Skoj!

モクジ

  せんせいといっしょ 4  

 それから数度、季節がめぐった。
 おかしい。ルゴニスは考える。
「アルバフィカ。お前はいくつになった」
「九つです」
 洗った皿をふいていたアルバフィカが、顔を上げて返事した。
 おかしい。ルゴニスはやはり思う。『かわいい盛り』から5年経っているというのに、かわいくなくなる気配がない。
 ついおととい、教皇の間を訪れたときに顔を合わせた少年のことを思い出す。アルバフィカより一つ二つ年上だろうか、ちょうどセージと何か話している途中だったらしいその子どもは、ルゴニスが教皇の間に入るなり警戒心むき出しの目で一瞥し、
「マニゴルド、挨拶をせんか」
 セージの言葉に、ぶっきらぼうに「マニゴルド」と名乗っただけで出て行ってしまったのだ。
「教皇、今の子どもは………」
「先日視察中に出会った子どもだ。積尸気を操る才がありそうなのでな、連れ帰ってきた。
 どうだ、可愛くなかろう? 生意気盛りでなあ、まったく、口答えばかりで困らされる」
 そんなことを、何故やたら嬉しそうな笑顔で言うのかはよくわからなかったのだが、
 ――――可愛い盛りの次には生意気盛りが来るのか! うちのアルバフィカも、もうじきあんなふうに………! いや、今日双魚宮に帰ったらああなっていたらどうしよう!
 不安にかられて仕事の話もそこそこに急いで小屋に帰ったのだが、
「あ、お帰りなさい、先生!」
 いつもと変わらぬ可愛い弟子に可愛い笑顔で出迎えられて、安心した反面、
 なぜうちの子は、いつまでも可愛いままなのだ?
 そんな疑念が心に芽生えたのだった。
 あれから数日、アルバフィカの様子は変わることなく、もう何年も続いている『可愛い盛り』がさらに続きそうな勢いだ。
 ――――もしかして、うちの子は成長していないのではないか?
 ルゴニスは考えた。
 少なくとも小宇宙は飛躍的に増大している。いや、何事も小宇宙で判断しようとするのは聖闘士の悪い癖か。
「アルバフィカ、その柱の前に立ってみろ」
「はい」
 毎年頭の高さに傷をつけている柱と見比べると、5年前より背丈は大分増えているようだった。
 ――――むう、体も大きくなっている。いや待て、長さだけでは不十分か。
「アルバフィカ、こっちに来なさい」
「? はい」
 おとなしく寄ってきた養い子を抱え上げてみた。最近は抱き上げるようなこともなくなったが、それでも前よりはずいぶん重くなっている気がする。
 ――――背丈も、目方も、小宇宙も増えている。ということは成長はしているのか? ならば何故かわいさが減らない。教皇がああおっしゃった以上、間違いはあるまいし。
 養い子を抱えたまま考えるルゴニスを、あどけない瞳が不思議そうに見ていたが、
「えへへ」
 甘えていいのだと思ったらしく、はにかむように笑うと、ぎゅっと抱きついてきた。
 ――――かわいかった。きゅーんとくるほどかわいかった。
 かわいくなくなるどころか、ますますかわいさが増しているではないか。心中で戸惑いつつ、あまりのかわいさにアルバフィカを抱えたまま意味もなくその辺を散歩してしまった。

 2011.7.17
ススム | モクジ


セージ様は「うちの弟子は生意気だろう?可愛くなかろう?」と笑顔で自慢してまわり、
弟子は弟子で「うちのクソジジイには困っちまうぜ」と愚痴のふりしてのろけてまわる、
そんな蟹座師弟。

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