するのも考えものだと思います。
今の不動産価格の上昇は、一部の大都市の収益用不動産に生じていますので、この点にフォーカスして市場原理を働かせるとか、ある程度コントロールするという方法が考えられます。
行政もこの方向に向っていくつかの施策を展開しているようですが、初めての試みであり、又、匙加減の難しさもありますので事の成否は未だ分かりませんが、少なくとも、金融政策を含んだ広範囲な政策と不動産が関係を持ち始めたとも言えますので、投資家には、より深い考察力が求められるようになると考えています。
又、見方によっては、ようやく不動産がまともな投資対象になりつつあるとも言えますので、JREITと不動産にとっての夜明けだとも言えるのではないかと思います。
 
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