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2008. 8. 8.Up Dated.
証券と不動産の共通点

 今日、株式市場も不動産市場も低迷していますが、1年半前までは両者とも絶好調という状態にありました。
株式市場と不動産市場が好調のときは、両市場の恩恵によってファンドは隆盛を極め、高値で不動産を買い漁る姿が目に付きました。
それが今ではファンドは青息吐息になっています。
一方、J-REITは株式市場の活況期では、投資口価格が上昇し増資も容易でしたが、反面、私募ファンドの攻勢によって不動産の取得環境は悪化していましたから、必ずしも良い環境とは言えませんでした。

J-REITにとって理想的な環境は、不動産価格が安定し、株式市場も落ち着いている状態ですが、このような環境は滅多に訪れませんし長続きもしません。
不動産価格の安定は不動産業界にとっても良い環境なのですが、実は多くの不動産業者はそれを望みません。
不動産業者にとって不動産価格が上昇局面にあれば、何をやっても成功しますし、自然と利益が転がり込みますが、逆に不動産価格が安定していると業者間の創意工夫競争によって利益を追求しなくてはならないからです。
私は、サラリーマン時代に、不動産価格の安定こそ業界の発展と向上に寄与すると説いて回っていましたが、この意見に耳を傾けてくれる人は少数でした。
今日でも、不動産価格上昇局面では大手デベロッパーの責任者でさえ、それを後押しするような声が主流で、沈静化を促すような発言はありません。
何故、このような10年一日の体質が温存されているのかは正確には分かりませんが、かつて「不動産は昔の農耕と同じ」と言う人が居ました。
要は、お天気次第で不作の年は来年の天候に期待するだけという解説でした。
このような仕事のやり方は、私は大変不満でしたので、不動産は「地べた」ではなく建物の付加価値で勝負すると言って、建物の質の向上に注力しつつ、何時か不動産が装置産業のようになれば良いなと考えていました。実は、これが私をJ-REITに駆り立てた動機です。

J-REITは不動産業というよりは装置産業に近く、安定した運用を前提にした仕組みですから、市場の変動に直接左右されない仕掛けが必要です。
そのためには、安定投資家作りが最も有効ですが、農耕感覚の不動産業界出身者はこういうセンスが乏しいのか、それは証券会社の分野という意見が主流でした。
それでは証券会社はどうなのか? どうやらここも不動産会社と大同小異で古い農耕感覚でしか動いていないように思えます。
相場が好調のときは鼻息が荒く、軟調では意気消沈を繰り返していて、やはり10年一日の体質のようです。
J-REITを真剣に考えれば、不動産と証券に共通している農耕感覚から脱却しなくてはならないのですが、J-REITの主流が不動産業界と証券業界出身者に占められている間は難しいかも知れません。
かつて業界関係者が「J-REITは不動産と証券の合体なので難物です」と言いましたが、似たような体質を持った両者が入り組んでいるのを見て取った発言だと思います。
私は、今日のJ-REITの低迷は、J-REITという新しい仕組みの本質を理解せず古い業界体質を引き摺っていた事が原因だと考えています。
その意味では、この低迷期が早期に収束してしまい、農耕感覚が勝利するような事は好ましくないと考えています。
それよりは、この時期にJ-REITの本質を理解し、それに添った行動と考え方を身に付けること出来れば将来にとって大きなプラスになりますので、この低迷がそれを促進するのを願いたいと考えています。
 
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