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2007. 5.25.Up Dated.
JREITの物件取得への疑問


 不動産価格高騰時に積極的に外部成長(物件取得)を行うことは、JREITにとってマイナスという見方が出来ます。
不動産価格は一定の周期で循環的変動を繰り返しますので、価格が高騰してピークに近くなれば、この時点の相場価格は、長期で見た不動産価格平均値より高くなると考えられるからです。
また取得価格が上昇すれば、利回りが低下し、外部成長によってポートフォリオ全体の利回りを低下させてしまい、何れはパフォーマンスを落としますので、投資家にとってもマイナスです。
特に、元々ポートフォリオNOIの低い新興銘柄が、この時期に積極的に外部成長を行うと、先発銘柄とのポートフォリオNOI利回り格差が開き、先発銘柄を捉えることは不可能となります。
それでも外部成長を行うのは何のためかが問題ですが、「ポートフォリオの充実」とか「分散効果を高める」という抽象的理由で凡庸な不動産(中には築古物件を高値で取得している銘柄もあります)を高値でせっせと買い集めている銘柄もあります。
投資家から見れば、この時期に納得出来る説明がないままに外部成長に走っている銘柄は、JREITとしての資産運用能力を疑う十分な根拠になりますので、視点を変えれば、銘柄選別がし易い状況になっているとも言えます。
最近のマスコミの論調も不動産バブルという見方を強めていますが、JREITも41銘柄にもなれば、まさに玉石混交です。 不動産は未だ上昇するというバブル期の不動産屋の見方と同じでJREITの運用を考えている銘柄もありますし、一方、ポートフォリオNOIを意識して慎重な外部成長路線を堅持している銘柄と分かれていますので、最早、JREITを一括りでは論じられません。

この視点で見ると、先日発表されたクレッシェンド投資法人とモルガン・スタンレー・グループとの提携によって行われた、モルガン・スタンレー系の私募ファンドからの 11物件の取得を見ても大きな疑問が残ります。
投資法人の11物件の合計取得価格は38,350百万円ですが、鑑定評価額を見ると、34,720百万円と、3,630百万円もの開きがあります。勿論、鑑定評価が全てではありませんから、鑑定評価額以上の取得が、即、問題とはなりませんが、NOI利回りが4%台前半の物件が大半となっていて、他銘柄の保有物件と比較しても割高感があります。
11物件の取得資金は、モルガン・スタンレー・グループへの第3者割当増資で賄う形になっていますが、割当価格が10%のディスカウントとなっている事を併せて考えると、どう見てもモルガン・スタンレー側に有利な取引です。モルガン側から言わせれば、助けてあげるという理屈も成り立ちますが、投資法人の投資家にとっては不満足だとも言えます。
モルガン・スタンレーの私募ファンドは巨大ファンドでもありますから、クレシェンド投資法人では役不足だとも言えなくはありませんが、今回の取引を見る限り私募の出口として利用出来たとも見られますので、勘定は合っているのかも知れません。
クレッシェンド側にも背に腹は変えられないという事情があるのかもしれませんが、正直言って、こういう事象が起こることで、投資家に考える機会を提供することにもなり、JREITの将来にとっては却ってプラスになるとも言えます。
クレッシェンド投資法人が、モルガン・スタンレー・グループとのパイプライン契約の締結によって、今後も私募の出口REITとなるのか、それともモルガンの保有するA級物件が入るのかを見ていれば、自ずと今回の提携の意図が明確になりますので、前述したように分かり易い環境になったと言えるのです。

 
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