トップ
2006. 9.14.Up Dated.
J-REITの不動産取得姿勢の変化について


 JREITに対する金融庁の監督強化の動きによって、各銘柄の物件取得が慎重になり、資産の追加取得のペースが確実に鈍化しています。
オリックス不動産投資法人とオリックス・アセットマネジメント(資産運用会社)の行政処分によって、JREITが物件取得する際にはデュー・デリジェンス(物件詳細調査)の精度を上げてどのような瑕疵も些細な法令違反も見逃さないという対応が求められています。
勿論、JREITでは従来から物件取得時のデュー・デリジェンスは実施していましたが、入札等での取得では限られた時間内で作業を終えなくてはならず、必ずしも高い精度の調査を行えないという事情もありました。
先日、処分を受けたオリックス・アセットマネジメントでも、今後は、入札等での取得は困難であるとの認識を示しましたが、競争で不動産を取得する環境では、JREITの取得はより難しくなります。

 実は、この問題は不動産取得でははるか昔から付き纏っていたという経緯があります。
昭和40年代、50年代の不動産取得では大手・中小デベロッパー等が入り乱れて競争していましたが、この時は、圧倒的に大手デベロッパーが不利でした。 その理由としては、何よりも事前調査に大手デベロッパーが時間を費やすことと、価格精査に慎重を期する必要があった事が挙げられます。
私も、この時に不動産取得業務に携わっていましたが、売り物件の調査の為に現地に赴き周辺調査を行い、更に登記所に行って、謄本を閲覧し公図を写していました。 そして、行政庁を訪ねて、行政指導の内容を確認し、上下水等のインフラ状況を調べる等してから、ようやく価格精査に入るという段取りでした。
取得価格の算出には、想定事業収支を何枚か作成しますので、これらの一連の作業で軽く1週間は必要とします。 必要な作業をこなしてから、社内稟議を起しますので、売り側に価格を提示出来るのは、2週間近く要しました。
一方、中小デベロッパーでは社長の勘と判断で結論を出せるという面もあって、2〜3日で返事が出来るという結論の早さで常に負けていました。 この悔しさから、物件取得判断のスピートアップを上げようとしましたが、現地調査の省略は出来ませんので、想定事業収支の作成を簡素化する等の工夫に留まりました。

 これを今日のJREITに当てはめてみると、取得価格に対する収益利回りの精査は、事前のデータ収集でスピードアップしますが、デュー・デリジェンスと建物エンジニアリング調査は簡素化出来ませんので、同様の問題があります。 当時、物件が買えない悔しさで悶々としていると、「問題のある物件を買ってしまう担当者より精度の高い取得を心掛ける担当者が必要」と上司から諭されました。
確かに、不動産取得の失敗は大きな損失を生じますし、粗い調査で結論を出すのは大手の信用とプライドを傷付けることにもなります。 デベロッパーのような企業体でもこれだけの節度は求められますから、投資家のリスクで資産取得を行なうJREITでは尚更ですので、資産運用会社が物件取得の難しさに悩むのは仕方ないとも言えます。
不動産を実際に扱うには専門知識と経験を必要とし、更に、現実の矛盾や障害を乗り越えるという努力が求められますので、JREITという仕組みによって、専門家集団に委託するというスキームが出来たのです。 専門家とは知識がある人ではなく、悩みながら一つ一つ問題を解決していく力のある人を指しますのでJREITも、徐々にでもこの方向に動いて行って欲しいと思います。

 
Copyright (c) SYC Inc. All rights reserved.